狂心者 作:no w here
ゲーム作成等も含めて自分のペースで動いて行く予定ですが、それでもよろしければ(
瑞希とのお茶という名目の服のコーディネイト討論を終え、家へと向かう。あまり専門的な話題は出来ず、瑞希が服の組み合わせを見せてくるものに対して感想を述べるだけだったのは申し訳ない。服飾ならば彩夢か久良人の方が余程良い意見を出せたというのに。
間が悪かった、内心でそう折り合いを付け―――考え事をしていたせいか、正面の人影に気付くのが遅れる。咄嗟ながらも左へと身を寄せ―――相手も気付いたのか躱そうとした結果揃って同じ方向だったために鳩尾に相手の頭が突き刺さった。
―――かふっ。
「いたっ」
此方は体格上倒れなかったが、相手はそうとはいかなかったらしい。咄嗟ながらも右手を伸ばして相手の背を抱きかかえるようにしながら支える。…相手が体勢を整え終えた時に合わせ、支えるのをやめながら謝罪する。
―――すまない、大丈夫か。
「大丈夫、です。此方こそすみませんでした」
―――お互い様だろう、今回においては。…ガールズバンドか?
改めて顔を合わせる。女子にしては短い灰色の髪の毛。ギターを背負う姿は最近はやりのガールズバンドを連想させた為、そう聞いてみる。
「…もしそうだとしたら?」
―――何も。あえて言うのであれば最近AfterGlow等のガールズバンドが流行っているからそうなのかと。
「AfterGlow…ONE OF US、ツナグ、ソラモヨウの?」
頷く。知っている限りではライブハウス"CIRCLE"から出てきたガールズバンドを境に、現在ガールズバンド時代と言えるであろう状態となった。時代の開拓をしたガールズバンドの一つとしてAfterGrowを認知している。
「アフグロの中ではどれが好き?」
―――カバーになるがアスノソラ哨戒班、アイのシナリオ。オリジナルだと先ほどあがっていたONE OF US。美竹の歌声を主体と置いて周囲の楽器が支える在り方は幼馴染のバンドならではだと思う。
「…よく見ているね」
―――そう言いつつも分かってるだろう?同じ幼馴染バンド、レオニのベースなら。
彼女―――日野森志歩は小さく目を見開いた。
此れでも音楽に携わる身である以上、情報が耳に入る。…音楽に携わるとは言っても、歌ってみた等位しか存在しないが。
「…名前、聞いても?」
―――照己 縁。
「知ってると思うけど、日野森 志歩。…少し時間ある?」
―――あるが、日野森の家族は大丈夫なのか?直に夜の帳も下りる。
そう返すと彼女が小さく笑った。…何かおかしい事でも言っただろうか?首を傾げる。
「夜の帳なんて詩的な言葉を会話で使うの、初めてだったから」
―――そうか?
「大丈夫…1曲付き合ってもらうだけ」
そう言いつつ、彼女は背のベースを軽く叩く。…ああ、確かに此方の事を知ってもらうのであればそれが一番早いのかもしれない―――小さく咳をしつつ
『分かった。何をやる?』
「え、…え?」
『?どうした?』
「いや、声が全く違うから」
…そう言えば、人前で声を変えるのは初めてか。
『特技の一つだという程度に捉えてくれ。それで、何をやる?』
「…ヒバナ、行ける?」
問題ない、その意図で頷く。彼女がベースを構え―――指を鳴らして拍子を取る。その拍子に気付いた彼女がベースをかき立て。
スクランブル交差点の一角、その人混みの視線を一斉に集めた。彼女―――日野森志歩の演奏技術はレオニという新規バンドチームは愚か、時代の開拓をした5バンドにすら食いついている。かなり甘い評価かもしれないが―――その評価は視線の集め方が全てを物語っていた。
ならば、それに応える。指を鳴らすのとは別に軽い足踏みでドラムの音程も取っていく。折角の二重奏、使えるものは全て使う。但し指を鳴らす音が主体。彼女の拍子を乱す要素にならないよう、気を付ける。
そして―――歌へ。
歌っている限りは、此処は―――
初めに聞こえたのは、ベースの音だった。路上ライブと言う物は実のところスクランブル交差点では珍しくはない。
だがベースはあくまで他の楽器の音を支え、リズムを取るのが基本なのにもかかわらず通常通りの音程を奏でていた。人が足りない駆け出し、というにはベースのレベルが高い。そこで足を止め―――
全てを持って、訴えかけるような強い歌詞が頭を殴った。人混みの中央に思わずながら目を向ける。そこに見えたのは、高身長の男性。歌っているのはヒバナだが、動画では一度も聞いたことがない声だった。
近づいて行く。ベースの音と共に聞こえてくるのは指を鳴らす音と、足踏み。指を鳴らす音にベースが合わせ、足踏みはドラムのシンバル替わりだろうか。
男性が、隣へと目を向けた後沈黙する。その後に少女の声が人混みの中から張り上げられた。どちらもマイクは一切使用していないらしい。
男性が小さく苦笑いした後、男性の声が再度感情を伴って心を殴りに来た。分かっていたとしても、訴える声程心に響くものはない。この一角は、少女と男性に支配された世界とでもいうべき状況だった。
『マイク無しでやるべきではなかったなこれ』
「照己…馬鹿でしょ」
『1曲を頼んだのは日野森、だろう』
「知らない。2番始まるよ」
人混みが大きくなっていくにも拘らず、2人は気兼ねなく歌っていく。そしてヒバナが終わった時に人混みと共に歓声を上げた。