もしも「Fate」が大人気eスポーツだったら   作:ゼラチン@甘煮

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動く戦況

 

「逃げても無駄ですよ。私はこのチームで唯一の中等部からの経験者です、まず初心者には負けません」

 

 腕を押さえ中央に向かって走る。こいつが言う通りまともにやっても今は勝てない。2人とまずは合流を目指し逃げるのが良いはずだ。

 

「くっ...!」

 

 振り下ろされた藤宮の剣をとっさに受け止める。やはり能力値の差が大きいのか、受け止めた腕が武器を通してビリビリと痺れている。

 

「一つ、アドバイスをしてあげますよ。たとえ能力値が低くても、スキルなどで充分補えます」

 

 スキル『プレラーティの激励(B)』発動

 

「私の能力値は既に、お前より数段階上だ。......それでも諦めないようなら、圧倒的な力で叩き潰すだけだ」

 

 蔑むような冷たい目を向け、剣を構えた。

 

 

「──そこだ」

「ッ!」

 

 藤宮が剣を振り下ろそうとした瞬間、武器を出し投げる。この距離だとさすがに避けられないはずだ。

 

「悪足搔きを...ぐっ!」

 

 鎧を貫くまでは行かなかったが、怯ませて隙をつくることに成功した。その隙を狙い、さらなる追撃を加える。

 この反応からどうやらダメージは与えられているらしい。このまま勝てるとは思えないが完全に太刀打ちできないわけではなさそうだな。

 

「お前...クラスはなんだ」

「アーチャーだよ」

 

 納得はできないと思うが、これでもアーチャーなんだよな。本当にどんな英雄なのか気になる。

 

「アーチャー...干将莫邪......チッ、面倒ですね」

 

 何かに納得したかのように俺から目を外した。そして、もう一度俺を見たかと思えば背を向けて去っていった。

 

「助かったのか...?」

 


 

 

「中央に到着、誰もいない」

『天海さんも敵と遭遇したわ、上野さんも気を付けて』

 

 気を付けて、ということはつまり自分にも敵と遭遇する可能性があるということ。二人はいわゆるタイマンの形で接敵した、とそう上野は汲み取った。2対1の数的不利にならなかっただけ、不幸中の幸いと言うべきと彼女は即座に割り切った。

 

「なら私もさっさと接敵する、この状況で敵側に合流されるのは危険」

『ちょっと待って、上野さんも衛宮くんとほぼ変わらない初心──』

 

 通信をミュートにする。別に部長の声が煩わしかったわけではない。味方のものではない気配が近づいてきたからだ。

 

 

「こんにちは、貴女も一人みたいね。......霧子も勝手に行動するし、あいつはあいつでどっかに行くし、本当に勝つつもりはあるのかしらね?」

 

 気配を感じた方向から、敵の一人が出てくる。

 見た目からは特にサーヴァントを当てられるほどの情報は得ることができない、強いて言うならその剣だろうが、あいにく上野は剣を見ただけでそれがなんなのかわかるほど詳しくない。

 

「そんなに身構えなくて良いわ。他の2人とは違って、私はまだまだだから」

「それでも、私にとっては充分すぎる脅威」

 

 槍を構える。相手が剣を持ってるということはセイバーか、少なくともアーチャーやキャスターではないはず。部活でのちょっとした練習とは違う初めてのちゃんとした戦い。図らずも槍を握る手に力がこもる。

 

 

「ランサーね、しかもその槍は...」

「その心臓────」

「えっ」

 

 

 ──槍に、魔力を込める。上野サユリは、今までFVWをやったことのない初心者である。故に、能力値も衛宮と同じ最低値でありスキルも何一つ使えない。

 しかし、彼女は『宝具』を所持している。これに関しては所持していない衛宮の方が特殊なのだが、何にせよ切り札を1つ持っている。

 

 

「──貰い受ける」

 

「そんな...宝具なんて正気!?」

 

