火埜翔織という異物によるHEROACADEMYだ 作:完全怠惰宣言
世の中には“相性”というものが存在する。
それに対して文句を言うつもりは更々無いが、これはあまりにヒドイと飯田は言いたかった。
『触れたら勝ち確定とか麗日はルールとの相性がよかったな』
『指先(の肉球)で触れた対象物を無重力状態にする『
次戦、飯田対麗日は開戦当初から状況が変わっていなかった。
あえてフィールド中央で飯田を待ち受ける麗日、フィールドの外周を走り続け加速し続ける飯田。
解説席のブラキンと相澤の言う通り、勝ち負けの条件がハッキリしているため、互いに攻めあぐねている状況にあった。
「モモちゃん、見えないんだけど?」
「私、今ものスッっっっっっっっっゴク傷ついてますのよ“ヒーちゃん”。乙女を慰めるのは紳士の嗜みと教わったはずですわ」
AB合同観客席、そこはナゼか馴れた感じのカオス空間が展開していた。
座席に座り、困ったような笑顔をしながら試合が見えないことに文句を言う火埜。
そんな火埜を両腕両足でガッチリと捕まえ、2人の間に一切の隙間を作ろうとしないレベルで抱き付く八百万。
可愛く頬を膨らませ抱き付くその姿に周囲から殺意に似た何かが放たれていた。
「けっ!自業自得だろうが!それよりも、オレのこのやり場の無いモヤモヤをどうにかさせろやコラァ!!」
爆豪と八百万が揃って観客席に戻ってきた、下を向いてあからさまに落ち込んでいた八百万だったが何となく火埜に視線を向けると、そこには困ったような顔をしながらハグ待ち体勢の火埜がいた。
そして、八百万は周囲のことなど気にも止めず今のような状態になってしまったのだった。
余談だが、八百万百は運動時はブラを着けていない。
正確にはスポーツブラのようなものを着けているが、確りと受けとめ形を作るブラは運動に適さないと言う理由から着けていない。
つまり現在、火埜はその身に八百万の超高校級に育ち(今なお発育中)見事に実ったスイカを押し付けられ絶妙な軟らかさを体感しているのだが、まぁ役得だろ。
「爆豪ちゃん、少し落ち着きましょう。それよりも久し振りに“放課後座学”何てどうかしら。お題は、『飯田ちゃん対お茶子ちゃん勝つのはどっちだ』でいこうかしら」
蛙吹の一言に早速反応した人物は
「普通に考えると飯田だろなぁ。あの速さで押し出された一溜りもないし」
B組骨抜だった。
B組のブレーンとして信頼をおかれている彼は、試合開始からずっと二人の様子を観察し自分ならどう攻めるか考えていたのだった。
「あたしは麗日かな、“触る=勝ち確定”ていう覆し用の無いアドバンテージは無視できないね」
同じくB組の推薦入学者である取陰が麗日の勝ちを推した。
個性もさることながら、その思考速度の速さはA組にもひけをとらないと評される彼女はリアリストでありロマンチストであることからか同性の麗日に頑張ってほしいと言う思いもあることは秘密である。
「ケロケロ、2人ともありがとう。それじゃ、みんなで考察しながら試合を見ていきましよ」
飯田天哉という男は良くも悪くも真っ直ぐな男である。
それが原因でクラス内でも“浮く”ことはあるが、それが彼の面白いところであった。
そんな男は女子に対しても紳士的にあろうとする。
「(麗日くんの背中に隙が出来た時、その時こそ勝機!)」
フィールドの外周を走り続けたことで飯田の速度は現在の最高速度になっていた。
それを目で追いかけていた麗日は徐々にふらつき始めていた。
クラス内では周知の事実だが麗日お茶子は酔いやすい。
特に自分を浮かせた時などはその傾向が顕著で放課後訓練でも幾度となく醜態を晒してきた。
そんな、麗日の状態に気が付いた飯田は速度を落とすことなく麗日の背中目掛けて手を伸ばした。
背中に触れるその瞬間、飯田は異様な寒気に襲われた。
「あのクソ眼鏡!!紳士ぶるのも大概にしろやボケが!!」
怒りを消化しきれていない爆豪が試合を見ていて口汚く飯田に怒りを露にしていた。
「まぁ、“あれ”に関してはしょうがないだろ」
「黙ってろ半分子!オレとバディ組んだことある奴があんな体たらくなのはイライラするんだよ!!」
「まぁ、オイラなら迷わず行くけどな」
「峰田、死にたいの?」
