火埜翔織という異物によるHEROACADEMYだ   作:完全怠惰宣言

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36th

体育祭会場は先程までの盛り上がりから若干の静けさの中、戦いが始まろうとしていた。

けして、会場席に空白が出来たことが関係しているわけではない。

そして、その原因が一部教師達が暴れまわったからとかけしてない。

そんな会場中央、一組の男女が相対していた。

 

『さぁて、勝ち上がり最初の対決はこの二人だ』

『ショートされても困るが俺もカワイイと思うぞ、剛力キュートガール“緑谷静空”』

 

マイクの紹介を恥ずかしそうに頬を染めながら下を見る緑谷。

会場の男性(一部お姉さん方)からカワイイと歓声が上がっている。

 

「ステイ、勝己まじでステイ」

 

“有幻覚の鎖+塩崎助力の茨+瀨呂のテープ”で縛られながらも盛大に爆発している爆豪。

 

「火埜くん!!報酬を!!」

「解ってます、はいどうぞ」

「あぁぁ、“お姉さま”」

「上鳴の奴、不憫な」

 

塩崎のスマホに送られたのは、上鳴(女子)のチアコス写真だった。

 

『ヴァーーーサァーーース、戻れてよかっなバチバチエレクトリックボーイ“上鳴電気”』

 

その紹介であがる歓声。

尚一部から「上鳴ちゃーん」と送られる声援にげんなりしている上鳴。

 

「きゃーーーーーー!!お姉さまーーー!!」

「のこ!?塩崎こんなキャラだったっけ?」

「女子からの声援て羨ましいけど、これは違うよね」

 

『クラスメート同士、お互いのことはある程度知っている2人の対決。担任としてどう見るよイレイザー?』

『1回戦の2人の試合だが、上鳴は現状の手札を切っているのに対して緑谷がまだ手札を温存しているように思える。上鳴がそこをどう攻略するかで試合の流れが変わってくるな』

『確かに、現場でも“個性”が知られていても対処できる力が求められるしな』

『互いに位置に着いたところで、カウントいくぜ“3”』

『“2”』

『“1”』

『Ready go』

 

マイクの開始の合図と共に上鳴は電気を纏い高速で緑谷へと突進していった。

 

『開始早々、上鳴の速攻が炸裂!!』

『ああ見えて純粋に力があるからな緑谷は。いくら男女で素の身体能力に差が出ているとしても、力比べでは上鳴に分が悪いからな』

『そこに個性でブーストされた力が上乗せされるのか、だとしたら上鳴の速攻は理にかなっているな』

 

開始速攻、これこそが上鳴の緑谷必勝法だった。

上鳴と緑谷が格闘戦のみに絞った場合、上鳴が勝てる分野の一つに“帯電状態での反射速度”があげられる。

相手からの攻撃を見てから反応できる上鳴はこの事を究極の後出しと言っていた。

事実、緑谷が攻撃準備に入った時には既に攻撃体勢を整えていた。

 

「緑谷、この勝負もらったぁ!!」

 

ABヒーロー科の観戦席は仕切りが取り払われ、全員が思い思いの席で観戦していた。

 

「あちゃぁ、上鳴君の悪い癖が出てもうてる」

「?上鳴氏の悪い癖ですと?」

 

麗日の呟きに反応したのは宍田だった。

 

「まぁ、塩崎さんとの戦いが思い通りにいったのがいけなかったのでしょうか?」

「ケロ、相澤先生が頭悩ませてる光景が目に浮かぶわね」

「あのだぁぼがぁあ!翔織と静空が何度も言ってんのに何で忘れてんだ!」

 

八百万は気の毒そうに、蛙吹はこの後のお説教タイムに、爆豪はあまりのアホさに言葉が出ていた。

 

「ねぇねぇ火埜君」

 

火埜の後ろに座り肩を優しく揺さぶる柳。

 

「はいはい、上鳴は今日と言う日まで本当に努力してきたのはA組皆が認めてることなんだ」

 

火埜説明にA組全員が同じタイミングて頷く。

 

「個性も強いし、伸び代もヘタに有ったからか自分の思い通りに事が運んでいるとちょっと調子にのって警戒が薄れるんだよ」

「今がその状態ってことなの?」

「そういうこと、まぁそれを狙ってる相手が目の前にいることに気付いてももう遅いんだけど」

 

火埜の言葉と同時に、会場では物凄い音が木霊した。

そこには、ステージギリギリで何とか踏ん張る上鳴と脚を振り切ったであろう姿勢の緑谷が立っていた。

 

