とある日曜日、ガッシュペアはデュフォーとともにモチノキ町の裏山で特訓を行う。そし昼時になり、休息の為に特訓は中断された。
「そういえば清麿、
「そうだな。だがこの程度では、実戦では使い物にならん!」
「ガッシュも身体能力が上がっている。俺の出したメニュー以外にも、暗殺の訓練が生きてきているな。マントの活用も形になってきている」
「ウヌ、まだまだ頑張るのだ!」
ガッシュペアの特訓の成果は確実に出てきてはいるが、まだまだクリア打倒には至らない。デュフォーと話していると、2人の物影が近付いてきた。その2人は、ガッシュペアと関わりのある人物だ。
「!菅谷と三村じゃないか」
「おおっ、お主達も来ておったか!」
「いや~、椚ヶ丘から離れた所にスケッチに来てたんだが……」
「何か音がしてたからな。見に来たんだが、お取込み中だったか?」
何と菅谷と三村が裏山に来ていた。菅谷は美術が得意で、休日は絵を描いたりもしているようだ。三村は菅谷の付き添いをしながら、風景の映像を撮影している。
「今は特訓の休憩中だったのだ!」
「清麿達のクラスメイトか」
「ああ、そうだ。まさかこんなところで会うとは思わなかった」
デュフォーが菅谷と三村を見ると、何かを考えるような素振りをした後に口を開いた。
「……お前達の今日の特訓はここまでだ。クラスメイトとの交流を深めておけ」
「え、いいのか?」
デュフォーの意外な言葉に清麿は戸惑う。午後からは特訓に本腰を入れるものかと思ったが、そうはならなかった。
「特訓の成果が思ったよりは出ている。だから今日の午後からは、ティオ達の特訓に専念させてくれ。では、俺は先に戻る」
「ウヌ、分かったのだ……」
デュフォーはそう言うと、一人で山を降りてしまった。彼にも考えがあるのだと思い、ガッシュペアはそれ以上デュフォーには何も聞かなかった。菅谷と三村はそんなやり取りを見ている。
「なあ高嶺、あの人がお前の言ってた特訓を見てくれる人か?」
「何か、ちょっと怖そうだったな……」
「ああ、そうだ。時間が空いている時は基本ここか自分の家で特訓を見てもらっている」
菅谷と三村が清麿にデュフォーの事を聞いてくる。清麿がそれについて答えていると、突然ガッシュの腹の音が鳴り始めた。
「まあ、ひとまず飯でも食おうぜ!」
「清麿、母上殿の作ってくれた弁当を食べようぞ!」
「何だ、お前等も弁当持ってきてたのか。丁度いい」
ガッシュペアだけではなく、菅谷と三村も弁当を持って来ている様だ。そして4人はその場にビニールシートを敷いて、昼食を取ることにした。
「それにしても偶然だな。こんな所で出会うとは……」
「ああ、俺も三村も休日は自分の好きな分野に取り組んでいる。俺は美術で三村は映像撮影。岡島が一緒にいる時はあいつ、写真の撮影をしているぞ。今日は気分を変えてモチノキ町の方まで来てたが、そういや高嶺の家はモチノキ町だったな」
4人は昼食を取りながら雑談を行う。せっかくの休日、暗殺や学業以外の趣味に没頭するのも己の刃を磨く良い機会だ。そして、
「なあお前等。この後に菅谷とモチノキ町の美術館行くんだけど、一緒にどうだ?」
「おおっ、美術館と言えばシェミラ像を思い出すのう!」
「何っ、お前等シェミラ像知ってんのか⁉」
三村からの美術館同行の誘い。それを聞いたガッシュペアの脳裏にはある出来事が浮かぶ。そしてガッシュはシェミラ像の名前を出す。すると、菅谷がその話題に食いつく。
「そうだ、俺達はシェミラ像を見たことがある。そして……」
清麿はシェミラ像の事、そしてそれを通しての魔物のダニーとそのパートナーの資産家ゴルドーとの出会いを話した。
「マジか、あの資産家ゴルドーまで戦いに参加していたのか!」
「しかも自分の魔物の本を燃やすリスクを冒してまでシェミラ像を守り切ったなんて……」
菅谷と三村はゴルドーの話を聞いてとても驚いたが、それと同時にシェミラ像を守りぬいたことに感動した。自分達の戦いを放棄してでも守るべき物を守る。ダニーペアはプロの鑑だ。
「ダニーとは友達になったからの!」
「そうだな!ゴルドーさんも元気にしていれば良いが」
「つーか、魔物の戦いって結構有名人も参加しているんだな!ベルン然り」
「そう言えば、リィエンさんも戦いに参加してたんだもんな!」
(あと、
確かに魔物の戦いには多くの人々が参加した。そしてガッシュペアは多くの魔物とそのパートナーと戦い、時には仲間になって協力してきた。そんなこれまでの戦いをガッシュペアは思い出す。
「んじゃ、食い終わったら美術館に行こうぜ。結構楽しみにしてんだ!」
一行は昼食を済ませた後に裏山を降りて、モチノキ町の美術館に向かった。
そしてガッシュペアは、菅谷と三村と共にモチノキ国際美術館にたどり着いた。そこには多くの有名な芸術家の作品が展示されている。
「いや~、どれも実物で見るとやっぱすげー」
「ウヌ、あまり良くわからんのだがの……」
「ガッシュにはまだ早いかもな」
菅谷は多くの芸術品に魅了されていたが、ガッシュにはそれらの凄さが全く理解出来ない。シェミラ像を見た時も、ガッシュはブリの方が良いと言い切った。
「さっき美術館のパンフレット見たんだが、ここ、ゴルドーさんが出資してたな」
