「おはよう!高嶺君とガッシュ君」
「オース、お前等!」
「「おはよう」なのだ!」
「なあ、昨日はどうだった?」
ガッシュペアが廊下を歩いていると渚と杉野が声をかけてくれた。そして杉野は、昨日のガッシュペアと自律思考固定砲台の会話について聞いてくる。
「ウヌ、それがだの……」
ガッシュが昨日の事を説明したが、殺せんせーの名前が出た瞬間に渚と杉野が困ったような表情を見せる。
「何か、嫌な予感がするんだけど……」
「あー、俺も」
「いくら殺せんせーがぶっ飛んでても、生徒相手にそうそう変なことはしないんじゃないのか?」
「皆、どうしたというのだ?」
清麿が渚と杉野の予感を否定しても、2人の不安は取り除かれない。そして4人が教室に入り自律思考固定砲台の方を見ると、画面の面積が明らかに広くなっていた。体積も大きくなっている。
「おはようございます、今日は素晴らしい天気ですね‼こんな日を皆さんと過ごせて嬉しいです‼」
自律思考固定砲台はおかしな方向へ進化していた。先日までの冷たい表情とは打って変わって、満面の笑みで清麿達に挨拶をしてくれる。そして画面が広くなっており、椚ヶ丘中の制服を着ている彼女の様子を見る事が可能だ。昨日の殺せんせーの
他の生徒も次々と登校してきたが、彼女の様子を見て清麿達と同様に反応に困る。ただ1人の生徒を除いて。
「何ダマされてんだよ、おまえら。全部あのタコが作ったプログラムだろ。愛想良くても機械は機械。どーせまた空気読まずに射撃するんだろ、ポンコツ」
寺坂のみ改良された自律思考固定砲台を見ても、疑いの目を向け続ける。ぶっきらぼうではあるが、彼の言うことは的を得ている。どんなに愛想が良いとしても、授業中に射撃を行われてはこれまでと変わりはしない。しかし、
「……おっしゃる気持ちはわかります、寺坂さん。昨日までの私はそうでした。ポンコツ、そう言われても返す言葉がありません」
彼女の目からは大粒の涙が流れ、申し訳なさそうにする。また画面も雨模様になる。そんな自律思考固定砲台を見て、同情する生徒は少なくなかった。
「あーあ、泣かせた」
「寺坂君が二次元の女の子泣かせちゃった」
「なんか誤解される言い方やめろ‼」
片岡と原に寺坂がたしなめられてしまった。彼の言うことは間違ってはなかったが、言い方がきつかった。それゆえに寺坂が悪い流れが出来上がってしまった。女子達からの痛い視線が寺坂に刺さる。そして、
「いいじゃないか
「「「竹林それおまえの初ゼリフだぞ、いいのか⁉」」」
眼鏡をかけた男子生徒、竹林孝太郎の本編における記念すべき初ゼリフは中々の名言(迷言?)となり、クラスの男子達はたまらずツッコミを入れる。彼にはオタク趣味がある。
「でも皆さんご安心を。殺せんせーに諭されて、私は協調性の大切さを学習しました。そしてガッシュさんと高嶺さんには、友達の大切さを教わりました。私の事を友達として好きになって頂けるよう努力し、皆さんの合意を得られるようになるまで、私単独での暗殺を控えるようにいたしました」
「そういうわけで仲良くしてあげて下さい」
「ウヌ、これでお主も皆と友達になれるのだ‼」
「はい、皆さんよろしくお願いいたします!」
彼女の変化により、クラスの空気は一気に明るくなる。
「ああもちろん先生は彼女に様々な改良を施しましたが、彼女の殺意には一切手をつけていません。先生を殺したいなら、彼女はきっと心強い仲間になるはずですよ」
殺せんせーはそう言って授業の準備に入った。
協調性を手に入れた彼女は、クラスメイトと友達になるべく努力をする。それは授業中でも例外では無い。菅谷が先生に当てられた時に、自分の足に答えを書いて教えており、カンニングとサービスを一緒にしないよう殺せんせーから注意を受けてしまう。あざとい。そして彼女のサービス精神は休み時間にも及ぶ。特殊なプラスチックを体内で自在に成型出来る自律思考固定砲台は、生徒達の目の前で像を作り上げる。
