火埜翔織という異物によるHEROACADEMYだ 作:完全怠惰宣言
準決勝開始前、セメントスの儚さと選手達の疲労を考慮して30分間の休憩が取られた。
準決勝に進んだ4人は控室に篭り、各々が自身の試合に向けて準備を始めていた。
心操人使は普通科生徒のために用意されたエリアに座りこれまでの試合を振り返っていた。
「(クソッ、実力が桁違いすぎる)」
これまで行われてきた自身の試合を除いた全ての試合、それらを思い返して理解した。
ヒーロー科は自身が考えているよりも温い場所ではないと。
一試合毎に死力を尽くして戦うその姿に自身を重ねることができなかった。
「君は諦めるのかい?」
心操に声をかけてきたのはいつの間にか隣に座っていた普通科の生徒だった。
「なんだよ“青山”、なに意味解んねえこと言ってんだよ」
普通科にいて、心操と同じくヒーロー科への編入を希望していた『青山優雅』。
今回の体育祭ではあまり目立てなかったが、日々編入に向けて校外にいる知り合いのもとで訓練をしているらしい。
「僕は未だ諦めないよ、1学期の期末で結果だして必ずヒーロー科に編入するんだ」
「そうか」
「良かったら君も一緒にどうだい?」
心操に伸ばされる青山の手。
周りの喧騒に後押しされるように心操は手を伸ばした。
「よぅ、心操。少し良いか」
自身にとっての初戦、無傷な上にスタミナすら使いきれていない戦いの後、廊下で踞っていた心操に言葉が投げ掛けられた。
「えっと、イレイザーヘッド先生ですよね」
そこには、相も変わらず不健康そうな男、
ポケットに突っ込んでいた右手を抜きその手を心操に突き出す。
そこには1枚の紙があった。
「えっと、これは」
「緑谷からお前をヒーロー科に編入させてやって欲しいと言われてな。お前はオレ好みのヒーローになってくれそうだから受けた。その気があるならその紙の場所に来い。オレ直々に鍛えてやる」
そう一方的に話すとスタスタと来た道を戻っていく相澤。
「あ、あの」
その後ろ姿に思わず声をかけてしまった心操。
「なんで、オレなんですか。他にもヒーロー向きの個性持ちは普通科にいますよね」
その言葉にとてつもなく嫌そうな顔をした相澤は頭を掻きながら面倒くさそうに答えた。
「名前を出すなと言われてたが火埜と柳からも頼まれていてな。オレもアノ試験では資質を見分けるのに不十分だと思っていたし、ヒーロー科3名からの推薦を短時間で得られたということからオレが見込みありと思ったから声をかけたにすぎない」
そう言って再び歩き始めた相澤だったが何かを思い出したように心操に声をかけた。
「もし、編入試験前に諦める可能性があるなら最初から来るな。推薦してくれた3人の顔に泥を塗るような屑に時間を割くこと程無意味なことはない」
突如として思い出された相澤とのやり取り。
つかもうとしていた青山の手は気が付くとかなりの勢いで弾かれていた。
「あ、悪い青山。悪いがオレはオレのやり方でヒーローになる。今、そう決めた」
「ふぅーん、そう。ま、お互い頑張ろうね」
カチリ、と歯車が噛み合う音が世界に響いた。
それが何を意味するのか、それは未だ誰も知らない。
「ふんふんふふんふんふふーん」
サポート科用に用意された観覧席では破壊された筈のサポートアイテム「オクタコス」を使い、全ての試合の詳細なデータを取得できた事で上機嫌な発目明が鼻唄を歌っていた。
休憩のために空いた時間を利用してデータ整理をしている彼女の手はいつも以上に高速かつ正確にキーボードをタップしていく。
そんな中、最後にまわしていた生徒のデータが画面に表示された。
「うふふふ、翔織くん」
画面に火埜の顔写真と共に各試合のデータが表示されていく。
発目明は子供の頃から変わった子であった。
