火埜翔織という異物によるHEROACADEMYだ 作:完全怠惰宣言
緑谷が脳の情報処理限界を迎え、爆豪が倒れる緑谷を颯爽とお姫様抱っこしてリカバリーガールのところへ行こうとして、何故か轟と飯田に止められて誰が行くか無言の鬩ぎ合いが起きたので、しょうがなく麗日筆頭の女の子達が運んだのと同じ頃。
『HEY! AUDIENCE、Are you ready?』
『それ、毎回やるのか』
『山田、無駄だぞ』
『Shut up!!お決まりみたいなもんでしょが!!それじゃ、いくぜ!!』
マイクが指を鳴らすと東側のゲートにライトが灯る。
『雷系の強個性、予選も地味に活躍していたこのぉ、お!?ぶひゃぁひゃひゃひゃひゃひゃ、まだ治ってなかったのか?今はCuteなGIRLだけど本当はいけてるBOY!!1A上鳴電気!!』
少し過激なチア衣装、温情で許可が出たスパッツを履いているが恥ずかしそうにスカートを押さえながら入場してきたボーイッシュガール、上鳴は涙目で怨めしそうに相澤がいるであろう実況席を睨み付けていた。
『自分のヤラカシのせいで時間が押してんだ、自分の試合が終わるまでそのままでいろ、ど阿呆が』
『ヴァーサス、西ゲートから入場するのは献身・清純・清楚の言葉が似合うB組のぉ?Whats!?なんでお前までその格好なの?まぁ、似合ってるぞ、1B塩崎茨』
西ゲートから現れたのは、上鳴に比べて幾分が大人しめのチア越すに身を包み、祈るような仕草のままフィールドへと赴く塩崎だった。
『塩崎!!なんだその格好は!!』
担任のヴラド・キングから体操着に着替えるように通達があったにも関わらず、何故か着替えていない塩崎。
「そう、これは罰。他者を軽んじた己への罰なのです」
と当人が断固着替えを拒否したのでチア衣装のまま入場となった。
試合開始を控え、上鳴電気は羞恥に染まりそうな頭を必死になって冷やしていた。
自身が招いたこととはいえ流石にあんまりだと思う所業だった。
それが観客席から、「美少女対決だ!!」とか「金髪の娘タイプだ」とか「うほ、いい生足なんだな」とか聞こえてきていても極力無視する。
「(これが終わったら、土下座してでも火埜に男に戻してもらわないと色々と不味いわ)」
周囲からの視線に不快感を感じることもそうだが、思考が徐々に女性的になっていること、それに対して違和感を感じなくなってきていることに上鳴は恐怖を覚えていた。
『それじゃ、カウントいくぜ“3”』
「塩崎、悪いが私の精神衛生のために瞬殺させてもらうわ」
『“2”』
「なんと傲慢な。いくら女性とはいえ見過ごせません」
『“1”』
「私“男”だから、I am“Man”」
『Ready go』
マイクの開始の合図と共に上鳴は放電を開始した。
まるで落雷が落ちたような閃光で誰しもが目を覆ってしまった。
「誠に遺憾です。その程度で私に勝とうなどと」
しかし、塩崎は冷静であった。
自身の個性の象徴である茨のツルを高速で伸ばすし、瞬時に放電する上鳴ごとツルで包み、無害化。
自身の前にもツルによるバリケードを作り、アースとしても機能する防御壁としていた。
「あれあれ、あ~れ~?瞬殺なんじゃなかったの?あれれ?おかしいぞぉ?」
A組全員が声のする方を見ると通路にてツルの十字架に拘束され、「反省中、慈悲を与えないでください」という看板を首から下げさせられた物間(女ver.)が“素晴らしい”笑顔で煽っていた。
「ふん!!」
「グヴョ!?」
そんな物間に対して、ツカツカと歩み寄ってきた拳藤はお手本のような見事な正拳突きを見舞うことにより、物間を物理的に黙らせた。
美少女が拘束され、気絶している状況、はっきり言って事案だが対象が対象で、事情が事情だったのも関係して、皆に華麗にスルーされていた。
「本当にごめんなA組。こいつ、メンタルが“アレ”なもんで」
一連の行動で物間の立ち位置を察したA組だった。
「別に気にしてないよ、電気の凄さを知らない奴に何言われたって」
拳藤の正拳を受けて沈んだ物間を興味無く視線から外した火埜の言葉に全員が頷いていた。
「でも、あそこまでツルに覆われたら飯田君でも抜け出せないんじゃないの?」
区切られていたパーテーションの一部を動かし、顔をのぞかせた取陰の言葉に不敵な笑みを浮かべる同じチームを組んでいた瀬呂だった。
「取陰も勘違いしてるけど、あいつの個性は“放電”じゃなくて“帯電”なんだぜ」
「それは電気を操るプロセスの違いなんじゃないの?」
「おい、推薦組」
瀬呂の勿体ぶった言い方に、冷静に返す取陰。
そんな、取陰を呼んだのはやはりA組の戦略部門担当火埜であった。
「うちの電気なめんな、入学から比べて一番個性伸ばしてるのは他でもないあいつなんだから」
そう言って火埜は戦闘が行われているフィールドへと指をさした。
「塩崎の敗因は自分の視界を防いでしまう物量戦で挑んだことだ」
フィールド上の塩崎は自身の勝利を確信していた。
フィールドに突き刺したツルによるアースも兼ねた盾。
