火埜翔織という異物によるHEROACADEMYだ 作:完全怠惰宣言
後悔するかも知れないけど今はありません!!
暖かな“黒い繭”に包まれるような感覚に身を委ねながら、久しくなかった安らぎに眠さを覚える。
何か“大事なこと”を忘れているはずなのに、この繭に包まれているとどうでも良くなってくる。
周りが煩い、もう放っていほしい。
“オレ”に関わろうとするんじゃねえ。
「ぶはははははは」
巨悪という言葉が似合いそうな眼前の男を前にオールマイトは苦戦を強いられていた。
全盛期、とまではいかなくても自分の年齢を考慮したら十二分に通用する筈であった。
「無様、なんだその醜態は!!君はこんなに弱かったかなオールマイト!!」
「くっ、“オール・フォー・ワン”!!」
しかし、チームオールマイトとしての予測はあまりにも残酷に覆されてしまった。
そして、オールマイトが“オールフォーワン”と呼んだ男の周囲はまさに地獄絵図であった。
敵連合の主犯格とされてきた死柄木姉弟がズタボロの状態で放置されており、彼らの仲間と思われる少女と異形の青年、マスクを被った少年に闇霞に背中から貫かれ呆然と立ち尽くす黒霧。
「あぁ、この子達のことは気にしないでくれたまえ。これは“教育”なんだ」
“黄黒い焔”を身に纏い、口しか解らなかった顔にはしっかりと人間の顔が再形成されており、背中から放出される“漆黒の焔”で形成された翼には畏怖と神々しさがあった。
「ボクに逆らうなんて、なんて悪い子達なんだ」
相手の“個性”を奪うためで無く殺傷するために形成された爪は彼の言う子供達を貫き、未だに捉えて離さないでいた。
「全く、主を裏切るとは流石は“失敗作”と言ったところだな“兄上”」
「あ、ががが、が」
黒霧を覆う靄が小さくなるにつれて闇霞を覆う靄が濃くなってゆく。
明らかに黒霧から“個性”を吸収しているその光景は非道く醜悪であった。
「しかし、流石のオールマイトも考えが足りなかったようだね。抽出し続けている今、“個性”の主導権がまだ火埜翔織にあるとでも思ったんだろう?甘いんだよな、抽出のために繋がり続けていることで“不死鳥”の“個性”、その主導権は既に僕のものなんだから」
邪悪とは彼のことを指し示すと言わんばかりの醜い笑顔を浮かべたAFO。
オールマイトが駆けつける前に対応に当たっていたヒーロー達はズタボロに去れワザとゴミのようにその辺に転がされていた。
そして、オールマイトは気がつく。
“個性・不死鳥”その真の恐ろしさを。
「まさか、そんな“個性”が実在するなんてな」
苦笑いを浮かべながらも怨敵から目を離さないでいるオールマイト。
その頬を汗が流れ落ちていく。
「“個性を焼失させてしまう個性”が存在するなんて」
身体から余分な力が抜けていくのが解る。
それは、元々自分のなかに存在せず、後付けされた力だったからなのか身体から余計な力みも一緒に消えていく。
しかし、何故だろう。
その「余分な力」が抜けて幾度に心にも穴が空いていくような、そんな感覚に教われるのは。
なぜだか、わすれてはならないことをわすれていってるきがするのはなぜなんだろう。
「そうさ!!この力こそが“死”を遠ざけるはずの“不死鳥”の力と相反するこの力こそ、僕にとっても
この力があれば、僕は最強の魔王にまた戻れる!!