爆豪に珍しくツッコミをいれる轟だったが、怒り心頭な爆豪には逆効果であった。
そして、欲望の釜の蓋がガッツリ開いた峰田の本音に対して目にドックンで黙らせる耳郎。
「あなた様、どういうことですか?A組の皆様は飯田さんよりも麗日さんの勝利を疑っておりませんが?」
上鳴の腕に絡み付き、意外とある胸に抱き込み、絶妙な距離で上目遣いをしてくる塩崎。
呼ばれ方にも馴れたもので、若干その感触を楽しむ余裕が出来てきた(本当に色々諦めて受け入れた)上鳴は少し考えた上で喋りだした。
「ウチの委員長は兎に角融通が利かないんよ。それは、こういった状況であろうとも変わらなくてなぁ」
「それが何か関係が?」
「あの速度で、正面から押し出すとなると触れられる箇所はまぁ限定される訳で」
流石の上鳴も“その訳”に言い淀む。
「まあ、本当にヴィランとやりあうならその思考は一時的に放棄させるけど、流石にこの場では無理だったねぇ」
「でも飯田の奴さぁ、ある意味麗日嘗めすぎだよね」
「そうそう、放課後訓練で何度も誰かさんが“ラッキースケベ”ってたからねぇ」
葉隠、耳郎、芦戸の補足されていたが、芦戸の補足と共に“ラッキースケベ”っていた講師役に鋭い視線が突き刺さる。
「・・・・、僕悪くない」
犯人の弁明は、抱き付いたままの八百万の締め付け力強化により封殺された。
「(この勝負、僕の勝ちだ!!)」
飯田が腕を目一杯伸ばし、麗日の背中を押そうとしたその時だった。
「信じとったよ、飯田くん」
不意に麗日がその身を翻し、半身分の空間が出来た。
その空間に勢いを殺すことなく、最高速度で突っ込んでいく飯田。
そして、麗日の両手が飯田に触れる。
止めきれない加速+突如としてなくなる重量
その結果は。
「飯田君“場外”よってこの勝負麗日さんの勝ち!!」
審判であるミッドナイトの宣言により麗日には会場から惜しみ無い称賛の雨が降り注いでいた。
「麗日、本当に当たっても文句はないんだな」
放課後訓練が始まった当初、対人格闘のスキルが必要だと考えた麗日は火埜に師事を頼んだ。
「うん、私の個性だと相手に触れることが前提条件みたいなとこあるし、それに戦闘訓練で私が飯田君に触れてたら絶対に結果は違ってた」
麗日の真剣な眼差し、個性を抜きにした対人格闘スキルで言えば爆豪の方が火埜を遥かに上回っているのだが、麗日の根底にある“何か嫌だ”という気持ちが火埜を選択させたのだった。
「本当に、不慮の事故とはいえ当たったり触ったりするかもだよ?その度に騒がれてたら意味ないんだからね」
「勿論!!あ、でも最初だけはゆるしてくれんかな?」
「既に弱気!?」
その後、不慮の事故で触られたり、当たったり、(ナニを)蹴り翔ばしたり等があったが麗日がいやがらない限り火埜も師事し続けてくれていた。
「なぁ、火埜君は何で私に付き合ってくれるん?」
放課後訓練の限られた時間でも休憩をとるようにしていた。
その時は偶々2人だけになったのでそんな質問が麗日の口から出てしまった。
「ん?あぁー、多分オレ“頑張ってる女の子”が好きなのかもしれない」
猫を被らなくなり、口調が悪くなってきた火埜の口から出た言葉はよく解らない物だった。
「誤解を与えたかもしれないけど、A組の子が誰も頑張ってない、て訳じゃなくてね」
そう言いきると飲んでいたスポーツ飲料を見ながら、麗日を見る。
「年頃の女の子が無様さらして嫌なはずなのに、それでも麗日はオレと対人訓練続けてるよね?」
「うん、まぁ自分の言い出したことだし」
「それでも、投げ出さない。それに」
少し言い淀むと、何かを決心したように麗日と向き合う火埜。
「それにオレ、麗日の笑ってる顔が好きだからから頑張ってる麗日のこと応援したいのかも」
比較的に容姿には恵まれていると認識させられていた麗日だったが、邪心なく褒められることに驚いていた。
ただ、その日から火埜を見る目に変化があったことは事実である。
勝利宣言を受けて
そこには八百万に抱き締められ確りと自分を見ていない火埜の姿があった。
“モヤ”
麗日の心から何かよく解らないものが溢れた。
取り敢えず
そう意気込むとフンスフンスと会場を後にする麗日。
彼女はその感情の名前をまだ知らない。