バカと理性が蒸発中っ!   作:あん

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問 最古の猿人の名称を答えなさい。

姫路瑞希の答え
「アウストラロピテクス」
教師のコメント
 正解です。近年ではミタス猿人という説も有力視されていますので、どちらでも正解です。

木下秀吉の答え
「ホモ・サピエンス」
教師のコメント
 よくある間違いですね。次回から気をつけましょう。

アストルフォの答え
「ホモ・サカモト」
教師のコメント
 何故でしょうか、純粋な悪意を感じます。

吉井明久の答え
「ドンキ―コング」
教師のコメント
 わーお。




帰宅

 ボクは今、マイホームに帰宅していた。

 

 

 

 

 そう、木下家に。

 

 リアル家なき子になってしまったのではないかと学校の校門で途方に暮れていたところ、偶然そこを通りかかった優子に「貴方まだ帰ってなかったの?」と言われ手を引かれてここに来たってわけ。

 マジ救世主です優子さま。

 

 帰り道に優子に聞いた話によると、なんでもボクの両親は世界一周旅行に出かけているとのこと。

 そして学校があるからと1人残されたボクは昔から家族絡みで仲が良かった木下家に居候?させてもらうことになったらしい。

 なんだよ、このラノベの主人公にありがちな設定は。

 まあ嬉しいからいいけどさ……嘘です、マジ感謝しかないですお母様。

 出来ることなら、そのまま天の国に逝ってもらって帰ってこなくてもよし、です。

 

 

「うまうま」

 

 冷蔵庫に置いてあったみたらし団子を。もぐもぐとソファの上で頬張る。

 食器とか部屋とか日本風だったからか、お菓子もそうなのかもしれない。すごくうまい。

 なんだろう、有名なお店の商品なのだろうか。

 一流というか高級というか、明らかに俺の店は日本一!という看板を置いてそうな店にある団子だな。いやどういうことだよ。

 

 

 

 秀吉は新学期初日から部活動に励んでいるので今家にいない。

 演劇部だっけ、ボクも他の部活覗いてみようかなぁ。前と違って身体能力も上がっているはずだし。

 ……やっぱり止めとこう、下手したら人を殺しかねない。

 

 ちなみにだが、実はボクは小学生の頃はサッカー少年団に入っていたのだが、新入生の年下にポジション奪われて泣いて辞めた。

 今となっては懐かしい思い出である。敵チームのスパイとも呼ばれてたな。DFやってたけどGKへのパスがゴールに入ったことが由来である。

 

 わざとじゃないんだよ……。ただパスが異様に曲がってGKが取れなかっただけなんだ。つまりボクは悪くない、GKかボールかスパイクか地面が悪いんだ。

 

「ふーん、やっぱりFクラスだったのね」

 

 優子が冷蔵庫の扉を開けながらどこか納得したような声を出す。やっぱりってことは大体予想は出来ていたのかな。………後ろ姿も可愛いですね優子さん。

 

「優子は何クラス?」

 

「私?私はもちろん―――――――――」

 

「ちょっと待って、ボクが当てるから」

 

 何かを探しているように冷蔵庫を見ている優子の声を遮る。別にクイズ形式にしなくてもいいけど暇だったので遊ぶことにする。まあ、結果は知ってるんですけどね。

 

「私はAクラスよ」

 

「………日本語通じてる?」

 

「失礼ね。貴方と違って純粋な日本人よ」

 

 ノリが悪いと思う。バカテスにあるまじき正しさっぷりだ。なんというか、彼女が希少な常識人存在だってこと忘れてた。

 

「ねえアストルフォ、私のみたらし団子知らない?」

 

「………何それ美味しいの?」

 

「美味しいに決まってるじゃない。何時間も並んで手に入れた超人気お菓子なんだから」

 

 まさかだとは思うが、冷蔵庫に置いてあったアレのことだろうか。それなら質問に答えてられるな。今、みたらし団子はボクと一つになったって。絶対言わないけど。

 

「おかしいわね………ちゃんとここに置いておいたのに」

 

 まだ諦めず冷蔵庫の中を探し始め優子。そこにあるわけないじゃないか。だってボクのお腹の中にあるんだから………。

 

「ひ、秀吉が食べちゃったんじゃない?」

 

