火埜翔織という異物によるHEROACADEMYだ 作:完全怠惰宣言
『オゥラァ、会場のオーディエンス!待たせたな、準決勝第一試合の開始だコラァ!!』
『おい、イレイザー。お前の親友どうにかしろ』
『は?オレにこんな煩い友人はいない』
『なに言われても気にしない気にならない!冷めたふりしたアホなど知るか!!フィールドの選手2人はヤル気満々だぜぇい!!』
マイクのおかしなテンションももろともせず、対戦用のフィールドには真剣な眼差しの2人。
緑谷静空は自然体を保ち、轟焦凍は凍てつきそうな殺気を放ち互いに合図を待っている状態だった。
『もう良いよな!?いくぞいくぞカウント開始だぁコラァ!!』
『3』
会場のボルテージが上がっていくのが解る。
『2』
相対する2人の集中力が高まっていく。
『1』
全員の視線が2人に注がれる。
『スタート!!』
マイクの開始の合図と共に轟の広範囲瞬間凍結が炸裂。
緑谷のいた側のフィールドが完全に氷で閉ざされた。
『開始初っ端から轟の広範囲凍結攻撃が炸裂!!いくら緑谷でもこれは決まったか!?』
マイクの実況が響く中、轟は背後に途轍もない寒さを感じ取った。
本能的に、感覚的に避けた場所に緑谷の強烈な蹴りが炸裂した。
「緑谷、なんだ“それ”」
緑谷の全身に葉脈のように浮き出る“何か”。
その何かが全身を駆け巡るその姿を轟は今まで見たことがなかった。
「“ONE FOR ALL Full Cowl Act.10”、ボクの今の全力にいつまでそうやってられるかな?」
今までの悪戯っ娘のような可愛らしい笑みとは違い、獰猛な肉食獣を思わせる好戦的な笑みを浮かべた緑谷がいた。
「現段階でタイムリミット付きでという縛りではあるが、君のONE FOR ALLによる全身強化出力は10%といったところだろう」
ONE FOR ALLを身体に馴染ませる訓練をオールマイトと行っている中言われた言葉。
全身の筋肉が痛みで悲鳴を上げており、満足に動くことも出来ず言葉を発する余力もない緑谷はその言葉を噛み砕き理解するのに時間を有した。
「静空、気にするんじゃねえぞ。この馬鹿弟子が異常なだけでおまえの成長は十分に速いぞ」
「それに、これ以上の訓練は成長期の君の身体に悪影響だ。私との行動予測訓練もあるのだから十分に君は凄いと思うぞ」
「全身でなければ最大強化出力25%といったとこか。緑谷少女の成長率は凄いな」
「ミリオさんの行動予測的中率が化け物過ぎて辛い」
「確かに。先輩実は未来予知系の個性持ってるんじゃないっすか?」
「いやいや、オレの個性はあくまで一つだよ。サーの教えがいいんだよ」
「「それでも、1発しか当てられなかった」」
「いや、始めて2回目で1発貰ってることに驚愕なんだけど」
ずっと一緒にいたはずなのに1人置いていかれてしまったような感覚に襲われてしまう緑谷。
しかし、ここで無理をするとまた心配をかけてしまうと理解していた。
何より、大切な幼馴染みが自分が原因で悲しそうに顔をゆがめるのを自分が良しとしなかった。
だから、地道にコツコツと成長していった。
だけど、目の前の少年は違う。
自分とは違う別の何かに捕らわれ、何かを見失い、迷子の子供のような目をしてしまっている存在。
そんな、彼を助けたいと思ってしまったがために、決勝を前にして“本気”になった。
『緑谷の流れるようなコンボが轟を圧倒していくぞ』
『フィールドが氷で狭まったことで近接主体の緑谷の得意な状況が出来上がってしまったな』
『轟も対応しているが、明らかに押されているな。このままだと轟のやつ押し切られるぞ』
実況の3人が話すように開始早々に轟が行ったフィールド半分を凍結させる大技により本来のフィールドよりも半分ほどの広さになってしまったフィールド。
そこでは全身にエネルギーを纏い、目にも止まらぬ早さで轟を追い詰める緑谷と個性発動のための隙が出来ず体術でそれに対応するしかない轟がいた。
「(何をしている焦凍)」
そんな状況を観客席で見て落胆に近い感情と憤怒の感情を覚えている一人の男がいた。
「(そのつまらないプライドを捨て早く左の力を使え!!オレの
現No.1に繰り上がってしまった男エンデヴァーは息子のあまりの体たらくに目を覆いたくなっていた。
オールマイトの実質的な引退宣言により変更されたチャート。
生涯目標だった男に勝つことが出来ず、その背に追いつくことも出来なかったエンデヴァーは
ならば、男と似た個性の持ち主である対戦相手の少女に自分の息子が圧勝することで擬似的な勝利を得れると考えていた。
だからこそ、敢えて勝負の前に少女の目の前に姿を現し、その調子を確認しようとした。
だが、そこで自分に向けて放たれた言葉がなぜか未だに忘れられないでいる。
「轟君は轟君です。エンデヴァーの息子でも、あなたの上位互換でもありません。轟君は轟焦凍という一人の人間です!!」
何を当たり前のことを言うのだろうと思った。
しかし、時間がたつにつれてその言葉がなぜか自分の心に深く深く突き刺さっていくように感じた。
