火埜翔織という異物によるHEROACADEMYだ   作:完全怠惰宣言

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取り敢えず、林間学校編終了


62th

爆豪勝己が目を覚ましたのは病院のベッドの上だった。

自分の心配をしたであろう母親がベッドに突っ伏して眠っている。

自分以上に勝ち気な母の頬に涙の流れた跡を見つけ罪悪感を覚えると共に、現状を認識した彼は徐々にとある感情に支配されていく。

 

「ちくしょう」

 

涙が自然とこぼれ落ちる。

拭うために上げた右手はずっと握りっぱなしだったのだろう硬直していた。

その現実が爆豪を更に悲しみへと突き落としていく。

 

「また、助けられなかったのかよ」

 

その声が聞かれることはなかった。

爆豪の頭には自分が意識を失う前の光景が徐々に思い出されていった。

 

闇霞を名乗る敵を前に本能的に生徒達は動けなくなっていた。

彼が現われるのと同時に降り出した雨を拭うことも出来ず、誰も動けなくなっていた。

プロヒーロー達もまた、同様であり気絶し明らかに重症であるクラウディーホープとフワフワシープの救助もままならない、そんな時であった。

森の中から天を貫く様な火柱が上がり雲が晴れた隙間から星と月が見えたが、その光景はかえって彼らに焦燥感を覚えさせていた。

 

「あぁ、遂に完成されたのですね」

 

闇霞だけが、感動に打ち震え両手を空に向け、何か新たな誕生を祝福するように固まっていた。

 

「あれは、本当に翔織の焔なのか」

 

長い時間、共に修練し方向性は違えど一人の少女を愛し続けた無二の親友の““個性””を爆豪は見間違える筈なかった。

しかし、そんな爆豪でも言いきることができない理由。

見慣れた焔はどこまでも煌めく空の天候のような暖かさがあった。

しかし、火柱となって空に立ち上った焔はどこか暗く見ているものに恐怖を与えるように見えた。

 

「おや、あの方の焔を見間違うとは爆豪さんは本当に何も“知らない”ようですね」

 

見慣れた筈の焔、しかし感じ馴れた温かさは無く、ただただ見た相手に恐怖を与えるような炎を前に闇霞は感慨深そうにしていた。

 

「あ゛あ゛あ゛、ンだとコラァ!!」

「しかし、なんて美しい“黒”なんだ。あれがあの方の本来の炎」

「こらこら、あまりこの子とを話さないでくれないかい闇霞?」

 

暗い暗い森の奥からまるで悪戯っ子を嗜めるような声色でなにかを通したようなエコーのかかった男性の声が聴こえてきた。

その声を聴いた瞬間、生徒達は“全員”、心が折れる音が自身の心が折れる音を聴いてしまった。

 

「まったく、君は少しお喋りなようだね」

「申し訳ありません、ご主人様」

 

暗い暗い森の奥から現れたのは特徴的なフルフェイスマスクを被った大柄な存在。

顔が見えないため、判別に苦しいが体格的に男性だと思われるその存在は悠々と森の中から歩いて出てきた。

そして、その場で意識を保っていた全員の視線がその存在の右手から延びる鎖のようなモノに集まった。

右手から延びる鎖のようなモノは未だ森の中に延び続けているが徐々に右手に戻っているように見える。

そして、薄暗い森の奥から現れた存在に爆豪と緑谷はその存在の状態を認識した瞬間。

 

榴弾砲着弾(ハウザーインパクト)!!」

「シュートスタイル・空中砲撃脚(エアストライク)!!」

 

無表情で目の前の存在を“敵”と認識し攻撃を仕掛けていた。

 

「!!っおい、あれ」

 

二人の攻撃で木々が破壊され露になった存在に上鳴が思わず息を飲む。

そこにいたのは鎖状のモノに貫かれそのまま縛り上げられながら、それでも壊れ物を扱うように丁寧に空中に浮かべられながら運ばれた来た傷だらけで血塗れになった意識を失った火埜だった。

 

