バトルジャンキー無惨様!   作:楠木に住まう天使

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第七話

 ここに来てからというもの、陰鬱だった闘病生活を忘れるほど、充実した日々を過ごしていた。夜の間は義正から剣術を学んだり、食事のために人を狩ったりし、日中は手持無沙汰を紛らわせるように武蔵丸が刀を打つのを眺めていた。新しい刀を拵えると、決まって武蔵丸は私の体で試し斬りさせろとせがんでくる。簡単に再生する上、肉体の強度をいかほどにも変えられる私は、試し斬りには持って来いなのだというが、住まわせている恩を盾にして断る選択肢を潰してくるのは質が悪すぎる。

 

最初に感じていた嫌な予感の正体に気付きつつも、武蔵丸に斬られることに慣れてしまった自分にも呆れてしまう。そのような生活を続け、気づけば数年程が経ったのだが、ある時事件と称してもよいほどの出来事が起こった。

 

 

 

 

 

 武蔵丸の家に来てからすぐ、待望の剣術を教わることになったのだが、刀を触るくらいしかすることのなかった私は基礎的なことをすぐに覚えた。その後、私と義正は実戦と称し、お互いに一切の手加減なく斬りあいを演じるようになった。普通はこのような危険な稽古はできないのだが、当時の私の実力では義正に傷一つ付けられなかったことと、私自身が斬られてもすぐに再生することがそれを可能にしていた。

 

ひたすら実践あるのみという無茶苦茶な鍛錬法だったが、着々と実力がついてきた実感がある。初めは目で追うことすらできなかった剣戟だが、次第に動体視力が追いつくようになり、今では何とか捌けるようになってきた。もちろん、望んだとおりに身体を変質できる鬼としての性能があるからこそ、そんな方法で強くなれたのだろう。

 

因みにだが、私のこの体質を最初に鬼と揶揄ったのは武蔵丸だ。普通に腹が立ったが、そこそこ的を得ている気もしたので、いつからか私もこの言葉を使うようになった。

 

 

 

 

 

 その夜も実践稽古で斬られまくったのだが、実力がついてきたのか単に運が良かったのか、初めて義正の頬に小さなかすり傷をつけることが出来た。そうして喜んだのも束の間、異常なほどに苦しみだした義正を見てぎょっとした。血管は浮き出、額には脂汗がにじみ、苦悶の表情を浮かべている義正に、しかし部屋に横たえさせることしかできなかった。

 

 

 

丸一日経過して、ようやく安静になった。安心したのも束の間、私と義正の間に何かが繋がっているような感覚を覚えた。意識を向ければ義正の考えていることが分かるし、こちらの考えを言葉に出さずに伝えることも出来る。それだけでない、こいつの生殺与奪の権を握っているような、私の意志一つでこいつの命すら如何様にも出来るのだと感覚的に分かり、私の方が肝が冷えた。

 

また、こいつの肉体にも変化があった。肉食獣を思わせるような、縦に割かれた瞳孔と鋭い爪、そして何より硬い肉も簡単に嚙み裂けるような鋭い牙。そして極めつけは、こいつも日の光に対し恐怖や嫌悪を抱くようになったことだ。

 

それだけの情報があれば、義正が私と同じ鬼になったことは否定できない。原因に心当たりがあるとすれば、直前に行った稽古だろう。いろいろと話し合い考えた末、一つの仮説を立てた。

 

それは、切り傷から私の返り血が侵入したため鬼になったのではないか、というものだ。そう考えたのには訳がある。稽古のたびに私の返り血で身を汚していた義正だが、血濡れた服も刀も体も日に当たればすべて元通りに戻るのだ。即ち、私の血は鬼としての特性を色濃く有している。この血を摂取して何の影響もないと考えるほうが無理があるように思う。

 

勿論、その段階ではあくまで仮説にすぎなかった。実際、ただの仮説で終わるはずだったのだ。

 

 

 

 

 

「……今何と言った?」

 

「儂も鬼にしてほしい、といったのじゃ」

 

鬼になったばかりの義正のために人を何人か見繕い、ちょうど帰ってきたとき武蔵丸からそう懇願された。因みに鬼になったばかりの義正だが、衝動のままに武蔵丸に喰らいつく様子は見られなかった。よって危険性はないと判断し、私一人で人間を狩ってきた。まあ別に、武蔵丸が食われていても大して問題はなかったのだが。

 

「……なぜ鬼になりたい?」

 

「儂はいまだに、人生の集大成といえる刀を打てておらん。仮に儂があと二十年生きられるとしても、納得のいく作品を残すことは恐らくできんじゃろう。じゃが、後五十年、いや百年あれば最高のものが作れるのじゃ」

 

そう語る武蔵丸の目は真剣だ。ふざけているようにも、冗談を言っているようにも思えない。

 

「……馬鹿げている。寿命が延びる確実な保証などないし、そんな理由のために太陽の弱点を許容できるなど考えられない」

 

鬼は肉体の年齢を自在に変えられる。自分の意志一つで老いることも若返ることも出来るのは、すでに実証済みだ。だからといって、鬼が老いで死ぬことはないと断言などできない。

 

「……確かに、他人からすれば儂の願いなぞ、取るに足らないものに映るじゃろう。じゃが儂にとっては他の何を犠牲にしてでも叶えたい夢なのじゃ。生きているうちに最高の作品を打てる可能性が少しでも出てくるならば、太陽に嫌われようと、食人という禁忌に触れようと構いやせん。だから無惨や、儂を鬼にしてくれんか」

 

「…………いいだろう。ただし、分かってると思うが確実に鬼にできる保証はないぞ」

 

「それも覚悟の上じゃ」

 

武蔵丸は自らの頬に切り傷をつけ、そこに私の血を少量流し込む。義正の時と同様に武蔵丸は苦しみだしたが、義正の時とは異なりものの数分で収まった。武蔵丸と私の間に歪な繋がりが出来たのが分かったので、鬼化は成功したのだろう。

 

鬼になったばかりのこいつは軽い飢餓状態になっているよう見受けられたので、気は進まないが義正のために取ってきた食料のうちいくつかを与えた。

 

義正にも食料を渡しておきつつ、これからのことに思考を巡らせる。今までは義正の年齢と寿命を考慮し、受けれるうちに剣術の指南を受けておこうと考えていたが、これからは太陽を克服することを最優先事項とすべきだろう。武蔵丸はともかく、何かの事故で義正が太陽に焼かれて消滅する事態は避けなければならない。

 

それに太陽克服の手立てが全くないわけでもない。医師が処方していた薬の情報を、私は所有しているのだ。日中暇なときに目を通してはいるのだが、専門用語が多く解読作業は難航していた。その作業に本腰を入れようと思えば、医療知識を有した人材を引っ張ってくる必要性が生まれる。現状当ては全くないが、それはこれから探すしかない。あまり時間はかけたくないが、藪医者を引き込む事態は避けねばならぬ以上、ある程度慎重にならざるを得ない。

 

条件に合う者を見つけたら、出来れば鬼にしたいところだ。弱点を共有しなければ、本気で取り込んでくれないかもしれないのだから。

 

そうして剣術の指南を受ける傍ら、優秀な医師を探す日々が始まった。

 

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