バカと理性が蒸発中っ! 作:あん
「さてと……」
明久を見送った後、辺りを見渡すともうグループが出来上がっているようだった。そしてボクは一人ぼっち。秀吉たち原作組は教室の隅に集まっていた。は、入って良いのかなぁ。
やべ、入学初日をミスったみたいになってるぞボク。で、でも雄二とか明久とかはボクと面識があるっぽい感じで話してきたからボクもあのバカ四人組の一人ってことでいいのか?情報がなさすぎて判断が出来ない。
一応話すことに若干慣れてきた秀吉がいるっちゃいるんだけど……くそぅ。なんだあの壁は、めっちゃ入りにくいな。
やっぱり原作組の中に入っていくのは非常に困難だ。あそこに突っ込むのは死地に赴くのに等しい。まだ死ねん。秀吉の水着姿を見てないのだ。
よし、ここは席に座って空気と一体化しよう。
………Oh。想像以上に座布団が薄いね。足が痛い。
「アストルフォ……さんで良いのかな?良かったら座布団貸そうか?」
前に座っていた男子が振り向いて声を掛けてくる。どうやら声に出てたみたいだ。
正直座布団を貸そうとしてくれたのよりも声を掛けてきてくれたことの方が嬉しい。今のボクはボッチではない、話し相手がいるのだ!
「良いの?」
「陸上部で足腰は鍛えているからな、問題ない」
「そっか。じゃあ遠慮なく拝借させていただこうかな」
「ああ。それでついでといったら何だが……今週末一緒にカフェにでうおっ!?」
前の男子から座布団を受け取る寸前、シャーペンが頬を掠める。ボクではなく、前の男子に。
「へへっ……抜け駆けは俺が許さないぜ」
「アストルフォさん!そんな奴の座布団なんて汚臭しかしねぇよ、俺の座布団を使ってくれ」
「バカ、お前みたいなブサイクの座布団をアストルフォさんが使うわけないだろ」
「俺のは他のと違って汚臭がしない。なんてったって俺の匂いで上書きしてるからな」
ああ……そういえばバカテスってこんなノリだったなぁ。
なんだか本当にバカテス世界に来たんだなって一番実感した。たまにめんどくさくなるけどF組の男子はいつも僕を笑わせてくれたし、中でも須川くんが一番好きだ。もちろん恋愛感情ではなくキャラとして、ね。
「お前ら……揃いも揃って愚かしいぞ」
「「「お前は……まさか須川!?」」」
「須川だと……?あの彼氏にしたくない男子ランキング殿堂入りしたアイツか?」
「顔面土砂崩れと呼ばれている……」
「噂は本当だったのか」
あ、噂をすれば本人ご登場。ちょっと顔が泣きかけてる。
「いくら薄汚い座布団を積んでもゴミに変わりはない。だから他の物で代用するべきではないかと俺は思う」
目元を拭ってその場で立ち上がり、男子たちに教えるように演説を続ける。
意外と良いこと言うなぁ。本当に須川か?
