月に1度の全校集会、E組には気が重くなるイベントだ。本校舎はE組の校舎から離れたところにある。そして集会の為だけに彼等は遠くの本校舎への道のりを歩まなければならないのだ。そしてE組の差別待遇はここでも同じ、それにも長々と耐えなければならない。
(赤羽がいない。あいつ、さぼったな)
カルマがいないのを知り、清麿は心の中でため息をつく。そんな中、集会は次の準備のための休憩時間となった。その最中にE組の表向きの担任である、防衛省から来た烏間惟臣先生が本校舎の先生に挨拶周りを行う。しかし、
「烏間先生~、ナイフケースデコってみたよ」
「かわいーっしょ」
ゆるふわな女生徒の倉橋陽菜乃とギャルっぽい中村莉桜が飾りを施したナイフケースを見せびらかす。このナイフケースの中には当然ナイフが入っている。しかし、ただのナイフではない。そのナイフは対触手物質でできている。この物質は唯一殺せんせーにダメージを与えられる代物だ。E組の体育の時間では体力向上の運動以外にも、これを使用したナイフ術、また対触手物質を弾にした銃を扱う射撃の訓練も行う。
(可愛いのはいいがここで出すんじゃない‼︎他のクラスに暗殺の事がバレたらどうする‼︎)
烏間先生は形相を変えて2人に小声で注意する。国家機密が早々に世間に知られてしまえば、防衛省の立場も無い。
(倉橋、中村。あいつら暗殺のこと隠す気あんのかー?まあ、暗殺のことはデュフォーには速攻で見破られてしまったんだが……)
清麿は呆れ気味で心の中で呟く。するとどういう訳か、本校舎の生徒の雰囲気が変わり始めた。
「なんか仲良さそー」
「いいなー。うちのクラス、先生も男子もブサメンしかいないのに」
烏間先生は無愛想ではあるが、クールで格好良いイメージを抱く人が多い。あとものすごく強い。そんな先生とE組の生徒の絡みを見て羨ましがる生徒が出てきたのだ。いままではE組を差別し、優越感に浸っていた本校舎の生徒達だが、まさかE組に嫉妬の感情を抱く日が来るとは夢にも思わなかっただろう。
それから扉が開き、E組の英語担当のイリーナ・イエラビッチ先生(通称ビッチ先生)が入ってきた。彼女はハニートラップを得意とするスタイル抜群の女暗殺者であったが、殺せんせー暗殺はあえなく失敗に終わってしまった。
「ちょっ……なんだあのものすごい体の外国人は⁉」
「あいつもE組の先生なの?」
動揺を見せる本校舎の生徒達には目もくれず、ビッチ先生は中世的な顔立ちをした男子生徒、潮田渚を呼び出す。目的は渚が手帳に記した殺せんせーの弱点にある。渚は全て話したというが、ビッチ先生はさらに情報を聞き出そうと渚を自分の胸に抱き寄せた。
「苦しいから、胸はやめて!ビッチ先生‼」
渚は本気で苦しんでいる。しかし側から見れば、美女に抱き寄せられるのは羨ましくも感じる人も多いだろう。実際に本校舎の男子生徒達は鼻の下を伸ばす。
(潮田のやつ、苦しそーだな。うーん。やっぱりビッチ先生を見てると、ビッグボインの顔が浮かんでくる……)
清麿は渚とビッチ先生のやり取りを見て、何故かビッグボインを思い出す。金髪の巨乳繋がりだろうか。そんな内に休憩時間も終わり、A~D組の生徒には行事のプリントが配らる。
「……すみません。E組の分が配られて無いんですが?」
プリントがなぜかE組には配られない。その事についてクラス委員長の磯貝悠馬が本校舎の生徒に尋ねる。しかし、
「え?そんなはず無いけど……あー、ごめんなさーい。3-Eの分忘れたみたい。悪いんですが、全部記憶して帰ってくださね。ホラ、E組の人にとっては記憶力を鍛えられる良い機会だと思いますので」
体育館の舞台に上がった生徒会員がE組を馬鹿にしたようにそういうと、他の本校舎の生徒達や先生から笑いが起きた。明らかにE組を見下し、侮辱している。まるで見世物だ。
(気分悪くなるな、ったく。悪趣味にも程がある!)
