火埜翔織という異物によるHEROACADEMYだ   作:完全怠惰宣言

44 / 79
44th

雄英高校体育祭1年の部もとうとう決勝戦という時、救護室では爆睡しているアホが1人いた。

つい数分前まで戦いにその身を文字通り燃やしていた火埜であった。

リカ婆もといリカバリーガール曰く

 

「気力とか何から何まで振り絞った結果、完全なエネルギー切れだね。燃焼限界超えていないのが奇跡だよ」

 

とお言葉をいただいている程である。

そんな彼女の城である救護室に近づく複数の影があった。

 

「「「「失礼します」」」」

「おや?あんた達、明日本番なのにこんなとこ来てていいのかい?それに、プロヒーローが3人もこんなとこに来ていてそれこそ大丈夫なのかい?」

 

「心配ないサー」

 

“サー”の掛け声と共に後ろを指差したのは通形ミリオ、そして指差された瞬間に偶然眼鏡に指が当たり不機嫌MAXになってしまったサーナイトアイ。

 

「ねぇねぇ、御姉様大丈夫?なんで起きないの?」

「“御姉様”って“若”のことだったの!ちょっと本気で考えようかしら」

 

一目散に火埜へと駆け寄り頬をプニプニと突っついている波動ねじれ。

そして、新人時代に色々とお世話になってしまった事務所のこれまたお世話になってしまった少年を目の前に何やら画策し始めたリューキュウ。

 

「まったく、無茶苦茶だな。この年の自分と比較すると本当に怖いな」

 

精神的に落ち着いているからか火埜から僅かに離れた場所で、グースカ眠る火埜を見て感想を漏らす天喰。

 

「なんや、イワさんとこの坊やないけ!こら、おもろいことになったな」

 

片腕に50人前はありそうなたこ焼きの箱を抱え件の人物の正体に少し驚くファットガム。

 

「なんだいなんだい、見舞いなら後にしな!まったくこんなことならいっそ燃焼限界越えてくれた方が楽だったんだかねこのバカ孫は」

 

お花摘みが終わったリカバリーガールが救護室に戻ると静かな筈だった自分の領域に6人も客か来ていた。

孫(扱いしている男の子)の頬をつっつく娘もいるが、いっこうに起きようとしない孫(扱いしている男の子)の状況を見て少し笑いそうになっていた。

 

「おばあちゃん、御姉様起きないの?」

「せめて先生と言いな小娘。まったく、試合の途中から目的変えたからって、本当にありとあらゆるエネルギーをギリギリになるまで使うなんて、自分を使い潰すようなやり方したおかげで燃焼限界手前で気絶しちまったじゃないか。今は起きるまで待つしかないね、表彰式には出れそうにないけど、今日中には起きるだろうさね」

 

まだなにか言いたそうな顔をしながら火埜を眺めるリカバリーガール。

 

「本当に心配ごとが多すぎて、困るねぇ」

 

 

決勝戦の音が聴こえてきた救護室には先程のメンバーとはまた別の人間がいた。

 

「火埜少年らしからぬ戦いだと思ったが、まさか本当に意地の張り合いだったとは」

「はん、俊典に似なくてもいいところが似ちまったな」

 

一般成人男性よりは筋肉質な体に戻れたオールマイトと両手にカスタードと粒餡たっぷりのたい焼きが詰まった紙袋を持ったグラントリノが愛弟子その2の顔を見に来ていた。

 

「本当にあんた達もバカだねぇ。そんなとこに立ってられてもこの子は起きないよ。今日はあたしゃとイワに任せてとっとと帰りな」

 

部屋の主からのありがたいご説法があったにも関わらず、グラントリノがベッドの脇に常設された机に紙袋を置くと2人揃って椅子に座り直した。

 

「まったく、寝てりゃ年相応のガキだな」

 