「おもしろーい!じゃあさ、えーと……花とか作ってみて」
「わかりました。花の形を学習しておきます」
それを見た矢田が、他のものも作ってもらうようにお願いする。そんな傍らで、
「王手です、千葉君」
「……3局目で勝てなくなった。なんつー学習力だ」
他の生徒達と喋りながら、千葉を将棋で打ち負かしていた。最新鋭のAIのなせる業だ。
「こうやって皆さんと仲良くなれているのは、協調性を教えてくれた殺せんせーと、私に友達になるよう言ってくれたガッシュさんと高嶺さんのおかげです。本当にありがとうございます!」
「ウヌ、良かったのだ!」
「俺は特に何もしてないんだがな……」
「……」
彼女がお礼を言ってくれているのにもかかわらず、殺せんせーは何とも言えない表情をする。そして、
「……しまった」
「?何が?」
「先生とキャラがかぶる」
「「「「「被ってないよ、1ミリも‼」」」」」
むしろどこがかぶっているのかを教えてほしい。クラス一同そんなことを考えていると、何を思ったのか殺せんせーは自分の顔面に人の顔を表示し始めた。その顔の気持ち悪さ故に、クラスから総出でツッコミを受けてしまった殺せんせーは教壇の上で泣き始める。そんな先生を見向きもせずに生徒達は彼女と交流を深める。すると、
「ふぅ。しかし、やるじゃないか高嶺」
「何がだ、竹林?」
「君はこうなることを見越して彼女に語りかけたのだろう?」
「いや、殺せんせーがこんな大改造を行うなんて、夢にも思わなかったぞ」
竹林が清麿に話しかける。そして、
「そういう事ではないんだ。ふっ、今の彼女はとても素敵だ。そんな素敵な彼女を見たいがために、君は語りかけたのだろう。僕にはそれが出来なかったが、君はやってのけた。それは、君が二次元を愛するという事ではないのかい?歓迎するよ、我が同志よ」
「な、何だって?」
竹林は清麿が二次元に興味があるがゆえに彼女に語りかけたと考えた様だ。そんな会話を周りは聞き逃さない。
「へぇ~。高嶺、アンタそういう趣味だったんだ?」
「おい中村、なんだそのニヤケ顔は!」
「そっかぁ、あの高嶺がなー」
「木村、そういうのじゃないからな!」
「どんな趣味を持ってても、高嶺君は高嶺君です!」
「奥田、違うと言ってるだろーに……」
竹林の発言により、クラスの雰囲気がおかしくなる。清麿がオタク趣味であるというあらぬ噂が広まってしまい、彼がいじられる流れが出来てしまった。
「そもそも、初めにあいつと友達になりたいと言ったのはガッシュだぞ‼」
「え~。ガッシュちゃんは
「ウヌ、その通りなのだ!陽菜乃」
「こら倉橋、俺が良からぬことを考えていたみたいに言うんじゃない‼」
倉橋はガッシュを抱き上げながら、清麿に向けてそう言い放つ。彼は誤解を解こうとするが、聞く耳を持つ者はいない。クラスからの視線が辛い。そして清麿は限界に達したのか、机に突っ伏して泣き出した。
「うおおおっ、うおおおお」
「高嶺さん、泣いているのですか?」
そんな清麿を見かねて、自律思考固定砲台が声をかけてくれる。
「やべ、流石に言い過ぎた?」
「うーん、どーだろ……」
「すまない、高嶺。こんな事になるとは思わなかった……」
「泣くでない、清麿」
その原因を作った竹林を始め、多くの生徒が清麿に哀れみの視線を向ける。ダメージを受けた清麿を見てやり過ぎたと思ったのか、彼をいじる流れは止まった。そして、
「あとさ、このコの呼び方決めない?“自律思考固定砲台”っていくらなんでも」
片岡の提案に皆が頷く。名前があまりにも長すぎるのだ。これでは呼び辛い。
「自……律……そうだ!じゃあ、“律”で‼」
不破が命名した名前だが、彼女はとても喜ぶ。こうして、自律思考固定砲台は律と呼ばれることになった。新たな呼び名が決まったことで律たちが喜んでいる一方で、ようやく泣き止んだ清麿は渚とカルマのいる方へ向かう。
