E組一同は離島での殺せんせー暗殺の為の訓練を行う。ちなみに殺せんせーはエベレストで避暑中の為、ここにはいない。生徒達は烏間先生指導の下、ナイフ術の訓練を始める。その時、
「皆、こんにちはある!」
何とリィエンがE組の裏山にやってきた。彼女は烏間先生の補佐の為に、はるばる中国から来てくれたのだ。
「来てくれたか、リィエンさん。早速で悪いが生徒達とナイフ術で相手をしてくれないか?俺1人では一度に相手に出来る人数の限りがある」
「分かったある、烏間さん!」
リィエンもまたナイフ術の修行をしている。元々の戦闘能力の高さも相まって、短期間でみるみるうちにナイフの技術が上達した。さらにリィエンの場合はナイフ術にカンフーの要素も取り入れており、全て見切るのは容易ではない。
「リィエンさん来てくれたんだ!なら、まずは俺と手合わせしてもらっていい?」
「カルマ、勝負ある!」
リィエンのナイフ術とカンフーの合わせ技に対して、E組トップクラスの戦闘能力を持つカルマが勝負を挑む。勝敗は如何に。
「おい、カルマとリィエンさんが対決するぞ」
「どうなるんだろうね~」
2人の手合わせは岡島と倉橋を初め、多くの生徒達の注目の的だ。
そしてその様子を少し遠くで、派手な私服姿のビッチ先生が見ている。
「全くリィエンたら、暗殺よりも女を磨いてほしいだけど……」
ビッチ先生はため息をついた。リィエンはビッチ先生の弟子となったが、女を磨くことよりもナイフ術の方に精を出している。それはビッチ先生の悩みの種だ。先生はリィエンと予定が合う時にでも、彼女をコーディネート出来ないかを考えている。そんな時、ビッチ先生の後ろに1人の男が近付いた。
「イリーナ、何だその恰好は?落第が嫌ならさっさと着替えろ‼」
「ヘイ喜んで‼ロヴロ師匠!」
ビッチ先生は校舎内に着替えに行った。師匠には頭が上がらない様子だ。
「全くあいつは……おや?あの2人が見当たらないが」
ロヴロはこの場にガッシュペアがいないことに気付いた。
「ああ。高嶺君とガッシュ君なら、新しい呪文が出たと言って別の所で特訓中だ。会いたいなら場所を教えるが?」
「頼もうか」
ガッシュペアに会いたがっているロヴロを見て、烏間先生が2人の場所を教えた。ロヴロは既に魔物の事を知っており、烏間先生もガッシュペアの呪文について彼に隠すつもりは無い。そしてロヴロは1人でそこへ向かった。
その頃ガッシュペアは、新たな呪文のの特訓に励んでいた。それが出たのは昨日の特訓中で、新呪文を使いこなす為のメニューは事前にデュフォーが考えてくれた。ガッシュペアはそのメニューのお陰で、殆ど術をマスターしている。そんな時、
「やあ、君達」
突如気配を消したロヴロが、彼等の後ろに出現した。
「な……ロヴロさん⁉」
「来てくれておったのか⁉」
ロヴロの接近にガッシュペアは全く気付くことが出来ず、彼の姿を見た2人は冷や汗を掻いた。
「気付いてなかったのか。まあ、それだけ特訓に夢中だったという事かね。君達、常に周りには気を付けた方がいい」
ロヴロは冗談交じりにそう言ったが、気配も殺気も完全に消した状態での彼の接近に気付くのは至難の業である。
「さて、聞きたいことがある。この前私が君達の存在感は大きすぎると言ったことは覚えているね?」
「……もちろんです」
「その事が、どうかしたのかの?」
「覚えてくれていて良かった。それについての対処法は、何か考えたかね?」
ロヴロはガッシュペアを始めて見た時、彼等に秘められる大きな力を感じ取ったと同時に、その大きすぎる存在感は暗殺ではマイナスになると言った。ロヴロは2人に、その事についての対策をしているかどうかを問いただしたかったのだ。
「それについては考えました。それは……」
清麿がその事について、自分達なりに出した答えをロヴロに伝えた。
「そしてこれは、今回の暗殺に組み込む事にしています」
ガッシュペアはロヴロに言われたことをしっかりと考えて、尚且つ今回の暗殺に生かそうとする。しかし話を聞いていたロヴロは、どこか不満げな顔を見せた。
「なるほど、それは間違いではない。半分正解と言ったところだ。だが、俺の言った事についてちゃんと向き合い、さらに実践に取り入れようとする姿勢は評価出来る。頑張りたまえ」
ロヴロはガッシュペアの出した答えが不完全だと言った。しかし、その事を責めるような発言はせずに、むしろ次の暗殺の事を激励してくれた。
「ウヌ、頑張るのだ!」
「……もう半分の答えも、考えてみます」
ガッシュはロヴロの激励を素直に受け取ったが、清麿はもう半分の答えを出せなかった事を悔しがる。そんな2人を見た後にロヴロは後ろを向く。
「では俺は行く。少し気になる生徒がいたんでな」
「気になる生徒?誰なのだ?」
「それってまさか……」
ロヴロはガッシュペア以外にも、目を付けていた生徒がいた。ガッシュはそれが誰なのか予想がつかなかったが、清麿は思い当たる節があるようだ。
「黒髪の少年は心当たりがあるようだね。誰か言ってごらん」
「……潮田渚」
