梅雨明けの良い天気の下、モチノキ町の裏山でガッシュとティオは組手を行う。そんな中でガッシュの攻撃により、ティオはバランスを崩してしまう。
「隙ありなのだ!」
ガッシュがさらに攻撃を当てようとしたが、ティオは体を覆うようにバリアを作り出す。
「何と、本の術無しでバリアを張れるようになっていたとは。すごいのだ、ティオ!」
「けど、こんな弱いバリアじゃあクリアの攻撃は防げない。組手もバリアがなければ負けてたし……何だかガッシュ、相手の隙を付くのが上手くなってない?」
「そうであるか?(クリア打倒の特訓以外にも、暗殺の訓練が活きているのかもしれぬ。とは言えまだまだなのだ!)」
ガッシュはティオとの組手でクリアを倒すための特訓だけでなく、暗殺の訓練もまた自分の身になってきていることを感じる。
「それに、マントも前より使いこなせているように見える……私も、もっと強くならなくちゃ!」
「しかし、これではまだまだなのだ。ゼオンはもっとうまくマントを操っておったぞ」
彼等はお互いに自分が修行不足だと考えている。そしてしばらく組手を続けた後、日が暮れ始めているのを見て今日の修行を切り上げる。その後2人で清麿の家に向かった。
その一方で清麿の家では、清麿と恵がデュフォーの指導を受ける。心の力を高める特訓だ。
「……2人とも随分心の力が強くなったな。今度からは、術の制度を上げる特訓も取り入れていく」
「成果が出ているのは素直に嬉しい。術の制度を上げるとなると、ガッシュ達も一緒にいる必要があるな。これからも気を引き締めていかないと!」
「そうね、皆で頑張らないと!」
清麿も恵も、デュフォーの特訓の成果が出ていたことに慢心することなく気合を入れ直す。
今日の特訓は終了してティオペアは帰路に着く。そしてデュフォーも自分が借りている部屋に戻る。ガッシュペアが自分達の部屋で一息ついていると、モバイル律が起動した。
「2人とも、特訓お疲れ様です!」
「おおっ、律ではないか!お疲れ様なのだ!」
「……律、プライベートを覗かないよう言ったはずだが?」
「2人の頑張っている姿を想像したら、たまらず出てきてしまいました。てへっ」
相変わらずあざとい律である。そんな彼女に対して清麿は注意するが、半分諦めの表情を浮かべている。
「しかし、アイドルの大海恵さんが魔界の王を決める戦いに参加していたのはビックリでした!それから高嶺さん。前から聞きたかったのですが、大海恵さんとはお付き合いをしていたりするんですか?」
律の爆弾発言が炸裂した瞬間だ。清麿の顔は赤くなり、明らかに動揺する。ガッシュも何事かと思いながら清麿の方を向く。
「……な、な、何を言い出すんだいきなり‼恵さんは、一緒に戦ってきた仲間だ!つ、付き合うとかそういうのは……」
「高嶺さん、顔が赤いです。大丈夫ですか?」
「どうかしたのか、清麿?」
「……なんでもない!恵さんの話題はここまで!」
清麿は焦りながら彼女の話題を終了させた。恵の方も彼に好意的である為、2人はお似合いなのかもしれない。清麿は照れ臭そうな顔を見せる。
「残念です、話題を変えましょうか……球技大会が近付いてきましたね」
「そうだの!私は参加出来ないのだが……」
「そうだな、男子は野球だったか。野球と言えば杉野が経験者だが、椚ヶ丘の野球部はかなり強いからな」
話題を変えるという事で、律は数日後に迫る球技大会の話題を出す。しかし球技大会ではガッシュは参加できない事、E組は野球部と戦わなくてはならない事が相まって、場の雰囲気は少し暗くなる。
「……すみません、他の話題にするべきでした……」
「律、落ち込むでない」
「いや、いいんだ律。球技大会は避けられない事だからな。明日からその練習も始まる。帰る時間が遅くなることもデュフォーには言ってある」
清麿は律にフォローを入れた。清麿はガッシュの術の特訓とともに、球技大会の練習もしなくてはならない。暗殺を成功させるにはクラスの絆が必要不可欠であり、こちらも手を抜く事は許されない。
「頑張るのだぞ、清麿!」
「頑張ってくださいね!」
「……律、その恰好はなんだ?」
律が応援の言葉をかけてくれたが、突如チアガールの恰好に着替えていた。それを見た清麿は、何とも言えない表情をしながら彼女に問い詰める。律のあざとさは健在だ。
次の日の授業が終わり、球技大会についての話し合いが行われる。女子達は委員長の片岡を中心に順調に話し合いが進む。しかし男子の方は雰囲気が重い。しかも晒し者は嫌だという事で寺坂グループは早々に帰ってしまった。杉野もまた元気が無いようで、清麿が心配になって声をかける。
「どうした杉野?朝から元気がないようだが?」