「呼び名が決まったのはいいな。これで大分呼びやすくなった」
「そうだね。これなら、上手くやっていけそうかな?」
「んー、どうだろ」
呼び名が決まった事、律が協調性を手に入れた事によってクラスで上手くやれると思った渚の考えに、カルマは賛成しない。
「寺坂の言う通り、殺せんせーのプログラム通り動いてるだけでしょ。機械自体に意志があるわけじゃない。あいつがこの先どうするかは……あいつを作った
「やっぱり、このままってわけにはいかんよな。変わり果てた彼女を開発者がどう思うか」
「2人とも、それって……」
カルマと清麿の話していることは渚には理解出来ていない。
「渚君。あいつって、あのタコを殺すためにここに来たよね?それなら、殺せんせーの付けた多くの機能は必要ない。というか邪魔でしかない。その意味、わかる?」
「……それってまさか!」
「そう、そのまさかだ。それに、自分が開発したものを好き勝手いじくられては、開発者にとってたまったものではない……」
渚は理解した。殺せんせーが付けてくれた多くの機能を開発者が必要とするとは思えない。それならどうすれば良いか。答えは簡単だ。それらの機能を取り除いてしまえばよい。自分で開発したのだから、そうする権利は持ち合わせている。というより、勝手に改造してしまった殺せんせーが責められる可能性すらある。
「とはいえ、俺達には何も出来ん」
「まあ、あとはあいつがどうするかだよね」
「律、どうなっちゃうんだろうね……」
3人の表情が暗くなった。しかし彼ら以外の多くの生徒はそんなことに気付くこともなく、無邪気に律との会話を楽しんでいた。
次の日、カルマ達の予想通りに律は殺せんせーが
「おはようございます、皆さん」
「律、お主……どうしてしまったのだ」
昨日の挨拶と比べると、ひどく機械的だった。律の目も笑っていない。生徒達は何事かと考えていたが、烏間先生からの説明が入る。
「“生徒に危害を加えない”という契約だが、【今後は改良行為も危害と見なす】と言ってきた。君達もだ、彼女を縛って壊れでもしたら賠償を請求するようだ。開発者の意向だ。従うしかない」
「開発者とはこれまた厄介で……親よりも生徒の気持ちを尊重したいのですがねぇ」
元の姿に戻った律を見て、烏間先生と殺せんせーはため息をつく。他の生徒達も、再び律の射撃にさらされると思うと、うんざりする。しかし、どうすることも出来ない。射撃を阻止するためにガムテープで律を拘束することはもう許されないのだから。烏間先生も寺坂が持つガムテープを取り上げる。そして授業が始まる。律の両脇のハッチから大量の銃口が出てくる……
と皆がそう思っていた。しかし律が展開したのは、銃口ではなく大量の花だった。
「……花を作る約束をしていました。殺せんせーは私のボディーに、計985点の改良を施しました。そのほとんどは
「……素晴らしい。つまり律さん、あなたは」
「はい、私の意志で
律は昨日の笑顔を失っていなかった。本来意志を持たないはずの機械が自らの判断で開発者に反発した。これも優秀なAI故のなせる業なのだろうか。それとも、律に生命が宿ったとでもいうのか。それはクラスの誰もがわからないことであった。しかし確かに言えることは、律は晴れてE組の暗殺者の仲間入りをした事だ。
「殺せんせー、こういった行動を“反抗期”と言うのですよね?律は悪い子でしょうか?」
「とんでもない。中学三年生らしくて大いに結構です」
律の行動に殺せんせーは顔にマルを浮かべる。もう授業中に大量の弾幕にさらされた挙句に、後片付けをする羽目になる展開を恐れなくても良い。こんな当たり前のことが、E組にとっては非常に喜ばしいことだ。これからは、この29人で殺せんせーを殺すのだ。
読んでいただき、ありがとうございました。次回はオリジナル回入ります。