「そうなんだよ。あと、椚ヶ丘の美術館もあの人が出資してるぜ。一回会ってみてーわ」
「私もまた会いたいのだ!」
美術品の良さは分からないガッシュだったが、ゴルドーの話題に関しては目を輝かせる。短い付き合いだったが、ガッシュとダニーペアの出会いは忘れられないものになっていた。自らの魔本を犠牲にしてまで守るべきものを守り通したダニーの姿は、今でもガッシュは鮮明に覚えている。
「シェミラ像が前にここにあった時に俺、見に来れなかったんだよな。さて、シェミラ像が次に日本に来るのはいつになるやら。見学できたお前等が羨ましいぜ」
「まあ、タイミングが良かったんだ」
「ダニー達のおかげなのだ!」
菅谷がシェミラ像を見れなかったことを残念がる。美術分野に深い関心を持つ彼は、何としてもその目でシェミラ像を見たいと考えている。
そして一行がさらに歩き進むと、腕に刺青らしきものをしていたカップルとすれ違った。
「なあ、あのカップルの腕の刺青がスゲー派手なんだが」
三村が彼等の腕に書かれた模様を気にする。確かに通行人の誰かが目立つ模様を体に入れているのを見れば、印象に残りやすい。そして三村の発言を聞いた菅谷は得意げに口を開く。
「いや、多分あれは刺青じゃないぞ。メヘンディアートだな」
「確か、インドとかで有名な奴だったか?」
「ああ、そうだ。それはな……」
メヘンディは、ヘナと言う植物の葉を粉末にしたものを使ったペーストを肌に塗るもので、刺青と違って痛みもない。清麿も名前は聞いたことがある様だ。そんなメヘンディアートの話を菅谷が続ける。関心のある話題という事で菅谷が語り続けるが話が長くなってしまい、清麿は何とも言えない表情を見せた。
「お、おう。流石だな、菅谷」
「ウヌゥ、あまり良く分からなかったのだ」
菅谷の長い説明を聞いても、ガッシュは理解することすら出来なかった。菅谷は美術関係の事ならクラス随一だ。彼が迷彩を塗れば暗殺にも役立つだろう。
「夏に入る前に一度、俺も塗ってみたかったんだけどなー」
「何で夏の前なんだ?」
菅谷の夏の前にという言葉に対して三村が疑問に思う。
「いや、夏だと制服が半袖になるだろ?流石にあの模様を堂々と学校でさらすのは抵抗がある。まあ、E組なら大丈夫だとは思うが」
「……確かに初見はビビるよな」
「殺せんせーなら、生徒が非行に走ったとか言いそうだよな」
一行はメヘンディアートを施した菅谷を見て、殺せんせーが慌てる様を想像する。そんな時、菅谷が何かをひらめいたかの如く指を鳴らした。
「どうしたのだ、菅谷?」
「いや、面白い暗殺方法を思いついたんだよ」
「「マジか?」」
菅谷の考えた暗殺方法はこうだ。まず菅谷が殺せんせーにメヘンディアートの話をする。生徒の話には基本興味を持ってくれる殺せんせーなら、話を聞いてくれる。そしてメヘンディアートに興味を持った殺せんせーに対して、実際に染色を施す。しかし染色に使うペーストに対先生物質を混ぜれば、それを知らない殺せんせーはダメージを受ける。そしてその隙を付いて暗殺するという手はずだ。
「おおっ、良さそうだの!」
「いかにも菅谷らしい方法だな!俺達も協力するよ」
菅谷の暗殺方法を聞いて、ガッシュペアは殺る気を見せる。
「確かに、殺せんせーならすぐにダマせそうだよな」
三村は笑いながら、対先生物質入りのペーストでテンパる殺せんせーを想像していた。
そして一行は次のエリアに来た。そこは美術品に関する歴史の映像が見れる場所で、小さな映画館のようになっている。しかし映像が始まって間もなく、ガッシュは眠りについてしまった。そして映像が終わり、清麿がガッシュを起こす。
「起きろガッシュ、お前ほとんど寝てたじゃねーか」
「ウヌ、もう終わってしまったのか?」
「ああそうだ……ったく、ちゃんとよだれ拭いとけ」
「わかったのだ」
映像が流れている時にほとんど爆睡しており、よだれまで垂らしていたガッシュに対して、清麿は呆れた表情でティッシュを渡した。
「随分面倒見が良いんだな、高嶺」
「全く手のかかるやつだよ」
三村の言うことに対して、清麿は満更でもないような表情で言葉を返した。手のかかる程可愛げがあるのだろうか。
次のエリアに移ろうとしている時、ガッシュは菅谷と並んで歩く。その一方で清麿は三村と話していた。
「三村って、映像関係の事に目がないよな」
「ああ、将来もそれ関係の仕事に就こうと思ってる。高嶺もこういう業界どうよ?」
「そうだな。将来やりたいことは詳しく決まってないが、こういうのも面白そうだよな」
清麿も三村の好きな分野に興味を示す。
「まあ、高嶺なら何やっても上手く出来そーだけどな。それか、やっぱり人間界と魔界を繋ぐ研究者になったりしてな!」
「ははっ、どうだろうな……」
三村の将来の夢の話を聞いて、清麿も先の事を考える。三村は将来の話をしていたが、岡島と違ってエロの話題などで脱線することはなかった。しかし、
「それにしても、さっきの映像は本当によくできてた。特に……」
三村は先程の映像について話し始めた。ナレーションの声質や抑揚、使われたBGM、演出、映像の角度などについて彼は評論家の如く熱く語る。
(三村がこんなに熱くなるのは初めて見るかもしれん……こいつも好きな事にはとことんハマるタイプか?)
