火埜翔織という異物によるHEROACADEMYだ 作:完全怠惰宣言
ビルとビルの隙間。
表ではヒーローと警官隊による脳無との戦闘音と一般市民の悲鳴が木霊している。
「GYAaaaaaaaaaaa!!」
コウモリのような皮膜を利用して空を飛ぼうとした脳無。
その両腕の翼を不規則に加速する弾丸が貫いていく。
その脳無を見ると左脚は焼け焦げ炭化しており再生できておらず、身体にも少なくない風穴が空いていた。
「ははは、五月蠅いなぁ。まだまだ
そんな脳無に対して狂ったように笑いながら、濁った瞳を向ける火埜。
脳無が口から棘を発射して攻撃してくれば盾で防ぎ、最も致命傷にならないマガジンを選択して攻撃を続けていた。
その結果、脳無は徐々に逃げることを諦めたかのように後ずさりをするようになっていた。
「えぇ、もう終わり?早く攻撃してきなよぉ、ほらコレもホルスターに戻すからさぁ」
そう言ってホルスターに銃を戻した火埜の両手には漆黒に燃える焔が浮かんでいた。
「ほら、お前らは死ににくいんだろ?じゃ、大丈夫でしょ?ほら早く、ほらほらほらほらほらほら」
髪を掻き上げた火埜の顔、そこには無邪気に玩具で遊ぶ子供のような無垢な笑顔が貼付いていた。
しかし、その瞳には誰しもが寒さを覚えるような極寒の殺意が焔のように燃えていた。
「あぁ、もうイイや」
そう言うと両腕の焔を握り消し再び銃を構える火埜。
明らかに戦闘行為が出来ない意思もない脳無に対して銃口を向けた。
「それじゃ、し・・・・」
トリガーに掛かった指に力を入れるのと同時に火埜は意識を失い倒れた。
「GYASYA?」
脳無は指先で気絶した火埜をつつく。
反応がないことに醜い笑みを浮かべる脳無。
空へと飛び上がり、安全圏に着くと口から無数の棘を発射して火埜を殺そうとした。
火埜が倒れていた道路には無数の棘が突き刺さり、それによって生じた砂煙で火埜の姿は見えなくなっていた。
「GISYAaaaaa」
姿が見えない火埜に対して優位を確信しますます笑みを浮かべる脳無。
「【あらら、本当に思考が短絡的なんだね】」
すると、脳無の後から声が聞こえてきた。
急ぎ振り向く脳無の視線の先。
そこにいたのは。
「【まったく、子供相手にここまでするかね】」
月光を浴びて夜に栄えるサラサラの銀髪。
背中から銀色に輝く焔の翼で空に浮くヒノの姿であった。
「【やれやれ、“オレ”が出てくるって事は相当だったんだな】」
ヒノはそう言うと左手に焔で出来た弓を作り出した。
その刹那、脳無は“逃げ出していた”。
脳無自身、意識がないにもかかわらず奥底に沈められた生存本能が彼を逃走という行為に走らせたのであった。
「【無駄だよ、“オレ”が表に出てきた段階で君に生存の可能性は無いんだから】」
弓を引き絞り、遙か先を飛ぶ脳無へと狙いを定める火埜。
「【
その言葉と共に右手を弦から離すヒノ。
それと同時に弓は姿を消し、巨大な銀色の焔の鳥となり脳無を貫いた。
「GISYAaaaaaaaaaaaaa」
「【死してなお徒に生かされる者よ、ゆっくり眠りなさい】」
叫び声を上げる脳無だったが、焔に包まれると叫び声は聞こえなくなり、穏やかに目を閉じた。
そして、焔が破裂するとそこには脳無がいた痕跡は全て消え去っていた。
「【AFO、早くなんとかしないと。翔織くんのためにも】」
「おねえぇぇぇぇぇぇぇさまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ヒノが下を向くとネジレチャンを筆頭にしたリューキュウ事務所の面々が手を振っていた。
どうやら街への襲撃は抑えることに成功したらしい。
「【ふぅ、疲れたなぁ】」
そして、また別の方向を向くヒノ。
「【“あっち”も無事終わったっぽいな。それじゃ、“コレ”は今は持ち帰るからゆっくりと休みなよ“翔織”くん。ねじれちゃん、この身体抱き留めてね】」
そう呟くとヒノの背中から銀色の羽根は消え去り、身体は力を失ったように脱力していった。
「ふぇ!?おねぇさま!?」
ネジレチャンが急いで空を飛び、火埜を回収に飛んでいった。
そして、その姿を遠くビルの屋上から見つめる少女がいた。
「あは、やっぱりイイね。火埜くんは」
「ねえちゃん、なんだよあいつは。なんなんだよ“アレ”は!!」
死柄木姉弟は全てを見ていた。
黒い焔を操る、どことなく自分たちの“先生”を連想させる雰囲気の火埜も。
