火埜翔織という異物によるHEROACADEMYだ 作:完全怠惰宣言
職場体験も順調に進み、残すところ2日となった。
「朝御飯ですよ」
「あら、今日は中華粥なのね」
「トーリ、キャロットジュースくれ」
「おねぇしゃま、おはよごじゃましゅ」
「あ、お茶も中国緑茶と烏龍茶だ。しかも温い」
「あぁもう聞いてよ、旦那ったら若に会いたいからって今日もリハビリさぼろうとしたのよ。治ればいつでも会えるのに」
「会社着て朝食のある風景、尊い」
リューキュウ事務所では恒例となりつつある朝のミーティングこみのトーリ朝食会が開かれていた。
「前から言ってるけど、今日は隣町で合同パトロールよ。てミルコ私の分の揚げパン残しておいてよ」
「ちっ、別に良いじゃねえか。あたしは協会の呼び出し行ってくる」
「おねぇ様のご飯美味しい。ねぇねぇ、隣町だと保須市に近いね」
「まぁ、その流れで馬鹿やりそうな連中への牽制ね。若、この間のレシピありがとう」
「若もサンドイッチありがとう。旦那拝んでから食べてたわよ」
「うちも、奥さんも含めて6人分のおにぎりなんて大変だったでしょ」
和気藹々と進むミーティング。
この中で、気になる単語が火埜にはあった。
「(“保須”かぁ)」
保須市を拠点として活動する“ノーマルヒーロー・マニュアル”へ職場体験に出ている飯田。
兄であるインゲニウムの件で一時期ヒーローの卵らしからぬ雰囲気を纏っていた。
職場体験前にその実兄から何かを言われたのか怒りを心の奥底に沈ませ、家族からの進めもあり本人の希望通りマニュアルのもとへと赴いたのだった。
そんなマニュアルの活動地域に関して飯田の考えを察した緑谷から伝播し、クラス全員から暴走禁止と言い渡されていた飯田。
猪突猛進気味で理性よりも感情で行動する所がある、そのあり方が悪い方向に行かないことを願いながら火埜は自分用の巨大な土鍋に作った中華粥を完食していた。
「おう、セブンス。美味しい林檎入ってるぜ!!」
「ありがとうおっちゃん。後で見に来せてもらうわ」
「「「「ひのにいちゃんこんにちわぁ!!」」」」
「こんにちわチビッ子ヒーロー達。今日も元気だな」
「あらあら火埜君。この間はありがとね」
「どおも
「おう色男!ピチスーハーレムかぁ?」
「お巡りさんあの人で「ゴメンゴメンゴメンゴメン辞めてぇ!!」
体育祭の影響も有るだろうが職場体験から数日、火埜はリューキュウのパトロールエリアでの認知度はスゴかった。
未だに学生だから弄られる様なこともあるが、それも愛嬌と対応するので人気も鰻上りであった。
「もう本当にガチで卒業後はウチに来てくれないかしら」
「むふぅ!!おねえさま人気者で私も嬉しい!!」
「しかし、セブンスは良く人見てますね」
「固いわけでもないし、かといって不真面目であるわけでもないし、口は回るし、人気も出るわな」
「若の外面サイコー」
ヒロコスがどう見ても“インテリ系のヤのつく自由業”や“海外系のマのつく自由業”を彷彿とさせる黒スーツに赤シャツ、所々から見えるアクセサリーに知的さをプラスするメガネ型サポートアイテム。
なにも知らないファッション系の雑誌取材に幾度となく捕まるが、それすらも口で上手く躱している光景を何度も見てきたリュウキュー事務所組は未だに馴れないその光景に思わず話し込んでいた。
「んむぅ?」
そんな渦中の火埜はパトロール初日で助けた移動販売のクレープ屋から貰った5人前クレープを幸せそうに食べていた。
その実年齢よりも幼く見える雰囲気に周囲が色々やられていることに気が付かずに。
「久しぶりだな、火埜」
「あぁ、元気そうだな轟」
ガシッと握手を躱すA組
その姿に周囲がスマホでの写真やムービー撮影をしているのが何とも言えないが。
「何か嫌なことあったか?」
「・・・・オヤジが急に近い」
「・・・・まぁ、がんばれ」
「なんか爆豪の方が