清麿は舞台上の生徒を睨み付ける。烏間先生とビッチ先生も同様に苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。そんな中、E組の列に風が走った。そして気付けば、E組の生徒の手には手書きで書かれたプリントが握られていた。
「磯貝君、問題ありませんねぇ。
「プリントあるんで続けて大丈夫です」
突如変装した殺せんせーが現れ、ニヤリと笑う。磯貝が先生に便乗したように得意げに言い放つと。本校舎の生徒達は面白くなさそうな表情を浮かべる。
(殺せんせー、ナイスだ!しかし、変装しているとはいえ国家機密がそんな簡単に姿を現していいのだろうか、烏間先生も怒ってるし。ん、あの緑のバッグは……)
清麿が殺せんせーの持つバッグに目を向けると、ガッシュが顔を出した。いきなり現れた謎の教師、そして所持するバッグから顔を出す謎の少年。本校舎がざわつく。そしてこの場でビッチ先生が殺せんせーにナイフを突き立てて、烏間先生に追い出されたのはどうでも良い事だ。E組からは笑いが起こる。しかし、
(ガッシュの奴、本校舎には来るなと言ったのに‼)
清麿は怒りの表情を浮かべる。正式に生徒として登録されていないガッシュの事が他のクラスにバレれば、殺せんせーの事まで知られる可能性まで高まる。
集会が終わると清麿は外に出てた殺せんせーと烏間先生がいるところに駆け寄る。ビッチ先生は先に帰ったらしい。
「こらガッシュ、本校舎には来るなと言っただろう‼」
清麿はガッシュに怒鳴る。危うくE組の秘密が知られそうになったのだから無理はない。清麿は少し烏間先生の気持ちが分かるような気がした。
「高嶺君、ガッシュ君を責めないであげてください。彼を連れてきたのは私ですので。彼もE組の一員だ。一度くらいは本校舎を見せてあげたかったのですが……」
殺せんせーが清麿をなだめる。どうやら殺せんせーの意思で、ガッシュはここまで連れてきてもらったようだ。
「はあぁ、全く」
ガッシュがしでかした訳でない事を知ると、清麿もこれ以上の言及をやめた。そんな彼がふと自動販売機に視線を移すと、渚が本校舎の生徒に絡まれていた。
「清麿、渚を助けに行くのだ!」
「ああ、もちろんだ!」
ガッシュペアが渚の方に行こうとしたが、縞々模様を浮かべた殺せんせーがそれを阻む。
「少し、見てましょうか。ヌルフフフフ」
殺せんせーは何か自信ありげだ。そんな先生の言動にガッシュペアは、疑問に思いながらも様子を見る事にした。
「何とか言えよE組、殺すぞ‼」
渚は胸ぐらをつかまれる。だが、
「(殺す……?殺す……か)殺そうとなんてしたことなんて、無いくせに」
渚がそう言い放つと、絡んでいた生徒達はおびえ切って、そのまま逃げだした。普段は大人しい彼だが、今この時ガッシュペアは明確に渚を恐れた。
(潮田の奴、すごい殺気だった。今までの戦いでも、こんな殺気を出す敵はそういなかったぞ……!)
「渚は、只者ではないのだ!」
渚の殺気を感じたガッシュペアは動揺しながらも渚の方へ駆け寄る。彼は結果として相手を追い返す事に成功したが、2人は先に絡まれた渚が心配だった。
「潮田、大丈夫だったか⁉」
「高嶺君、ガッシュ君。大丈夫だよ、大したことないって」
渚を気にかける2人に対して、彼は何事もないように話しかける。まるで先ほど放った殺気が嘘のように。そして清麿は眉をひそめるが、それを見た渚が話を逸らすかのように話題を変えてきた。
「そうだ。2人とも、今日放課後空いてる?茅野と杉野と一緒に最近モチノキ町に出来たスイーツが美味しいレストランに行くんだけど、どうかな?」
渚からの遊びの誘いだ。せっかくのクラスメイトとの交流の場、ガッシュペアも無下にしたくはない。そして2人は少し考える。
「(モチノキ町なら家は近いな。それに、デュフォーとの特訓は夕方からだから、それまでは大丈夫そうか)ああ、夕方までなら問題ないぞ」
