期末テストの時期が近付く。そして中間テスト前と同様に殺せんせーが分身を作り、生徒達の苦手科目を重点的に教えていた。
「殺せんせー、また今回も全員50位以内を目標にするの?」
「いいえ」
渚の質問を殺せんせーが否定する。
「先生あの時は、総合点ばかり気にしていました。生徒それぞれに合うような目標を立てるべきです。そこで今回は、この暗殺教室にピッタリの目標を設定しました!」
殺せんせーの提案はこうだ。総合1位のみならず、各教科で学年1位を取ったものには触手1本を破壊する権利を与える。そして殺せんせーは、破壊される触手1本につき自らの運動能力を20%失うとも説明した。
「総合と5教科全てでそれぞれ誰かがトップを取れば、6本もの触手を破壊出来ます。これが、暗殺教室の期末テストです。賞金100億に近付けるかどうかは、皆さんの成績次第なのです」
それを聞いて生徒達の殺る気が一気に出て来る。殺せんせーは生徒を殺る気にさせるのが上手い。そんな時、清麿が手を挙げた。
「先生、質問があるんだが……」
「何でしょう、高嶺君?」
「総合や各教科で学年1位を取った生徒は触手1本破壊出来る訳だが、本校舎の奴等と同率1位になった場合はどうなるんだ?」
確かに学年1位を取っても、本校舎の生徒との同率ならどう扱われるのかが不明だ。清麿はそれをハッキリさせたかった。そんな彼の質問を聞いて、殺せんせーは考えるような素振りを見せる。
「そうですねぇ。本校舎の生徒と同率1位の場合には、100点での同率の場合に触手を破壊する権利を与えることにしましょう。もちろんE組内での同率1位なら、1人1本触手を破壊出来ますよ」
「了解した」
殺せんせーの答えに対して、清麿は納得した素振りを見せる。そして丁度その日の授業の時間が終わり、号令の後に殺せんせーは教室を出た。
授業終わりも多くの生徒達が自主勉強に励む中で、清麿の前の席の奥田がいつになく殺る気を見せていた。
「珍しく気合入ってんじゃん、奥田さん」
「はい!」
そんな奥田にカルマが声をかける。
「理科だけなら私の大の得意ですから!やっと皆の役に立てるかも!」
奥田は理科が得意な生徒だ。彼女だけではない。E組には1教科限定なら上位ランカーは多く、生徒達は本気で1位を取りに行っている。そんな中、寺坂が清麿の席に近付いた。
「おい高嶺、ちょいツラ貸せや」
「何だ?別に構わんが」
寺坂が清麿を連れて隣の空き教室へ移動する。そこには寺坂グループである村松・吉田・狭間が待ち受けていた。
「狭間までいるのか。そういやお前、やけに寺坂達と仲良いよな」
「そうね。こいつ等の行動は、見てて面白いのよ。それにこの前みたいな暴走がないように、誰かがコントロールしてあげないと」
「……なるほどな」
狭間の発言に清麿はかなりしっくりきた様子だ。狭間も元は寺坂達同様やさぐれていたが、今は彼等の行動をこき下ろすのが楽しくなっているみたいだ。
「そろそろ本題に入るぞ、いいか?」
「おっとそうだな。話してくれ」
「俺等の作戦はよ……」
寺坂が自分達の作戦を清麿達に伝えた。それを聞いた清麿は初めは驚いたように目を見開くが、すぐに口元に笑みを浮かべた。
「どうよ?これならあのタコを殺せる確率が一気に高まるぜ!」
「いいと思う、確かにこれは盲点だった。俺もその作戦に乗るよ。寺坂が考えたのか?」
「あたりめーよ!あのタコに一泡吹かせるのも目的だが、カルマの野郎、人を指示待ち人間とか言いやがって!」
寺坂の考えた作戦に清麿が感心する。これまで楽をしようとしてきた寺坂とは違う。殺せんせー暗殺の為にとんでもない作戦を思いつき、実行しようとしているのだから。
