バカと理性が蒸発中っ! 作:あん
文月学園
時刻は明朝。
「………止まれ」
文月学園の校門を通ろうとしたところで、筋肉隆々でゴリラ顔の男―――西村先生に呼び止められる。隣で歩いていた優子と秀吉はボクを置いて先に進んでしまった。置いてかないで欲しい。
通学中の会話?んなもん緊張し過ぎて覚えてないわ。最初は頑張ったけど中盤辺りから「それな」と「マジ?」しか言わなくなったのは辛うじて覚えている。
そうだな、覚えてる限りで簡単に説明すると
優子に怒られる
↓
時間が差し迫っていることに気づく
↓
急いで学校に向かう
↓
学校に到着した(今ここ)
てな感じ。
あ、それとクラス分けは勿論Fクラスでした。くそぅ……嬉しくて涙が出るぜぇ……。
「どうしたんですか西村先生」
優子と秀吉の後ろ姿を惜しむように見つめた後、西村先生の顔を見て応える。
正直なところ、朝から指導とかは勘弁……なわけないだろウ!?むしろ喜んで指導されますが?
「お前なんで女子の制服着てるんだ?」
はい来ましたド正論!ボクだって自ら着ようと思ったわけじゃないんだヨ、気づいたら着てたっていうか人間のサガっていうか、ねぇ?たぶんコレは優子の制服だな。
そもそも同じ屋根の下に優子と秀吉がいるのがダメなんだ。憧れっていうか初恋ていうかそういうのの的だったキャラがニ人も同じ家で、同じ空気を吸っていたら最早ヤらない方がおかしくないか?
そう、ボクは被害者なんだ。本能的なナ二かに襲われて強制的にヤらされたんだ。不可抗力、なのでボクは無罪を主張します!
でもそんな長ったらしいことを今から先生に説明するのか?
いいやダメだ、もしここで時間を費やしてしまったら原作主人公たる吉井明久との情熱的な出会いが出来なくなルゥ!よし、ここは短く、適切に先生に伝えよう。唸れボクの百枚舌よ!
「それな」
「お前何言ってるんだ」
「ぴえん」
「大丈夫か?」
「草」
「よし、俺が腕の良い医者を紹介してやる」
省きすぎたぁぁぁぁ!ていうか国語毎年C判定だったの忘れてたぁぁ!一番ボクに求めてはいけないものだったのにボクはなんてことを……自ら自分の首を絞めてしまうとはチクショウ。
てか先生優しすぎん?頭のおかしい生徒を心配してわざわざ腕利きの医者紹介してくれるとかゴリラ越えてオラウータンだよ。誰か頭の良い人がオラウータン型ロボットとか作ってくんないかな。いや出来るわ、試験召喚システムなんていう謎技術を発明してるぐらいだからそんなこと余裕に決まってたね。
そもそも優子と秀吉なんでボクのこと待っててくれなかったんだろう。朝の反応を見る限り好感度は高い気がしたんだけどなぁ。
あれ?これってツンデレ……いやそれはないな。ないない。でもツンデレじゃなかったら少し寂しいなぁ。推しに放置されるボクって……ありかも。正直ナイスプレイだ。そうか、そういうことだったんだね双子シスターズ。
ちょっと待て、優子たちと別れて何分経った……?もしかしたらボクを差し引いて原作突入してしまっていたり…!?嫌だ、それは絶対に嫌だ。
ボクだって明久の≪見せられないよ!≫見たいしムッツリーニが撮った≪アーッ!≫も見たい、秀吉の≪自主規制≫な姿も見たいし雄二と霧島さんの≪グロテスク注意報≫も見たいんだ!
「オラウータン、悪いけど僕急いでるから!」
そう告げて踵を返し校門をくぐる。
本当はもう少し喋りたかったけど、まだ話す機会はあるはずだ。次を楽しみにしておこう。
「西村先生と呼べ!次間違えたら指導室送りにしてやる!」
絶対間違えてやる。この命に代えてでも。
☆☆☆
無駄に広いとしか思えないAクラスの教室は無視して廊下を疾走する。
すごく今更感が強いがボクはアストルフォの身体に憑依転生してしまったらしい。正直なところ、めっちゃ嬉しいぜ。皆一度は考えたことなかった?もしも自分がこのキャラだったらとか、ありもしない空想するアレ。今、その現象がボクに起こっているのだ。
本当に何不自由なくこの身体は動くし、声を出そうと思えばアストルフォの声が出る。はい、最高です。死んでよかったよ。来世最高!
だからというか、前世と比べて身体能力が上がった気がする。いや違うよ?前世のボクの肉体が欠落品だったとかじゃなくてね、この身体は常人を越える驚異的な身体能力が……てそりゃそうだろウ!?
アストルフォはな、最弱だとか呼ばれてるが常人と比べたら単なるヤベー奴にしかならないんだぞ!?でも、それだったらもう少し早く走れてもいい気がするんだけどな。
……もしかしてボクの運動神経が関係して最終的に低下してしまっているのでは?
