リィエンが中国に帰った日の夜、清麿はナゾナゾ博士と電話していた。
『この前はひどいじゃないか、清麿君。いきなり電話を切ってしまうなんて……』
「アンタがふざけるからだ。それより、まさか助っ人がリィエンだったとは……」
『ハハハハハ、驚いたかい?』
電話の内容はもちろんリィエンの事である。
『初めは恵君に協力してもらおうと思ったのだがね、彼女は魔物との戦いで忙しいと思ってそれはやめといたんだよ』
「そうだな、恵さん達に協力をしてもらえるなら頼もしいが、頼むのは少なくともクリアを倒してからだな」
恵達は打倒クリアのための特訓で忙しい。クリアを倒すまではこちらに専念してもらうべきだという事が清麿とナゾナゾ博士の判断だった。
『クリアとの戦いが終わったとしても、日本から離れているフォルゴレ君、サンビーム君、シェリー君達に頼むのは厳しいだろう。比較的日本の近くに住んでおり、魔物との戦いが続いていなくてかつ単体でそれなりに戦闘能力がある者という条件で考えて、リィエン君はピッタリだった』
ナゾナゾ博士がリィエンを推薦した理由を説明した。
「ああ、暗殺には至らなかったがとても頼もしい助っ人が来てくれた。博士もありがとう。アンタはいつも見えないところで俺達に力を貸してくれる」
『礼などいらんよ、落ち着いたらまた会おう。それでは!』
ナゾナゾ博士との通話は終了した。その後清麿はガッシュと少し雑談をしてからそのまま眠りについた。
次の日、ガッシュペアが登校すると、渚とカルマが映画の話をしていた。
「おはよう、2人とも。聞いてよ、昨日カルマ君と一緒に殺せんせーにハワイの映画館まで連れてってもらったんだ!」
「何と、すごいのだ!」
「……やっぱ殺せんせーはとんでもねーな」
渚とカルマが殺せんせーと共にハワイまで映画を見に行ったそうだ。それを聞いたガッシュペアは、殺せんせーが規格外であることを改めて思い知らされる。
「それよりその映画監督が面白い人でさ。挿入歌にやたらとベートーベンの曲入れたがるんだよね。あと、今回の映画だと何故かいも天が良く出てきてたっけ」
カルマの話を聞いて、清麿はある男の顔を思い浮かべる。
「なるほど……なあガッシュ」
「ウヌ?」
「赤羽の話を聞いて、何か思い出すことはないか?」
「そうだの……」
清麿に言われて、ガッシュはこれまでの出会いを思い出す。そして彼もまた清麿と同様に1人の男の存在を思い出す。その時、
「なあ、その映画監督ってベルンの事じゃないのか⁉お前等」
清麿達が映画の話をする最中、突如として三村が会話に加わる。三村は映像関係に詳しく、それに関しては映画監督の話題も例外ではない。
「あれ、三村もその監督のファン?」
「ああそうだよ!一時姿を消したと思ってたらまた復活し始めたんだ。ベートーベンはともかく、何でいも天なんだろうな?というか、カルマがベルンのファンなのが意外過ぎる!」
「あの監督、色々面白いからね~」
三村とカルマが同じ映画監督のファンという事で、2人は共通の話題で盛り上がる。彼等の新たな一面が露呈した瞬間だ。そんな時、
「やっぱりそうなのだ!その監督は、キースのパートナーではないか!」
ガッシュが何かを確信したように声をあげた。
「え、キースって?まさか……」
「ガッシュ君、それってもしかして、魔物絡み?」
「マジ?ベルンも魔物の戦いに参加してたの?」
ガッシュの言動を見て、渚達はベルンが魔界の王を決める戦いに参加していたことを察した。ベルンはかつてキースとペアを組み、ファウードを巡ってガッシュ達と壮絶な戦いを繰り広げた。
「ああ、その通りだ。やつの魔物は戦いの最中にベートーベンを歌うようなバカだったが、かなりの強敵だった」
「いも天が好物だったようだが、あの者達は強かったのだ」
