無表情だったり男の娘だったり、無口だったり嘘がわかったりする奴らの小説 作:しっけた乾パン
さて、何人の読者様の目に留まるかは分かりませんが、のんびり書きたいと思います。
少しでも面白いと感じた人は、気軽に感想やら評価やらしちゃってくださいね!(むしろしてください。励みになります!)
…………実は三人称の練習中だったりするので、地の文が少なくなってるかも。
「おはよう、
「あ、おはよう、つばきちゃ——って、今日もなの!?」
「落ち着いて……朝から慌てすぎ」
「右膝から大量出血しながら、そんなこと言わないでくれるかな!?」
教室のドア近辺でそのようなやりとりを繰り広げているのは、二人の女子高校生だ。
長い茶色の癖っ毛を放置し、制服をダボっと着崩した無表情系美少女——
その両名は意図することなく、少し不思議な関係性にあった。
簡潔に言えば、お世話する方とされる方。
別に両親の都合とか、家が隣の幼馴染だ、なんてことではない。当然、同棲している、なんてわけでもない。
ただ単純に、つばきが極度のドジっ子であり、穂波の面倒見の良さが驚異的であったことが、パズルのピースのようにカチリと噛み合ったのである。
出会いから、たったの二週間程。
それなりに人見知りをする穂波が、この子は私がいないとダメな気がする、と軽く悟る程度に彼らは打ち解けてきていた。
「……それで、今日はどうしたの?」
「えっと、いつも通り。軽く転んだ?」
「そんな、いつも通りは要らないよ……」
「まあ、そんなこともある」
朝のSHRまで、まだ時間があったので穂波はつばきを連れて保健室へと向かう。
階段を降りる際に顔を顰めていたつばきに、穂波は肩を貸す。
華奢すぎる体格、冷んやりとしたスベスベの肌に触れ、鼓動が少し早まる。
けれども普段の眠たげな表情を、にへらと力の抜けるような笑顔へ変えたつばきを見て、穂波に残っていた少しばかりの緊張もどこかへ行ってしまった。
「ありがと」
「どういたしまして」
廊下を歩くこと二分ほど。
「失礼します」
「邪魔する」
コンコンコン、と3ノック。
返事がないので、ゆっくり保健室のドアを開ける。そこには、机へ突っ伏す一人の女教師の姿があった。
「……寝てるな」
「ね、寝てるね?」
白衣を羽織ったまま、すぅすぅと寝息を立てる保健室の主。
中高一貫校である宮益坂女子学園に通っていた二人、特に保健室常連組であるつばきにとっては、目の前で眠り続ける女性に対しての敬意など有ってないようなものであった。
「……唸れ、剛腕」
「つばきちゃん!?」
「ていっ」
不穏な前置きに対し、放たれたのは貧弱なデコピンであった。
世界最弱の女子高生を自称するつばきの攻撃力など、近似したらゼロになるのは目に見えているほどだ。
「うぐ、指がぁ……」
「つばきちゃん……」
起床にたるダメージすら与えられず、寧ろ自身の指を痛める始末である。
穂波がため息混じりに向けてくるジト目を、サラッとスルーしてつばきは保健室の棚へと向かった。
「危ないから、私がやるよ」
「……子供扱い?」
「子供に失礼だよ?」
「中々、辛辣なことを言う」
穂波の軽口に目をパチクリとさせてから、つばきは大人しく椅子へ座った。
時間が経ってくるにつれて、思考が冷えていく。
アドレナリンの効果が切れ、段々と右膝の痛みを脳が理解し始めた。
あちこちへと忙しく動く穂波の姿を、しばらく目で追いかけてから、つばきは言った。
「穂波」
「……どうしたの、椿ちゃん?」
「思ってたよりも、足、痛いっぽい」
「ちょっと待ってね!? 急ぐから!」
因みに、サボり魔の養護教師が目を覚ましたのはその十数分後であった。仕事しろ、大人。
✳︎
昼休みになった。
膝の痛みは消えたぜ、いぇい。
「穂波、一緒にご飯食べよー!」
「購買売り切れちゃうから、早くね」
「……あ、うん。今、行くよ」
小さく欠伸をする。
頰杖をつきながら、教室の様子を見ていると結構色々なことがわかるものだ、なんてことを、つばきは一人考えていた。
友達に呼ばれ、穂波が教室を出るときに、つばきと目が合ったのは偶然ではないだろう。尤も、それはつばきも彼女のことを意識しているという事実も指すわけだが。
「……お腹、減った」
きゅう、と腹から可愛い音がする。
ほんの少し顔が紅潮したのがわかって、机へ突っ伏した。
十秒ほどしてから、つばきは顔を上げて自身の鞄を開く。
そして、ゆっくりと首を横に傾げた。
「……ご飯、どこ?」
弁当袋が見当たらなかった。
珍しくコンビニで買うのではなく弁当の準備をしてきたが、慣れないことはするものではないな、とどこか他人事のように反省してから絶望する。
「無理。食べなきゃ、死ぬ」