「昨日、野球部の練習見たんだ。あいつら、俺が部活辞めた時より更に上手くなってた。特に主将の進藤の剛速球は高校からも注目されてる、俺からエースの座を奪ったやつなんだけどさ。それに引き換えE組はほとんど野球未経験者」
杉野は初めは自信なさそうに話したが、途中からやる気を見せ始める。
「……だけど勝ちたいんだ、殺せんせー。善戦だけじゃなくて勝ちたい、好きな野球で負けたくない。E組とチーム組んで勝ちたい‼」
そんな杉野の決意表明を皆は真剣な眼差しで聞く。そして気付けば殺せんせーは野球のユニフォームに着替え、触手には野球で使う道具一式と竹刀が握られる。
「一度スポ根モノの熱血コーチをやってみたかったんです。最近の君達は、目的意識をはっきりと口に出すようになりました。殺りたい、勝ちたい、どんな困難な目標に対しても揺るがずに。その心意気に応えて殺監督が勝てる作戦とトレーニングを授けましょう‼」
そしてE組の男子生徒は、帰ってしまった寺坂グループと野球部に偵察へ行った竹林を除いて殺監督と共にグラウンドで練習を始める。球技大会に参加しないガッシュは球拾いを行う。
「殺投手は300kmの球を投げ‼」
殺投手が投げる球を打てる生徒は誰一人いない。生徒はバッターボックスに立っても、バットを振るのが精一杯だ。魔物のガッシュでさえ300kmの球を取るのには苦労する。
「殺内野手は分身で鉄壁の守備を敷き‼」
今度はヒットを打った時に、守備をかいくぐってベースを踏む練習。殺内野手の分身をくぐりぬけるのは至難の業だ。
「殺捕手はささやき戦術で集中を乱す‼」
バッターボックスに立つ生徒達に対して、自分の恥ずかしいことや野球に全く関係のない話題を振ることでの盤外戦術。三村は校舎裏でエアギターをしていたことをささやかれ、顔を真っ赤にする。そうして今日の練習は終了し、殺せんせーは帰っていった。
「何だよこの練習……」
「キッツ……」
練習はとてもハードだ。大半の生徒は苦しそうにし、本当に身になっているのか疑問に思う生徒もいた。
「あのさ……この後個人練習に付き合ってくれる奴、いる?」
突然の杉野の言葉により他の生徒は驚愕する。これだけハードな練習をした後に、まだ個人練習をしようと言うのだから無理はない。しかし、
「……まあ、いいんじゃない?」
「そうだな。俺達は野球部と比べて経験が足りてないから、少しでも練習しておくに越したことはない」
カルマと磯貝の肯定的な言葉により他の生徒もやる気を出す。特に委員長の磯貝の発言は、疲労しきった男子生徒を奮い立たせる。ところが、
「悪い皆。俺とガッシュは帰らせてもらっていいか?」
本当は皆ともっと練習したかったが、ガッシュペアはクリア打倒のための特訓もしなくてはならない。特にこれからは術の精度を上げる特訓も行う予定で、なるべく長い時間を割きたいところだ。
「まあ、仕方ねーよ。高嶺達は魔物との戦いがあるもんな……また明日な!」
「そっちの特訓も頑張ってね~」
ガッシュペアの事情を察してくれてか、杉野とカルマを始めとして彼等を止める生徒は1人もいなかった。
「皆すまない。個人練習頑張ってくれ!」
「またなのだ……」
ガッシュペアは申し訳なさそうに山を降りる。
ガッシュペアが家に着くと、デュフォーとティオペアがすでに待機していた。まずはガッシュとティオを先に裏山に行かせた後、清麿と恵はデュフォーの指導のもと、心の力を高める特訓を行った。ある程度した後にガッシュ達のいる裏山に向かい、術の精度を上げる特訓に入る。
「ガッシュのバオウ・ザケルガとティオのチャージル・セシルドンを強くする特訓を始める。お互いに呪文を出し、ぶつけ合うんだ。本が燃えることのないよう、清麿と恵は離れていろ」
デュフォーの指示に従い、ガッシュとティオの最大呪文がぶつかり合う。しばらく競り合った後にお互いの呪文は相殺され、ガッシュとティオは後ろに吹き飛んでしまった。
「おいガッシュ、大丈夫か⁈」
「ティオ、立てる⁉」
「問題ないのだ!」
「全然平気よ!」
ガッシュとティオが何ともないようで清麿と恵は安心したが、デュフォーは眉に皺を寄せる。
「まだ、呪文の継続時間が短すぎるな。お互いに込める感情が足りていない証拠だ。これではクリアの呪文に太刀打ちできない。もう一度やれるか?」
「当たり前だ!」
「当然よ!」
デュフォーは
「今日はここまでだ。少しはマシになってきているが、まだまだ足りない。俺は先に戻るが、お前達は休んでいくといい」
ガッシュペアもティオペアもかなり疲れている。デュフォーは先に裏山を降りたが、残りのメンバーは少し休憩した後に裏山を降り始めた。