「秀吉はそんなことしないわよ。ああ見えて弁えるところは弁えるから」

 

 やばい、どうしよう。逃げ道がない。

 

「そ、それじゃあ空気中に蒸発しちゃったとか」

 

「それこそありえないわ。どこぞの怪盗じゃないんだから」

 

「デスヨネー」

 

 オワタ。

 

「アストルフォ、貴方まさか食べたんじゃ――――――――ねぇ、その串は何かしら?」

 

「ふぇ?」

 

「ふぇ?じゃないわよ!楽しみにしてたのに!」

 

 冷蔵庫の扉をバンッと勢いよく閉め、顔を真っ赤にしながら近寄ってくる。これが優子クオリティ、背後に阿修羅が見えるぜ……!いやマジでヤバい。転生初日で動かぬ屍になるなんてたまったものじゃない。考えろアストルフォ。この状況を打破する方法を。

 

 恐らく、優子は机の上に置いてあった団子の串を見てボクが食べたんだと思ったのだろう。だがボクが食べたという決定的な証拠はない。ならまだ誤魔化しは利くはずっ!

 

「ふっ、これは団子の串じゃないよ優子」

 

「それじゃあ何だってんのよ」

 

「そう、これは――――」

 

 考えろ、細長く棒状の物を。

 

「これは?」

 

「――――耳掻き用の棒さ」

 

「貴方の耳穴にぶっ刺してあげるわ」

 

 ひどいっ、これが人間のやることか!?

 

 と、優子は呆れたような顔をしながらボクの隣にボフっと座る。な、なんだ。ボクを殺すには隣に座る必要があるのか。

 

「まあ、別にいいわよ、今に始まったことじゃないし」

 

 どこか遠くを見つめるような目をして言った。いったいボクは過去に何をしたんだろう。優子にそんな目をさせるなんて。すごく気になる。けどその前に謝らないと、みたらし団子を勝手に食べたのはボクだし。

 

「優子、その……ごめん」

 

「………ふん」

 

「あうぅ………」

 

 やっぱり怒ってるよな……。そうだよね、せっかく並んでまで手に入れたお菓子だったのに。ボクだって楽しみにしていたお菓子が勝手に食べられていたら怒るし。

 

「そうだ。今度ボクがそのお店に行ってたくさんゲットしてくるよ!」

 

「………新幹線じゃないと行けないぐらい遠いわよ」

 

「大丈夫!走るから!」

 

「やめなさい。貴方の場合本当にやりかねないから」

 

 優子に真顔で止められる。そ、そっか。確かにボクが全力で走ったら迷惑だよね。ソニックブームは起こるか分からないけど人にぶつかったら大変なことになるよね。スプラッター映画みたいに空の彼方に飛ぶことになるだろう。ぶつかられた人が。

 

「じゃ、じゃあ新幹線に乗っていく!」

 

「この前フィギアに全財産注ぎ込んだんじゃなかったかしら」

 

「それじゃあ飛行機!」

 

「もっと駄目よ!」

 

 頭をペシッと叩かれる。ははは、やっぱりボクは駄目な子なんだ……。

 

「ああもう。私は本当に気にしてないから、そんなクヨクヨしないでよね」

 

「だってぇ……」

 

「ほら。のの字なんて書いてないでシャキっとしなさい」

 

 優子が気にしてなくてもボクは気にするんだよぉ。よし、今度優子に秘密でそのお店に行こう。お金が貯まったら。……あれ?お小遣い制なのかな、それともお年玉だけで生きろ制なのかな。どっちなんだろう。後で秀吉に聞いておこう。

 

「それじゃ、私宿題しなきゃいけないから行くわね」

 

「え、ああうん」

 

 優子が自分の部屋に行ってしまったので、リビングにはボク一人だけになった。無駄に広いから一人ぼっちだと寂しくなるなぁ。

 

「……ボクも自分の部屋に戻るか」

 

 独り言のように呟き、ソファから跳ね起きる。

 てくてくと廊下を歩くと自然とボクの部屋が見えてきた。

 扉に『アストルフォの部屋☆』と書かれたプレートがぶら下がっているのがボクの部屋だろう。逆にこれでボクの部屋じゃなかったら目を疑うだろう。

 