「「「他の物とは?」」」
「俺達が座布団になれば良いんだ!」
「「「なるほど、名案だな!」」」
前言撤回、クズは所詮クズでしかなかったようだ。
「俺達は座布団だ。アストルフォさんのキュートなヒップを守護る重大な任務を果たせ!」
「「「応!俺達の身体は無限の座布団で出来ている!」」」
下品な顔をして各々畳に寝転ぶ。
「「「さあ!俺に乗ってくれ!」」」
……正直言うと凄くシュールな光景である。というか普通に気持ち悪い。同性のそんな姿は見たくないし、同性でなくとも見たくない。ただし秀吉と優子は除く。
でもボクは特別焦ろうとはしない。バカテスのファンとして、物語の第三者の目線からすれば彼らの扱い方など熟知している。ノリが良く流されやすい……そういう人間だ、彼らは。
だから
「ボク……物静かな人の方が好きだな」
「「「……………」」」
僕の言葉で動きが止まり、それからゆっくりと立ち上がる。
「今日も……いい天気だな」
「ああ。まるでアストルフォさんの笑顔のようだ」
今日からボクは
「……物静かな人が好み……のう」
「………どうした秀吉」
「い、いや。なんでもないのじゃ」
「…………」
なんか今秀吉の声が微かに聞こえた気がする。早くそっち側に加わりたい。
ガタッ
「ひ、ひどい……D組嫌いだ……」
「おう。早かったな明久」
扉が開き、ボロボロの明久が出てくる。
あー……やっぱそうなるよね。うん、知ってた。
「聞いてよ雄二、D組の人たちときたら僕が宣戦布告した途端襲い掛かってきたんだよ」
「ふむ。まあそうなるわな」
「だよね。ホント信じられ―――え?どういうこと?」
きょとんと雄二の顔を二度見する明久。かわええのう、男だけど。
ボクがバカテスに転生して最も楽しみなこと、それは三つ程あるのだが……その中に明久の女装というものがある。最初に物語内で女装したのはいつだったか忘れたが、度々明久がアキちゃんに変身していることは周知の事実。
そしてボクがFクラスに入ったという時点で明久の女装を拝むことが出来る可能性はグンと上昇した。なおかつ、あの原作組の中に入れれば文句はないのだが………それが難しいんだよなぁ。
「え?雄二はこうなるって分かってたの!?じゃ、じゃあムッツリーニも?もしかして秀吉まで!?」
「よく映画であるだろ。敵側の使者を殺すとか」
「……一般常識」
「予想はしておったの」
明久の顔から表情が抜け落ちる。
「島田さんと姫路さんもまさか……」
「当然の結果ね」
「薄々感じ取ってはいましたが……」
「そんなぁぁぁ!」
仲間たちの辛辣なコメントに膝から崩れ落ちる明久。助けを求めるような顔でボクを振り返る。
「ア、アストルフォは?アストルフォも気づいてたの!?」
パリーン(ガラス☆ハートが破壊される音)
……おっふ、直撃はヤバかった。
緊張で震えぬように気をつけながら、声を絞り出す。
「う、うん」
「嘘だ……僕がこんな有り様になることも分かっていたのに笑顔で送り出しただなんて……信じたくない……!」
主人公と喋っちゃた。今更だけど。
「明久。俺達はお前なら出来ると信じていたんだ。それなのにお前は……」
「うっ……そうだよね。ごめん雄二、僕の実力不足だったよ」
「分かればそれでいい。獅子の子落としともいうからな」
「し、四肢の子脅し……?」
「どうした明久?」
「い、いや何でもないよ!雄二の言う通りだなと思っただけだよ!」
まさかだとは思うが、意味が分からないなんてことはないよな。……あの狼狽ぶりなら有り得るか。小学生からやり直した方が良いと思う程のポンコツ頭だし。
あれ?でも獅子の子落としの意味って我が子に試練を課して一人前に成長させることだよな。お前なら出来るって口では言ってたけど心の仲では出来ないと思ってたのか。嘘八百だなおい。
「そういえば如何せん盛り上がりに欠けると思っていたが、アストルフォがいなかったのか」
え。
「………確かに」
「うむ。アストルフォよ、もっと近くに寄らんか」
「ハ……ハヒッ!?」
やべ、声上擦っちゃった。ていうかちょっと待ってこれ、もしかしなくても歓迎されるパティーンなのでは!?
「そうだよアストルフォ、遠慮なんてしないでさ。ほらっ」
明久がボクの後ろに回り込んで背中を押す。
「あ、ちょっと急に押さな―――――」
「きゃあああ!?」
勢い余ってボクは美波(あ、いたんですねw)を押し倒してしまう。ふむ、この右手に伝わる感触はまるで固められたコンクリ―トのような角ばっていて………Oh。これが水平線か。
「………何か言い残すことはあるかしら?」
「強いて言えばもうちょっとあった方が待ってボクの腕は全可動式じゃなああああ!?」
仮にも英雄であるアストルフォの腕を折り曲げる美波は凄いと思う。
というか何気に美波とは喋ってなかったな。それと姫路さんとも。一番最初の会話が胸って……まあバカテスだし。らしいっちゃらしいけどさ。もうちょっとマシな内容が良かったなぁ。
その日の放課後、二階の旧校舎のトイレで「俺の顔ってそんなにひどいのか……?」という声が聞こえてきたらしい。学校七不思議の一つとして語り継がれることになるが須g……彼の知ることではない。