無表情だったり男の娘だったり、無口だったり嘘がわかったりする奴らの小説   作:しっけた乾パン

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 テスト週間に入りましたので、一旦お暇をもらいます。
 ここまでで、オリ主登場編の前半戦が終了となります。
 時間が出来次第、書き進めていきますのでそんな感じで……


黒柳奏音(3)

 

 

 

 

 

 

 

「……服が見たい? やだよ、めんどい」

「そこを何とか! 私、奏音ちゃんの着てる服のこと、すっごい可愛いと思ってて!」

「そりゃ、どうも。今度適当にくれてやるよ。クローゼット圧迫して困ってんだ」

「え、ホント!?」

「ほんと、ほんと。持ってきてやるから、ウチに見に来る話は無しな」

「えぇ〜!?」

 

 いちいちリアクションの大きいみのりとの会話は楽しいが、素直に疲れる。

 耳元で叫ぶ彼女の顔を無造作に掴み、ポイッとそこら辺の芝生へ投げてから、黒柳奏音はボヤくのだった。

 

 

「…………どうせ、最終的には押し切られるんだろうなぁ」

「私の扱い雑すぎない!?」

 

 

 ——三時間程前。

 

 

 特に予定のなかった奏音は、休日である今日も練習をするというみのりに付き合う形で、都内の自然公園にやってきていた。

 

 本日の格好は紺色のロングスカートと白のブラウス。シンプルだが、それ故に上品さが際立つ奏音の自信作である。

 完全プライベートであり、顔を隠す必要のない本日は相棒である黒色のフードコートは持ってきていない。

 

 

 ストレッチを入念に行ってから、体幹メインの補強運動。

 アップに1キロ程のジョギングをしてから、発声練習。

 更に2キロ程走って、発声練習。

 それからダンスの練習に入るのだが、みのりの様子を見ていると気がつくことが幾つかある。

 

 まず、振り付けの覚えがいい。

 作業的にステップを暗記するのではなく、部分的に分けて解析し、キチンと一つ一つを自分の武器にできていることは、素直に称賛に値する。

 動きのキレはまだまだ、だけどな。

 

 次に好感が持てたのは声の持つ勢いだ。

 技量的にはまだまだなのだとしても、所々で光るその存在感は、いつかみのりの長所になり得るだろう。

 

 褒めっぱなしで終わるつもりは、当然ない。

 コイツ、余りにも体力がなかった。

 休憩時間に芝の上で大の字になっている彼女を見下ろし、単純にそう思う。

 

 

 恐らく、みのりはこれまで、憧憬の念のみでアイドルを目指してきた。

 そんな彼女は、それこそアイドルの模倣……つまり振りコピなどは、幾度なくやってきたのだろうが、そもそもの身体能力——基礎の強化に力を入れてこなかったのだ。

 

 

「奏音ちゃんの基準に合わせたら、全人類が体力ない認定になっちゃうよね!?」

「そうだな」

「否定しないのが、奏音ちゃんらしい……」

「事実ですから」

 

 というか、ナチュラルに心読むのやめてくれますかね? 

 

「それにしても、だ。自分の体力のなさは自覚しておけ。愛莉や遥は見ての通り、雫だって努力家だ。アイツらに追いつくってのが、どんだけ大変なことなのか、覚悟してんだろ?」

「……うん」

 

 神妙な顔をするみのり。

 クソ似合わねえし、気に食わない。

 一度息を吐き、パンッと手を鳴らす。

 そして、ニヤリと笑顔を浮かべて奏音は言った。

 

「だから……()()()()()()、頑張らないと、だな?」

 

 目を丸くしたみのりは、やがて破顔して大きく頷いた。

 勢いそのままに起き上がり、練習を再開させようとするみのりの首根っこを掴み、座らせる。

 

「ちょっと、待て」

「ぐぇ……」

 

 抗議の視線を苦笑いで受け止めて、口を開く。

 

「頑張るのと無茶、ヤケクソは別物だ。練習メニュー以上の運動は絶対に厳禁。練習量を増やしたいときは、愛莉か遥に相談しろよ?」

「はーい……って、奏音ちゃんは相談に乗ってくれないの?」

「素人に何を求めてんだ、お前は」

 