『What!?なんじゃ今のは?』

『緑谷の奴、空気を蹴り抜いて空気圧で上鳴を吹き飛ばしやがったな。上鳴の奴も空中にいたにも関わらずよくギリギリで耐えた』

『空気砲みたいなものか。指向性がないから全面攻撃のようになっているが、今回はそれがマッチした形になったな』

『上鳴は気絶狙いだから接近しなければならない、緑谷は場外狙いで空気砲のための振りかぶる“溜”が必要、どちらに転んでも面白いことになりそうだな』

 

「み、緑谷!!殺す気か?今の訓練で丸太5本ぶった斬った蹴り技だろ!!」

「なっ!失礼な!!ちゃんと加減できたもん!!とーくんでちゃんと練習したもん!!」

「あいつの個性が“火の鳥”じゃなかったら確実に殺してただろうが!あいつ4日位マジでお前のこと怖がってたじゃん!!」

「上鳴君だって、とーくん練習台にして放電圧の調整練習してるじゃん!!上鳴君が近づいて静電気流れるだけでとーくんビクつかせてるくせに!!」

 

ガクブルガクブルガクブルガクブルガクブルガクブル

 

「けろ、大丈夫よ火埜ちゃん。わたしが一緒にいてあげるわ」

「ダイジョウブ。ツユチャンソバニイル、ダイジョウブ。」

「ケロケロ♪」

 

緑谷のキックをみた瞬間に後ろに隠れてジャージを摘まんでビクつく火埜を横に座らせ頭を優しく撫でる蛙吹。

その光景を数人の女子が羨ましそうに見ていた。

 

『若干の被害が出ているようだが試合は一進一退!上鳴が高速で間合いを詰めようとして、緑谷が空気砲をぶっぱなす!!』

『しかしこれ決着つくのか?』

『あぁ、もうすぐ着くだろうな』

『『はぁ?』』

『まぁ、見てれば解る』

 

相変わらず答えを濁した相澤の答え。

しかし、その瞬間は以外と直ぐに訪れた。

 

「あ」

 

蹴り抜いた緑谷が突如間の抜けた声を出した。

 

「っ!!」

 

それに反応した上鳴が“上空”に逃げた。

その時、緑谷はしてやったりとニンマリと笑みを浮かべた。

それに気が付いた上鳴は驚いた顔をしていた。

 

『あれ?なんか上鳴の奴「やっちまった」みたいな顔してるぞ』

『そうか!“思い込みの利用”か!!』

『ヴラドの言う通り、訓練で何回も火埜が両断される光景を見てきた上鳴は緑谷が漏らした言葉で力加減を間違ったと判断した』

『なるほど、それで思わず足場の無い上空に逃げた』

『アイツのスピードは神経に過剰に電気を流して反応させている。足場が有るならともかく、空中では踏ん張りが利かない。反対に緑谷は空気を“蹴る”ことで空中を移動することが出来る』

『Oh、つまり』

 

「ごめんね、上鳴くん」

「やられたーーーー!!」

 

空中で身動きが取れない上鳴に対して、空気を蹴ることで空を走る緑谷。

地上と対して変わらない勢いを着けた渾身の寸止め右ストレートが炸裂した。

その結果、上鳴は場外に打ち込まれ気絶した。

 

『上鳴君、場外及び気絶!!よって勝者緑谷さん!!』

 

ミッドナイトの勝利宣言。

それにウィンクといたずらっ子のように舌をだし、ピースをする緑谷がスクリーンに映し出された。

 

『“そうゆうこと”無意識にするから可愛いと言われるんだよお前は(溜め息)』

『なぁはははは、まじで可愛いよなああいうところ!!でもよぉ、計算づくで、ただあざといアホよりも1000倍は良いだろ』

『緑谷の奴は天然ジゴロと、あれはファンの獲得しやすいタイプになるだろうな』

 

「シズおま、おま、オレが、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁクソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「おぉう、爆豪の奴が自制しただと!!」

「まぁ、まだ“あっち”回復しきってないから仕方ないよね」

 

尾白が後ろを振り向く。

そこには。

 

「シズコワイシズコワイシズコワイシズコワイシズコワイ」

「アカン!両腕翼に変えて尾籠しとる」

「ほら、火埜出ておいで。皆で抱き締めたげるよ」

「!?真ん中はわたくしですわ」

 

また別の火種が起こっていた。


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