ガッシュペアはキース達との激戦を思い出す。初戦ではフォルゴレが死にかけ、2戦目ではバリーが助けに入ってくれなければどうなっていたか。
そんな話をしている中、殺せんせーが教室に入ってきた。それを見た生徒達は各々席に着く。
「おはようございます、皆さん。今日もまた転校生が来ることを聞いてますね?」
「あー、ぶっちゃけ暗殺者だろうね」
「ええ、先生も今回は油断しませんよ。いずれにせよ、
今日もまた転校生が来るのだ。もちろん暗殺絡みで。昨日の烏間先生からの全体メールで行き渡っていた。しかし律を見た後という事で、生徒達はそれほど転校生の事を話題にはしていない、らまた暗殺者が来るのか、程度の認識だ。ところが律の話によると、その転校生は律よりも遥かに強力な暗殺者だそうだ。それを聞いたクラスの緊張感が一気に高まる。
そんな中、教室の扉が開き、全身白装束の男が入ってきた。その男は緊張している生徒達を見て、それをほぐすために手から鳥を出す手品をして見せた。しかし生徒達の緊張がほぐれる事は無い。
「ごめんごめん、驚かせたね。転校生は私じゃないよ、私は保護者……まぁ白いし、シロとでも呼んでくれ」
シロと呼ばれた男に対して殺せんせーは余程驚いていたのか、奥の手のはずの液状化を使って教室の隅に逃げていた。この行動で先生は生徒達から顰蹙を買う羽目になる。
「初めまして殺せんせー。ちょっと性格とかが色々と特殊な子でね、私が直で紹介させてもらおうと思いまして」
シロが殺せんせーに挨拶をしている時、ガッシュペアは小声でシロについて話す。
「清麿。あの者、何だか嫌な感じがするのだ……」
「ああ、俺もそう考えていた。あの男の目からは、並々ならぬ執念のようなものが感じ取れる。何を経験すればこんな事に……」
魔物達との戦いで多くの者を見てきたガッシュペアは、シロの異常性に気付く。しかし正体までは見抜くには至らない。そしてシロは生徒達を一通り見終えた後、寺坂とカルマの間の空いている席を指差した。
「席はあそこでいいのですよね?殺せんせー」
「ええ、そうですが」
「では紹介します。おーいイトナ‼入っておいで‼」
シロが転校生を呼ぶと、生徒達の緊張感が最大限に高まる。そんな時、転校生の席の後ろの壁が崩壊した。そして空いた穴からは小柄な少年が入ってきた。信じがたい光景ではあるが、この少年は難なく壁を破壊してしまった。
(((((ドアから入れよ‼殺せんせーも困ってるし‼)))))
「堀部イトナだ、名前で呼んであげて下さい。ああそれと、私も少々過保護でね。しばらくの間、彼の事を見守らせてもらいますよ」
生徒達の心の中のツッコミなど知る由もなく、シロは話を進める。何はともあれE組に新たな暗殺者、堀部イトナが転入してきた。そしてイトナは他の生徒達を品定めするかのように教室を見渡す、らその後、イトナは殺せんせーの方に近付いて指を差す。
「このクラスにも強そうなのは何人かいるようだが、俺が殺したいと思うのは俺より強いかもしれない奴だけ。この教室では殺せんせー、あんただけだ」
「強い弱いとはケンカの事ですか、イトナ君?力比べでは、先生と同じ次元には立てませんよ」
「立てるさ。だって俺達、血を分けた兄弟なのだから」
(((((き、き、き、兄弟⁉)))))
その言葉を聞いて、生徒一同は愕然とする。殺せんせーも何が何だか分からないといった表情で冷や汗をかく。生徒や殺せんせーの疑問を無視して、イトナは話を進める。
「兄弟同士小細工はいらない。兄さん、お前を殺して俺の強さを証明する。時は放課後、この教室で勝負だ。今日があんたの最後の授業だ。こいつらにお別れでも言っておけ」
