大海原を行く白銀 〜Arpeggio of Blue Steel〜 作:Many56
最近、執筆が進まない……
一応少しだけストックあるけど……絶対持たないな。
出航して1週間。
俺達は、佐賀宇宙センター沖の湾内にいる。
ここに来るまで“霧”に見つからず、何事も無かったのは間違いなくシナノが開発した特殊装備『スーパーステルスシステム』のおかげだろう。
これは、特殊なクラインフィールドを展開し、周囲の光、音波、電波、水流などを制御することで外部からはほぼ発見不可能になるというとんでもないシステムだ。
欠点としては、シナノの演算リソースの大半が奪われる故に、航行と索敵以外何も出来なくなってしまう点があるものの、だからといって大した問題ではない。
最悪移動中に無駄な戦闘を避けられれば構わないし、その弱点を補って尚余りあるほど、このシステムは高性能だからだ。
何せ、重巡タカオの真横十数メートルを横切ったにも関わらず全く気付かれなかったのだ。
彼女の力は驚くべき物であると実感させられた。
驚いたといえば、みほとシナノの今の関係性だ。
互いにボコ好きと分かった瞬間、仲良くなるまであっという間だった。
今ではズッ友ばりに仲が良く、合間にはすぐボコ談議を始めるくらいだ。
長いときには、1時間以上マシンガントークが続く。
マジか‼︎ と、その他全員が思ったのは言うまでもない。
さて、話を戻そう。
現在、“霧”の軽巡洋艦ナガラと“蒼き鋼”ことイ401が交戦中だ。
俺達はそこから20kmほど離れた海上で様子を眺めている。
しばらくすると、ナガラの舷側に401の侵食魚雷が命中した。
そして、ナガラはスプーンで掬われたように船体が抉り取られた。
後は大轟音を立てながら船体が真っ二つにへし折れて、そのままナガラは海中へと没していった。
そして、それを尻目に鮮やかな蒼い船体の潜水艦が現れた。
“蒼き鋼”イ401である。
「アレが“蒼き鋼”ことイ401潜水艦か……」
艦橋上部に設置されているモニターを見て、大介が呟いた。
「2年ぶりか……」
「そうですね」
「そういえば、西住さんと白銀さんは特別招集の時に見たんですよね?」
そう南部が聞いてくる。
そういえば、直接見たのはこの中では俺とみほだけだったな。
拿捕されて7年間ずっと動かなかったのに、急に起動したんだっけ。
直ぐに全員退避命令が出たが、アイツだけは退避しなかった。
まるで、双方が呼応していたかのようだった。
まあ、その後何も無かったから良かったものの、それが今こうなってるからな……。
「ああ、最初見た時は驚いたよな」
「ええ」
「さてと。どうするんだ、艦長? とは言っても、やる事は決まっているだろうけどね」
太一の言う通りだ。
何をするかなんて、出航した時から決まっている。
「沙織、401との距離は?」
「今ちょうど15kmを切ったよ」
「よし、このまま前進。シナノ、10kmを切ったらステルスを解除だ。それと同時に、沙織は電文を送ってくれ。内容は 」
潜水艦イ401の艦長である千早 群像はイ401のメンタルモデル イオナと出会った時の事を思い返していた。
「あれから2年……俺達はお尋ね者だな」
「うん」
イオナとそんな話をしながら、もの思いに耽る。
(そういえば、進達はどうしているんだろうか……。何も言わずに勝手に出て行ったから、相当怒っているだろうな。それに、アイツは“霧”を憎んでいたから、今頃は裏切り者って言われてるかもな)
謝罪したところで、進は許しはしないだろう そう考えていた。
そんな時、突然イオナ が驚いた反応をして艦首方向の先を見た。
「イオナ、どうしたん……‼︎」
彼女の視線の先には、超大型艦が今までいなかったにも関わらず、ずっとそこにいたかのように鎮座していた。
その艦のシルエットは航空母艦によく似ているが、美しい白銀色の船体に、バイナルパターンが描かれている。
人類の物ではなく、“霧”の艦である事は一目瞭然だった。
「あれは……一体⁉︎」
「超海域強襲制圧艦シナノ……」
(そんな艦が一体どうして……! それに、これだけ近づいているのにどうして気付かなかったんだ⁉︎)
群像の疑問が尽きない中、艦内でも大騒ぎだった。
『おいおい、どうすんだよ群像! なんか馬鹿デカイのが近づいてくるけど⁉︎』
艦内無線で叫び散らかしているのは、401にて火器管制担当をしている橿原 杏平だ。
『そもそも、どうやってレーダーとソナーに掛からずに、ここまで近づかれたのでしょうか?』
冷静に思考を巡らせているのは副長の織部 僧だ。
そんな中、ソナー・センサー類担当の八月一日 静から報告が入った。
『艦長、シナノから電文です! 『停船しろ。貴艦の艦長に話がある』との事です!』
『ちょっとそれ、間違いなく危ないんじゃない?』
静へと文句を言うのは機関担当の四月一日 いおりだ。
艦内が大騒ぎの中、群像は思案する。
(通常の“霧”では、まずありえない行動だ。敵である俺達に対して、そんな事をしても意味はない。相手側は何を企んでいるんだ? だが、対話を望んでいるならば好都合だな。戦って勝てる可能性は限りなく低い)
「お前ら落ち着け。イオナ、停船させるんだ」
「分かった」
『お、おい、群像⁉︎』
「普通に戦ったって、勝てやしない。むしろ、対話を望んでいるのなら好都合さ。お前達は、いざって時に備えておいてくれ」
『『『了解!』』』
停船した401の横に、シナノをつける。
「シナノ、ついてきてくれ。他の皆は待機だ」
さて、アイツは一体どんな顔をするのだろう?
