大海原を行く白銀 〜Arpeggio of Blue Steel〜 作:Many56
これからも頑張って下さい!
紀伊半島 熊野沖
台風11号勢力圏内
大量のミサイルが着水し、そのまま水中の奥深くへと潜っていく。
そして、蒼い船体の潜水艦へと突き刺さり、爆烈する。
直後、その潜水艦は船体が真っ二つに折れて海底へと没していった。
そして、台風の目の中には1隻の赤い重巡洋艦が佇んでいる。
“霧の艦隊”東洋方面第一巡航艦隊所属の重巡洋艦タカオだ。
「また、デコイか……。早くおいで、401。私が沈めてあげるから」
自信に満ちた表情で、タカオは呟いた。
海底には、静かにイ401が横たわっている、ように見える。
だが、実際にはもう1隻いる。
スーパーステルスシステムを稼働させているシナノだ。
俺達は敵にバレないように注意しつつ、通信による作戦会議を行っていた。
『アクティブデコイが撃破された。稼働中のデコイは残り3つ』
イオナが静かに報告する。
これでもう4つ目だ。
敵のタカオは401が放ったアクティブデコイを的確に撃破している。
『静、タカオの様子は?』
『依然変わりありません。海上を台風の目と合わせて航行中です』
群像の質問に静が答える。
「驚いたな。この気象条件で索敵能力が低下すると思っていたが……」
「タカオは、401のデコイを完璧に叩いていますね」
俺の呟きに、みほが的確な指摘をする。
『イオナ、撃破されたデコイのプロットを出してくれ』
『了解した』
シナノ艦橋のモニターにもデコイの撃破されたポイントが映し出される。
そして、タカオの予想索敵範囲も同時に映し出された。
その索敵範囲の円はピッタリと撃破されたポイントと重なっていた。
「ピッタリ……ですね」
「台風関係無しかよ……!」
その映像に南部と大介が感嘆する。
『全くと言っていい程落ちていないな』
群像も同意見。
思っていたより厳しそうだ。
全員が対策を考える中、静が意見具申した。
『一度外洋へと転進して、タカオのピケットラインを迂回するのはどうでしょう? 持久戦に持ち込まれれば不利ですし、わざわざ戦う必要もありません』
確かに、1つの案としてはアリだ。
このまま台風に沿って北上し、タカオの目を盗んで横須賀を目指すのは不可能である以上、最善策だと思えるだろう。
しかしだ。
「俺は反対だな。その案を採用したところで、タカオを振り切れる保証は無いし、外洋で新たな敵に出くわす可能性だってある。そしてその場合、敵を引き連れたまま横須賀に入港する事になる」
全員の表情が険しくなる。
『しかし、入港してしまえば問題無いのでは? “霧”の最上位命令であるアドミラリティ・コードは地上への攻撃を禁止している訳ですし』
そう意見を述べるのは僧だ。
確かにね。しかし、一定条件を満たせば地上も攻撃されかねないのだ。
「シナノ、“霧”の攻撃対象が外洋に出た船舶及び航空機に限られるが、それが別の港へと入港しよう、または、した場合は“霧”はどう動くと思う?」
「攻撃してくる」
「そして、それに対する攻撃の流れ弾が陸地に影響を与える事については?」
「明記されていない」
「ちょっと待って。それじゃあ、もし私達が迂回航路を行ってもタカオが追いかけて来た場合、横須賀が被害を被るってすすむんは考えてるの⁉︎」
沙織が青ざめて言う。
『そいつはマズイな。あそこ、市街地と港が隣接しているもんな。大惨事だ……』
杏平が顔をしかめる。
「さらに、台風はいずれ消える。そうなれば、更に不利になる」
「私達が使える時間は限られている、という事ですか……」
「そういう事。だから 」
「『ここでタカオを倒す!』」
群像と俺の言葉が同期する。
やはり、コイツとは気が合う。
「はは、だよな」
『それが一番のようですね』
俺達の言葉に大介と僧が同意する。
「まあ、こちらの戦力を鑑みても問題ありませんしね。シナノを中心に据えた作戦を行えば 」
「おい南部、何言ってるんだ? 401を中心に据えて、コッチは基本的にサポートだ」
「「「は?」」」
401含め、みほと群像を除いた全員が「何言ってんの?」という視線を浴びせてくる。
まあ分かるよ? しかし、戦略的に考えて、現状シナノを中心に据えた作戦を展開すべきではないのだ。
何故そこに気が付かないのやら……?
