狂心者 作:no w here
昨日とは違い、宵崎に会う事無く高校へ向かう。今日の授業は…体育、総合現国、現社、数学Ⅱと…選択B*1、化学基礎だったか。
「おはようございます、照己先輩」
声をかけられたので目を向ける。中央から水色と紺に別れた、特徴的な髪色の青年がいた。
―――おはよう、青柳後輩。司は先に教室へ行った感じか?
「はい。なんでも"放課後に劇場に向かうから、パンフレットにあらかじめ目を通したい"…とのことで」
―――そうか。たぶん○○劇場だな。
「…先輩って何気に頭いいですよね。学力的ではなく、記憶力とか発想力とかの方で」
―――それらが命だからな。授業・テストは
身内のセッションにおいて最重要なのは知識ではなく、記憶力・発想力だと考えている。知識を以て挑む人も一定数は存在するだろうが、先入観にとらわれて盲目になる事の方がよほど恐ろしい。
「…瑞希とは仲が良いんですか?」
首を傾げながらも頷く。一方的なのかもしれないが、数少ない友達だと思っている。
「…もしも家を知っているようでしたら、放課後に学校から出された課題を届けてほしいんですが頼んでもいいでしょうか?…それと、俺のノートも」
―――知ってはいるが…昨日昼からであっても来ていただろう?その時に渡せば…
「今日の授業の課題を瑞希が昨日のうちに受け取るか、と言われると首を傾げますよ」
想像してみる。…確かに瑞希はやりたい事に対しては真っすぐだが、それに直結しない後日の授業の課題を受け取りに行く姿は目に浮かばなかった。
―――そういう事なら。青柳後輩は…図書委員か?
「いえ、私用ですね。…お手を煩わせてすみません、ありがとうございます」
―――構わない。補講だけでは足りない単位もあるかもしれないしな。
ふと、時計に目を向ける。…ホームルーム迄あまり時間が無い。此処で後輩を巻き込むように遅刻したらそれこそ申し訳が無くなる。
―――時間を取り過ぎたな、放課後に取りに行く。
「あ、はい。ではまた」
午前の授業が終わり、、教室を出る。
しばらく廊下で待っていると類と司の二人が出てくるのを捕捉できた。此方が手を上げると、2人も此方に手を上げて挨拶を返してくれる。
「こんにちは。今日は珍しくバラバラだったね」
―――そうだな。昨日あの子は大丈夫だったか?
「えむの事か?あの後すぐ元気になったが…何か心当たりでもあるのか?」
司の言葉に苦笑いで返す。
―――あるのなら苦労はしていない。大丈夫そうならよかった。
「まあ、皆初めて見たからな…」
「寧々については…まあ、1年で起こったあの騒動で印象が付いちゃっているからね。僕から説明しておくよ」
類の言葉に首を横に振る。普通はそれが正しいのだ、
―――評価に一切の間違いがないから、気にせずとも良い。
「それだと僕と司くんが気になるからね」
「そうだな、俺の友達が悪く思われるのは確かに嫌だ。何かあったら言ってくれ、何時でも俺が力になろう!」
「そうだね、僕も力になるよ…とは言っても、荒事においては君に敵うとは思ってないけど」
思わず笑った。
「それじゃ、今日はどうするか…きみはいつも昼ご飯食べてる様子が無いけど、大丈夫なのかい?」
―――昼は食べる習慣が然程ないからな、問題ない。
「そうか…あぁ、ミュージカルの公演チケットありがとう、助かった」
言われ、少し思い返す。…多分先週の件だろう。
お礼を受け取らないと、司の場合は妙に粘ってくることを知っている。
―――どういたしまして。…取り敢えず屋上行くか。
「ん、分かったよ。寧々も呼びたいけど良いかな?」
―――構わないが、草薙が嫌なのであれば―――
「分かってる、無理に連れてこなくていい…だよね?その旨も伝えておくよ」
「…(それを言うと逆に逃げられないんじゃないか…?)」
司が何か考え込んだが…しばらくして無理やり納得したのか頷いていた。
「類。念のため聞くが、本当に大丈夫なのか?」
「んー…そこまで心配なら、少し頼んでもいいかな?」
―――内容にもよる。現在所持金は5桁後半だ。
「上々だね、購買でグレープフルーツ系を見繕ってくれないかな?」
―――分かった。先に2人は行ってくれ。
司が声をかけてくる前に階段の踊り場を飛び降りる。6回響くのは仕方ない、時間は有限なのだ。
その後歩幅に任せて購買迄早歩きで移動していく。…購買前までたどり着くとすでにピークの時間は過ぎた後らしい。人の少ない購買でグレープフルーツゼリー、生姜焼き、ラムネ詰め合わせを買って屋上へ戻っていく。
「…は、速いな…」
―――遅いだろう?まだ4秒は切り詰められる。後は商品の配置が悪かった。
「…RTAみたいなことしてる…」
草薙が呆れたようにつぶやいた。
―――取り敢えず、土産だ。好みはこれであってるか?
草薙にグレープフルーツゼリー、司に生姜焼き、類にラムネ詰め合わせを渡す。司と類は友人だからか気兼ねなく受け取ってくれるが、草薙は何処か警戒した様子でグレープフルーツゼリーを持つ此方の手を見ていた。
―――類に聞いたから知っている。温くなるから受け取ってくれ、頼むから。
「…えっと…、ありがと…」
草薙がおずおずとグレープフルーツゼリーを受け取る。…今日はよくお礼を言われる日らしい。
走る。
走る。
走る。
血に濡れた世界を、悲鳴怒号響き渡る空間を、ほんの数瞬とて無駄に出来ない時間を走り続ける。
耳に雑音が入る。知った事ではない、走り続け―――
…此処は、何処だろう。血の匂いもしないなら、悲鳴怒号も聞こえない。代わりにいうのなら…遊園地特有の売店から漂う菓子類の匂いと、パレード。
「…おや、招かれざるお客さんかな?」
―――KAITOか?…そうなると、誰かのセカイに迷い込んじまったのか。
「そうだね。此処は司のセカイなのだけど…彼だったら、きっと受け入れると思う。ゆっくりしていくと良いよ」
…何かを憂うような、眼付き。
―――なら、人が来ない場所に行きたい。
「それならスタッフの待機室の1つを使ってね。僕の部屋なら使う人は居ないだろうし」