火埜翔織という異物によるHEROACADEMYだ 作:完全怠惰宣言
火埜が目を覚ますと、見慣れた美少女がこちらを見ていた。
「あれ?オレまた
「うん、なんだかんだ疲れてるんだね翔織も」
ここ最近、色々あって最も肉体接触率の高い耳郎と笑顔を見て少し和んだ火埜。
しかし、彼は寝ていた訳ではないのであった。
遡ること5分前。
「トーリくん、私に少し勇気をください!!」
じゃんけんに負けたことにより、クラスメート全員分の飲み物を買いに自動販売機の前にいた火埜に発目が話しかけていた。
「え、どういうこと?」
火埜の目の前にはつい先程までの印象とは異なる、少しだけ震えている少女がいた。
「正直に申し上げますと、私は今から私らしくないことをしに行きます。それが物凄く怖いのです。私のせいで私のドッカワイイベイビー達の評価が正当にされないのではないか、そう考えると震えてきてしまうんです」
自分の体を抱き締める発目、その姿からは先程までの自信に満ちた雰囲気は無くなっており、年相応に大舞台に緊張する一人の少女がそこにはいた。
「・・・・で、どうしてほしいの?オレ両手塞がってるんだけど?」
八百万により創造された袋を両手に、発目と向き合う火埜。
「あ、トーリくんはそのままで大丈夫です!」
そう言うと発目は火埜に抱き付き、その体に顔を埋める。
「トーリくん、私頑張ってきます」
「飯田は強いよ。あいつは、あいつには明確なぶれない目標があるから」
火埜の言葉に抱き付く力を強める発目。
装備の関係上、より強調されるように見える胸部装甲が形を変える程に強く火埜に抱き付く。
「だから、勇気を下さい」
その言葉と共に、顔を上げる発目。
身長の関係上、顔の距離が近い二人は発目がつま先立ちをした瞬間、その距離はゼロとなり唇が僅に触れるだけのキスをした。
「は?」
「ふふふ、ベイビー以外で心がここまで動かされたのは初めてです。それじゃ、いってきます翔織」
そこにはいつもの笑みではなく、異性を魅了するような笑顔を浮かべた少女がいた。
そして、その光景を偶然見ていた存在がいた。
A組ではペット感覚で皆からよくリンゴを貰っていたダークシャドウである。
一人じゃ大変だろうと、常闇と共に手伝いに来たのだが一足先に近くまで来ていた。
そして、声を掛けにくい現場で“家政婦は見た”よろしく壁からひょっこり覗いた少し大人な現場に興奮して、本体の常闇を引き摺りながらクラスメードがいる観覧席に戻ると自分の見た光景を包み隠さず暴露したのだった。
「ゴメン、遅くなった。はい飲み物」
「「「「「この浮気者!!」」」」」
いや、誰とも付き合ってないんだけどという一瞬の思考と襲撃の記憶は火埜の頭からきれいさっぱりと消えたのだった。
火埜が目を覚ましたのと同じ頃、フィールドでは飯田と発目の“試合”が行われていた。
「く、サポートアイテムの扱い方が上手いな」
「当たり前です、サポート科を嘗めないでいただきたい!そして、“今”の私は過去最高に絶好調です!!」
『サポート科発目テンション爆上がりだなぁ、特別解説員“パワーローダー”』
『ゲシシシシ、さっきの休み時間に何を思ったか整備室で色々やってたからな』
『サポート科は自身で作ったアイテムなら何でも使用可能だからと毎年ゴチャつくのが通例だが、発目は必要最低限のアイテムで飯田を翻弄しているな』
『飯田の奴、持ち味の加速力を完全に殺されてるな。そしてそれをなしているのは発目が背負うサポートアイテムか』
『ゲシシシシ、アイツが自分の作品にちゃんと名前つけてるところ初めて見たぜ』
発目が背負っている8本のアームが付いたサポートアイテム。
軟体動物のようにうねうねと滑らかに動くその姿。
いつもは“第○子”としか呼ばない発目が初めて名前をつけたアイテム。
「うふふふふふふ、どうですか“オクタコス”の動きは!!これはヒーローにというより警察・自衛隊・レスキュー隊の皆様に使っていただきたいアイテムです!!総重量20kgと重いですが、アシストスーツとしの機能も備えており、単純なパワー系個性持ちと対等に渡り合える装備にもなります!!また、8本のアーム先端に取り付けられたカメラアイがターゲットを自動捕捉することで思考を別のことに割くことが出来る優れものです!!そして、事前にシステムを設定すれば災害救助なとでも活躍間違いなしです!!」