そう言い残してイトナは教室を出て行く。その後、生徒達から殺せんせーが質問責めを受けたのは言うまでもない。しかし、殺せんせーにもまるで心当たりがない。それでもシロはイトナが殺せんせーの弟であることを肯定している。また、その真偽は放課後になったら分かるともE組一同に説明した。
そして昼休み、イトナは殺せんせー同様に大量のお菓子を食べ始める。彼も殺せんせーのように甘党だ。そんなイトナに対して他の生徒達はどう接して良いか分からない様子だ。ただ一人を除いて。
「お主、随分たくさんのお菓子を食べておるのう!」
(((((ガッシュ(君)が話しかけた‼)))))
ガッシュがイトナに話しかけるが、イトナはそれを無視してお菓子を食べ続ける。それでもガッシュはめげずにイトナに話し続けた。
「ウヌ?そのお菓子の箱と割りばしがあれば、バルカン300を作れるぞ。清麿が作ってくれるから心配はいらぬ。私も同じものを持っておる。ともにバルカンで遊んで友達になろうぞ!さあ、バルカンも挨拶をするのだ!」
「よ・ろ・し・く・ね」
バルカン300、清麿がガッシュの為に作った友達である。ポッ〇-などのお菓子の箱と割りばしがあれば5分で作れる。のりもいらないのでかなりお手軽だ。もちろん喋る訳がない。ガッシュがバルカン300を取り出すが、イトナはまるで興味を示さない。
(ガッシュが吹き替えているだけだろう……というか、あいつの分も俺はバルカンを作らなくてはならんのか?)
清麿がイトナのバルカンを作るかどうかを考えるが、クラスに妙な雰囲気が流れ始めた。
「え、あれ高嶺が作ったの?」
「高嶺達の趣味はよーわからん」
「何でバルカンなんだ?」
「その良くわからんものを見る目で俺を見るんじゃない、お前等……」
菅谷・千葉・三村を始め、多くの生徒達がバルカン300を見て首を傾げる。シンプルではあるが、清麿がそれを制作した事実が余計に生徒達を困惑させる。そんな彼等は何とも言えない表情で清麿の方に視線を向ける。しかし、
「でもガッシュ君のために何か作ってあげるのは、とても良いことだと思います!」
「ガッシュ君、とても喜んでるね。高嶺君、優しいなぁ」
「……さあ、どうだろうな」
奥田と神崎のように、清麿がバルカン300を作ったことに対して好意的な発言をする生徒もいた。実際にガッシュにとってバルカン300はかけがえのない友達だ。それを聞いた清麿は照れ臭そうにする。
一方ガッシュは、一向に反応してくれないイトナに対して心が折れそうになる。それでも彼はめげずにイトナに話しかけた。
「な、何か喋ってほしいのだが……そうだ!お主は甘いものが好きなのだな。カエデも甘いものが好きだと言っておったぞ!ちなみに私はブリが好きなのだ!皆で何か食べに行くのはどうかの?」
(ガッシュ君が私の名前を出した!)
ガッシュは食べ物の話をするが、それでもイトナはガッシュに反応しない。そしてガッシュは我慢の限界に達した。
「ヌオオオオォ、あの者が私を無視するのだ~!清麿ォ、私は何か悪いことをしてしまったのか~⁉」
「いや、そんなことはないぞ……」
(((((ガッシュ(君)の心が折れた‼)))))
イトナの無視に耐え切れなくなったガッシュは、ついに泣き出して清麿に抱きつく。そんな彼に対して多くの生徒達が哀れみの目線を向ける。そして泣きじゃくるガッシュに茅野が近付く。
「ガッシュ君はよく頑張ってたよ、偉い偉い」
「ヌオオオオ、カエデ~!」
清麿に抱きついているガッシュの頭を茅野が優しく撫でる。その時ガッシュは、今度は茅野に泣きついた。
「何かそうしてると、茅野はガッシュのお姉ちゃんみたいだな」
「え……そ、そうかな?えへへ、お姉ちゃんかぁ、そう見えるかなぁ……」
「「「「「満更でもなさそうだ!」」」」」
(何だ?茅野が一瞬暗い表情をしてたような……気のせいか?)