「ウヌ、清麿がそう言うなら、私も行きたいのだ!」
ガッシュペアは参加を決める。すると渚はこれから行く店について説明してくれる。
「何でも、そこのお店はオーストラリア発祥のお店なんだって!スイーツがおすすめだって茅野がすごく楽しみにしてるんだよ。2人とも参加できて良かったぁ」
「潮田、誘ってくれてありがとうな!」
渚達はそのままE組の校舎に帰って行く。その光景を理事長が見ているとも知らずに。
(E組……エンドのE組が普通の生徒を押しのけて歩いてゆく。それは私の学校では合理的ではない。少し改善する必要がある。私にとっては暗殺よりも優先事項だ)
そして放課後、ガッシュペアは渚や他のクラスメイトと共にモチノキ町のレストランに向かう。
「高嶺君とガッシュ君が来てくれて良かったよ~。2人ともいつも忙しそうだったから、少し誘いづらかったんだよね」
緑髪の小柄な同級生の茅野カエデが安心したように話す。彼女は甘党であり、今日のレストランを誰よりも楽しみにしている。
「他の魔物との戦いがあるからな。そのための特訓で忙しかったんだ。今日は時間が空いてて良かった」
「こっちの学校に来て、このようにクラスの皆と遊びに行くことは初めてだのぉ。とても楽しみなのだ!」
「やっぱり魔物との戦いって大変そうだよな。お前らすげーよ」
ガッシュペアが魔物の戦いの事情を話す。すると元野球部のクラスメイト、杉野友人がそれを聞いて感心する。自分の知らないところで努力しているクラスメイト達を素直にすごいと思っているようだ。
「いやぁ……休息は大事だってわかってるんだけどなぁ」
清麿はぼやく。クリアが出現してから特訓にあてる時間が多く、2人の遊びに行く頻度は激減していた。日常を崩さないことが大事とはいえ、どうしてもこれまで通りという訳にはいかない。それに加えて殺せんせーの暗殺もあるのだから、なかなか心身共に休まらない。そうやって喋りながら歩いていると、目的地のレストランに到着した。
そのレストランでは、三白眼で長髪の青年が接客を行っていた。そして彼はガッシュペアとは面識がある。
「いらっしゃいませ……って、清麿とガッシュ!お久しぶりです」
「……ウルルさんか、お元気そうで!」
「ウヌ、久しぶりなのだ!」
そのレストランでは、水使いの魔物パティのパートナーのウルルが働く。彼は初め、食い扶持を稼ぐためにパティの言いなりになっていたが、彼女が改心することを望んでいた。そしてデモルトとの戦いを経てパティがガッシュ達に力を貸すことが出来たことをとても嬉しく思っていた。パティはその戦いで魔界に帰ってしまったが、ウルルは無事に働き口にありつけた。
「あの人、知り合いなの?」
「ああ、そうだ。あの人も魔界の王を決める戦いに参加してたんだ」
渚の問いには清麿が答える。
「それでは、席に案内します。ごゆっくりどうぞ」
ウルルは清麿達を席に案内すると、自分の仕事に戻っていった。
「あの人も、戦いに参加してたんだ」
「ね~、びっくりだよ」
「ああ、全くな」
渚・杉野・茅野はそれぞれウルルの事情に驚く。ガッシュペア以外にも戦いの参加者の事を知り、非現実な出来事が身近にも存在する事を実感する。そして彼らはメニューを開く。
「どのスイーツもすごく美味しそう、迷っちゃう‼」
「カエデ、お主は甘いものが好きなのか?」
「うん!毎日食べても飽きないよ‼」
茅野は甘党だが、その前には超がつく。そんな彼女はテンションを上げていく。
「そういや、殺せんせーも甘いものが好きだって言ってたな。茅野、先生とも甘いものの話をしたりしているのか?」
「……そうだね、高嶺君。本当は一緒にスイーツ食べに行きたいんだけど、先生は国家機密だから、簡単にはいかないんだよね……」
(何だ、この感じは。気のせいか?)