 彼女は確かにFVWの初心者である。が、Fateに関しては知っている。もちろん彼女のサーヴァントとその宝具についても。

 FVWにおける宝具というものは、切り札。多大な魔力を消費して放つ至高の技。たとえ魔力の能力値が最高ランクであったとしても、連発することは難しく体感の体力消費もとてつもない。それに加え宝具と言うものはそのサーヴァントの象徴と言うべきもの、使えばサーヴァントの真名など簡単にわかる。サーヴァントがわかるということは手の内もある程度わかるということ、だからこそよほど終わらせたい場面や余裕のある場面でなければ最初に宝具を放つことはありえない。

 

 だからこその驚愕、だからこその混乱。宝具を前にしたその混乱こそが、隙を生んだ、致命的な隙を。

 

 

(これ...避けられな......!)

 

 気づいた時にはもう遅い、経験者ならともかく、上野と同じ初心者の彼女が避けられる道理などない。

 

「『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)』────」

 

 その朱槍が一寸の狂いもなく、心臓を貫いた。口から血が溢れ、喉からただ息が漏れる音が聞こえる。槍を抜くと、支えるものがなくなったのかその場に崩れ落ちる。

 同時に、体が光の粒となり、ゆっくりと消え去っていった。

 

 

 

「...部長、一人撃破」

『なんでそんなことになってるの!?』

 

 


 

 

 

 

 中央に向かう。また藤宮が来るかもしれないがその時はその時だ。まずはなんにせよ合流したい。

 アーチャーなのに弓使ったことない問題だが、弓は念じれば出すことができた。問題は射出するための矢がないってことだ。念じても出てこない。そのためただのお荷物になっている。

 

「どうしたもんか──」

 

 突如、轟音。俺が今向かおうとしていた中央の方からの音だが、まさか向こうも敵と会っているんじゃ。

 

「とにかく早く向かわないと...」

 

 足手まといでも何かできることはあるはずだ。ある程度は俺の攻撃も通用するようだし、充分相手の邪魔はできる。

 

 

「......ッ!なんだ!?」

 

 障害物のはずの建物を破壊しながら何かがこっちに突っ込んでくる。反応できないままその物体に巻き込まれながら吹き飛ばされる。

 

「おい──嘘だろ...!」

 

 いつまでも慣れない全身のリアルな痛みに顔をしかめながら隣を見る。

 その物体の正体は、ボロボロになっている夏だった。夏はこちらに気づくと、慌てたように立ち上がる。それでもダメージがあるのか、いつものような元気さはない。

 

「公人、ごめんね。僕が一番しっかりしなきゃなのに」

「良いから、大丈夫なのか?」

「ちょっと油断しちゃった。本当に1年生なのかな...?」

 

 自力で立つことができないのか、剣を杖代わりにしてもたれかかっている夏。口には出してないがおそらくもう限界が近いのだろう。弱音を吐かないのは、俺がいるからだろうか。

 

「公人は離れて、上野さんと早く合流したほうがいい。この敵は僕が絶対倒すから、安心して」

 

 安心できるわけないだろう。震えている腕も、足もバレバレだ。

 

「公人...?」

「休んでろ」

 

 夏がここまでやられる敵なんて俺がどう頑張っても勝てるとは思えない。俺が一方的にやられる可能性を考えると夏の言う通りにした方が良いのはわかっている。

 

 

 

「ずいぶん飛びましたわね...。あら、もしかしてこれは一石二鳥というやつですの?」

 

 こいつか、見た感じ夏ほどではないがある程度のダメージは負っているらしい。

 

「二兎を追う者は一兎をも得ずってやつだ」

「公人!無茶だよ」

 

 武器を構える。たとえ無駄でも、ここで夏は放置できない。

 

 

「無茶がどうかはこれからわかる。初めての試合、3人揃って勝つぞ」

 

 

 

 

 

 

 

「二兎を追......なんですの?それ」

「まじかよ...」

 

 

 

 

 

 

 

 




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