もしも「Fate」が大人気eスポーツだったら 作:ゼラチン@甘煮
20XX年、1本のVRゲームが世に出た。
『Fate/Virtual』というタイトルで発売されたこのゲームは、今までの全てのゲームの常識を過去にした。対戦モードではサーヴァントとして臨場感のある戦いを体感できストーリーモードでは様々なシナリオをサーヴァントとマスターのどちらかを選んでその重厚な物語の登場人物になりきることができる。
それまでのVRゲームとは格の違うその技術はFate並びに型月を知らない層からの注目も集め全世界のニュースで取り上げられた。
それから数年後、同会社から対戦要素をメインとした『Fate/Virtual_War』が発売された。
好きなサーヴァントを使って戦うシステムはそのままに、新たなシステムとして『競技モード』が追加された。
この『競技モード』こそが、このゲームを現在世界で最も人気なeスポーツへと押し上げた要因である。
中3の春にどこの高校に進学しようか迷っていたところ幼馴染に説得され同じ高校を受験、無事二人そろって合格した。今日はその高校の入学式、そして部活動見学の日なのだが。
「もう。今日から高校生でしょ、はやく起きなさい」
母の声で目を覚ました。数十秒かけて体を起こし居間へと向かう。
「大丈夫なの?なっちゃんと待ち合わせしてるんじゃないの?」
「時間までまだあるし大丈夫......だと思う」
ヤバい、すっかり忘れていた。絶対遅れないように言われていたんだよなあ、だが慌てる時間じゃない。3分で朝食を食べ5分で準備をすれば待ち合わせの時間には問題なく間に合うはずだ。
「あら、そうなのなっちゃん?」
「うーん...本当だったらもう高校についてる時間なんだけどね、まだ寝ぼけてるのかな?はい、朝ごはんだよ」
朝食を運んできたのは、ここにはいないはずの幼馴染だった。
「......あー、なんでここに?」
「いつもより早く起きたから迎えに来たんだよ。まさか寝ているなんて思わなかったけどね」
満面の笑顔のはずなのになぜか恐ろしかった。
「まったく、今日くらいはちゃんとしてほしいよ」
「入学式と部活見学だけだろ」
わかってないなあと首を振るこいつは物心がつく前からの幼馴染である
「その部活動見学が重要なの。一緒に見学するんだからできるだけ良い印象を向こうに与えておきたいんだよ」
「別にいいけど俺は運動部は嫌だぞ、文化部もなんか敷居が高そうだし」
「大丈夫、僕と公人が見学するのは『FVW部』だけのつもりだから」
「えふ、ぶい......?」
「だから、『Fate/Virtual_War部』だよ。それしかないでしょ」
「ああ......そうだった」
こいつはそのFVWが大好きなのだ。この高校を選んだのだってFVW高校大会において初代チャンピオンに輝いたのがこの高校だったかららしい。
現在公式で学生大会が開かれているeスポーツはFVWだけらしく俺自身詳しくないのであまり深くは言えないがそのゲームの人気が凄まじいことを実感する。
「伝説の第1回大会...!残り1人で相手チームは5人、その絶体絶命の状況で逆転し優勝した。まさに鬼のような強さ、本当に凄いんだよ」
「知ってるよ、何回お前に見せられたと思ってるんだ。ほら、着いたぞ」
「ホントだ。じゃあまた入学式のあとでね」
手を振って走っていく夏、それを見届けながら俺も事前に発表されていた自分のクラスへと向かった。
「入部届か。天海に衛宮だな」
「はい。よろしくお願いします」
見学の前に行きたいところがあると職員室に連れられたのだがなんでこいつは入部届を渡しているんだ。
「......おい」
「こういうのは先手必勝だよ、最速で入部することで同学年のライバルにプレッシャーを与えるのさ」
「関係ないと思うが」
「いいからさっそく部活に行こう」
手を引かれる。俺はまだ入ると決めてないんだけど、まあいいか。
「ここだよ公人!僕たちの部室だよ」
連れてこられた場所は校舎の端にある教室、扉には『FVW部部室』と丸い手書きの字が書かれてある。
もっと大きな部屋だと思ったんだが見た感じ普通の教室と変わらないな。でもゲームの機材さえあればできそうだから部屋の広さは関係ないのか。
「──あら、あなたたち見学に来たの?」
後ろから声をかけられる。
「はい、見学どころか僕たち二人とももう入部届出しました。よろしくお願いします!」
「あ、えーと、よろしくお願いします」
一応俺も挨拶する。先輩らしき人は俺たちを見て複雑そうな苦笑いを浮かべた。
「あー、なるほどねー......。うん、二人ともよろしくね。私は2年の
2年?普通この時期の部長は3年がやるんじゃないのか?隣のやつは興奮しすぎて何も違和感を持ってないらしい、しっかりしてほしいのはこっちだよ。
「あの、僕たち、伝説のあの大会に憧れてこの高校に入ったんです。ライバルがたくさんいるのはわかってますがぜひレギュラーメンバーになって大会に出場したいです」
そう頭を再び下げる夏を見てより複雑そうな顔をする部長。しばらく俺と夏を交互に見比べて決心したように天井を見上げる。
「......うん、とりあえず見てもらった方が良いわよね。とりあえず入って」
そう言って部室の扉を開けた。
「し、失礼します!」
「失礼しま────」
驚いた。まず部員が誰もいない、妙に静かだとは思ったがまさか部長が最初だったとは。次に機材、5台程度それっぽい機材は見つかるのだが妙に新しい。使っている痕跡があるのはせいぜい2台だ。最後にこの部屋、お菓子の袋やFVWとは関係なさそうなゲーム機やパソコン、ボードゲームが散らばっている。
「え、えーと部長、他の部員はまだ来ないんですか?」
一瞬固まった空気を崩すように夏が声を上げて質問する。
「────ごめんなさい」
「え?」
そう部長が呟いた直後、綺麗な土下座をする。
「え?え?」
「ごめんなさい、ごめんなさい。この部活、私含めて2人しか部員がいないの。過去の栄光に縋っているだけなの。あなたたちが入部しなかったら、全国出場どころか部の存続すら怪しかった弱小部なのよおおおおおおお!!」
土下座したままそう叫ぶ部長。
「あの、顔を上げてください」
「失望しないで!本当に廃部になっちゃうから!入ってくれたら即レギュラーだから!ちゃんと教えるから!4人だったらギリギリ大会に出れるからああああああああああ」
「部長!?」
泣きだしてしまう部長とそれをあやす夏、俺はその光景をただ冷めた目で見ることしかできなかった。
「何黙って見てるのさ!はやく一緒に部長を落ち着かせようよ!あっ部長なんで泣くんですか!?」
「......なんでさ」
不安だらけの高校生活の幕が開いた。