「準備もあるから本格的にやるのは明日からだ。まあ高嶺、お前を誘ったのは俺等に勉強を教えて欲しいってのもある」
「いいだろう。俺は自分の席に戻るぞ」
清麿がそう言うと、寺坂達は無言で手を振ってくれた。
清麿が自分の教室に戻ると、カルマが自分の席でダラダラしていた。彼の勉強はあまり進んでいない様子だ。
「高嶺君、寺坂達と悪だくみ?」
「そんな所だ」
「寺坂君達もすごい殺る気ですよね!私も負けてられません!」
勉強に対するやる気があまり見られないカルマと対照的に、奥田はかなり張り切っている。そんな時、ガッシュが教室に入ってきた。
「清麿、そろそろ帰ろうぞ……ウヌ?」
「お、ガッシュか。期末テストが近いからな。皆それに向けて勉強しているんだ」
「清麿もまだ残っていくのか?」
「いや、デュフォーも待ってるし今日は帰るよ。ただし、明日からは帰るのは遅くなる」
クリア打倒の特訓の為に清麿は帰り支度を始めた。そして教室にいる生徒達に帰りの挨拶を済ませると、ガッシュペアは校舎を出た。
一方本校舎では、烏間先生がビッチ先生と共に理事長に中間テストのような小細工をしないように釘を刺していた。しかし理事長は、自分から直接何かを仕掛けるつもりはない様子である。そして先生2人と入れ替わる形で、1人の本校舎の生徒が理事長室に入っていった。
「良く来てくれたね」
「理事長、あなたの意向通り……A組成績の底上げに着手しました。これで満足ですか?」
「
浅野君と呼ばれたA組の生徒、彼からは只者ではない雰囲気が出ている。彼の名前は浅野学秀、理事長の一人息子だ。そして彼は今、E組がテストで上位を取れないように自らがA組の生徒達に勉強を教え、A組の成績を伸ばそうとしている。
「そんな君に、ノルマを与えようか。そうだな……A組全員がトップ50に入り、5教科全てをA組が1位を独占するのが合格ラインだ」
「分かりました……ではこうしましょう、理事長。僕の力でその条件をクリアしてみせます。そしたら生徒ではなく、息子としてひとつおねだりをしたいのですが」
「ほう?」
浅野の目は明らかに何かを企んでいる目だ。理事長の息子と言う事で、彼もかなり強かな生徒である。
「僕は知りたいんです。E組の事で、何か隠していませんか?」
理事長はほんの一瞬ではあるが目を見開く。まるで図星を付かれたかのように。その理事長の仕草を浅野は見逃さない。
「E組の高嶺清麿、彼は何者なんです?」
理事長が何かを隠していると浅野は確信し、立て続けに理事長に問いただした。
「高嶺君かい?彼は私が推薦した極めて優秀な転校生だよ」
「なるほど、では何故その様な極めて優秀な生徒がE組に在籍しているんですかね?」
確かに清麿の学力ならE組から抜け出すのは容易だ。カルマのように素行が悪い訳でもない。そんな彼がどうしてE組にいるのか、しかも理事長自らが推薦した生徒なのに。浅野はこの事が甚だ疑問であり、理事長の度の過ぎたE組への介入も相まって、E組には何か秘密があるのではと予測していた。浅野がその秘密を暴くための第一歩が、清麿の正体を知る事だ。
「彼の事を知りたいのなら、君が彼を直接支配して聞き出せばいいのではないかい?最も、他の生徒と同様に高嶺君が怖いのなら話は別だがね」
「言ってくれますね、理事長。確かに彼は今、多くの生徒達に恐れられている。そうですね、彼の事は僕が支配して直接聞き出すことにしましょう。このまま本校舎の生徒がE組の生徒を恐れているというのも、示しが付かないですからね」
浅野は清麿に目を付けた。この会話の最中、清麿が背筋から寒気を感じたのは別の話である。