清麿の問いに茅野は笑いながら答えるが、彼女はほんの一瞬だけ別人のような表情を見せる。その一瞬、誰もが見逃してしまうであろう違和感を清麿は感じ取れた。しかし清麿は違和感自体には気付いたが、その正体にたどり着く事は出来なかった。
「お待たせしました」
店員が清麿達の注文の品を運んでくれた。そして彼等は料理を頬張る。そしてある程度食事が進んだ後、清麿が全校集会の話題を切り出した。
「しっかし、あの集会はどーにかならんのか?」
「う~ん、まあ、恒例行事みたいなもんだからね」
「けど、先生達のおかげで大分マシだったよな。いいもんじゃないのは確かだけど」
渚と杉野が集会について呆れながら話す。E組として差別され続けた彼等にとって、集会での待遇は今さらと言った感じだ。
「高嶺君は椚ヶ丘に来て日が浅いからまだ慣れないと思うけど、あれが本校舎の生徒の日常なんだ。いちいち相手になんかしてられないかな。僕らは僕らのやるべきことをなさないと!」
「でも渚、4月の時みたいなのは、無しだからね!」
やるべきこと、言うまでもなく殺せんせーの暗殺である。渚がそう言いきると、茅野が不機嫌そうに口を出す。
「何があったんだ?」
清麿が尋ねる。すると茅野が事情を説明してくれた。4月に渚が対先生BB弾の詰まった手榴弾を身に着けて自爆した様だ。これにはガッシュペアは驚いたが、殺せんせーの脱皮により事なきを得たことを知って安心した。
その事で殺せんせーは激怒して、自分の身を犠牲にした暗殺を禁止にした。しかし今度は復学したカルマが崖から飛び降りて殺せんせーを殺そうとした様だ。いずれもガッシュペアが転校してくる前の話だ。
「お前ら、無茶しすぎだろ……」
清麿が呆れた表情を見せたが、清麿自身もこれまでの魔物との戦いで捨て身に近い戦法をとったことがある(リオウ戦)ので、渚達に強くは言えない。しかし、
「それは絶対にダメなことなのだ!私は、お主たちが傷つくと悲しい」
ガッシュは渚を見つめる。ガッシュペアは魔物との戦いで、多くの魔物や人間が傷つくのを見てきた。ガッシュはそれを思い出す。親しい者達が傷付く姿を彼は想像したくない。
「うん、わかってるよ、ガッシュ君。もう二度と、あんな方法はとらない」
渚が真剣な表情で答える。それから彼等は少し暗くなった雰囲気を明るくするかの如く、楽しい世間話をした。そして全員が食べ終わると、
「高嶺君、お願いがあるんだけど、いい?」
「どうしたんだ?」
「これからは僕のことを、潮田じゃなくて渚って呼んでほしいんだけど、いいかな?」
渚がそう頼んだ。これには渚の家庭の事情が関係している。彼の言う事について清麿が少し考える。その後、
「……ああ、了解したよ、渚!」
「ありがとう!さて、そろそろ遅くなりそうだから帰ろうか、皆」
清麿は快く了承する。すると渚は嬉しそうな顔を見せてくれた。
そして渚の言葉を皮切りに退席した後に、各々が会計を済ませる。ちなみにレジはウルルが対応していた。
「ウルルさん、この店とても良かったよ」
「ウヌ、また来たいのだ!」
「また来てください、清麿、ガッシュ。それから、戦い、頑張れよ!」
「ああ、もちろんだ!」
ウルルは共に戦った仲間を応援してくれている。魔界の滅亡はパティの死を意味する。当然ガッシュペアは負けられない。そして2人も会計を終わらせて店を出た。
一行は雑談しながら帰り道を歩いていると、それぞれの分かれ道までたどり着く。
「高嶺君、ガッシュ君、今日は来てくれてありがとう!」
「こっちこそ誘ってくれてありがとうな、渚。それに、茅野も杉野も、今日は楽しかったよ。ありがとう!」
渚と清麿はそれぞれ礼を言う。今日の出来事でお互いの関係が少しでも深まった事を彼等は実感できた。
「また集まろうぞ!」
「またよろしくね、2人とも」
「楽しかったぜ、高嶺、ガッシュ!」
殺せんせーの暗殺及びクリアの打倒、これらの苦難はガッシュペアを疲弊させるのに十分であった。しかし、クラスメイトとの交流のおかげで、精神はいくらか落ち着きを取り戻していた。このようにE組の生徒と交流する機会を増やしたい。清麿はそんなことを考えながら、渚達と別れを済ました。
そしてガッシュペアが家に帰ると、デュフォーとティオペアが既に部屋で待機していた。彼等はすでに特訓モードに入っている。
「悪い、待たせたか」
清麿が申し訳なさそうに言う。自分達だけクラスメイトと楽しく過ごしていた事を後ろめたく感じていた。しかし、
「指定した時間は過ぎてない、よって問題はない」
「大丈夫よ。清麿君、ガッシュ君」
「今日も気合を入れていきましょ!」
デュフォー達は気にしていない素振りだ。クリア打倒のための特訓が今日も始まる。
読んでいただき、ありがとうございました。今回はウルルを出したのですが、違和感のない程度にガッシュ側の主要キャラ以外のキャラも出していきたいと思っています。