その後ろから数多のツルを操作して上鳴をツルの檻に閉じ込めた。
後は、ツルの檻を場外に置く。
それだけだった。
そして、ツルの檻は確かに場外へと置かれた。
自身も場外判定されないように空中でツルを自切する念も入れた。
「あの、ミッドナイト先生。コールはまだでしょうか?」
だというのに、審判であるミッドナイトは一向に判定を告げる様子はなかった。
むしろ、塩崎を僅かに残念そうな顔をして見ていた。
「ごめんね、塩崎さん。だって」
ミッドナイトが話し終わる前、フィールドを青白い光が駆け巡った。
「まだ、上鳴ちゃんはフィールドにいるんだもの」
ミッドナイトの視線の先をたどるように視線を向ける塩崎。
そこには、自分が捕まえ閉じ込め、今しがた場外に追いやったはずの上鳴が雷を纏った姿で油断なくこちらを見ていた。
同性が見惚れてしまうような可憐な笑顔とともに。
『おいおいおいおいおいおい、どういうことだ?』
『簡単なことだヴラド、あいつの上鳴電気の個性を思い出してみろ』
実況席では自身の予想から外れ、まったく別の展開を見せる試合に混乱するヴラッド・キング。
そんなヴラッド・キングを余裕満々の笑みで見ている相澤がいた。
『たしか、上鳴電気の個性は“帯電”、自身の体に電気を帯びそれを放電するというものだったはず』
『そう、あくまで“帯電”が個性であって“放電”はおまけのようなものだ。個性把握テストを行った次の日、上鳴は火埜・爆豪・緑谷に個人的に個性の使い方のアドバイスを貰えるように頼み込んでたんだよ』
相澤の発言に火埜へと視線を向ける1年AB組。
その大半は驚愕という感情が見えていた。
「本当だよ、少しの時間でいいから見てほしいって声かけてきたんだよ」
肯定される発言に全員が意外そうな顔をしていた。
『その結果があれだ。塩崎のツルを全て避け切れたのは帯電した電気を各運動神経及び脳に放電し負荷を与えることでスピード系個性持ちと同等の反射速度を会得するブースト技だ。昨日、やっと出来るようになったらしくてな嬉しそうにクラスのラインに流してきたからな』
『え、消太お前ラインなんかやるの!!オレが誘っても無視したくせに!!』
相澤の以外ない一面がサラっと流れて、少し寂しそうに反応するマイク。
無論、相澤のことを知る面々も驚きの表情を浮かべている。
『そんなこと、今はどうでもいい。兎に角、普段はお茶らけているし、馬鹿な行動をする筆頭のような男だが今のあいつは全力放電しか攻撃手段を持ち合わせていなかった入学当時とは比べることも烏滸がましいレベルに達しているといっても過言ではない』
相澤をよく知る面々はこの時同じことを思っていた。
「(この親馬鹿がぁ!!)」
そんなこととは関係なく、フィールドでは動きがあった。
塩崎がツルの量を増やし場外へ押し切る作戦に変更したのだ。
塩崎には現状これ以外の作戦をとることは難しかった。
だからこそ、上鳴が見せた不敵な笑顔を見れてしまった。
「(な、何なんです。この胸の高鳴りは)」
そんな塩崎の思考など知るわけもなく、上鳴は最高速度で塩崎のツルの操作領域の内側へと辿り着いていた。
「ごめんね、ちょっと痺れるわよ」
右手の人差し指と中指を塩崎の首筋に当てると、親指から電気を発生させた上鳴。
今までは全身しか放電手段がなかった上鳴だったが、これは放電する際に指向性を操作することが出来ないからであった。
そこで鬼教官爆豪と鬼畜軍師火埜、ただ一人の癒し要因緑谷が考えたのは、放電個所を限定して超近接格闘に順応させることで両手をスタンガンのように扱うことだった。
結果、利き手である右手であればある程度の放電数を操作することが出来るようになった。
そして、首に手を当てられていた塩崎は無抵抗のまま数ボルトの電気を浴びてしまうのだった。
「塩崎さん、気絶により試合続行は不可能と判断!この勝負、上鳴Sんんん。失礼、上鳴君の勝ち!!」
勝負が決するのと同時に周囲に巻き起こる歓声。
かつての上鳴であれば調子に乗った行動をしたのだろうが、何を思ったか。気絶した塩崎を抱きかかえるとそのまま自身の出てきた東ゲートへと戻っていった。
そして、ゲートをくぐる前に一度だけ観客の方へ向き直りお辞儀をして退場していった。
塩崎はうっすらとだが意識を取り戻していた。
誰かに優しく抱きかかえられていることは解るがなんとも言えない安心感に包まれていた。
「それじゃ、気が付いたらちゃんと保健室に連れて行ってあげてね」
「ありがとな、上鳴」
級友の拳藤と誰かの声が聞こえた。
「にしても、戻っても顔はあまり変化ないんだな」
「まぁ、いいじゃん。それじゃ」
男性の声が聞こえ、それと同時に額に感じる温かい手。
塩崎は無意識にその手を掴み取ると本人の口から思いもよらない言葉が零れ落ちた。
「お慕いしております、“お姉さま”!!」
その瞬間、周囲の空気が死んだかのように静かになった。
そして、手を握られた“男”上鳴電気は魂の底から叫ぶのだった。
「だ・か・ら、オレ“男”!I am“Man”!!」