 適材適所、この言葉って結構良いこと言ってると思う。各自が各自の在るべき場所で、在るべき様に、成すべきことを成す……この思想が、凡ゆることに於いて最善であるような気がするのは自分だけなのだろうか。

 

 まあ、いい。

 とりあえず言いたいことは一つだけ。

 服を作ることと身体能力以外の取り柄は、奏音にないのである。

 

「俺用の体力トレーニングでもするか? 死ぬぞ?」

「あははは…………遠慮しときます」

「だろ?」

 

 頰を引き攣らせるみのりに肩をすくめてみせてから、奏音はみのりの隣に座る。

 そうして、大きく伸びをして言った。

 

「しばらくは休憩だ。雑談でもしようぜ」

「……うん!」

 

 そして、5分後。

 みのりの興味は奏音の自宅へと移り、奏音はこのときの選択を若干後悔するのであった。

 

 

 

✳︎

 

 

「……わぁ! すごい、喫茶店みたい!」

「まあ、元々バーを経営してたらしいし、あながち間違いでもない」

 

 結局、押しに押されて自宅に連れてきてしまった。

 だってこの子、凄いしょんぼりしたのがわかりやすいんだもの。

 雫然り、遥然り……愛莉には世話になってるし……もしかして、全員に甘かったりするのだろうか?

 

 驚愕の表情を浮かべる奏音をみのりが怪訝そうな顔で見ていた。

 

「まあ、いい。さっさと入れ、紅茶かコーヒーどっちがいい?」

「えっと、じゃあ紅茶で!」

「あいよ……ああ、そうだ。色々準備してる間に風呂入ってこい。汗びっしょりじゃ、時期に冷えるぞ」

「えっ!? 私、今もしかしてすっごい汗臭い!?」

「チェックしてやろうか?」

「紛れもなくセクハラだ!?」

 

 まあ、ここまで連れてくる際にお姫様抱っこという密着状態になっているため、今更だけどな……とは流石に口にしなかった。そのくらいの礼儀は弁えている。

 

 一言述べるなら、思っていたよりも肉付きがよかったことの衝撃が強くてあまり覚えていないから、そんなに匂いは気にならなかったよ? ぐらいだろうか。

 

「とりあえず、風呂場まで案内するから着いて来い。着替えはダボっとしたやつを用意してやるから、それで我慢しろ」

「……覗かないよね?」

「誰が覗くか……」

 

 軽口を返しつつ、手招きをして風呂場へとみのりを連れて行く。

 一応、風呂が洗ってあることを確認してから、湯沸かしのボタンを押した。

 シャンプーやリンス、ボディーソープに拘りがないことを聞いてから、脱衣所にみのりを押し込み、その場を後にする。

 

 

 

「採寸が出来りゃな……最悪でもスリーサイズを知ってたら、楽だったが仕方ない。漁りゃ、着れそうなやつも出てくるだろ」

 

 

 そんなことを呟きながら、奏音はみのりに似合いそうな服を適当に見繕い始めた。

 

 

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

 

 

 

「……………………むぅぅぅ」

「悪かったよ……忘れてた」

「……わ、忘れてたで済むほど、軽い問題じゃないんだけど!?」

「しゃあねーだろ。ウチに女物の下着は無い」

 

 要するに、『すーすー、するんだけど!?』とのことだった。

 初めて見たわ、ノーパン女子高生。

 

「誰のせいかな!?」

「深く考えずに、洗濯機に下着ぶち込んだ過去の自分を恨め」

「うぅ…………」

 

 目の前で顔を真っ赤にして、半泣きになっているみのりからスッと目を逸らして、自分用のコーヒーを一口。

 ふぅ、と息を吐く。

 

「一人で、落ち着くのはズルいと思います!」

「紅茶をどうぞ」

「ありがとう、とっても美味しいよ!」

「次はミルクティーでも飲む?」

「飲むよ!」

 