「そっか……清麿君のクラス、球技大会が近いんだ」
「ああ、しかも俺達のクラスは野球部と戦わなくてはならん……」
山を降りながら清麿と恵は球技大会の話をする。特訓終わりの雑談もまた、彼等にとって大切な時間だ。
「なんだか大変そうね。でも清麿君なら大丈夫じゃない?何だかそんな気がするの。応援してるね!」
「まあ、やれるだけのことはやるよ(杉野や他のE組の皆の為にも、負けるわけにはいかんからな)。応援ありがとう!」
恵の応援を貰った清麿は嬉しそうにする。アイドルからの応援は嬉しいものである。
次の日の放課後も、殺監督による厳しい練習が行われる。そして参加した男子生徒が息を切らす中、殺監督は一旦練習を切り上げた。
「先生のマッハ野球にも慣れた所で、次は対戦相手の研究です。野球部の練習を、竹林君に偵察してきてもらいました」
「……面倒でした」
竹林は運動が得意ではなく、球技大会本番も先発メンバーに入っていない。そこで彼は自分でも出来ることを考えた結果、野球部の偵察の役割を買って出た。口では悪態をつきながらも、彼はしっかりと仕事をやり遂げた。そして竹林が録画した練習の映像がノートパソコンの画面に映し出される。
「進藤の球速はMAX140.5km。持ち球はストレートとカーブのみ。練習試合も9割方ストレートでした」
「あの剛速球なら、中学レベルじゃストレート1本で勝てちゃうのよ」
140kmの球速は中学レベルを超えている。そんな進藤は、変化球を投げるタイミングがほぼなかった。杉野の言う通り、それだけで勝ててしまうのだから。
「そう。逆に言えば、ストレートさえ見極めれればこっちのもんです」
殺監督は簡単そうに言うが、野球未経験者が大半のE組にとっては容易ではない。しかし、それはE組がただの素人であればの話である。
「というわけでここからの練習は、先生が進藤君と同じフォームと球種で、
殺監督がここまで無茶な練習を強いてきた理由がこれだ。確かに進藤の投げる球は速いが、それよりも更に速い球に慣れてしまえば、球を見極めるのはそれほど難しくない。進藤は強いが、殺監督はそのさらに上の次元を行くのだった。
「従ってバントだけなら充分なレベルで修得出来ます」
ヒットを打つのではなく、あくまで進藤の球に合わせてバントを行う。確かに球を見極められるようになれば、それ程難しいことではない。よってここからは、ひたすらバントを行う練習に入った。2人の生徒を除いて。
「……良いヒットですね、杉野君。これなら実戦でも通用するでしょう」
「みんなのバントを、俺のヒットで繋いでいくよ!」
1人目は杉野だ。経験者であり、かつ殺監督の球に慣れた彼ならば、進藤の球が速くてもヒットを狙う事は充分に可能だ。何よりも、全員がバントばかりを行う訳にはいかない。
そして2人目は、
「高嶺君のバントは精度が高いですね。野球の経験があるのですか?」
「部活動としてやったことは無い。だけど前の学校にいた時、野球部の友達から野球を教わったことは何度もある」
清麿は転校する前、山中の野球の練習に付き合ったことが何度もあった。その時にバントの練習もしていた。
「ところで殺監督、試したいことがあるんだがいいか?」
「ほう、何でしょうかねぇ?」
殺監督は笑いながら球を投げる。そして清麿はバントの姿勢から一転、ヒットを狙いに行く。そしてバットに球は綺麗に当たり、その球は生徒達の頭上を越えた。ホームランとはならず、杉野程飛ばすことは出来なかった。しかし見事なヒットであり、これも山中との練習の成果である。
「……これが君の試したいことですか。ヌルフフフ、杉野君以外にもヒットを打てる選手がいるのは心強い!」
「まだマグレ当たりだ!このまま進藤のフォームを完璧に覚えて、確実に打てるようにしてみせる!」
ヒットを打った清麿は満足していない様子だ。清麿は進藤の癖をすべて覚えて、どのタイミングでバットを振り、バットのどの位置に当てればよいかを完璧に頭と体で覚えようとしていた。
「凄いよ、高嶺君!」
「バント以外も出来る奴が2人いるのは大きいね~」
渚とカルマを始めとして、男子生徒達が喜ぶ。
「よっしゃ高嶺、俺等でヒット打ちまくって野球部にぎゃふんと言わせてやろうぜ!」
「ああ、そして全員で勝つんだ‼」
「皆、私は参加出来ぬが応援しておるぞ!頑張るのだ!」
「「「「「オーーー‼」」」」」
全員で改めて気合を入れ直す。その後の殺監督指導の練習はより活気のあるものとなった。
読んでいただき、ありがとうございました。打倒クリアの特訓の描写は何処かで入れたかったので、球技大会の練習の回と合わせて特訓の時間でまとめて入れました。