火埜翔織という異物によるHEROACADEMYだ   作:完全怠惰宣言

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1人廊下を歩く火埜は左手を開いては握り、開いては握りと繰り返していた。

火埜が考え事に没頭している時の癖である。

火埜は自身がこの世界に転生してきたという事実を本を読む読者の様な他人事に近い感覚で認識している。

それは、前世の記憶が曖昧だからか、現世で生を実感できているからか定かではない。

しかし、“火埜翔織”という存在は価値観とその在り方がかけ離れていると多分に考えていた。

かつての世界ではありえない“異能力”を“個性”と呼び、価値と危険性を軽く見ているこの世界を“火埜翔織”という存在の内側にある何かがひどく嫌悪している。

かといって、自身が“無個性”ではなく、世間一般で言う“強個性”に分類される存在であることに少なくない優越感を持っている。

個性(異能)”を十全に使いこなそうとしながらも、“異能(個性)”に嫌悪感を抱く。

そんな矛盾を抱える自身という存在を掴み切れていなかった。

階段を上がり切り、廊下へと曲がろうとした時、人にぶつかったことで初めて目を閉じていたことに気が付いた火埜。

 

「おや?大丈夫ですか?」

 

ヒーロー科の棟では見たことない見事な桃色の髪の少女が自分にぶつかってきた火埜に手を差し伸べてきた。

 

「あ、ありがとう。ところでこの人達は一体?」

「おや、ご存じないのですか?皆さんは1年生ながら会敵し、尚且つ生き残って今話題の1-Aの生徒を見に来てるんですよ」

 

少女の背中に背負われた奇妙な鞄から伸びてきたロボットアームに起こされながら起きた火埜に対して言葉を返す少女。

 

「ん~、にしてもこれでは私の目的の人物に遭えそうにありませんね」

「?あなたは明確な目的があってココに来てるんですか」

「はい!!私は今回「テメエ、もっぺん言ってみろや!!

 

少女の言葉を遮り、火埜からしてみればあり得ないだろうという存在の怒声が廊下に木霊した。

 

「うぉ、なんじゃこりゃ!?」

 

帰りが遅い火埜を心配して、切島が職員室に迎えに行こうと教室のドアを開けた。

本来であれば生徒が疎らにしか居ない筈の廊下は1年生の生徒で溢れていた。

 

「ねぇ、敵と戦ったんでしょ?どうだった」

「生徒だけで対処できたってことはそんなに怖くなかったの?」

「“個性”見せてよ」

「顔見せて」

 

敵の襲撃に関して箝口令が敷かれており、当事者たる1-A生徒への接触禁止令も出されていた。

しかし、本日接触禁止令の方が解かれたことで今まで抑えていた興味が爆発してしまい、結果多数の生徒が教室に押し掛けて来る結果になってしまった。

 

「・・・・・、(チッ)ウゼェ

「かっちゃん!?とーくん戻ってこなくてイライラしてるのは解るから少し落ち着いて!!」

「・・・・、(ハァ)邪魔だなぁ

「轟君!?個性の制御で質問があるからって火埜君を待ちくたびれている気持ちも解るけど少し冷静になりたまえ」

 

久し振りに火埜家で遊ぼうと言うことになり、クラス全員で突撃と洒落込もうと計画を建てた中、主催者が中々戻ってこず外が五月蝿いせいで原作ばりに悪人面したお怒りの爆豪。

ここ最近火埜に懐いたのか雛鳥のように後についてまわることが多くなった機嫌急降下の轟。

態度にこそ出していないが、他のクラスメートも久しぶりの放課後勉強会にワクワクしている最中で水を差されような状況に多少機嫌を悪くしていた。

 

「幻滅しちゃうなぁ」

 

そんな態度を敏感に感じ取ったのか1人の生徒が出てきた。

覇気の感じられない顔に紫色のボサボサの髪をした男子生徒だった。

 

「あ゛あ゛!?」

「かっちゃん、かっちゃん。も、本当に抑えて」

 

後ろから緑谷に羽交締めにされているにも関わらず狂犬モードの爆豪はズンズンと前に出ていってしまう。

 