「逆に聞くが、今ここで
「「『あ!』」」
大介、南部、僧は今ので気がついたようだ。
だが、まだ半分以上のメンバーが分かっていないらしい。
「俺達の存在は、まだ“霧”には気付かれてはいない。もし気付かれているのであれば、今頃大戦艦級や海域強襲制圧艦級が複数隻押し寄せているだろうからな。そして、気付かれなければ警戒されない、対策されない」
これで、全員が気がついたようだ。
そしてまだ利点はある。
「それに、これからアメリカへの長旅になるんだ。今後の消耗を考えれば、ミサイルなどの弾薬や物質は温存できる方がいい」
そして、全員が納得した。
『イオナ、デコイの状況は?』
『量子通信良好。あと2時間は問題ない』
『いおり、戦闘出力はどれだけ維持できる?』
『全開は少なくとも3分は保証するよ』
『よし、分かった。イオナ、浮上するぞ! デコイも同時に動かせ! いけるな?』
『いける。デコイと一緒に浮上する』
イオナは台の上に立ち上がりながらそう言った。
『浮上って正気か、群像⁉︎』
杏平がそう聞くも、群像は変わらない。
『正気さ。暴風圏の壁を利用して、タカオに捕捉される前に奇襲するんだ』
「よし、俺達は401の真下につくぞ。ギリギリまで接近するんだ。
「それ、危なくないですか?」
南部がそう言うも、ちゃんと考えはある。
「そうだな、かなり危ない。大介みたいなハイレベルの操舵ができなければな。それに、近づかないと魚雷やミサイル発射地点を誤魔化せないだろう? その為に、ステルス解除とミサイル発射のタイミングを合わせる訓練をしたんだから」
『機関始動! 浮上微速! 全艦戦闘配備‼︎』
「こっちも行くぞ! 太一、機関始動! 大介、401に貼り付け‼︎」
俺達は、静かに浮上し始めた。
タカオは401が動き出した事を察知する。
「反応は4つ。1つは本物か、それとも全てデコイか?」
そんな事を考えている内に、デコイと本体の識別が完了する。
「なるほど、それが本物ね」
タカオは重力子エンジンの出力を上げ、本物の401がいる方向へと艦首を向ける。
そして、徐ろに両手を広げ、天にかざす。
「エンゲージ……」
彼女がそう呟くと、艦橋上部が変形し煙突が2つに分裂する。そして、その中からは超重力砲制御用の重力子レンズが現れる。
「先ずは、この一撃でクラインフィールドを臨界にしてあげる。私は、ヒュウガのようにはいかないわよ?」
401は、超重力砲に全く気付いていないように疑いもなく、ゆっくりと上昇してくる。
「そのまま。そう、そのまま……」
ベストなタイミングまで待ち構え、そして放とうとした時だった。
浮上しつつ、攻撃の準備を整える。
「各種魚雷及びミサイル装填完了。いつでも撃てます」
「敵タカオ、回頭中。こちらに艦首を向けてきているよ」
『まさか、気付かれましたか?』
『慌てるな。浮上、そのまま』
401では僧が心配するも、群像はそれに対して何も言わない。
だが、僧の考えは合っていると思う。
こちらが浮上開始した直後に、たまたまタカオも動き出すなんて都合が良すぎる。
また、俺達は現在タカオの索敵範囲外にいるが、それは通常の重巡洋艦だったらの話。
もしタカオが索敵システムをより高性能な物に換装していたのであれば、見つかっていてもおかしくない。
『艦長、ソナーから妙なノイズが聞こえます』
401内で静が報告してくる。
「ノイズ?」
『台風の影響なのでは?』
僧が言うも、俺の脳内アラートが余計に強まる。
「沙織、そのノイズはこちらでも捉えているか?」
「うん、さっきから変な音が聞こえるんだよね」
「流してくれ」
「? あ、うん。分かった」
それは、今まで聞いたことの無い音だった。
魚雷でも、重力子エンジンでも、波や魚でもない。
「シナノ、この音が何の音か分かるか?」
「これは、超重力砲発射準備の際に発生するノイズ」
悪い予感の正体が分かった。
そして、シナノの言葉に全員が動揺した。
『おいおい、バレてるじゃねえか! 不味くないかそれ⁉︎』
杏平が慌てる。
「この距離で一体どうやって察知したんだ⁉︎」
南部も疑問を口にする。
「直ぐに回避行動を!」
「待て、大介! それをすると察知した事がバレる。即、超重力砲が飛んできてお陀仏だ!」
「ですが、このままでは遅かれ早かれ超重力砲が!」
みほの言う通りだ。
このままでは、超重力砲が飛んでくる。
間違いなく401は消し飛ぶし、これだけ401に接近しているとなると、最悪こちらもただじゃ済まない。
今ここでステルスモードを解除して、気を引くべきか?