「ねぇ、いつまでふざけてるつもり?本気で来なよ、そんなんじゃ私に勝てないよ」
全身からのエネルギーの放電が止み、冷たい視線を轟に向ける緑谷。
「黙れ!!オレは右の力だけで、母さんの力だけで優勝するんだ!!あいつを否定するんだ!!」
右半身に霜がつき真面に動くことすら困難になってきた轟。
緑谷の言葉にその瞳に憎悪の炎を滾らせ、緑谷へと氷を放つ。
「ヒーローはいつでも本気でなきゃダメなんだ!!君が意地張ったせいで助けられない人がいるかもしれないのに、相澤先生の生徒なのにそんなこともわからないの!!」
「お前に何がわかる!!あいつのせいでオレたち家族がどれだけ辛い思いをしてきたか!!何も知らないやつが踏み込んでくるんじゃねえ!!」
「恵まれた環境で、個性に恵まれて、何でも手に入った人が何言ってんの!!親に自分が原因で辛い思いをさせてゴメンて言わせて泣かせたこともない奴が何言っているの!!」
その言葉と共に蹴りを見舞う緑谷とかなりの勢いで飛ばされる轟。
「私は、去年まで“無個性”扱いだった!!私の知らないところでお母さんがどれだけ辛い思いをしてきたか、考えるだけで胸が痛い!!」
「だからなんだ、結局自慢じゃねえか!!」
「違う!!結局誰よりも“個性”に縛られてるのは当事者である私たちなのに周りに当たってかっこ悪いのは自分じゃないか!!」
「うるせえ!!だからオレは「君の“個性”じゃないか!!」
緑谷の叫びが木霊する。
会場に静寂が訪れ、誰も物音すら立てずにいた。
「お父さんの“個性”だとかお母さんの“個性”だとか言ってるけど、それは君の“轟焦凍”の“個性”じゃないか!!結局は君がどうしたいかじゃやないか!!」
緑谷の顔を涙が濡らす。
同じ頃、両手で顔を覆い2人の女性が違う場所で泣いていた。
自分の娘がこんなにも大きく成長していたことに喜ぶ緑谷引子、自分の息子に知らない間に憎悪しか残せなかったと悲しみの涙を流す轟冷。
「逃げるな、“轟焦凍”!!君は何になりたいんだ!!」
緑谷の叫びに轟の心の奥底に眠っていた母との思い出が蘇っていく。
「もうイヤだよ、お母さん」
母に抱きしめられ泣く幼い自分。
「そうだね、焦凍。でもね、焦凍はお父さんになる必要はないんだよ」
優しく、暖かく、労るような母の声色。
テレビにはオールマイトの活躍を伝えるニュースが流れていた。
「焦凍は焦凍のなりたいモノになりなさい。お母さんとの約束だよ」
轟の瞳の奥に母の笑顔が映り込んだ。
今まで忘れていた母の笑顔。
高校生になり、クラスメートに恵まれ、久しぶりに姉兄と話をして、ここ数年で始めて心を父の影を感じなかった数ヶ月。
ふと誰かの声が轟の耳に届く。
そこにはここにいないはずの姉と兄の汗だくで大泣きした涙に濡れた顔があった。
「焦凍、焦凍ゴメンね。全部押しつけてゴメンね。頼りないお姉ちゃんでゴメンぇ」
泣いているせいでうまく言葉にならない姉の泣いているはずなのに笑顔に見えてしまう顔。
「末っ子のお前に押しつけておいて、逃げ出して、かっこ悪い兄貴でゴメンな!!にいちゃんなのに助けようともしないで逃げてゴメンな!!」
久しぶりに見た兄の顔は記憶にあるよりずっと大人になっていた。それでも、そこには幼い頃にみた兄の面影があった。
「(あんた、お前)はなりたいモノになりなさい!!」
姉兄の言葉に母の面影が重なる不思議と左目から涙が流れる。
心臓に熱を感じる、まだやれる、誰よりも逃げていた自分にはこんなにも暖かい家族がいてくれた。
心臓の鼓動が高鳴る、ふと自然に左腕を真横に振る。
すると、轟の左腕から紅く煌めく炎が迸る。
「緑谷、待たせたな」
入学以来、もしかしたら母がいなくなって以来かもしれない。
「オレはオレの目指すヒーローになる!!」
身体の霜が消えるのと同時に長年凍てつかせていた心の氷が溶ける感じが轟の中でした。
「フン、不甲斐ないな焦凍」
「ヴァナータがそれをお言いでないよ」
エンデヴァーの真横、そこにはキャマバッカが優美に座っていた。
「あの2人を連れてきたのは貴様か、余計なことを」
「あーら、“あのこと”を引きずって怖がって家族に当たるような男に言われたくないわね」
エンデヴァーの象徴である焔が消える。
「オレはまだ間に合うか?」
「はん!そんなこと私が知るわけないっちゃブル」
「そうだな」
エンデヴァーを演じるしかなかった男、轟炎司は久しぶりに軽くなった気がした。
フィールドは緑谷と轟の戦いが佳境を迎えていた。
左側の焔を使うようになり、氷と焔による複合攻撃で緑谷を追い詰める轟。
フルカウルの維持が難しくなり、息切れし始めた緑谷。
「悪いな、緑谷。次が控えてるんだ。終わらせて貰う」
凍らしては溶かし、凍らしては溶かしを繰り返した結果、フィールドには大量の水があった。
そして、意地の悪そうな轟の笑顔に緑谷が何かを察して最後のフルカウルで阻止しようと走り出した。
「
その瞬間フィールドに氷の庭園が現れ一際大きな花の中に緑谷が閉じ込められた。
「白華絢爛」
その花の中にいる緑谷が動けないことを確認するミッドナイト。
「緑谷さん戦闘続行不可能と判断、勝者轟君」