 キレ気味の高評価に、律儀だなぁと感心してしまう。

 打てば響く、とはこのことか。

 みのりとの会話はこれだから面白い。

 

 ノーパンの影響もあり、みのりが現在着ているのは、私服とは到底言えない黒色のドレスだった。

 何を思って自分がこの服を生み出したのかは、正直わからない。社交界的な何かが出てくる映画でも見たのだろう。

 

 気をつけなければ裾に足を取られてしまいそうな(けれども、そのお陰で絶対領域の防御力は上がっている)黒のドレス自体は、みのり様の御眼鏡に適ったようで、機嫌はプラマイでギリギリマイナスぐらいだろう。

 しょうがないね、ノーパンだもの。

 どうでもいいけど、ノーパンってノーパソに似てない?

 

「……すごい、どうでもいいこと考えてなかった?」

「バレた?」

「うん」

 

 やだ、怖い。照れちゃう。

 

「で、本題は服だっけ?」

「今は正直、何よりも下着が欲しいよ……」

「買ってくれば?」

「鬼なのかなぁ!?」

「冗談。流石の奏音さんも、ノーパンで外を歩けとは言わねえよ」

 

 何の調教プレイだ、それ。

 まあ、現在進行形で現役女子高生アイドルを、路地裏深くの家に連れ込んでノーパンにして、自分の作った服を着せてるんですけどね?

 

 …………過去最高に、それもぶっちぎりで犯罪くせぇな。

 

「…………」

「顔赤くなってるけど、大丈夫?」    

「あ、うん。だ、大丈夫、だよ?」

 

 下手に意識したら恥ずかしくなってきたんですけど。コーヒー飲もう、コーヒー。

 それから、気分を落ち着けるために愛莉に叱られていたときのことを思い出そう。

 

 お小言の多い彼女の様子を思い出せば、少しは気も紛れ…………あれ?

 

「え、今度は急に顔が青くなってる!? どうしたの? お腹痛いの? 大丈夫?」

「だ、大丈夫……うん、大丈夫……多分」

 

 え、やばくない?

 これ、愛梨か遥にバレたらぶち殺される気しかしないんだけど。

 

「な、なぁ、みのり?」

「……どうしたの? 何か私にできることある?」

 

 心配そうな顔をするみのりに、奏音は極めて真摯に一つ提案をする。

 

「お嬢さん、僕と一緒に君のパンティーを買いにお出かけをしないかい?」

「セクハラ禁止!」

 

 鋭い右ストレートが、奏音の顔面へと突き刺さる。

 

 

 

✳︎

 

 

 

「…………ということで、好きなだけ持ってけ。女物の下着なら、今から買ってきてやるから」

「奏音ちゃん……って、最初からそうしてくれたら、私こんなに恥ずかしい思いしなくてよかったよね!?」

「まあ、若干気まずいからな。この見た目なら、世間体的にアウトじゃないのが救いだわ…………紐パンでも買ってきてやろう」

「流石に、私も怒るからね!?」

「冗談だ」

 

 

 ひらひらとみのりへと手を振り、フードコートを手に取って家から出る。

 家を出てしっかり施錠したことを確認してから、全力で上方向へと跳躍した。

 

 入り組んだ路地裏を形成するビルの壁面を壁ジャンプの要領で二、三回蹴り飛ばし、屋上へと降り立つ。

 高所から辺りを見渡すこと数秒間。

 最寄りのコンビニを見極め、飛び降りる。

 監視カメラの位置は頭に叩き込んである上に、一応フードも深く被っている。

 人物特定はされないように心がけてはいるのである。

 電柱の上へと降り立った奏音は、下に誰もいないことを確かめてから、地上へと降り立った。

 路地裏での生活に慣れている奏音だが、根は慎重派であるためその確認は怠らない。

 

 ……そもそも、奏音が自宅を構えるこの路地裏地域は『不良狩り』がよく出没するとの噂が幾度となく流れたこともあり、そこら辺で群れている屑共は基本的に近寄ることがない。