そう考えている間に、群像から指示が飛ぶ。
『いや、むしろ好都合だ! イオナ、ヒュウガからぶん取った
『分かった』
そんな風に進む会話を聞いていたいおりからは罵声が飛んでくる。
『はあ⁉︎ あれはまだシュミレーションでしか操作を確認してないんだよ! 実際に使うとなったら、どんな負荷がかかるか……!』
「何を考えているのかは知らんが、その策で行こう。どの道、ここで使えなければ、ここから先も使えないだろうからな」
『進まで……』
「何かあれば、こっちからバックアップするさ」
『ありがとう、進。それじゃあ、こちらが海面に出る直前にミサイルを撃ち込めるだけ撃ち込んでくれ』
「了解した。シナノは俺の指示でステルスを解除しろ。ミサイル発射直後に再起動だ。南部はタイミング合わせてミサイルを叩き込め!」
「「了解!」」
あっという間に、即席の作戦が組み上がった。
あとは実行するのみである。
そして、海面まであと少しというところまで来た。
『機関、最大出力! イオナ、スタンバイだ!』
「シナノ、ステルスモード解除! ミサイル全弾、てぇ!」
「サヨナラ、401……ん?」
401が浮上してくる前に、別で海面から大量に飛び出してくる物がある。
ミサイルだ。
「ミサイル弾数50……いや、100以上⁉︎ 一体どうして……キャッ‼︎」
不意を突かれたタカオのクラインフィールドに大量のミサイルが轟音を立てて炸裂した。
しかも、真正面は超重力砲発射の為にフィールドを展開していなかったので、その穴から数発入り込んで前部甲板に突き刺さった。
そして、その衝撃を受けて、超重力砲をあらぬ方向へと発射してしまった。
「ま、マズイ!」
タカオは態勢を立て直そうとするも、そんな事ができる余裕は無かった。
間髪入れず、タカオの正面の海面が割れた。
「くっ、今度は何? あ、アレは!」
割れた海の向こうには船体を展開し、艦首にエネルギーを集中させている401の姿があった。
海面が2つに割れた。
そして、401は船体を展開して超重力砲発射態勢を取った。
どうやら、群像の言っていた
メチャクチャな魔改造をするもんである。
一方、タカオの真下には大型の索敵器具をぶら下げた潜水艦がいた。
どうやら、コイツがタカオの異常な索敵能力の正体だったらしい。
『発射空間軸に、タカオを固定』
401のモニターには艦橋の上に立っている青髪の少女が映し出される。
『メンタルモデル……仰角、マイナス3度』
『タカオ、離脱しようとしています!』
『早くして、これ以上はエンジンが持たない!』
『総員、対ショック対閃光防御! 超重力砲、撃てぇ‼︎』
401から青白い閃光が放たれ、タカオのクラインフィールドを軽々破る。
そして、潜水艦に直撃して大爆発した。
数時間後
概念伝達空間
東屋の中には、小さなテーブルと2つのイスが置かれている。
一方のイスには優雅な手作で紅茶を飲む金髪にロングドレスを着た女性 コンゴウが、もう一方のイスには青い髪に白いワンピースを着た少女 タカオが座っている。
「やられたようだな」
その言葉にタカオはコンゴウを睨む。
「う、24時間の武装ロックを食らっただけよ。あれは、401が超重力砲なんて持っていなければ……。でも、どこであんな物を?」
「恐らく、ヒュウガからの鹵獲品だろう。人間というのは創意に富んだ生き物だからな」
「ヒュウガの⁉︎ ……人間に装備を奪われるなんて、無様ね」
「401に負け、武装をロックされた上に外洋へと退去させられたお前が、ヒュウガを笑う事などできないだろう」
「うぐっ、この借りは……いつか必ず返してやるわ!」
頬を紅潮させて、タカオは言った。
「お前らしくない。何を考えている?」
「失礼するわ!」
そう言って、タカオは概念伝達空間から出て行った。
そして、現実世界へと意識を戻した。
タカオは、ボロボロになった甲板上で仰向けに寝そべっていた。
そして、ポツリと呟く。
「人間を乗せていれば、あんな戦術も可能になるのかな……。私も、欲しいな!」
横須賀沖
イ401甲板上
「まさか、超重力砲を搭載しているとはな……。水上排水量3500トン程度の艦がやる事じゃない」
「ああ、そうだな。だが“霧”を相手に戦うには必要な切り札だ」
「まあ、あると無いでは火力が大違いだよな。しかし、そのせいで他の機能が圧迫されていないか?」
「確かに、されているな」
だろうな。
索敵能力はかなり落ち込んでいるだろう。
事実、タカオを捕捉したのはシナノが先だった。
「しかも、あの時の使用で損傷した。直接見ないと分からないが、多分本格的な修理が必要になる」
「おいおい……」
「それはそうと、もうすぐ横須賀。2年ぶりだな」