「ふふふふ、危ないなぁ。先生達にプロヒーロ諸君、子供達を守りたいなら今の状況で“僕”に攻撃を仕掛けてくるのを止めなきゃダメじゃないか」

 

その口調は出来の悪い生徒にたいして優しく諭すようであった。

しかし、溢れだす雰囲気から自身がこの場で一番の上位者であるという完全な上から目線であることは明らかだった。

そして、その傲慢さは自身から漏れ出す殺気として周囲に垂れ流されている。

 

「ご主人様」

「ん?おっとコレは失礼。あまりのことでついつい威嚇してしまったよ。みんな大丈夫かい?」

 

明らかに解っていて、それでも気遣うような大人な対応。

だが、言葉の端々に立ち居振る舞いに我が儘な子供のそれがにじみ出している。

そんな目の前の存在は以前、オールマイトと共に行った雄英襲撃、その主犯のプロファイリングとも一致する。

 

「お前、何者だ」

 

捕縛布を握りしめつつ生徒と負傷者の前に立つ相澤。

“個性”の関係上、サポート役に回ることの多い彼だが、その気質と冷静さ、“個性”も相まって彼を主軸に動こうとしている。

 

「ん?君ほどのヒーローが僕のことを知らないはずないだろ」

「あぁ、お前がオレの想像通りならこんな最悪なことはない」

「ふふん、“個性”を使って僕を止めようとしているのは良い判断だけど可笑しいとは思わないのかい?」

 

相澤の“個性”、「抹消」。

凝視している間、視た者の“個性”を抹消する“個性”。

「発動型」と「変形型」の“個性”の持ち主には能力が通じるが、能力が身体的特徴に表れている「異形型」の“個性”には効かないがここで問題なのは“個性”を使用しているにも関わらず、指から伸びる鎖状の物体が消せないのである。

相澤の背中に嫌な汗が流れるのと同時であった。

 

「「後ろを振り向かないことをお薦めするよ先生、可愛い生徒達が心配ならね」」

 

目の前の存在から発せられる声と全く同じ声が全員の真後ろから響いた。

 

「「便利だろう「屈折」、「蜃気楼」、「幻影」の“個性”を同時に使用しているからこんな風に騙すことも出来るんだ」」

 

気配は両側からする、しかし自分達の目の前の存在から徐々に生物が放つ気配のようなものが消えていき、声も聞こえなくなっていった。

 

「まさか、僕の気配“だけ”をワープさせるなんて、僕の執事は凄いなぁ」

 

真後ろから放たれるようになったプレッシャー、そのプレッシャーを放つ存在に褒められた闇霞は嬉しさを滲ませつつ、謙遜した態度をとる。

 

「勿体無いお言葉です。あなた様の執事たる者この程度のことができなくてどうします」

 

謙遜したようで尊大、自分が傑作であると疑わない、そんな言葉を態度にしながら闇霞は優雅に一礼する。

 

「がふ」

「おや?思ったよりダメージが残っているね」

 

意識が戻ったのか血を吐く火埜に対してその存在はまるで我が子を慈しむ親のように火埜の頭を撫でながら貫通させていた爪のような何かを引き抜きつつ拘束を変える。

生気の宿っていない瞳を開けながらも焦点が定まっておらず、意識も朧気な火埜のようすを確認した相澤は流れる汗を拭うと意を決して話しかけた。

 

「今さら、何が目的だ。その子の“個性”が目的ならもう既に奪っているバズだろう」

 

相澤の言葉に愉快そうに笑い声を上げるその存在。

しかし、余程彼にとってのツボだったのか嗤うだけでいっこうに答えようとしない。

その姿に本来気が短い相澤は怒りを抑えようとはしなかった。

 

「笑ってないで答えろ!!オール(A)フォー(F)ワン(O)!!」

 

名前を叫ばれたAFO、マスク越しなのにも関わらずその顔には嫌らしい笑みが浮かんでいるようにその場にいた全員が感じていた。

 

「あの時からまるで成長していないなぁ、相澤消太君はぁ」

 

それが正解であるような他人の神経を逆撫でするような言い種にプロになって以来久方振りに沸点を越えそうになった。

 