「そして理事長からのノルマを達成し、高嶺清麿から多くを聞き出し、私はあなたを支配して首輪をつけて飼う事にしましょうか」
「フフフ、さすがは最も長く教えてきた生徒だよ。社畜として飼い殺してあげよう」
お互いにお互いを支配することしか考えていない。これは傍から見れば極めて歪な親子関係ではあるが、彼等にとっては普通の事である。彼等の間に親子としての愛情があるのかは、彼等にしか知りえない。
次の日の放課後、清麿は寺坂グループに混じって期末テストに励んでいた。
「何だ、そういう事だったのか」
「時間取らせて悪いな高嶺」
「気にしなくていい。他の奴に勉強を教えていると、自分の復習にもつながる」
吉田と村松が清麿に勉強について聞いていたが、清麿はそれすら自分の学力向上に繋げるつもりだ。そして、
「悪い高嶺、ここ教えてもらいたいんだが?」
竹林が清麿に勉強を聞きに来た。清麿は寺坂グループ以外の生徒達にも、勉強に関して分からない箇所を教えていた。
「寺坂、高嶺達との計画は順調かい?」
清麿に勉強を聞くために寺坂達の近くに来ていた竹林が、メガネを指で上げながら問いただす。そんな彼の問いに寺坂は笑いながら答えた。
「へっ、まーな!つーか竹林、お前も総合1位目指してかなり気合入れてるよーじゃねーか。俺の誘いを断りやがって!」
「まあね。殺せんせーの教え方が良いから、総合1位も狙う気が起きる程度には学力向上を自覚しているよ。申し訳ないが、僕はそっちに専念したいんだ」
(寺坂の奴、竹林にも声かけていたのか。あれ、寺坂と竹林ってこんなに仲良かったっけ?そーいや修学旅行も同じ班だったか)
寺坂と竹林が仲良さげに話している光景を見て、清麿が疑問に思う。ガキ大将気質の寺坂と真面目系インドア男子の竹林。まるで正反対の2人が仲良さそうにしているのだから。その時清麿は、まさか彼等があのような共通の趣味を持ち合わせていたことを知る由も無かった。
「なるほど、ありがとう」
「礼には及ばん」
「済まん高嶺、俺もいいか?」
清麿は竹林に問題を教えた後に元の席に戻ろうとしたが、新たに木村が清麿に勉強を聞いて来た。多くのクラスメイトに勉強を教える清麿を、寺坂グループは見ていた。
「高嶺の奴、忙しいわね。
狭間はそんな清麿を見て、自分達の計画が上手くいくかどうかを心配していた。
「まあこればっかりは仕方ねーだろ。俺等だけでアイツを独占する訳には行かねェ。俺等も高嶺に助けられてるしな」
「お、寺坂の口からそんな言葉が聞けるとはよ」
「あー、それは思ったぜ」
「うるせーよ、お前等!」
寺坂の口から周りを気遣う発言が出た事を、吉田と村松が冷やかす。かつては周りの気遣いなど考えていない寺坂だったが、彼もまた成長しているのだ。
一方清麿は他の生徒達に一通り勉強を教え終わって一息付いていたところを、片岡に話かけられる。
「高嶺君、大変そうね。大丈夫?」
「いや、全く問題ないぞ。片岡こそ、他の女子達によく勉強を教えているじゃないか」
多くの生徒達に勉強を教えている清麿に対して、自分の勉強がおろそかになっていないか心配する片岡だ。しかし清麿は何ともない様子だった。
「ふふっ、そうね。皆が自分のやれることに最大限取り組んでる。高嶺君も無理せず頑張ってね!」
殺せんせーの暗殺に向けて、E組が一つの事に真剣に取り組む。清麿にとって今のE組の環境はかなり居心地の良いものだった。
「まあ、今日忙しいのは奥田を始めとした各教科の上位ランカーが、本校舎の図書館に行ってるのもあるがな」
清麿と片岡が席を見渡すと、何人かの生徒の席が空いている。各教科のスペシャリストがいない状況なので、総合的に学力の高い清麿は特に頼りにされていた。またこの時、本校舎の図書館でA組とひと悶着あったことを清麿達はまだ知らない。
