火埜翔織という異物によるHEROACADEMYだ 作:完全怠惰宣言
瀬呂君ゴメン。
プニプニ
それは柔らかいものをつつく時の擬音語である。
プニプニプニプニ
少女は不機嫌そうにしながら、少年の意外と柔らかい頬をつつき続けた。
プニプニプニプニプニプニプニプニプニプニプニプニ
八百万ホールドから解放され、一息つこうとしたら戻ってきた麗日のプニプニ連打が幕を開けた火埜。
プニプニしていた間、一言も喋らずかといって不機嫌であることを隠そうともしない麗日は私怒ってますと言いたげな表情で火埜の隣で頬をつついていた。
「火埜君、私の師匠なのに試合見てくれてなかった」
プニプニ
「文句はモモに言ってください」
プニプニ
「私、すっごく頑張ったのに」
プニプニ
「読みやすい性格の飯田相手に計略負けするような教育してません」
プニプニ
「わたしがんばったのになぁ」
プニプニプニプニプニプニプニプニプニプニプニプニプニ
ため息が漏れる音がした。
そして、麗日の頭部に手の感触が出現した。
「
麗日を労るように優しく、髪を滑るように撫でる火埜の仕草には年期が感じられた。
「勝己と個性ありで訓練してる時、オレがどれだけヒヤヒヤしてるか知らないくせに、毎回毎回突貫しやがって」
「ぶふぅ、ゴメンなぁ」
「次の試合はしっかり見させていただきますから」
「ならヨシ!!」
火埜に撫でられ幸せそうに顔を歪める麗日、その姿は主人にナデナデを強要する小型犬のようであった。
そんな2人の姿を視界の端に捕らえ、ヤル気を漲らせる少女がフィールドに2人。
「お茶子ちゃんも堕ちそうだね」
「まぁ、翔織ならしかたないかな」
「そうだね」
「ところでぇ、葉隠さぁん?」
「なんだい、芦戸さんや?」
互いにファイトスタイルを保ちながら淑女のように微笑み、相手にしか聞こえない声量でボソッと呟いた。
「「なに、“正妻面”してんのさ」」
ボソッと呟かれた言葉は互いにしか聞こえなかった筈なのに、駄々漏れの殺気がフィールドを覆い尽くした。
互いに両手に個性を現しており、葉隠は両手を完全に透明化させ太陽光の屈折によるレーザーを照射準備が調っている。
よく見るとフィールドが一部焼き切れ始めている。
芦戸も粘度MAXの強酸を作り明けている。
酸が当たった体操着の袖が焼き切れている。
フィールド上でミッドナイトがあまりの緊張から唾を飲み込む。
ゴクリと海上に響いたように思えたその音と共に粘度MAXの酸弾と熱線がフィールドでぶつかり合う。
その様はまるで2人の重い想いに個性が呼応しているかのようであった。
「火埜、ウチみたいなの嫌か?」
「ヒーちゃん、我が家は万全の準備でお待ちしておりますわ」
「むぅ、私の師匠とらんといて」
「うぅらぁめぇしぃ~」
「妬ましいぃ(怨)」
火埜周囲には“何か”を察した美少女が集まり、周囲から見たらハーレム形成しているように見えてしまう。
事実、嫉妬メーターが振りきれた峰田は血の涙を流しその光景のすぐ近くで妬んでいた。
また、その実情を知らない男子からも似たような目を向けられていた。
「馬鹿共が!!さっさと試合見やがれ!!」
意外にまともに試合を見ていた爆豪が爆発しながら注意をする。
クラス内でも(とある女子が絡まなければ)まともな爆豪。
彼の視線の先ではとんでもないことが起きていた。
そんな葉隠に対して粘度MAXジャージは溶かすジェル酸を投げつ動きを制限する芦戸。
「火埜君は私を“こんな身体”にした責任があるんだから!!」
「はぁ!?だったら私のせいで死にかけた責任を取るんだから!!」
「「あたしが正妻だぁ!!」」
『なんか、よく聞こえないけど女の執念というか情念というかそういったものを感じる試合だな』
『ち、色気付きやがって。後でアイツ等説教だな』
『え?消太アイツ等が何言ってるのか解るのか?』
『解らんが、ありゃ絶対にくだらんこと言い争ってるな』
フィールドも削れるだけ削られ、個性よりも肉弾戦闘に適した距離分だけの広さしか残されていなかった。
そして再び、淑女のような笑みを互いに浮かべると。
ブォゴッ!!