「イレイザー!!」

 

ブラドキングの叫び声、そして相澤の死角に伸びる先程から火埜を拘束する鎖のようなアンカーをブラドの血が防いでいた。

 

「本当に君は変わらないなぁ、普段は冷静そうに見えて実は激情家なところはイワに似たのかな」

「黙れ、さっさと質問に答えろ」

 

ブラドキングの好プレーにより冷静さを取り戻した相澤が再びAFO に問いかける。

 

「ふふふ、良いだろ。たまにはご褒美を上げないとダメだよね、僕にとっの“黄金の果実”が2つも完熟してしまったからさ」

 

そう言うとAFOは愛おしそうに火埜を再び撫で始める。

 

「“個性”が統合され「不死」へと至れる「不死鳥」の“個性”、そしてそれに耐えきれる器、望んでも早々見つからない2つの黄金の果実が完熟したから収穫に来たんだ」

「“黄金の果実”だと」

「まぁ、計算外なのはただの“器”でしかなかったこの子が10個近い“個性”を受け入れられる大きくて強固な“器”に成長していたことかな?そのせいで、この場で“個性”の摘出が出来なくてね色々と準備が必要になってしまってね。悪いけどこの子は連れて帰らせて貰うよ」

 

そう言うといつの間にか闇霞が作り出していた霧状のワープゲートへ向かって歩み始めるAFO 。

 

「あぁ、断っておくけど僕らを追おうとしない方がいいよ。僕が今回、他にもほしい個性に目もくれず帰るのはさっき意識を取り戻したこの子(火埜翔織)が僕を攻撃し続けているからなんだから」

 

その言葉に驚くプロヒーロー達だったが、先程からAFOに立ち上る赤いオーラが見間違えなどてはなく、捕らえられている火埜が殺傷能力の高い“分解”の力を持った嵐の焔を自分もろとも断続的に放ち続けることでAFOが自己修復系の“個性”に“個性”制御のメモリを割くように仕向けていることが解ってしまった。

 

「それじゃ、脳無達も戻ってきた事だし帰らせて貰うよ」  

 

爽やかにそう言い放つとAFOはゲートへと歩き始める。

 

「・・・ってよ」

 

その時、恐怖で動けない筈の生徒達の中で誰かが声を上げた。

 

「翔織を、オレの幼馴染みを」

 

プロヒーローですら反応できなかった、否“その場の誰もが”反応できなかった速度でAFOへと突進した者がいた。

 

「還しやがれ!!」

 

本来、爆発する筈の彼の両手には光輝く光珠が生み出されており、いつもの爆破による推進力など比べ物にならないくらいの速度でAFOに担がれぐったりとした火埜へと手を伸ばす。

あまりの速さでさしものAFOすら反応できず、爆豪のその手が火埜の腕を掴もうとする。

身体が半分以上ワープゲートに沈んでしまい反応できないAFO。

そして、爆豪の手が火埜の腕を掴むはずだった(・・・・・)

 

「悪い、勝己」

 

爆豪のなにも包まれていない手はオーラ化させた(・・・)火埜の腕をすり抜けてしまった。

 

「   、   」

 

いつも観てきた幼馴染みの笑顔と囁かれる言葉。

人に安心感を与えるその笑顔と言葉に爆豪を拒絶し火埜はワープゲートへと消えていった。

 

「あ」

 

勢いを殺しきれず地面へ投げ出される爆豪。

自身の手に視線を落とすが、そこには爆豪が望んだ結果(火埜翔織)は存在しなかった。

 

「あぁ」

 

爆豪の冷静な部分が囁く。

 

【あの場で腕を掴んでいたら自分も連れていかれてしまった筈だ】

 

爆豪の脳裏に火埜の言葉が甦る。

 

【静空を、頼むよ】

 

「ああああああああああああ!!」

 

自分の掌を見つめ声にならない声を上げる爆豪。

彼の瞳から涙が溢れ堕ちるのと同じくしてその場に雨が降り始めた。

まるで、爆豪の喪失感を空が感じたように大雨となって。

 

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