「まあ、赤羽に関してはサボリだろうがな……」
「私もそう思う。なんかカルマ君、勉強に力が入ってない感じするよね」
カルマが勉強に積極的ではないことは、清麿だけではなく片岡も気付いていた。そんな時、
「メグー、ちょっといい?」
「いいよひなた。じゃあ高嶺君、私は席に戻るね!」
「分かった、お互い頑張ろう!」
岡野に呼ばれた片岡が自分の席に戻って行く。それを見た清麿も元の席に着いた。
「よ、お疲れさん」
席に着いた清麿に対して、村松が労いの言葉をかけてくれる。
「悪い待たせた。寺坂、そろそろアレに入るか?」
「そうだな、そうするか!おめーら、場所変えるぞ!」
寺坂の言葉に従い、清麿達は隣の空き教室に各自の荷物を持って移動した。
そして別室に移った彼等は、再び勉強を始める。しばらく彼等が勉強を続けていた時、ガッシュがそこに入ってきた。
「清麿がここで勉強しておると聞いたからの。そろそろ帰ろうぞ」
「ガッシュか、もうこんな時間か。そうだな」
ガッシュが教室に入ってきたので、清麿は帰り支度を始める。
「悪い皆、今日は帰らせてもらう。また明日な!」
「おう、特訓の方も頑張れよ!」
寺坂グループも清麿の事情を知っていたため、彼を引き留める事をしない。そしてガッシュペアはそのまま家を目指す。
次の日、本校舎の図書館で勉強していたE組の生徒達から、A組の生徒達とかけをすることが話された。その内容は5教科でより多くの学年トップを取ったクラスが、負けたクラスにどのような命令も出来るというものだった。これはE組と、浅野率いるA組の5英傑との全面戦争に他ならない。
「ヌルフフフ、いいんじゃないですか?私も勉強の教え甲斐がありますねぇ!」
殺せんせーもそのかけにはかなり乗り気だ。各教科の上位ランカーの腕の見せ所である。その中でも特に理科なら奥田、英語なら中村、社会なら磯貝、国語なら神崎、数学なら清麿とカルマが中間テストでE組トップクラスの成績を誇っている。
「さて皆さん、かけに勝った時はこれをよこせと命令するのはどうでしょう?」
殺せんせーが提案した戦利品を見たクラス一同は一瞬驚きの顔を見せる。そして彼等はすぐにやる気になる。
「君達は一度どん底を経験しました。だからこそ次は、バチバチのトップ争いを経験して欲しいのです。先生の触手、そしてコレ、ご褒美は充分に揃いました。暗殺者なら狙ってトップを
殺せんせーは教室から出ていき、生徒達は自主勉強の準備を始める。
「A組の出した条件、なんか裏で企んでる気がするんだよね。そう思わない?高嶺君」
「まあ、何か裏がある可能性は考えられるな。だが俺達が勝負に勝てば問題ないだろう」
カルマはA組の事を勘ぐっているようだ。確かに浅野率いる5英傑が相手なら、裏で何が起こるか予測もつかない。しかし清麿は、A組に打ち勝つことしか考えていない。
「というか赤羽、少しだらけ過ぎじゃないのか?」
「大丈夫だって。ちゃんと結果は出すからさ」
「ったく……」
期末テストが近付き、多くの生徒達がやる気を見せる中でカルマは不真面目だ。それを咎めようとする清麿だが、カルマは態度を改めようとしない。
そして期末テスト当日。多くの生徒達がやる気を見せる中、人工知能の参加が認められなかった為に律はテストに参加出来なかった。そこで律役の生徒が代わりにテストを受けることになり、その存在はE組の生徒に動揺を与える。また理事長の指導により、テスト問題の難易度も例年を上回る。そんな中、それぞれの利害が交錯する期末テストが始まった。
読んでいただき、ありがとうございました。清麿の点数は如何に?