「それ勝己と
「なんでだ?」
「何をやってるんだ冰火!!さっさと来い!!」
リュウキューと話をしていたエンデヴァーの怒声に呼び戻される轟。
その時、火埜は見た。
エンデヴァーの瞳に輝く物があったことを。
「(流石に、同級生から父親認定されるのは勝己的にきついだろうし黙っとこ)」
「セブンス、私たちも今日は保須に行くことになったわ」
言ったら爆発するだろう幼馴染みの幻影に敬礼していた火埜にリュウキューから声が掛けられた。
「了解ッス“姐さん”」
「それ、本当に止めて。お姉さん泣くよ」
パトロール自体は何事もなく進んでいた。
轟と火埜という有名人がいるからか、何時もよりも人が集まってきてしまいそれらの対応に戸惑う轟を上手く火埜がカバーした結果、下手なアイドルよりもファンサしていた。
「(やはり、オレも“
「エンデヴァーはキャラじゃないんで止めといた方が良いっすよ」
エンデヴァーは息子とその友達の振る舞いを見て自分の行いを省みるが心を読んだかのようにツッコミを入れてきた火埜に驚愕していた。
「しっかし、なんかなぁ」
「なぁ、火埜」
頭をかきながら、夜にさしかかった空を眺める火埜。
そんな火埜に真剣な顔つきで話しかけてくる轟。
「ん、どした?」
「嫌な空気だ。USJの時みたいに何か悪意が空気に混ざり込んで全身に纏わり付くような」
USJ事件の経験、それは確実に1A生徒にとんでもない経験値を与えていた。
轟と同様に、火埜も確かに感じていた。
梅雨特有の水気を含んだ空気に混じった悪意を。
「ウォーターホースご夫妻無事で良かったねおじいちゃん」
「まったくじゃ、まったくあのような手合いは闘争欲求のみで生きているようで骨が折れる」
本日、グラントリノのチームアップに同行しその先で事件を一つ片付けた緑谷は新幹線内で着慣れ始めた制服で座っていた。
その隣にはスーツを着こなす小柄な老人グラントリノが座っていた。
繊維圧縮技術が発展したおかげでヒーロースーツの着用に時間が係らなくなった結果、私服で移動することが多くなったヒーロー業界。
2人もまた、移動中はヒーロースーツを脱ぎ一般客と共に席に着いていた。
素でおじいちゃんと呼ばれ喜んでいるグラントリノは最近益々緑谷家にお世話になっており、可愛い孫(女子)が2人に増えたことも手伝って嬉しさを隠そうとすらしなくなった。
そんな時だった。
「おい、なんか向こうで爆発したぞ」
2人の乗る車両の乗客、その誰かが爆発を目にし興奮したように声を上げた。
その時だった。
『お客様、何かに捕まり姿勢を低くしてください』
車両内に機械的なアナウンスが流れた。
どちらが声を掛けるまでもなく2人はコスチュームを解放し、ヒーローとしての姿になる。
そして、次の瞬間。
「っくしょう。なんなんだこいつは」
車両の天井を壊しながら1人のヒーローが通路に叩きつけられた。
ヒーローを叩きつけた細く毒々しい緑色をした腕は、再びヒーローを持ち上げると車両の壁へと叩きつけた。
いつのまにか止まっていた新幹線は壁を破壊され、ヒーローは線路脇の防音壁に叩きつけられる。
のっそりと車両に入ってきたヴィラン、その姿を見たグラントリノと緑谷はいち早くその正体に気が付いた。
「「脳無!!」」
その言葉と共に顎を高速で蹴り上げるグラントリノ。
「静空!!避難誘導せい!!」
その言葉と共に脳無を車両から蹴り飛ばし防音壁すらも蹴り抜き街へと落ちていくグラントリノ。
「っ、皆さん慌てずにその場から動かないで」
動き出そうとする身体を精神で押さえつけ、車掌が来るのを待つ緑谷。
敵の排除も重要だが、何よりも今ココに残っている人命を守ることこそ彼女が今一番やるべき事であると認識していたからであった。
そして、避難誘導を車掌と終えて外に出て彼女の見た光景。
「なんだ、これ」
そこは紅蓮の火の海が広がっていた。