白銀の焔の翼で空を飛ぶ、大人な優しい雰囲気の火埜も。
「火埜くんは私の計画のラストピースになるかもしれない子。そして私とトガちゃんの旦那様」
「はぁ!?何言ってんの!?」
「取り敢えず戻るよ」
「ねえちゃん、ちゃんと説明しろ」
「(またね、火埜くん。“私たち”の王子様。“私”のラストピース)」
ワープゲートを通り抜けるその一瞬、葬の顔に写っていたのは年相応の少女の顔であった。
火埜は気が付くと病院のベッドの上にいた。
「お、火埜君も起きたか」
「無事か、身体は痛むか火埜?」
「・・・・、ほぇ?」
右隣には両腕を包帯で固定された飯田が。
左隣には点滴を受けている以外目立った外傷のない轟がいた。
「えっと、どういうこと?」
むくりと起き上がり2人の顔を交互に見ているとバサリと何かを落とす音が聞こえた。
「お」
そこには両手で口元を押さえ目に涙をためる波動がいた。
「お゛ね゛え゛さ゛ま゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛」
「抱きつくのは良いけど力緩めてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
大粒の涙を流しながら火埜に渾身の力で抱きつく波動。
起き抜けだからか身体がなまっていたのか身体中の骨が軋む音を立てる火埜。
「あ」
そして、ドアの向こうに見知った幼馴染みが入院着を着て立っていた。
「と゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛く゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ん゛ん゛」
「落ち着けシズ!!パワーラインがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
感情が高まりOFAの力が漏れ出している緑谷渾身のハグ。
それがトドメとなったのか火埜は再び意識を失った。
「んぁ?」
気の抜けた言葉と共に意識を取り戻した火埜。
「いつ目を覚ますか解らなかったし、綱手先生からも精神的な負荷が原因だって言われてたから。でも気絶するほど抱きしめちゃダメよ」
「確かに、火埜の坊主は耐久性皆無のカミソウコウ?とか言う奴らしいからのぉ。静空も加減してやなきゃだめじゃろうて」
「「ごめんなさい」」
「・・・・・うん夢だ」
「夢な訳ないだろうがこの馬鹿者がぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「エンデヴァーさん病院では静かに!!」
―というわけで―
「で、本当に何も覚えてないのね若」
「うぃ、たつねぇ。てか久しぶりにたつねぇの私服見たけど相変わらずの美人さんだね」
「流れるように口説くな火埜の小僧」
現在、病院で大声を出し看護師長に説教されているエンデヴァーをよそに轟を送り出してからの事情聴取をされている火埜。
なお、その横では売店から買ってきたであろうお菓子やお弁当、おにぎりサンドイッチといった食事類のゴミを片づけるリューキュウ事務所の面々とそれを嬉しそうに介護している波動の姿があった。
「いや、轟を送り出してから“アレ”の素体になった奴の当たりつけてからちょっと闇落ちしたけどそこからの記憶が全くないんすよね」
「はい、おねえさま餡蜜」
「それじゃ、彼女たちが見た銀色の翼に付近で目撃された黒い焔についても」
「まったく、見当つきません」
用意された個室にて保須警察署の署長であり火埜の幼少期から知っている面構直々に事情聴取を受けている火埜。
そして、彼の一言に波動以外の面子から盛大にため息が漏れる。
「まぁ、覚えていないのなら仕方が無い。明日精密検査が終わるまで退院は出来ないが今回の件は恐らく君の“個性”に関わることだ」
「うぃ、ちゃんと検査受けます」
そう言って波動に抱きつかれて火埜は出て行った。
所変わりキャマバッカ事務所に隣接する病院、「蛞蝓診療所」にて火埜の検査結果を見てため息をつくのは火埜がイワさんの義息子になる以前からの掛りつけ医である「千住綱手」。
「こんなことあり得ない筈なんだがな」
彼女の手に握られたとある検査結果。
そこにはとある因子に関わる数値が書かれていた。
「去年よりも焔の出力が上がっているのに、個性因子の総量が減っている」
その呟きは誰に聞かれることもなく消えていった。