三村の意外な一面を見た清麿であった。また三村はエアギターにもハマっており、その動きは普段の彼からは想像出来ない程にアグレッシブだ。このお熱い一面こそ彼の本性かもしれない。
そして雑談しながら美術館を回るな、気付けば一周し終わった。
「いやー、楽しかったぜモチノキ国際美術館。少し遠出したかいがあったよ」
「ああ、ここで流れてた映像は色々参考になりそうだ」
「俺もお前等と色々見れて良かった」
「芸術は難しかったが、皆と一緒にいた時間は楽しかったのだ!」
一行は美術館巡りをそれぞれ楽しむことが出来た。
「映像の時はほとんど寝てたけどな」
「う、ウヌゥ……」
ガッシュペアは菅谷と三村との関わりは、これまでは菅谷がガッシュの付け鼻を作ってくれた事、三村はベルンの話で盛り上がった事以外それほど絡みは無かった。しかし今日の美術館巡りで彼等の好きな分野に触れられ、2人との交流が深まった事を感じた。
この調子でE組との交流を深めて、より良いチームワークを築いて暗殺につなげる。デュフォーが特訓を午前中で切り上げたのも、この事が理由かもしれない。
そして一行は美術館を出て一緒に帰り道を歩いていた。すると、
「俺、美術の事になると周りが見えなくなる時がしばしばあってさ、それが原因で素行不良扱いされてE組行きになったんだよな」
菅谷は自分がE組行きになった経緯を話し始めた。菅谷は元々成績が良くない方だったが、それに加えてテストの裏に絵を描いてしまう事が何度もあった。そのように悪目立ちしてしまい、同じくらい成績が良くない生徒が本校舎に残れたにも関わらず、菅谷はE組行きとなったのだ。
「ま、正しいんだけどね。答案の裏に落書きなんかしようものなら、スルーされるか怒られるかのどっちかが普通だ。だけど殺せんせーは安っぽい絵を加筆して来る、むしろ喜々としてさ」
菅谷の話を3人は真剣に聞く。
「ちょっとぐらい異端な奴でもE組では普通だ。いいクラスだよな、ホント」
「E組の皆は個性があって面白いのだ!」
「皆それぞれ武器を隠し持っているからな、俺達も負けてられん」
ガッシュペアは菅谷の言う事に賛同した。E組は異様な環境ではあるが、それ故にそれぞれの生徒達が思う存分に個性を活かせている。
「クラスの皆の役に立てるよう、俺の映像も何かの暗殺で生かしたいぜ!」
三村は自分の作る映像を暗殺に生かす方法を考えた。三村の映像に関しては、後ほど暗殺において大きな役割を果たすことになる事は、まだ彼等は知る由も無い。そして各々の別れ道についた。
「じゃあなお前等!」
「今日は付き合ってくれてありがとうな」
菅谷と三村はガッシュペアに手を振る。
「こっちこそありがとうな!楽しかったよ」
「またなのだ!」
そうしてガッシュペアは菅谷・三村と別れ、清麿の家を目指した。
「菅谷も三村も、とても楽しそうだったのだ!」
「そうだな。あいつ等がイキイキしているのは、殺せんせーのお陰だ」
彼等が自分のやりたい事を存分にやれているのは、殺せんせーの存在が大きい。本人は地球を滅ぼすなどと言っているが、生徒達の事を本当によく見てくれている。何故先生がそこまでしてくれるのかは謎のままだ。
後日、菅谷が提案した暗殺方法を彼等は実施した。しかし殺せんせーの顔が対先生物質で崩れるだけで本命の攻撃も避けられてしまい、暗殺には至らなかった。ちなみにその時の殺せんせーの顔はとても気味が悪く、多くの生徒達を戦慄させた。
読んでいただき、ありがとうございました。今回はガッシュペアと菅谷・三村と言うかなり珍しい組み合わせとなりました。