火埜翔織という異物によるHEROACADEMYだ 作:完全怠惰宣言
本年も宜しくお願いいたします。
「見て見て、カッコいいでしょ?一方的でしょ?最高でしょ?」
とあるバーの一室。
綺麗に手入れされた白髪のロングヘアー、簡素だけど見る人が見れば解るハイブランドの衣服、“あの日”とは全く違う姿をした“死柄木葬”が隣に座る女子と先ほどの雄英体育祭で行われてた試合の感想を求めていた。
「はい、なかなか素敵な方ですね。でも、私はもっと血だらけで傷だらけな姿が見てみたいです」
「んもぅ、“トガちゃん”たら。でも、ヒノ君の個性だとその姿はあまり見れないかな」
「そうですか、残念です」
葬のとなりに座り、ジュース(ブラッドオレンジ100%絞りたて)を飲みながらテレビに映し出されている少年を見た感想を述べるどこにでもいそうな少女“トガヒミコ”。
“とある事件”の容疑者である彼女は、ある日町中でばったり出くわした葬と意気投合し、彼等の隠れ家に住み着いていた。
そして本日、雄英体育祭を大画面テレビでポテチとジュース片手に観戦していたのだった。
「それよりも、私はヒノ君の周囲に向ける“目”が気に入りました」
「流石トガちゃん、解ってるぅ!そう周囲のあの“なんちゃってヒーロー”達をまるでゴミを見るかのように見下す、憎悪と殺意で満ちたあの泥のように濁った目こそヒノ君の一番カッコいいところなんだよ」
火埜本人が聞いたら名誉毀損で訴えかねない物言い。
しかし、女子2人は楽しそうに和気藹々と1人の少年について熱く語っていた。
テレビの中ではその後の試合も進んでいるが女子2人はそんなことお構いなしに火埜のことを語り合っていた。
「はぁ、ねぇちゃん達うるせぇなぁ」
「死柄木弔、そう言うものではありませんよ」
『葬にとっては初めての同年齢で同姓の友達だからかな?しかし、ヒノ君も良い感じじゃないか』
女子2人のお喋りしている姿はとても和気藹々としており、2人の整った外見も合わさってとても可愛らしく見えた。
話している内容さえ気にしなければ。
『それにしても、今年の“卵”達は粒揃いだね。思わず僕も欲しくなるような個性の子が多いじゃないか』
「先生も節操無いな、だから負けたんじゃねぇの」
『はははははは、痛いところをつくようになったな弔は』
弔からの返答にAFOの愉快そうな笑い声が木霊する。
「しかし、かの少年は本当に興味深いですね。ヒーローとしての資質は無論高いと思われますが、それを凌駕するやもしれない深く暗く黒く濁った心の闇。彼の本質はどちらなのでしょうか?」
黒霧はダークウェブに出回っている僅か数秒を切り取った火埜の画像を眺めていた。
上空に舞い上がり下を向く刹那の一瞬、観客に向けられた黒く濁った瞳。既に狂気じみた信奉者まで現れている現状に珍しく溜め息をついていた。
『それは違うよ黒霧、
けして顔の写ることの無いモニター、しかし黒霧も死柄木弔も感じ取っていた。
AFO、闇の王が笑顔であることに。
「しかし、フタを開けてみたら1回戦突破は全員A組か」
解説室はパワーローダーによって改修された強化窓ガラスがはめられ、休憩に用意されたお茶を飲みながらブラドキングは1回戦の結果を噛み締めていた。
「だけどよ、B組の奴らもA組の奴らに引っ張られたかのように実力を発揮してたじゃねぇか」
「ふっ、嬉しい誤算ではあったがな」
マイクとブラドキング、2人の会話に耳を傾けながら相澤は1人の生徒を注視していた。
クラスの仲間に囲まれ、特に女子に囲まれながら困ったような笑みをした火埜の姿を。
「(翔織、お前は未だ世間を憎んでいるのか?)」
相澤やマイク、ミッドナイトにとって火埜翔織は生まれ落ちた頃から知っている存在であった。
相澤が何でも1人でこなそうと無理をしていた時期に無意識に止めてくれたのは自我も定まらない火埜であった。