お姉ちゃんみたいと清麿に言われた茅野は恥ずかしそうに笑う。周りもそんな茅野を茶化す。しかし、清麿だけは茅野の表情の変化を気にした。一方でガッシュは相変わらず泣きながら茅野に抱き着いたままである。
「何だ高嶺、茅野にガッシュを取られて嫉妬してるのか?」
「そんなんじゃないぞ杉野。それより!」
清麿は杉野の言葉をすぐに否定する。そして彼はイトナの方を見た。
「なあお前、何でガッシュを無視するんだ?ガッシュはお前と友達になろうとしてくれてたんだぞ!」
あからさまにガッシュを無視するイトナに対して、清麿は苛立ちを感じる。そんな彼を見たイトナが席を立ち、ついに声を発した。
「……必要ないからだ」
「何?」
「あいつを殺すのに、お前達は必要ないと言ってるんだ。兄さんは俺が必ず殺す。そのために、お前等の力はいらないんだよ」
イトナは冷たく言い放つ。イトナは殺せんせーを殺すためにシロと共にE組に来た。今の彼にとっては、それ以外の事などどうでも良い。
「一人で殺せると思っているのか?お前が壁を壊すほどの力をもってしても、容易な事ではないと思うが?」
「そう思うのは、お前達が弱いからだろう。だが俺は違う。お前達は、俺が放課後にあいつを殺すのを黙ってみているがいい……」
「言いたい放題言ってくれるな、お前(コイツが強いのは分かるが、ムカつく言い方だな)」
イトナの発言に対して、清麿は怒りの感情が込みあがる。それを察したカルマが口を挟む。
「まあまあ、落ち着きなよ高嶺君。多分彼の言ってることはハッタリじゃない。何か強力な力を持っている。あと、ずっと聞きたかったことがあったんだ。ねえイトナ君、今日手ぶらで教室に入ってきたよね。でも外は大雨だ、全然濡れてなかったのは何でかな?」
カルマの質問を聞いたとき、他の生徒達は驚きの表情を見せた。今日の天気は大雨で、傘を差した状態でも体が濡れてもおかしくない天気である。それにも関わらず、イトナは傘を使わずして体が一切濡れていなかったのだ。
「その質問に答える意味もない。すぐにわかる」
イトナは興味なさげに言って、再び席に着いた。カルマの介入により、清麿の怒りの感情は収まりつつあった。そして当のイトナはどういう訳か、いきなりグラビア雑誌を取り出す。甘党のみならず、巨乳好きなのもイトナと殺せんせーの共通点だ。
(((((ここでグラビア雑誌、何で⁉って殺せんせーとおんなじやつかよ‼)))))
「……これは俄然、兄弟であることの信憑性が増してきたぞ」
グラビア雑誌を見た岡島の目の色が変わる。
「そうさ、巨乳好きは皆兄弟だ‼」
そう言って、彼はイトナや殺せんせーと同じグラビア雑誌をカバンから取り出す。岡島含めた3兄弟の誕生だ。
「……兄弟かぁ、やっぱりいいよなぁ。巨乳は許せないけど」
「ウヌ、何か言ったかの?カエデ」
茅野が無意識に小声で漏らした発言をガッシュは聞き逃さない。しかし彼女はそれを誤魔化す。
「ううん、ガッシュ君みたいな弟がいたら楽しいんだろうなって思っただけ!」
「ウヌ、私にもお兄ちゃんがいるぞ!」
(((((ガッシュ(君)、まさかの弟キャラ‼)))))
ガッシュに兄がいることがクラスで判明した瞬間だ。もちろんゼオンの事である。茅野はガッシュの質問に対して明るい表情で答え、2人は共にはしゃいでいた。
「茅野さん、その辺にしとかないと高嶺君が嫉妬しちゃうよ~」
「そうそう、高嶺君寂しがってるから!」
「だから、違うと言ってるだろーに!」
不破と原が清麿をからかう。一時ピリピリしてしまった昼休みだったが、通常通りの楽しい雰囲気で終了した。そして午後の授業も終わり、放課後を迎えるのであった。
読んでいただき、ありがとうございました。本小説では、渚とカルマが先生と見に行った映画の監督はベルンと言う設定にしました。