「んだとコラ!!もっぺん言ってみろや」

「どんなもんかと見に来たが随分と偉そうだなぁ。ヒーロー科に在籍する奴は皆こんななのかい?」

「普通科にはヒーロー科落ちたから入ったって奴が結構多いんだ。そんな俺らでも学校側がチャンスを残してくれていて、体育祭のリザルトによっちゃ、俺達のヒーロー科への移籍、あんたらにはその逆があり得る。いくらヒーロー科とは言え調子に乗ってると足元ごっそり掬っちゃうぞって宣戦布告に来たんだけど」

 

敵情視察と宣戦布告。

この二つをやり遂げた普通科の生徒に冷静だった蛙吹、耳郎、障子、瀬呂は豪胆だなと思うほどに気持ちを落ち着かせれていた。

 

「ずいぶんと暇なんだな普通科って言うのは」

 

一方で普段は冷静な(というか周りにあまり興味がない)轟はその生徒の物言いに少しばかり苛立っているようだった。

そして、さらに。

 

「オウオウオウオウ、隣のB組のモンだけどよぅ!!敵と戦ったっつうから話聞こうと思っていたんだがよ!!エラく調子づいちゃってんなオイ!!!本番で恥ずかしい事んなっぞ!!」

 

大きい声で勢いよく主張するB組の男子生徒。

その横にいる少し斜に構えた男子生徒も続くように喋りだした。

 

「聞くところによると敵を前にして気分を悪くした奴もいたそうじゃないか?そんな心持ちでヒーローを目指そうなんてお笑い草だね」

 

その生徒が誰の事を言ってるのかA組で解らない生徒は誰1人いなかった。

そして、それが態と間違ってそう解釈しているのもそのにやけきった顔から容易に想像できた。

 

「ブチコロス」

 

爆豪のその言葉はその時のA組全員の気持ちを代弁しているようだった。

しかし、爆豪の手がその生徒に届くよりも速く、その生徒は壁際に叩きつけられたいた。

物凄い勢いで叩きつけた生徒は誰もが想像していない人物だった。

 

「テメェ、もういっぺん言ってみろよ」

 

普段の色狂いと言われるスケベな雰囲気は消え去った小柄な少年。

峰田実が無表情でゴミを見るような目で叩きつけた生徒を見ていた。

そして、学校全体に響き渡るような怒声が木霊したのであった。

 

峰田実にとってヒーローになると言うことはモテれるということが大前提に存在していた。

けして2枚目というわけでないことは彼自身が一番自覚しており、モテるために勉強を頑張っても結局顔の良いお馬鹿系に全てを持ってかれた中学時代。

ならばいっそのことそのスケベ精神(スピリット)を全て解放してやると意気込んだ中3の春。

それから卒業まで女子に近づかれることはなかった。

そんな鬱屈したモテたい精神と女子とお近づきになりたい願望の暴走状態が今の峰田実であった。

そんなある日、キャマバッカ事務所を最初に訪れた日から数日。

放課後勉強会の集合場所のとあるフルーツパーラーには火埜と峰田の姿しかなかった。

運ばれてきた紅茶を飲みながら峰田は対面で幸せそうにピッチャーに盛り立てられたパフェを黙々と消費する火埜を眺めていた。

峰田自身が悪いことは自覚くしているようだが顔面を握られて以降、進んで話しかけようとはしてこなかった峰田。

実際のところ恐怖よりも何故か女子に囲まれる火埜に怨念を垂れ流しているため近付かないだけなのだったが、その日は沈黙に耐えかねて話しかけてしまった。

 

「なぁ火埜、エロいことは悪いことか?」

 

峰田自身なぜその話題を選んだのか当時は解らなかった。

また、顔面を握りつぶされると思い身体に力が入ってしまう。

 

「え?別に悪くないと思うけど?」

 

パフェを完食し、次に運ばれてきたウェディングケーキかよと突っ込みたくなるケーキタワーにフォークをいれる火埜の返答に目が点になる峰田。

 

「いやウソだぁ、悪いのはオイラだけどいつもオイラをしばいてるくせに」

「あ、悪いなとは思ってたんだ」

 