そう聞こえそうなパンチが互いの頬に突き刺さった。
たたらを踏み、残されたフィールドの端まで後退りする2人。
そこからはまるで拳闘を見ているような超近距離格闘が始まった。
互いに相手のパンチはいなし、自分のをいなされ、別の意味で熱い試合が展開されていった。
そして、唐突に試合は動いた。
バキッ!!
と会場に木霊する音。
互いの顎を正確に居抜きあった拳をそのままに二人揃ってK.O.となったのだった。
『え、これで終わり?』
『例年こんな感じだろうが、今年が異常なんだよ!!』
『なんかセメントスの奴泣いてないか?』
『こんなにフィールド壊されることなんてなかったからな』
『壊してんのお前の生徒だけだけどな』
そして、少しやつれたセメントスによりフィールドが整えられ2回戦最後の試合となった。
後に激しく落ち込みまくり、焼き肉やけ食いに走った瀬呂はこう語っている。
「あれは無理」
と。
試合開始と同時に瀬呂はテープの端を円錐形に丸めて発射し続けていた。
漠然とテープを打ち出すよりも遅くなるがフィールドに突き刺さり轟の視界を塞ぎ、尚且つ移動も阻害していた。
瀬呂はA組の頭脳班にカウントされる程に思考速度が速いが、何より重宝されるのは「
基本的に熱くなりやすい性分が多いA組の中で、広い視野で全体を把握し、最適解を導きだそうとする瀬呂は実は蛙吹に次いで大人びた思考をする存在であった。
周りに感化され熱血コマンドが増えたとしても根底にある考え方は変わらなかった。
だから自分の相手が轟となった時、直ぐに勝ちを諦めていた。
口では負ける気はない等と言ってはいたが自分の思考の深い底では、既に勝つのを諦めていた。
しかし、いざ2回戦が始まると誰も彼もが足掻き勝つことだけを考え、自分の持てる全てを出していた。
それに感化されたわけではないと誰に対して言ったか解らない言い訳も心の奥底に仕舞い、瀬呂は自分の全力で轟と対戦していた。
「だから、やりにくいんだよお前は」
フィールドの端に追い詰めた筈の轟、その右半身が凍てつき左半身にすら霜が付着していた。
しかし、その顔に浮かんだ感情は喜びの感情のように瀬呂には見えた。
「いくぞ、これがオレの今の最大氷結業」
フィールドを踏み抜くように右足を打ち付ける。
そこから瞬く間に氷が広がっていく。
それは、轟と接しているフィールドだけでなく、空間を物凄い速さで凍てついていく。
「
左半身から熱を発しているにも関わらず、轟は全身が霜付き技の起点となった右足はフィールドと一体化したかのように完全に凍りついていた。
「いやぁ、これは無理っす。ギブっす!!」
氷の大津波により押し出されフィールド外にて氷に飲み込まれ何とか頭だけ出した状態でギブアップ宣言をする瀬呂。
『瀬呂ギブアァァァァァァァァァップ!これは仕方ないにしてもスゲェな』
『自分も行動不能になってる上に完全な自爆技の類いだが、身の軽い瀬呂に対しては有効だったな』
『瀬呂の奴はルールに負けた感じだな』
解説席で暢気に解説されながらも、瀬呂自身はひどく冷静に氷漬けになっていた。
「(あぁぁ、しゃぁないか。で終わらせたくないな。も少し頑張ってみるか)」
頭脳で勝負と言い続けていたが、圧倒的な力の前にはその思考力ですら対応が難しいと改めて納得した瀬呂。
意外と負けず嫌いの彼の物語は未だ始まったばかりなのであった。
葉隠、芦戸、瀬呂の3人本当にゴメン。
ちゃんと強化して活躍の場を作るから許してください。