「えい」と扉を開け放つと、目の前に飛んでくる―――ぬいぐるみの山。

 正確にはベッドの上に置いてあったぬいぐるみのことなのだがその量が凄い。クレーンゲームで取ってきましたよというのが分かる程にくだらないぬいぐるみもあるし、通販で選んで買ったんだろうなというぬいぐるみもある。

 その中から適当に一つ掴む。

 

「これ……なんで取ったんだろう」

 

 おっさん顔の犬のぬいぐるみは到底ボクの趣味ではない。キモカワイイに分類されるものだろうか。まったく気持ちが理解できないな。可愛げがないんだよね……。ぽいっと投げ捨てて、何か面白いモノはないかと部屋を見渡す。

 

 

 たくさんのフィギア。

 

 たくさんの漫画。

 

 たくさんのコスプレ衣装。

 

 たくさんの秀吉。

 

 

 ………秀吉?

 

 

 思わず二度見してしまう。良く見るとそこにいたのは秀吉ではなく秀吉がプリントされた抱き枕であった。こんなものをボクは買っていたのか……!アストルフォ、やってくれるじゃないか。たぶんムッツリーニお手製の枕だろう。

 こんなクオリティの高いものが一般人に作れるわけがない。まあムッツリーニも一般人なんだけどね。

 

 チラッと壁に掛かっている時計を見て時間を確認する。よし、まだ秀吉が帰ってくる時間じゃないな。後一時間は大丈夫だろう、優子も今は宿題に取り組んでるし。

 

 

 

 さて、と

 

 

「むふぅっ」

 

 秀吉の抱き枕に抱き着き、頬擦りする。このフワフワ感……どことなく秀吉の柔肌に似ているような気がする。本物には遠く及ばないが、恐るべしムッツリ商会。企業化も夢じゃないな。

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「うにゅにゅにゅぅ……」

 

 

 おお、秀吉にばかり目が行っていたがこの服装……メイドドレスとは最高じゃな。うむ、まるで今の時間が夢のように思えてくる。元の世界でも、流石に抱き枕とかは買わなかったからね。こういうのは初体験なんだよ。……ちょっと待って、これだと初体験が秀吉だと誤解されてしまうような……?

 

 ま、もう手遅れだしいっか。時すでにお寿司。最早、ボクを止めることはできない!

 

 

「えへへへ」

 

 更に秀吉を感じるためにギュッと抱き寄せる。ふわあ……秀吉の顔が近いよぉ………。

 

「ん……秀吉ぃ……」

 

「呼んだかの?」

 

 うわあ、こっちにも秀吉がいる。たくさん秀吉がいるなんてボクは幸せ者だな。神様、ここが天国というヤツですか……?

 

「って秀吉!?」

 

「秀吉じゃぞ」

 

 後ろを振り向くと、いかにも今帰宅しました風の秀吉が扉の前に立っていた。う、嘘でしょ……だって時間はまだまだあるはずだし……。それに、なんだろうこの気持ち。まるで浮気現場を見られた三十歳男性の気分だ……。うぐっ、何故か胸が痛む。何なんだこの痛み。

 

 胸を抑え、時間を確認すると不思議なことに時計の針が一周ぐらい進んでいるような気が。

 

 ……Oh。

 

 絶対見られたと思うけど、一応背中に秀吉(の抱き枕)を隠す。

 

 そして、秀吉に向き直って

 

「あー違うんだよ秀吉。これはちょっと寝ぼけちゃって起こった事故であって決死て故意にやったわけではないのですはい」

 

「? ……あ、もしやその隠せてない枕についてかの?」

 

 バレてた。

 

 捧げるように、秀吉の抱き枕(上目遣いメイド姿バージョン)を背中から取り出す。

 

「ご、ごめん……その、そういうことしちゃうお年頃っていうか」

 

「む?今更謝られると変な気分なのじゃが……、別に今に始まったことではないしのう」

 

「え、どゆこと?」

 

「どゆこと……と言われても、下着姿で過ごし薄い本をよんでニヤけてる姉と下着すら着ないで夜中襲ってくる幼馴染と何年も一緒に生きたら、慣れるものじゃからな……」

 

 

 そのときの秀吉の顔は、悟りを開いたブッタのような菩薩顔だった、とだけ言わせてもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




息抜きとして投稿。うぇ~い。

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