タワーの3分の2を消費した火埜は紅茶に口をつけると真面目な顔をして峰田と視線をあわせる。

 

「峰田の場合はやり過ぎなの、金と名声が原動力のヒーローが大半の今で表向き耳障りの良いこと言ってる奴らより“は”好感がもてるってだけ」

「はぁ、そんなもんか?」

「少しは抑えろ、紳士的に振る舞え。世の中TPOを考えて行動すればお前でも好いてくれる子はいるんじゃない」

 

僅かに間が空き、店内に流れるクラシックの音楽だけが流れていた。

 

「因みに火埜はどのパーツが好きなんだ?」

「T・P・O!!さっき言ったばっかだろうに。まぁ胸に関して言えばその人にあった形をしているかどうかだからなぁ」

「その辺詳しく!!」

 

数分後、個々の用事を済ませて来たクラスメートが見たのは何かを悟ったような穏やかな顔をして火埜を拝む峰田だった。

それ以降、馬鹿話をするようになり、放課後訓練でも個性が単純な峰田は爆豪監視のもと前回よりも1個以上をモギれるように訓練し、火埜監修の勉強会で頭皮を強くするためにエステにも手を出した結果、キャマバッカ事務所ニューキャマー拳法44のエステ奥義の一つリンパマッサージ拳に手を出したりと目に見えて変わっていった。

一方で隙あらば女性陣への攻撃・庇いという名目のセクハラは止むことはなかったが。

まあ、その結果セクハラのお仕置きに関しては女子陣も手加減抜きで行っているし余りに調子乗ったら男子全員で戦闘訓練の名目でのお仕置きが待っているのだが。

そんなこんなで距離が近くなった火埜と峰田は友人関係としては面白おかしく過ごしていく間柄になっていった。

だからこそ、理解を示してくれる友人をバカにされて黙っていられる程峰田は馬鹿でも人格破綻もしていなかった。

そして、冒頭の怒声が響いたのだった。

 

「オラ、もういっぺんオイラの目を見て言ってみやがれよ」

「峰田落ち着け、手が離れねえ」

「は、はは。言葉にならないなら暴力かい。本当にヒーロー目指してるのかな?」

「まだ軽口叩ける余裕があるようだな」

 

峰田の握り締められた手が後ろに引かれ相手を殴る体勢になってしまった。

その時、廊下に出ていた全生徒は自身が凶悪な怪物の目の前にいるかのような錯覚を引き起こされる殺意に覆われた。

大半の生徒が怯えて座り込んでしまう中、一部の生徒は顔を青くして震えていたがなんとか立っていた。

 

「ダッセェなぁ、あんたら」

 

声の発信源には1人の女生徒の前に立つ人を小バカにしたような笑みを浮かべる火埜が立っていた。

 

「アアン、テメェ誰だ」

 

もっとも声の大きかった生徒が震える足を殴り付けて睨み返す。

しかし、そんな姿に興味もなさげに頭を掻く火埜。

 

「どうも始めまして。先ほど話題に出ていた敵相手に気分を悪くした生徒ですぅ。しかし、ダサいよねあんたら」

「ど、どういうことだコラ」

 

声をあげる生徒。

気が付くとその目の前に薄気味悪い笑みを張り付けた火埜が立っていた。

 

「人を小バカにして、挑発したつもりになって、優位にたとうとして、そして小バカにした奴から向けられた殺意程度でそんなにブルッちゃって、ダサいとしか言い様ないよねぇ」

 

貼り付けられた作り物と解る笑みを間近で向けられた男子生徒は思わず後ろに下がってしまっていた。

 

「それと君」

 

そう言って火埜に間近で指を指される男子生徒。

 

「な、なんだよコラァ!」

 

「『敵と戦いましたぁ。そのことを詳しく知りたいので話を聞きたいですぅ』だと?ふざけんじゃねぇ!!」

 

けして声を荒げた訳ではない。

しかし、火埜の言葉には明確な怒りが混じっていた。

 

「そんなに命のやり取りをしたのが羨ましいなら今から治安の悪い地区にでも喧嘩を売りにいけ。自分の無力さを痛感した奴らも少なからず居るのに、そんな奴らの事を考えないでそれを言ってんならテメェにヒーローの資格は無いんだよ。

 熱血ぶりたいだけなら町のチンピラと変わらねぇなぁおい!!