 そのこともあり、ここら一帯の人通りは皆無に等しいわけである。

 ぶっちゃけてしまえば、『不良狩り』こと黒柳奏音の縄張りであるこの地域だけは、治安がよかったりするのだ。

 

 

「……サイズは、まぁ適当でいいだろ。早めに買って、早めに戻るか」

 

 独り言を零しつつ、コンビニへ入る。

 割とすぐに見つかった女性用の下着、ついでにお菓子を幾つか見繕って会計へ向かった。

 

 特に違和感を与えることなく会計を終えてから、お釣りを財布に放り込む。

 コートのポケットに財布をしまってから、店の外へと出て行こうとした数秒前に、奏音の左腕が掴まれた。

 

 

「……ねぇ、クロ? 貴方、どうして女物の下着を買おうとしてるの?」

 

 

 心臓が止まった。

 

 

「あははは…………遥さんじゃないですか」

 

 

 終わったよ

 僕の人生

 これっきり

 どうしてあなた

 コンビニ居んの?    かのん。

 

 

「って、短歌詠んでる場合じゃねぇよ!?」

「店内だから、静かに」

「はい」

 

 正論パンチにより、秒で黙らされた奏音だった。

 

「……それで、何やってるの?」

「ええと、その。アレがああして、そうなりまして」

「何がどうして、どうなったの……?」

 

 遥も思わず苦笑いの説明だったが、この悪足掻きともいえる時間稼ぎが功を奏することになる。

 

「遥? その子、知り合い?」

「うん。杏とは初対面だと思うけど」

 

 話に割って入ってきたのは、遥の幼馴染にして、彼女の親友である白石杏だった。

 サバサバした性格で、誰とでも打ち解けることのできる杏はすぐに、店内でもフードを外すことのない奏音の素顔に興味を持った。

 

「へぇ〜、初めまして、私は白石杏。遥の幼馴染で、神高の一年生だよ。そっちは?」

「……ッ、……コホンッ、えっと()()()()()()()()。遥さんには少し前にお世話になってから、良くしてもらっています」

 

 フードを取って、穏やかに微笑みつつ発されたほんの少し高めで、柔らかい声。

 意図して出された女性よりの声に違和感を持つ相手は、そう多くない。

 

「…………ちょっと、遥! この子、凄い可愛いじゃん! こんな知り合いがいるなら、もっと早く教えてくれたら良かったのに!」

「別にいいでしょ、ってそんなに抱きついたら、かの……コホン。カノが困るでしょ?」

 

 危なかった、と冷や汗をかきつつ遥は奏音に抱きついた杏を引き剥がす。

 遥の両手が塞がったことを確認した奏音。

 ここからの奏音の動きは迅速かつ、無駄のない完璧な脱走術であった。

 

「……いえ、大丈夫ですよ。ただ、少し急いでいますので、私はこれで」

 

「あ、コラッ! カノ!」

「え? どうかしたの、遥?」

「…………! 逃げられたッ!」

 

 ペコリと一礼してから、店外へと飛び出すと同時に加速。

 一瞬にして、その姿を遥達の視界から消したのである。

 

 中々に親密そうであった二人がどのような関係にあるのか、わからなくなった杏であった。

 

 

 

 

 

 〜転章〜

 

 

 

 

 

「…………それじゃ、また遊ぼうね、杏」

「うん! バイバイ、遥」

 

 

 今日は久々に遥と遊べて楽しかったなぁ。

 当然だけど、ASRUNとして活動していた頃よりも自分の時間が増えたみたいで、今日のように二人で遊ぶ回数も少しだけ増えた。

 お陰で、財布が軽くなってるのが悩み所なんだよね。

 

「にしても、カノちゃんか……瑞稀と同じタイプってわけでも無さそうだけど…………男の子だったよね?」

 

 独り言に返事はない。

 自分の中で確認するように口にしただけだった。

 

「まあ、わざわざ言いふらすことじゃないし、可愛かったのも事実だから、気にすることでないのかな? それより、早く家に戻らないと!」

 

 最後に一言、口にする。

 

「かわいいかわいい義弟が、首を長くして待ってるだろうからね!」

 

 

 

 

 





 
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