熱しやすく冷めやすい、興味の対象が変わりやすい。
そんな彼女が唯一、興味を失うこと無く今も変わらぬ情熱を燃やしているのが機械弄り、その果てのサポートアイテム開発である。
入学後、幾度となくパワーローダーの作業場を破壊してきたがそんなことにめげることなく、放課後は毎日何かしらを作り続けた。
「ローダー先生、このホバーシューズ貰っていっても良いですか?」
珍しく教室で新たなベイビーの開発案が纏まらず、作業場に遅れてきた発目の耳に知らない声が響いた。
「あぁ、そいつは生徒の作品だが使い物になるかどうか解らんぞ」
背中しか見えない少年の手に握られていたのは発目の入学後に作成したベイビーの一つ「空翔ぶシューズ」だった。
靴底から風を放出することで誰でも自由に空を飛べる設計思想のもと製作されたが、風を送り出すために0.1tものバッテリーが必要な上に風も5秒しか放出できず、出力調整ができないというとんでも発明品だった。
「これ、博士が発案してくれた装備にちょうど良さそうなんで。いつもいつも鳥になって翔ぶよりも対応しやすくなりそうですし」
そして、少年がシューズに視線をおとした時、その顔を発目は見ることが出来た。
世間的に見ても十分に整っているその顔には自身のベイビーへの暖かな称賛の感情があった。
「それに、この短期間でこれだけのアイテムを作れるなんて、その子は余程機械弄りが好きなんですね」
現在に到るまで、発目明の奇行ともいえるアイテム製作に対して、理解を示してくれた者は少ない。
まぁ、入学試験時に自作のサポートアイテムを多数持参で来る奇妙な生徒が今まで居なかったこともあるのだが。
初見で、尚且つヒーロー科に在籍する生徒で理解を示してくれた存在に、発目は興味を持ってかれた。
そしてあの日、あの廊下で魅せた火埜翔織という一人の男のあり方に心引かれた。
「えへへへ、愛してますよ
選手控え室A、火埜と轟はベンチに座っていた。
いつもなら何かしら喋るくらいには仲の良いクラスメートなのだが、今は轟から発せられる黒い焔のような何かを感じた火埜が黙っている、そんなところだった。
「・・・・、緑谷から聞いたのか」
意味を計りかねるその言葉に火埜はわざとらしく唸る。
そして、まぁ良いかと言わんばかりに口を開く。
「聞いた、というか勝己と一緒に3人でその場にいたからなぁ」
「クソオヤジが、余計なこと言いやがって」
轟の放つ黒い何かが更に増していく。
「右だけで優勝できれば、それはアイツを否定することになる。アイツの力じゃなくて母さんの力でオレはNo.1になる。そう思ってたんだが」
「まぁ、お前がなに考えてるかなんて判らんよ。ただ、“全力”でいかなきゃ静空には勝てないよ」
「解ってんだよ!!」
いつも静かで客観的な立場にいることの多い轟が叫ぶ姿。
そんな姿を見ても火埜はどこ吹く風と言わんばかりに眠そうに目を擦っていた。
「クソオヤジだけが原因じゃねぇ、オレ達家族が歪に無理矢理見て見ぬふりして取り繕った結果が今の状態なんだって解ってんだよ!!」
「・・・・、でシュート君はどうして欲しいのかなぁ?ナデナデして欲しいのかなぁ?」
そんなおどけた火埜の胸ぐらをつかみ憎悪に染まった瞳で火埜を見る轟。
「轟、オレもシズも勝己もクラスの誰も、ましてや他の誰もお前になれる訳じゃないからさ、その答えは自分で出さなきゃダメだよ」
「火埜、お前」
「シズは強いよ、何よりもその心が強い。そんなこと言わなくても轟なら解ってる筈だろ?」
胸ぐらから手は離され、轟は何かを堪えるように必死に両手を握りしめていた。
そんな轟の肩に火埜の右手が添えられた。
「決勝で会おう、その時に答えを聞かせてくれ」
その言葉と共に扉の外に押し出される轟。
その足は自然とフィールドへと進んでいった。