グラントリノがオールマイトと連絡も取らなくなって数ヶ月。

そんなある日、オールマイトの元相棒であるサー・ナイトアイ経由であったが連絡をもらった時は驚いたのを今でもグラントリノは覚えていた。

そして、元相棒との仲も修復の兆しが見えたある日、3人の子供を連れて少々痩せすぎのオールマイトが自身の事務所を訪れた時、言葉を忘れてしまうほどに驚いてしまった。

骨と皮だけの身体だったバカ弟子が、回復しているという事実と後継者とその協力者を鍛えて欲しいと連れてきたその日のことを。

そこからは、意外に面白く生活していた。

バカ弟子のリハビリと孫弟子3人の教育。

そして、孫弟子を本当に孫のように可愛がるような爺バカになるとは思わなかった当時の自分。

後継者ということもあってか、長い時間を共にした緑谷は完全に可愛いがってるし、火埜と爆豪も男だから話せる馬鹿話で盛り上がった。

ヒーローなんてやってきたから家族を持つことはなかったが、この歳になって孫弟子の家にお呼ばれされて家族扱いを受けるようになり、それを嬉しく感じるようになるとはグラントリノは思いもしなかった。

 

「お師匠、やはり火埜少年の個性はおかしいです」

「まぁ、本来何らかの“一つ”の特異性を発現した結果が“個性”であるならば、轟のところの小僧を例外にしても確かにコイツの“個性”はおかしい。まるで“脳無”のようだと感じたのはワシだけではないだろう」

 

グラントリノの漏らした単語に反応して、拳に力が入るオールマイト。

 

「じゃが、こ奴がAFOと接触した痕跡がない以上あれこれ言ってもしょうがないじゃろ。今日は幸せそうな寝顔を見れただけ良しとしよう」

「そろそろ、決勝戦も終わりそうですしね。それじゃ、私はメダルの授与がありますので」

「あたしゃも少し席をはずすかな。まぁ、決勝組もそこまで派手な怪我は出来ないだろうしね」

 

 

火埜が眠るベッドの脇に黒い靄が現れる。

その靄から2人の人間が姿を現す。

 

「ありがとう、黒霧」

「ふぅわぁ、寝顔がとてもキュートですぅ」

 

ストレートに治した白髪に真っ黒な改造白衣を着たを着た葬。

真っ黒なゴスロリ改造された看護服を着たトガヒミコ。

 

「残念だな、火埜君のあの濁った目が見れないや」

「でもでも、寝顔がとってもとってもキュートですぅ。これで血だらけならもっともっとキュートな筈ですぅ」

 

トガは心底残念そうに顔を歪ませる。

救護室には治療のための刃物すら置いていない。

それは、この部屋自体がそういった凶器に反応するセンサーが仕込まれているからである。

人のの悪意を電磁波としてとらえれる技術を応用して作られたこのセンサーがUSJ事件を機に導入されていると知り、2人は何も持ち込めずにいた。

 

「あぁ、火埜君。君は何て素敵なんだい。自分の正義を謡ながら心の奥底に僕らに匹敵する黒い黒い感情を携えて」

「もっと早く、あなたに会いたかったですぅ。そうしたら、トガは少しはまだこの世界が好きだったかもしれません」

 

寝顔を左右から眺める葬とトガ。

2人が行動を起こしたのは同時だった。

 

「「また、いつの日か。愛しい君よ」」

 

そう、呟くと火埜の“首筋”に噛みついた。

うっすらと血が出る首筋、その血をうっとりとした表情で舐めとる美少女。

 

「まったく2人揃って何やってんだい!セメントスが干からびちまったじゃないか!!」

 

決勝戦が終わり、運び込まれたのは個性の酷使で疲れきったセメントスだった。

ついでに様子を見ようと閉じられたカーテンを開けるリカバリーガール。

 

「あれ、ばっちゃん?おはよう」

 

自分が部屋から出た時に比べて少し血の気が抜けた火埜が目を覚ましたのはそれと同時だった。

 

とある街。

西洋騎士を思わせるコスチュームのヒーローが自身の個性の象徴である両腕を切断され気を失っていた。

 

「紛い者の割に、その魂は英雄と呼ぶに相応しい物だった」

 

手に持つ刃溢れだらけの刀を眺めながら男は自分が終わらしたヒーローを眺めていた。

 

「だが、オレ程度に負けるようなら、所詮は紛い者だったということか」

 

パトカーのサイレンの音が近づくのを聴きとり、男はビルの上へと駆け上がった。

 

「やはり、オレを殺せるのは本物だけ。お前だけだ“オールマイト”!!」

 

男の声は獣の遠吠えのようだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。