「やけに機嫌が良さそうだが、ぼっオレも負けてられない!!」
発目の勢いに押され勝ちだが、徐々にギアを上げていた飯田の動きに徐々にアームがついていけなくなっていた。
「速度重視の貴方ならアームがついていけなくなることは事前に解っていました!!なので、私“達”のドッカワイイオクタコスの奥の手を1つ切らせていただきます」
発目の言葉が合図となったのか、カメラアイの下に銃口のようなものがせり出すと青い焔を放出した。
そして、その焔に当たった飯田の左足のエンジンのギアが僅に落ちたのだった。
「!?まさか“これ”は」
「そうです、パワーローダー先生の研究室に保管されていた翔織の“雨の焔”です!!」
『発目!!この野郎、許可無く持ち出しやがったな!!』
『コスに付属のサポートアイテムの修繕ように焔を提供したと本人から聞いてはいたが』
『サポート匣のエネルギーにも使用している焔を他人が攻撃に転換した最初の例だな』
『いいねいいね!!こういう展開を待ってたぜ!!』
発目の予想外の攻撃を受けて左右のバランスが崩れてしまい、結果右足のエンジンのギアも落とさざるをえなくなった飯田。
しかし、彼の瞳に諦めの色は存在していなかった。
「(まさか、初戦で使うことになるとは。火埜くん君が関わると予想の斜め上にいくな)」
愚直ともとれるまっすぐな気質の飯田天哉。
放課後訓練が始まってもそれは変わらず、自分の有方を曲げること無くヒーローとして邁進していきたいと常々言っていた。
「だったら、飯田君は観察力を磨かないと」
お昼休み、クラス全員で昼食を摂るのが常態化してきたそんな時に緑谷に言われた言葉が鮮明に思い出された。
「確かに、足りないところを補うためのチームアップだったりするが、結局のところ自分が出来ることをやってかないと、仲間にも迷惑だしな」
真っ赤に熱せられた土鍋から溢れる辛さとは何かと問い掛けられるような麻婆豆腐のような何かにより1つの机に隔離された爆豪の言葉、けして自身を辱しめるために言ってるわけではないと解る。
「身近に良い手本がわんさか居るんだし、そう言ったところを伸ばしていくのも良いかもね」
緑谷の助言を聞き入れた飯田の観察眼を鍛える暴走は後にブチキレた火埜のライダーキックを受けるまで続いた。
その結果、飯田は走りながらも対象を観察し、考察できるようになっていた。
だからこそ、オクタコスのアームの僅なタイムラグと死角に気が付けた。
ゆえに、心に刻まれた言葉が自然とあふれ出した。
-迷うことなかれ-
誰よりも速く動ける自分の迷いは必然的に対応の遅れにつながる。
-止まることなかれ-
脚に異常をきたしても頭は常にトップギアでいさせろ。
-熱くなることなかれ-
しかし、冷静さを失うことは何よりも行動を遅くする要因になる。
だから、見つけたその“隙”に迷うことなく全速全力で飯田は駆け抜けたのだった。
「零速“レシプロバースト”!!」
予備動作もなく、徐々にギアを上げることもなく、飯田天哉は瞬時に自身の最高速へとエンジン出力を上げ、発目の背負うバックパックのバッテリーを上空に蹴りぬいた。
バッテリーだけでなく、背面がごっそりと削られたオクタコスは緩やかに動きを止める。
「ミッドナイト先生、動けません。ギブです」
「発目さんのギブアップ宣言により、この勝負飯田君の勝ち!!」
レシプロの影響で上手く動けない飯田は苦々しい笑みを浮かべると発目に手を差し出した。
「君と戦えたことをオレは誇りに思うよ」
セメントスとミッドナイトに助けられながらオクタコスを脱ぐ発目。
そして、発目も差し出された手を握り返す。
「ふふふ、サポートアイテムの恐ろしさを見せられたことだけでも今回は良しとしましょう。それに、私自身大発見がありましたから」
後日、オクタコスの使用に関して各方面から雄英高校へ問い合わせがひっ迫し、夏休みが始まるまでに発目の銀行口座に見たこともない金額が振り込まれることになるのだが、それは未来のお話。