お前なんかただのゴミクズとしてその愚かな残火と共に始末できる」
AFOのちょうど真後、左手の中指から伸びる爪に接続された機械の中には今回の救助対象である火埜翔織が奇妙な液体の中に浸かった姿があった。
「火埜、少年」
OFAの残火が消えていくのがオールマイトも解るほどであった。
しかし、手を伸ばさなければならなかった。
その少年は自分の友人だった夫婦の愛息子で。
その少年は自分を1人の存在として見てくれる友人の愛義息子で。
その少年は自分と親友に相棒との間を取り成してくれた恩人で。
その少年は自分がここまで活動できるように治療に協力してくれた恩人で。
その少年は少年の友人と共に自分の過ちに気が付かせてくれた存在で。
その少年は自分が護り、育むべき未来のヒーロー達の1人なのだと。
『笑え!!俊典!!』
暗転する意識の中、今はもう遠い昔のような光景が思い起こさせられる。
師から“
誰かの役に立てる喜びが先行してしまい、甚大な被害を引き起こしかけ心が折れそうになったその日、先代OFA所有者であった師に言われた。
『くじけそうな時も、折れそうな時も“笑え”!!おまえの笑顔こそ“平和の象徴”なんだ!!』
そう、自分は
そんな自分が
きっと、それには意味がある。
そう自分に言い続け全力で駆け抜けた数十年だった。
「だからこそ、今ここで折れるなんてダサい選択肢は有り得ないんだよな、
残火が微かに黄色く燃え上がる景色をオールマイトは幻視した。
いごこちがいいこのばしょをこわすいっぱいのなにかをかんじる。
じふんをよぶなつかしいこえがきこえる。
むかしきいただいすきなふたりのこえがきこえる。
むかしゆめでなんどもきいたおとこのひとのこえがきこえる。
『目を醒ませ!!翔織!!』
『あんたは、こんなとこで終わるような子じゃないでしょ!!』
『まったく、いつまでこんな不気味なとこにいるつもりなんだい君は』
こえが、ちかくにかんじる。
じぶんはしっている。
このこえは、この声は。
『とおさん』
あの日、自分と母を護るように覆い被さり燃えさかる焔と黒い鎗から自分を護り死んだ父。
『かあさん』
あの日、朦朧とする自分を護るためにその小さな身体全てで包み混んでくれた母。
『おじさん』
ある日、壊れる寸前だった自分の前に突然現われた自分が大人になったらきっとこうなるんだろうなと思わせる男性。
3人が黒く濁ったドブ川のような何かから自分を引きずり出してくれていた。
AFOは自身の身体からあふれ出る漆黒の焔に酔いしれていた。
だからこそ、気がつけなかった。
『やっぱり、邪魔だな“僕”』
そう、己の中から漏れ出した声と共に自分に万能感を与えていた漆黒の焔がズルリと引き剥がれていく。
「な、なんだ!!何が起きている!!」
オールマイトの目の前で不可思議な現象が起きている。
漆黒の焔で援助に駆けつけたエンデヴァーやミルコといったランカーヒーローを軽々と退け、不遜な態度で笑っていた宿敵。
そんな宿敵からあふれ出していた漆黒の焔が突如としてより燃え上がり、人の形を取り始めた。
『邪魔なんだよ、君は“僕”だけど“ボク”たり得ないんだよ。君だとまた取り逃しそうだから“ボク”がちゃんと魔王になってあげるから君は休んでいなよ“僕”」
数秒後、そこには肩で息をしてる少し若返った様に見える宿敵“AFO”と燃えさかり続ける人の姿をした焔のような明らかに全てを見下した“AFO”が存在していた。
黒く淀んだ物体から引き剥がされた火埜の目の前には2人の男女がいた。
『大きくなったな翔織』
我が子を慈しむように生前では見られなかった柔らかな笑顔を見せる男性。
“激獣ヒーロー”ビーストアーツ、火埜獣造。
『こんなに立派になっちゃって』
記憶に焼き付く朗らかで温かな笑み、目の前の存在を目一杯慈しみたいという気持ちに溢れている女性。
“色彩ヒーロー”カラフルパレット、火埜彩命。
2人は火埜を抱きしめる、今まで抱きしめられなかった分を取り戻すかのように強く優しく。
「とおさん、かあさん。会いたかった」
『ずいぶんと素直に育ったな』
『イワが良い親してくれてた証拠ね』
理解が追いつかない火埜だが、自分が普段“個性”を使った時のような感覚を身体に覚える。
「オレ、死んだんだね」
『いや、その手前ってところなんだよね』
火埜の面影がある男性、日野透吏がドブ川のような何かを燃やしながら喋りかける。
『“ここ”は解りやすく言うと魂の世界、肉体の干渉を受け付けず魂が直接遣り取りできるあの世の手前ぐらいの場所であり、翔織君の世界とも言える場所』
「オレの世界?」
『そんでもって、このドブ川のような何かはその昔、君に偶然植え付けられたAFOとかいう奴の意識の一部であり、君の“個性”である“火の鳥”の大本』
日野透吏の言葉に火埜は気がついてしまう。
それは忘れた記憶、否“忘れようとしていた記憶”。
「やっぱり、オレは」