そんないたずら心を踊らせながら、シナノを伴い飛行甲板の上に出た。
そして、左弦へと移動する。
そこには、驚愕した顔のまま凍りついた群像と無表情で感情の読みにくいイ401のメンタルモデルであるイオナの姿があった。
「よお、群像。久しぶりだな」
「す、進……なのか⁉︎」
「それ以外の誰に見えるんだ?」
「お前、何でここに……⁉︎」
「お前達を追いかけて来たに決まっているじゃないか。俺としても、言いたい事、聞きたい事が山ほどあるからな」
「進……」
群像は気まずい顔をしている。
だが、俺は話を止めるつもりはない。
「どうして置いていった? 一緒に風穴を開けようって約束したのに、何で約束を破った?」
「それは……、進は“霧”を酷く恨んでいただろう? 例え、俺達と一緒に401に乗り込んで風穴が開けられるとしても、お前は納得しないだろう? そして何より、絶対に止められると思ったんだ……」
群像は、こちらに目を合わせてくれない。
久しぶりの再会なのに、これでは楽しくないではないか。
「確かにな。以前の俺じゃあ納得しなかっただろうし、止めただろう。けれど、それ以上に言ってくれなかった事が辛かった。一緒に風穴を開けられないという事実が、俺には受け入れ難かった。それにな、俺達は“霧”とだって分かり合えるという事を、シナノと出会って知ることができた」
俺は一瞬視線をシナノへと移した。
俺にとって、彼女との出会いが全ての歯車を回すキッカケになったのかもな。
そして群像へと視線を戻した。
「俺達だって、今の世界は息苦しいと思っている。風穴を開けたいって感じている。だから今度こそ、一緒にやろうぜ!」
「……ああ、そうだな。ありがとな、進……って、俺
「ああ、言った。シナノ、艦橋と繋いでくれ」
「はい」
俺の言葉にシナノが頷くと、俺達の前にスクリーンが映し出された。
それを見て、群像は目を丸くした。
『お、映った。久しぶりだな、群像』
『ご無沙汰してます』
「大介、それにみほまで……」
『僕を忘れて貰っては困りますよ』
『俺だっていますよ!』
「南部に太一まで……」
「驚いただろう?」
「ハハハ、ああ。本当に驚かされた。もう、呆れ果てるばかりだ」
そう言う割には、かなり嬉しそうだ。
実際、俺も嬉しいしな。
「色々とすまんな。そして、ありがとう」
「構わないさ。望んでやった事だし、こうしてお前と再会して、しかも共に戦えるんだから。さて、感動の再会の気持ちに浸っていたいが、そうもいかんだろ。これからどうする?」
俺の言葉に群像は表情を引き締めた。
「まずは、今回のクライアントである上陰 龍二郎次官補に会いに行く。港に着いたら、艦内で待機していてくれ」
「分かった」
そのまま俺達は艦を進めた。
そして翌日、分散首都長崎付近の港に到着した。
最初は銃を向けられたが、群像が取りなしてくれた。
そしてその群像は、港の奥の方へと歩いていった。
群像は留めてあるイ401とシナノがよく見える、部屋に案内された。
そして、その部屋の中には厳格そうな人物がいた。
「貴方が、軍務省次官補の上陰殿ですね」
「ああ、そうだ。今回の件、ご苦労だった。しかし、あんなモノが現れるとは予想外だったな」
「それについては、私もですよ。まあそんな事より、もう少し早く依頼して頂けたのであれば、軍の被害を抑えられましたよ」
「無茶を言わないでくれ。霧のジャミングの影響で、長距離通信が不可能なのだから。それに、大人の都合という物もある」
「政治……ですか。詭弁ですね。ただの遠回りにしか見えません」
「はあ、全員が君のようにできる訳ではないのだよ。汚れ仕事という物もあるしな」
「そうですか。それでは依頼は完了したので、我々は行かせてもらいます」
そう言って去ろうとする群像に、上陰の護衛2人が銃を向けようとするも、上陰に止められる。
