火埜翔織という異物によるHEROACADEMYだ 作:完全怠惰宣言
騎馬レースは終盤に差し掛かり全ての騎馬から何かしらの妨害を受ける心操チーム。
「宍田君、もっと加速しても、いや寧ろ本気で加速して、お願い」
「委されましたぞ緑谷氏。宍田獣郎太本気で加速していきますぞ!!麗日氏、まだ大丈夫ですかな?」
「うん、静空ちゃんも鱗ちゃんも軽い方だからまだ大丈夫。鱗ちゃん後は?」
「妨害は止んだようだな。しかし、安心していると足元を掬われるぞ、気を引き締めねば」
B組の宍田が個性を発揮し巨体化し手足を用いた一人騎馬で疾走、3人騎手となった緑谷のデコピン空気砲と鱗の鱗マシンガンで狙い撃ち、そんな2人の重量を麗日の個性で浮かせているので実質一人分しかない重量も手伝って、宍戸の速度は順調に上がっていった。
「八百万さん、大丈夫ですか?」
「ええ塩崎さん、このくらいで根をあげてたらコーチ2人に怒られてしまいますわ」
「やっぱりA組の放課後訓練混ぜてもらえるように交渉しよう。芦戸周りはどんな感じ?」
「ヤオモモのトリモチ弾のばら撒きは順調だけど、凍らせたり燃やしたり抉ったりで対応早いよ」
八百万がトリモチランチャーと弾倉を創造し、自身から切り離さず繋げたままでいることでほぼ無限にトリモチ弾を撃てるようにし、芦戸が騎手としてそのトリモチランチャ―をあえて狙いを定めず撃ちまくることで妨害に徹し、自分のへの攻撃はA組ではずば抜けている体幹で危なげなく避ける。
そんな芦戸でも避けられなさそうなモノに対してB組の塩崎が自身の個性であるツルを利用した縦横無尽な鞭で妨害、先頭騎馬である拳藤は自身の個性を生かし巨大化させた拳を安定した足場として芦戸のサポートに回っていた。
轟チームは、轟の右腕に霜が降り始めたことで轟の氷結妨害は一時中止となった。
しかし、騎馬である瀬呂のテープをトラックに張り付けることでスリップさたり、上鳴が所々で放電して他のチームの騎馬の失速を図り、取蔭が自切した左目と右耳で周囲の状況を確認することで広範囲の情報を収集しトップに迫る加速をしていた。
「すまん、もう少し大丈夫だと思ったんだが」
「やっぱり火埜の氷結の影響かよ。薄々解ってたけどアイツ意外と性格悪いな」
「ウェる前にケリつけたいな。ウェッたらマジでオレ足手まといだし」
「いやぁ、A組凄すぎでしょ!?でも、噂の火埜君は思いの外イイ性格しているようだね」
無論、爆豪チームは爆豪の全方位爆破と心操チームへのピンポイント爆破で一位の座を死守していた。
「オラ、気合入れろ翔織のことだギリギリまで気を抜くんじゃねえぞ」
「任せろ爆豪、どんな攻撃だろうと鋼鉄の漢であるオレに防げない物なんてねえんだよ」
「右側からの攻撃ならオレに任せろ、火埜からもお墨付きを頂いた最高硬度で耐えてやるぜ」
「馬鹿なのお前ら、煽るな頼むから落ち着け。うわ後ろの連中と目が合ったマジで怖えぇ」
全てのチームが全力を出し切るために最後の妨害行為を着実に進めていく。
示し合わせた訳ではないだろうが、それぞれのチームの心操チームへの妨害が重なることなく起きていることで息つく暇も与えない妨害が行われている状態に陥っていた。
そんな中、件の心操チームはと言うと。
「いやぁ、解ってたけど容赦ないなみんな」
「「「お前(火埜、とり君)が原因なんだけどね」」」
どのチームよりも妨害を受け、心操チームは未だ最下位を走っていた。
凍結による直接的な妨害に始まり、幻影による精神的に疲労させられる妨害。火埜による妨害を受け続けた各チームは足止めと言うよりは、スタミナの少ない火埜の疲労を誘発させるような妨害を行うようになっていった。
しかし、彼らからは最下位に位置することへの悲壮感は一切なかった。
「さてと、そろそろ最終コーナーなんだけども3人とも準備はいいかな」
「えぇ、お任せくださいとり君。そしてさようなら第14子、貴方の雄姿は忘れません」
「うらめしい、私もヒーロー科なんだから任せて」
「ココまでお膳立てされてダメでした、なんてカッコ悪いこと絶対しねえ」
4人は諦めた訳でも、ギリギリ入賞を狙っている訳でもなかった。
予選1位、自分たちが確実に取れると理解している顔だった。
『しかし、さすがの火埜も打つ手が無くなっているな。アイツの個性の場合、出力調整しても直接的に被害が出てしまうことを考えると最終直線での加速が勝負となるか』
ブラドの冷静な実況に多くの観客も納得している中、それはそれは嬉しそうな声が聞こえてきた。
『違うぞブラド』
最近、2年生からの信頼も得て生徒内でも人気が上がっている教師内認識『親馬鹿』となっていることに気が付いていない男、相澤の声がやけに静かに響き渡った。