ガーンと効果音がつきそうなほどに、顔を青くしたつばきは、自分のポッケから財布を取り出して中身を確認する。
漱石が二匹と樋口が一匹。
軍資金は十分だった。
「行くか……
そして穂波が聞けば、卒倒しそうな戯言を宣い、つばきは席から立ち上がった。
テクテクと眠そうな顔のまま、廊下を歩いていると視界の左隅に鮮やかなピンクが飛び込んできた。
その正体を確信すると共に、次に来る衝撃に覚悟を固める。
「つばきちゃーん、発見!」
「ぐぇ……」
一応足を踏ん張ったつもりだったが、ただ今、胸元へと飛び込んできた少女——
勢いそのままに、つばきは壁へと衝突する。
「……えむ、痛い」
「ご、ごめんなさい……大丈夫?」
普段からニパーっと眩しい笑顔を浮かべているこの少女に、暗い表情は似合わない。
ぐだっと壁を背もたれに座り直してから、意識的に表情を緩めて、つばきは返事をした。
「もーまんたい」
「もー、まんたい?」
「ん、なんでもない。次、気をつけて」
「うん!」
「返事だけは、いいよね」
「えへへ……」
「褒めて、ない」
「えぇ!?」
まあ、楽しそうならいいや。
苦笑しながら立ち上がろうとして、つばきは気がつく。
「…………腰、抜けた」
「ごめんなさーい!?」
✳︎
「……はい、どうぞ!」
「ありがと。助かる」
「えへへっ……つばきちゃんとお昼ご飯♪ 嬉しいなっ!」
「私も……えむ、このパン一緒に食べよ?」
「え!? いいのっ!? 頂きます!」
えむにお使いを頼み、購買で適当なものを買ってきてもらった。
目の前には、彼女の戦利品である六つのパン。
こんなに沢山食べられないし、漱石が居なくなったけど、えむが楽しそうだから、いいとしようかな。
ニコニコ、モグモグとパンを食べているえむを見ていると心が和む。
身長だけなら、そこまで変わらないけどね、と自嘲するように脳内で呟くつばきだった。
えむの話に時々、相槌を打ちながらの昼食は中々に楽しいものである。
勢いのよいえむの食べっぷりは、見ていて気持ちがいいというのもあった。
結局、四つほどパンを食べてギブアップしたつばきの代わりに、えむは自分の分に加えて二つのパンをペロリと平らげてしまった。
「トイレ、行ってくる」
「はーい! 私は先に着替えてくる! 次は体育、楽しみだねっ!」
「ん、怪我しないようにね」
「……つばきちゃんの方が心配だよ?」
「天のみぞ知る……ってやつかな?」
「運頼みだったの!?」
えむの驚く声を背にトイレへと向かう。
……体育か。実を言えば、運動は嫌いではない。
「運動神経なんて、ミリ単位ですら存在しないけど」
「……つばきちゃん?」
ボヤいた言葉を拾ったのは、茶髪の女子生徒であった。
今日は色んな人に会う日だなぁ、と相変わらず他人事のように捉えながら、つばきは挨拶の言葉を口にする。
「やっほー、みのりん」
「すっごい無表情だけど、めっちゃフランクだ!?」
「トイレ? 連れション行く?」
「女の子がそんなこと言わないで!」
「冗談だ」
目の前で叫んでいる女子生徒——花里みのりは反応が良いから、つい揶揄いたくなるのだ。
「もう、折角こんなに可愛いのに……」
「みのりんの方が可愛いよ……って言うべき流れ?」
「口を開くと、こうなんだよね……」
「褒めるな、照れる」
「褒めてないよ!?」
「そんなことより、トイレだ」
「そんなことって言った!?」
無表情のままに見えるが、少しだけつばきの表情は柔らかい。
そのことに気がついているからこそ、みのりもつばきのことを悪く思えないのだが。
用を足し、手を洗い、ハンカチで水気を取っている頃に昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴った。
結局、連れションだった。
言ったら怒られるので口にはしない。
「それじゃ、私、体育だから」
「……あ、うん! 頑張っ——いや、あんまり頑張らないでね?」
「サボりを推奨とは……みのりんがグレてしまった」
驚愕。
なんて表情を浮かべてみれば、待っていたのは苦笑いだった。
「だって、怪我しちゃうよね?」
「甘いな」
「……え?」
「私なら、いくらサボっても怪我くらいはする」
「もっとダメだよ!?」
結局、最後の最後までみのりはつばきに振り回されっぱなしで会話を終えたのだった。
✳︎
「……穂波」
「あれ、つばきちゃん? どうかし——きゃああああ!?」
「……鼻血、止まんない」
「誰か、ティッシュ!」
案の定、バスケ開始四十秒で、ボール顔面受けコースに直行でした。なんでバスケットボールってこんなにも硬いのだろうか。
涙目で痛みを訴えるつばきの頭を撫でながら、手早く応急処置を始める穂波の姿を見た誰もが同じ感想を抱くのだった。
(((圧倒的、穂波ママ…………!)))