「君達、よしたまえ。彼に危害を加えようものなら、我々が消されてしまう」
それを聞いて、護衛2人も渋々引く。
「それと、千早君。君達の行く先には活路はあるのかね? ああ、勘違いしないでくれ。むしろ、私はこの2年における君達の戦績を高く評価している」
「……どういう意味です?」
「先程、衛星軌道上にてSSTOが撃墜されたと連絡が入った。あれの中には、日本で研究開発された“霧の艦隊”に対しての切り札が入っていた」
「切り札、ですか?」
「そうだ。君達が2年間孤軍奮闘していた間に、我々も手をこまねいていた訳ではない」
「確かあれは、アメリカ行きでしたよね。何故、アメリカに? 完成したのであれば、国内で量産すれば良いのでは?」
「今の日本に、そんな物を量産できる程の国力が残っているとでも?」
「……残っていませんね」
「という訳で、君にはそれを運んでもらいたい。人類の、最後の希望をな」
シナノ艦橋
俺達は、401の発令所と通信を繋ぎながら会議を行っていた。
「 それで、これがその最後の希望“振動弾頭”か」
『“霧”の浸食魚雷を解析し、それを基に強化したようです。ブラックボックスも多いですが、これが量産されれば人類に反撃の目が立つやもしれません』
僧が大まかな説明してくれた。
だがそれは、とある前提の上で成り立つモノだ。
『「アメリカが残っていたらな」』
群像も同じ考えらしい。
「進、嫌な事言わないでくれ」
気の悪そうな表情で大介が言った。
「ははは、すまんな」
『この件についての密約も、3ヶ月前の話だと上陰次官補は言っていた。その後連絡は途絶えて、現在の状況は分からないらしい』
『イオナ、本当に分からないの?」
『私は、他の艦から情報を遮断されているから』
いおりに続いて、みほもシナノに聞く。
「じゃあ、シナノちゃんも分からない?」
「私も、“霧”を抜け出した際にリンクを絶っているから……」
「大陸の方じゃ、酷い内乱が勃発しているらしいからね。“霧”の蔓延る洋上を突破しなきゃいけないのね。もうやだ……」
『同じ人類でさえ、信用できないなんて……』
静がぽつりと呟く。
「だから、群像はこの仕事を受けたんだな?」
『ああ、進。これを成功させられるのは、俺達だけだからな。サンプルの受け渡しは横須賀港だ』
そして、人類の希望とやらを受け取る為、俺達は長崎を出発した。
佐渡島沖
そこには、一隻の戦艦がいた。
シルエットは旧日本海軍の戦艦金剛によく似ているが、船体全体に紫色に輝くタトゥーのような模様が描かれている。
そして、その戦艦の艦橋には1人、紫のロングドレスを着た金髪の女性がいる。
“霧の艦隊”東洋方面第一巡航艦隊旗艦の大戦艦コンゴウである。
「401が動き出したか。この身体にも、大分慣れてきたな。人間の身体、忌々しい。我々は“霧”であるというのに……」
そうコンゴウが呟いていると、久米島沖にいるピンク色の艦から通信が入る。
そして、コンゴウに通信を繋いだ人物は甲板の上でピアノを弾いている。
重巡洋艦マヤだ。
『コンゴウ、コンゴウ!』
「マヤか、どうしたんだ?」
『退屈だよー。401が動き出したのなら、私にやらせてくれない?』
「ダメだ。401が通る先は、タカオの管轄だ。彼女に任せればいい」
『管轄とか面倒じゃない?』
「そんな事を言うな。我らはアドミラリティ・コードに従う兵器、それだけだ」
『もう! コンゴウの頭でっかち! 石頭! ナガトに沈められちゃえ! べー‼︎」
そう言葉を吐き捨てて、マヤは通信を切った。
「全く、面倒くさい……」
そう呟くと、コンゴウは遠州灘沖にいる重巡洋艦タカオへと通信を繋いだ。
「タカオ、分かっているな?」
『ええ、401が来るんでしょ? 人類に与する裏切り者は、この私が海の藻屑にしてあげるわ』