そんな火埜か事件に巻き込まれ、行方不明になったことがあった。
それは世間で“個性”が発現した子供が誘拐されるという事件であった。個性検査が行われ、“個性”の判断がされた火埜はそのカルテと共に姿を消したのであった。
警察だけでなく、相澤や火埜の両親と関係があったヒーローも捜索にあたっていたが一向に捜査が進まなかった。
そんなある日、とある場所にあった廃工場で巨大な爆発が起きた。
その廃工場に向かった相澤とマイクが見たのは溶液で満たされたカプセルに閉じ込められ眠らされていた火埜とそんな火埜を守るようにカプセルに抱きつき爆発から我が子を守る火埜獣造と彩命の遺体だった。
火埜の意識が戻るまで報道規制が張られたが、ゴシップ専門の雑誌が火埜夫妻の死を面白おかしく書き立てた事で、火埜にも世間の好奇心が向いてしまい、一時期発狂していた。
そんな爆弾のような火埜を引き取り、各媒体に注意喚起を促し、それでも辞めない者には裁判を起こした現義男母であるイワさんには本人は認めないが今でも感謝していた。
そんなこともあり、相澤のマスコミ嫌いは拍車がかかっていた。
そんな火埜も幼馴染みと再会してからは、精神の安定を取り戻し年相応の笑顔をするようになっていった。
「(いつまでも、大人が守れるわけじゃない。だからこそ、ふりきって欲しいと思うのはオレの我が儘なのだろうか)」
相澤は知っている。
火埜の両親が眠る墓には月命日には花が添えられていることを。
そして、墓前には誰かが涙を流したような跡が残っていることを。
翌日の火埜が誰かを殺しかねない濁った目をしていることを。
「(オレ達じゃダメだな、あいつを対等に扱ってくれる奴に、あいつを任せたい)」
そう、思いを馳せ目を閉じる相澤。
その横顔を事情を知るマイクが悲痛な面持ちで見ていることにすら気付けづに。
「素晴らしい、なんて素晴らしいんだ彼は」
どこかの一室。
高価な調度品と机に置かれた高級そうな料理の数々。
大画面のモニターに写し出されているのは火埜が上空に留まっている姿だった。
「“異能”をあそこまで自在に操り、未だ伸び代を感じさせるなんて、我々の同士の中にも彼のような同士は存在しない」
感極まり、1人立ち上がり画面へと拍手し続ける男性。
「そうですね、しかし何よりも私の目を引くのはあの演説力です」
集まった男女の中でも一際整った立ち居振舞いをする男性は、火埜の別側面を称える。
「雄英に潜む同士からの話を聞いたでしょう?彼の強大な異能は無論の事、他者を自分の思想に引きずり込む演説力は我々にとっても必要な力ですよ」
「それもそうだけど、私は彼の半生にもスポットを当てるべきと考えてます」
部屋の中の紅一点、女性が持参した資料を見ながら歪んだ笑みを浮かべる。
「マスメディアによって歪まされた人間性、それでいてヒーローを志す精神、センセイショナルな半生。自伝にしたらどれだけの人間の興味をひくのでしょうね」
女性が恍惚とした笑みを浮かべるなか、1人パソコンで何かを探し続ける男性はイライラしたように爪を噛みながらパソコンを操作し続けている。
「だというのに、ダークウェブにすら彼の“最初の”個性診断書が見つからない。あれだけの異能ならば必ず5才までに一回は作成されるであろう診断書が何処にもない、どこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだどこだ」
そんな3人を拍手をしていた男性は優しい笑みを浮かべ手を広げる動作をする。
「まぁ、そんなに焦ることもない。我々にも、そして同士達にも未々“時間”が必要だ。彼には是非とも我々の同士となって欲しいが、時期を待つとしようじゃないか」
動きを止めていた複数の歯車。
それが緩やかにだが動き始める。