くそぅ。前世美術部じゃなくて帰宅部入っときゃよかった。それなら足腰が鍛えられて少しは改善されたかもしれないのに……!いやでも、美術部では繊細な絵のタッチが求められるから技術面に関しては向上しているはずだ。
あ、Fクラスじゃん。
ザッ
……おおう、急ブレーキしたら焦げた足跡が廊下に残ったんだが。これ弁償とかないよね?一応足で払って誤魔化すか。
ふきふき
消えねぇー!普通に考えたら消えるわけがねぇー!ま、まあ過ぎたことはしょうがないよな。うん、不可抗力不可抗力。もし怒られてもこの類稀なる身体能力で逃げよう。ただし西村先生を除く。
「よし。は、入るぞぉ」
引き戸に手をかけ、自分を鼓舞するように言葉を出す。
大丈夫、ここから先はバカしかいない教室だ。もし友達が出来なくて孤立しちゃっても秀吉が傍にいてくれるはずだ。それに明久や雄二、ムッツリ―ニだっている。通学中に秀吉から聞いたけどボクは中学時代あのバカたちと色々とヤらかしたらしい。だから最悪クラスに馴染めなくても彼らがいる限り僕は安泰だ。
そう意気込んで、一気に扉を引く。
「ど、どうもこん―――――」
「総員ペンを執れ! 俺達に必要なのは卓袱台ではない! Aクラスのシステムデスクだ!」
『『『うおおおおお!!』』』
いや、キミたちに必要なのは正常な思考だと思う。
やっべ、思わずつっこんじゃった。でも普通扉開けたら、これから先交流するであろう男子たちが狂演乱舞してるとは予想しなくない?逆に予想できるとお思いで?
てか雄二の名シーン見過ごしたぁぁぁぁぁぁ!!せっかく転生したのに!?最後だけしか見せないとか……映画予告の逆Verかよ!
急いで教壇を見るとゴミを見るかのような目で見下ろしている雄二がいた。
っべーよ、っべーよ!本物がおる。元神童が僕の前で生きてる。なんか四人目くらいの原作キャラだけど未だに興奮してしまうぜ、そう、例えるならお年玉全てを課金につぎ込んだあのトキの気分のような……。っは!危ない、ボクの黒歴史が急に脳裏に映し出されたクソッ。ええいボクは雄二を見るんだ。雄二に全ての思考を
「ん?遅かったじゃないかアストルフォ」
あ……もう思考が飛んだわ。
「あ!良かったよ、やっぱりアストルフォもFクラスだったんだね」
あきひさ が はなしかけてきた
神よ……貴方は僕を殺すおつもりですか……?お、落ち着けボク。まずは深呼吸だ。鼻から吸ってケツから吐いて……よし、頑張るぞ。
「ウン……ソウダッタヨ……」
上手く喋れてるかな。少しカタゴトみたいになってるけどテンパって失敗するよりはマシだよね。いやー、何度も驚愕するとかえって冷静になるってのは本当だったんだネー。
「あはは、そんなに落ち込むことないよ。試験直前まで消しピンやってた僕らがFクラスじゃない方がおかしいのさ。ねえ?ムッツリーニ」
「…………今忙しい」
うわぁっ!?よく見たらムッツリーニが畳みに這いつくばってた。全然気付かなかったよ……。あ、近くに姫路さんの姿もある。もしかしてだけどムッツリーニは姫路さんのパンツを見ようとしてるのだろうか。そういうの、嫌いじゃないよ。
「うん、姫路さんのパンツの写真と友達である僕のどちらが大事なのかな?それと写真撮れたら頂戴」
「…………決まっている、パンツだ。それと値段は二百五十円」
「無機物に負けたぁぁぁ!……僕の夜ご飯代か、背に胸は代えられないっていうしね」
「何か言ったかしら吉井?今島田さんに胸は与えられないって聞こえたんだけど」
「そんなこと言ってないよ!?」
明久の呟きに島田さんが過敏に反応する。続々と来るな、原作キャラ。
ぶっちゃけ島田さんは秀吉とか明久みたいに特別会いたかったわけでもないしなぁ、あんまり驚かない。……ちょと待て、それだとボクがまるでホモみたいな感じになっちゃうじゃないか。違う、僕はホモじゃない。秀吉は秀吉だし、明久は明ちゃんだ。ボクはホモじゃなぁい!
「…………今ならアストルフォ×秀吉の着替え写真もある。値段は三千円」
「買った」
てか明久かわいくね!?驚愕の事実なんだが!?いやまあ確かに秀吉と比べたら見劣りはするさ。でも女装すれば女にしか見えないような顔はしてるよね……ボクの守備範囲ギリギリってところかな。背の高さはボクが少し大きいぐらいだ。といっても数センチの誤差なんでけどもね。
もちろん、ムッツリーニも可愛いよ(ホモ解放宣言)
「よし、アストルフォも到着したことだし早速Dクラスに宣戦布告でもするか。明久、頼んだぞ」
「え、あ、うん。分かった行ってくるね」
明久がボクの横を通り過ぎ、廊下に出る。
「ちょちょっと待って!」
「え?」
やば死んだ。思わず声かけちまった。特に話すこともないのにチクショウ、まるで陰キャみたいだなボク。と、とりあえずそれっぽい言葉を投げかければいいよな。
「その……頑張ってね」
「……!う、うん。じゃあ行ってくるね」
少し目を見開いたまま硬直していた明久だけど、すぐに立ち直ってDクラスへと走り出した。
「俺達のアストルフォと話すなんて羨ま……殺すか」
「いや、出来るだけ痛みつけて放置してやろう。骨の髄まで調教してやる」
「火炙りにしてやろうか」
あ、FFF団みっけ。