『アイツは状況判断能力という意味でもウチのクラスでは上位に入る。そんな奴が黙っているだと?こういう時のアイツこそ本当に怖いんだ』
『オレらがまだまだイワさんとこで世話になってた頃からだからな。あいつマジで良い子ちゃんぶってるけど、あの底意地の悪さはマジで恐怖だぜ』
『確かにそろそろ最終コーナーだというのに前半に比べてあまりに静かすぎる。同じチームの騎馬も何も焦っている様子はない。しかし、先ほどから周囲の妨害が勢いを増している上に他のチームの注意が彼らに向いてきているぞ』
実況室の男3人の言葉を聞きながら自称「翔織の偉大なる姉」であるミッドナイトは頬を染め上げ未成年にはけして見せられないドエロイ顔をしていた。
「(あぁ、もう、あの子ったら本当にイイ性格してるじゃない。その為の準備も済んでるようだし)頑張れがんばれ翔織」
言葉に出てしまった弟分への応援、その時の彼女の顔を偶然目にしたカメラマンはとてつもない後悔に襲われたことを後に同僚に話していた。
色っぽいことに定評のあるミッドナイトの聖母のような慈愛にあふれた笑顔をカメラにおさめることが出来なかったのだから。
「(おかしい、翔織ならそろそろ何か仕掛けてきても可笑しくないのに)」
「(静かすぎる、トー君の気配はするし意識を割かなきゃいけないからトー君のチームの動向を皆探っているのに)」
「(まるで何かを狙っているかのような、なんだこの寒気は。オレ達は何を見落としてる)」
トップ集団、というか心操チーム以外の騎馬がラストスパートで加速する。
意識を割いているが確かに存在している心操チームとの騎馬2つ以上の差が、彼らに無意識な油断と火埜が刷り込んできた何をしでかすかわからない警戒心をもたらした。
「おいおい、普通科いるチーム相手に大人げないな!!やっぱヒーロー科ってただの目立ちたがりの集まりじゃないか?」
僅かに警戒に割いていた意識に心操の言葉が突き刺さる。
その、自分たちを貶す物言い。
思い出される、あの日の放課後。
火埜によって鎮静化されたがあの場にいたヒーロー科生徒全員に打ち込まれた屈辱という楔に全員が“反応”したしまったのだった。
全員が思わず心操チームへと向き直ってしまった。
そして、そこから全員が最後に記憶したのは悪戯が成功した子供の様な笑みを浮かべる心操に珍しくニンマリと笑う柳、その名と同じく華やかに明るい笑みを浮かべる発目、その3人を載せる台車を引っ張る緑色を纏い淡く黄色に発光する雷の鳥だった。
爆豪チームの騎馬である円場にとって幸運だったのが自分の個性が「自分と共に移動するバリアを張る」のではなく「息を吹き出した分に応じた大きさと硬度の、円形かつ透明の壁を作り出せる」というものだったことだろう。
突如意識が遠のいたと思った数秒後、円場は自分が作り出した壁に頭をぶつけた。
そして、意識が覚醒したのだった。
「え、皆止まって『おうっとマジか!!』
そんな円場の耳に聞こえてきたのは実況のプレゼント・マイクの声だった。
『毎度毎度、ENTERTAINMENTしてるな翔おッ、火埜の奴』
『確か、彼は普通科の心操人使だったか』
『だから、毎年言っているだろう。“あの試験方法”じゃ有益な個性持ちを選別することは難しいと。戦闘よりも避難誘導や敵の無力化こそヒーローの本質だろうに。あの試験はやはり合理的じゃない』
円場は事態についていけずゴールを見た。
彼の目に飛び込んできたのは車輪が外れ所々ボロボロな台車。
そして騎馬を解き四者四様の状態の心操チームの面々だった。
「うげぇ~、しんどい。もむり」
息も絶え絶えにボロボロの台車にもたれ掛かり全身から疲れ切っている事が伺える火埜。
「お、おい大丈夫か?た、タオルと飲み物取りに行っていいのか?いや、それよりも本当に大丈夫か?」
そんな火埜を心配そうに見守りどうすればいいかオロオロしながらも取り敢えず背中を擦り労る心操。
「やりました!!第14子の折り畳み式アシスト付き台車がやりましたよ!!イコさん」
「“レイ子”ね。でも、こんなに上手く嵌まるなんて最初聞いたときはどうなるかと思ったけどね」
そして、互いに手を取って嬉しそうに飛び跳ねている発目と柳がいた。
「おい、2人とも取り敢えずウチの騎馬を退かして労ってやろうぜ」
「そうでしたねヒト君!!とり君歩けますか」
「むり」
「お疲れ様火埜。あたしの肩に捕まって」
ゴールラインを越え和気藹々とした雰囲気の心操チーム。
『てな訳で見たかAUDIENCE!!第2回戦“激走!!騎馬レース”1位は心操チームだ』