 なんで箝口令を引かれたのとか考えれないんか!!

 ズカズカと土足で人ん家に無断で入って来られたらお前は怒らないのか?怒るよな?それと同じなんだよ!!

 人が心の傷を負っているなと思ったんならこんな事はしねぇよな?

 するって事はそういう事と見ていいんだよな?

 テメェは人の気持ちなんてさほど考えないクズ野郎ってことだよな?

 だとしたら俺はヒーローとしてお前を見ない、それどころか人としても見ない!!解ったか?解ったかって聞いているんだよ!!」

「お、おう」

 

静かに並べ立てられる言動にB組の声の大きな男子生徒が萎縮するなか、火埜のは次の標的に目を向ける。

 

「それと、お前」

「なんだい、僕は間違ったこと言ったつもりはないけど」

 

軽薄そうに笑うB組の生徒に近付くと峰田を剥がして上鳴に峰田を放り投げその生徒の胸ぐらを掴み持ち上げた。

 

「随分と口が回るようだが、だからなんだ?」

「え?」

「一歩間違えれば誰か死んでいたかもしれない状況に対して、それを馬鹿に出来る程お前は偉いのか?

 あの場にいなかった奴が何を言っても羨ましがっている餓鬼にしか見えないんだよ。

 そこのお友だちにも言ったけど、そんなに命のやり取りをしたのが羨ましいなら今から治安の悪い地区にでも喧嘩を売りにいけ。なんの保証もされない場所で自分の力とやらを試してこいよ。

 今のテメェは、テレビの自称博識者と同じ口だけの愚か者にしか見えないんだよ!!

 テメェら2人がそうならB組の奴らってこんな感じのクズばっかの集まりなのか?」

「ちょつとまってあたしたちは」

 

生徒の群の外にいた女子生徒が反論をしようとする。

 

「止めなかった時点で同じだろうが!!

 テメェらみたいなのと同じヒーロー科として扱われると思うとヘドが出る!!」

 

そう言って胸ぐらを掴んでいた生徒を廊下に乱暴に落とす。

 

「そして普通科のお前」

「な、なんだよ」

 

普通科の宣戦布告に来た生徒は自身に明確に向けられた怒気に当てられ動けずにいた。

 

「ヒーロー科全員が偉そうに見えるのなら今すぐその両目を交換しろ。

 周りを見てみろ、そんな奴らが集っているように見えるのか?

 ヒーロー科おとされた腹いせしに来ただけなら意味がないからさっさと消えろ。

 それと別に足元を掬うなら掬えばいい。

 宣戦布告だぁ?受けて立ってやるよ!!

 テメェの妄想に付き合って貰えると思っているなら目障りだし、垂れ流しの妄言を聞かされて不愉快なんだよ!!

 テメェの想像で勝手にそう思われているんならイラつくんだよ!!」

「わ、悪かった」

 

「それと」

 

普通科の生徒から視線をはずし、全員に聞こえるように声を大きくする火埜。

 

 

「それと、自分の意見も言わないでただ見に来ただけの奴ら」

「「「「は、はい!!」」」」

「ただ見に来たのなら俺たちの外見以外分かることはねぇんだよ。

 そんな暇があるなら体育祭までに力をつけてこい。

 こんな事したって意味ねぇんだよ!!」

 

「「「「す、すいませんでした!!」」」」

 

数秒と経たずに廊下から生徒の姿は消えていった。

 

「チッ」

「うっわぁ、トーリ君ご機嫌斜め?」

「ほらおいでトーリ、三奈ちゃんが抱き締めたげるよ」

「全くもう。あんたって子は、ほらウチのとこおいで」

「あ、あの宜しかったら私の“ココ”空いてますわよ」

「百ちゃん、それはアカンって」

「火埜ちゃん少し落ち着きましょう」

「とーくんぶちギレたの久し振りに見た」

「あぁ、お陰で頭冷えたな」

 

そんなこともあり、本日はお開きとなった。

今日という日があったことで少しずつ何かが変わっていく音が聞こえた気がした。

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