『そう、君は“無個性”だ』
長い歴史の中で始めたかも知れない現象をオールマイト達は目撃していた。
「さて、弱い“僕”は無視して“ボク”と遊ぼうじゃないかオールマイト」
「黙れ!!お前は“僕”の“個性”だろう!!なぜ僕に刃向かう!!邪魔をする!!」
態度から余裕を感じる焔のAFOは焔を操り黒いスーツを作りあげ纏う。
その姿はどこにでもいる普通の男性のようであった。
しかし、明らかに違う箇所があった。
「だって“僕”弱いんだもん、そんなんじゃまたオールマイトに負けるだろ?だったら“ボク”が変わりにアイツを殺してあげようって言う親切心だよ」
目、笑顔を浮かべていても自分以外の全てを見下し蔑むその目がオールマイトを含めその場で意識を保っている存在達は潜在的な恐怖を懐かせていた。
そんな中、焔のAFOに対して別のモノを感じ取っている存在がいた。
「ねえちゃん、いきてるか」
「てんこ、しゃべるげんきはありそうね」
志村姉弟、この2人だけは目の前の怪物に対して別の何かを感じ取っていた。
「やっぱり、だよね」
『正確には“無個性”になっただね。病院の検査の際に君が持っていた“個性”は抜き取られ【空の器】となった君、そこに重傷を負い“個性”の制御がおぼつかなくなったAFOによってオヤジさんとオフクロさん、それと奴の中にあった複数の“個性”が混じり合って君の中で“火の鳥”という“個性”が生まれたんだよね』
「じゃあ、おじさんもその【“個性”の残渣】なの」
火埜の言葉に何かを考えるように腕を組む日野透吏。
『誤解上等で言わせて貰うけど、オレは本当に君“火埜翔織”なんだと思う。“個性”という異能が存在しない世界に生まれて面白くも可笑しくも無い人生を生きて、その中で小さな幸せと共に生きてきた存在“日野透吏”というほぼ同一の存在なんだと思う』
「はは、訳わかんねえ」
『だよな、恐らくオレはオレが生きてた世界にとって規格外だったんだと思う。この世界で言う“個性”に似た力を使えるオレは』
「“個性”に似た力?」
『オレは死んで、何の因果か君の中に現われた。その時に君のご両親と一致団結して君の本来の力を核にしてこの不気味な何かを覆って“個性”のような力を作り出した』
「それが、オレの“個性”の“火の鳥”」
『そういうこと、でここからが本題なんだけどオレら3人そろそろ消えるんだわ』
「え?」
唐突な発言に笑顔が消える火埜。
『AFOがお前から“個性”を奪ったつもりなのだろうが、残ったこのヘドロのようなモノも含めてオレ達はお前の本来の力を封じるために残っていた』
『あなたが、この力のことを理解して、正しく使いこなすために私達が貴方が持つ本来の力を制御していたの』
『だけど、AFOに“個性”を奪われてことで君は君本来の力を使う準備が出来たんだ』
「でも、でも使い方なんて『今まで使ってきただろ』
父の厳しくも優しい瞳に射貫かれ火埜は思い出す。
『“火の鳥”に転化する時以外に力を使う時、確かにお前は“この力”の本質を理解していた』
そう言うと火埜獣造は右手を火埜の身体の中心に置く。
『“覚悟”出来てるんだろ?』
『もう、一緒に居られないけど、ずっと貴方のことを見守ってるから』
『おじさんはどうなるか解らないけど、まぁ気楽にいくさ』
自分を見守り続けてくれた3人の存在。
火埜は薄々気がついていた。
でも、それを言葉にすると、3人が消えてしまいそうだった。
だから、誰にも言えず自分も気がつかないフリをしていた。
「・・・・・・、父さん、母さん、透吏さん。オレ行くよ」
その言葉に3人は笑みを浮かべる。
「みんなが待ってくれてるんだから、それに“あれ”の駆除はオレの仕事なんだろ」
16年生きてきた中で一番の笑顔でヤバい発言をする火埜に3人は声を出して笑ってしまった。
『お前に押し付ける形になるのは心苦しいがな』
『でも、翔織。お母さんはあんたがあんなにハレンチに育つなんて思ってなかったわよ』
『ちゃんと答えてだけはあげなよ』
「消える前の言葉がそれかよ」
4人の笑顔と共にその空間は白く暖かい光に包まれていった。
最初にその異変に気がついたのは一番遠くに倒れていたグラントリノだった。
火埜が入れられたカプセルに罅が入っていくのに気がついたのは。
その後、カプセルが音を立てて壊れた。
「RE:BORNってか」
ずぶ濡れで垂下がる髪をかき上げる少年、その瞳は嘗て黒一色だったが今では虹色に輝いていた。
それだけでは無い、サポートアイテムのキーアイテムだった指輪がいつの間にか彼の周囲を舞い白銀の光と共に1つの指輪となった。
それは焔と鳥の委託を持ち中心に無色透明な、それでいて誰しもに安らぎを与える印象を懐かせる宝石が鎮座する指輪だった。
「よお、ボケカス」
何かを覚悟したような大人ですらすることが減ったその表情を携え、AFOを見据える。
「死ぬ気でお前を倒す!」
火埜翔織、完全復活。