「これでよし、安静にしてないとダメだよ?」
「ありがと、ママ」
「やめて」
「冗談だ」
穂波は淡々と冗談を口にするつばきの顔に、血の跡がついていないかを確認しようと、顔を近づけた。
その距離、およそ十センチ程。
眠たげに細められた菫色の瞳。
その奥にある煌々とした輝きは、内に存在する好奇心を表現しているかのようであり、時折見せる悪戯な笑顔は穂波の心臓に悪影響を及ぼす。
癖の強いダークブラウンの長髪は、手入れなんて碌にしていないのだろうに艶があり、柔らかでサラサラと、流れる風に揺れ動く。
その玉肌は白く、ひんやりとした触感が心地よいことも知っている。
人形のような美しさを顕現せし、目の前の少女に思考の全てを奪われた。
たっぷり数秒間、目の前に座っている同級生に見惚れてしまったことに気がつき、穂波の頬が紅色に染まる。
そこを見逃す程、つばきは優しくはなかった。
「穂波、私に見惚れてた?」
「…………っ!?」
「可愛いよ」
「ぇ……ぅ……っ!?」
「食べちゃいたいぐらい」
「ぅ、う、うるさいよっ!」
ガバッと身を後ろへと逸らした穂波は、勢い余って尻餅をついてしまう。
つばきは、悪ノリを続けようと身を起こし、身動きの取れない穂波の上へと覆い被さっていき……
「やばっ」
「……へ?」
バランスを崩して、落下した。
四足歩行すらまともにできないようだった。もはや足を増やすしかないのでは?
地面が床ならば、顔面強打で鼻血が再来したのだろうが、幸いにも落下地点には超高性能なクッションが二つ存在していた。
言うまでもなく……
「……ぐにゅ」
「……ひゃん!」
「おお、色っぽい」
「つばきちゃん……そろそろ、怒るよ?」
「ごめんなさい、調子乗りました。おっぱいクッションご馳走様です」
「つばきちゃんっ!!!」
ぼふりと、顔の半分を穂波の胸に埋めたまま脱力しているつばきの姿を見て、穂波の羞恥ゲージが限界突破し、次の瞬間、必殺のグーパンチが放たれた。
✳︎
「…………ぅん?」
目を開く。
そして、彼女の髪が視界に入ったことを確認してから瞼を下ろした。
ゆさゆさと揺れる身体、目の前にあった彼女の首筋に、ほんのり甘い陽だまりの匂い。
「……つばきちゃん、起きたの?」
「んー……起きて、ない」
「あははは……しょうがないなぁ」
「感謝」
簡潔に言えば、つばきは穂波ママにおんぶをされたまま、帰宅中であった。
ただ今、絶賛帰り道であることを考えると、穂波に意識を刈り取られてからは保健室で眠り続けていたのだろう、とつばきは現状の予想を立てるが実際当たっている。
「……ごめん、やりすぎた」
「え? あっ、いや……私の方こそ、つい手が出ちゃって、ごめんね? 痛かったよね」
「いや、痛いと感じる前に気絶した。体に不調はない」
「なら、よかった……よかった?」
「いや、よくはない」
「だよね……」
会話は続く。
だらだらと、つらつらと雑談をしながら、ゆっくりとゆっくりと歩みは進んでいく。
「穂波……」
「……えっと、何かな?」
「結局、なんでお前は私に見惚れてたんだ?」
「…………!?!?」
平穏をぶち壊し、突如落とされた爆弾。
動揺する穂波を逃さずに、
「私より、お前の方がよっぽど魅力的だと思うけどな」
「…………もうギブ、だから……やめてよぉ」
「……? 何かおかしなことを言ったか?」
伝え忘れていた。
この物語は、世界最弱の無表情女子高生が送る穏やかでゆる百合としたほのぼのラブコメディーである。
EP 1 世界最弱の女子高生
やっぱ、ママだよね。