ロヴロは清麿を試すかのように、その答えを聞いた。そして清麿は少し考えた後、渚の名前を出す。
「正解だ。君も彼の才能には気付いているようだね?」
「はい。恐らくは暗殺の才能が、渚にはあります」
「……渚であったか。確かに渚からは、何かを感じることがあるのう」
清麿の答えは正しかった。そしてガッシュペアは、渚が鷹岡にナイフを当てた事を思い出す。他の生徒の大半が臆するであろう行動を、彼は難なくやってのけたのだ。
「彼の才能は素晴らしい。彼なら“死神”にも匹敵する暗殺者になれるかもしれん」
「……しにがみとは、何なのだ?」
「それは、最高の殺し屋のみ名乗る事が許される名前だよ。今でも、殺せんせー暗殺の機会を狙っているかもしれない」
突如ロヴロの口から、“死神”と呼ばれる暗殺者の話が出てきた。死神とは、その字の如く生命の死を司る神の名前である。そして人の死を扱う彼等の業界でその名を名乗る事は、確かに生半可な実力では許されないだろう。
「そんな奴がいるのか。油断出来んな」
「然り。手柄を取られたくなければ、早いうちに奴を殺すことだ……おっと、話が長引いてしまった。今度こそ行くよ」
そう言ってロヴロは、ガッシュペアの前から離れて行った。
そしてガッシュペアが死神の事を考えていると、今度は2人の生徒が彼等に近付いてきた。
「お前等、もうすぐ射撃の訓練に入るぞ」
「烏間先生に言われて、あんた達を呼びに来た」
千葉と速水がガッシュペアを呼びに来たのだった。
「分かった。すぐ向かう」
「今行くのだ!」
ガッシュペアは、千葉と速水の2人と共に皆のいる所に向かう事にする。そして4人が歩いていると、千葉が口を開いた。
「そういやお前等、新しい呪文の特訓してたんだよな。どんな感じだ?」
「ああ、大分使いこなせるようになってる。後は皆との連携だけだ」
普段は寡黙な千葉であるが、ガッシュペアの新しい呪文には興味がある様だ。そしてそれは、速水も同じである。
「そう、それは本番が楽しみね。どんな術なの?」
「ウヌ、それはだの……」
ガッシュが新たな呪文についての説明を始めた。千葉と速水はそれを真剣な表情で聞く。
「なるほど、良い術だな。それなら辺りが水びたしでも、周りの奴等を巻き込まずに済みそうだ」
「そうね。あと、その術なら日ごろの暗殺の訓練も活きてきそう。頼りにしてる」
術の話を聞いた千葉と速水の期待値が上がる。それ程に暗殺向きの術なのだろうか。
「ああ。この術かお前等の射撃が、今回の暗殺のトドメになるだろうからな」
「皆で暗殺を成功させようぞ!」
ガッシュペアがプレッシャーを押し返すかのように意気込む。そして千葉と速水もまたその目に闘志を宿す。
「そうだな、頑張ろう」
「私達のうちの誰かが、殺せんせーにトドメを差す」
4人は暗殺の話をしながら、烏間先生達のいる校庭に辿り着く。そして暗殺について語り合っていたためか、彼等の間にはかなりの緊張感が漂っていた。
「おい、あいつ等から感じる気迫は何だよ?まだ本番じゃないってのに……」
「まさに仕事人のそれだよな。ガッシュもめっちゃ気合入ってるし……」
思っていることが口に出た杉野と三村を初め、多くの生徒達がその気迫を感じ取る。数多くの戦いを乗り越えてきたガッシュペアと、常に結果で語る仕事人タイプの千葉と速水。特にガッシュのオンとオフの差は激しい。そんな彼等のストイックさは、E組でもトップクラスだろう。そんな時、4人に漂う雰囲気を断ち切るようにリィエンが彼等に声をかけた。
「4人とも、肩に力が入りすぎあるよ。緊張感は大事だけど、本番前からそれじゃあ疲れてしまうある」
気合が入り過ぎている4人を、リィエンは落ち着かせようとしてくれた。そんな彼女を見た清麿達の表情は柔らかくなる。
「ウヌ、リィエンも来てくれていたのだな‼」
「当然ある、私はE組の助っ人だから!」
「リィエンか、久し振り!暗殺の事を考えるとついな……」
「程々にしておいた方が良いあるよ」
リィエンは日本にいない為に頻繁にはE組に顔を出せないが、彼女の格闘技術は暗殺の大きな戦力となる。またリィエンはビッチ先生からも接待術を習ったことがあり、それもまた何かの役に立つときが来るかもしれない。そんな彼女の介入により、清麿達から漂う緊張感は消えていた。
「……肩に力を入れているつもりは無かったんだけどな、無意識にそうなってたか」
「確かにリィエンさんが声をかけてくれて、気持ちが楽になったかも」
「それなら良かったある!」
千葉と速水も、リィエンのお陰で気が楽になったようだ。
「さて!皆揃った所で、射撃の訓練を開始しよう!」
そして烏間先生の一声により、それぞれが訓練の準備に入る。その一方で烏間先生とリィエンが会話を始めた。
「リィエンさん、さっきは見事に高嶺君達の緊張を解いてくれた。気合が入るのは良いことだが、彼等は少し度が過ぎてたからな」
「そうあるね。本番前からあんな調子じゃあ、清麿達の集中力が持たないある」
烏間先生もリィエンと同様に、清麿達が根を詰め過ぎている事を気にかけていた。しかし彼女のおかげでその心配も無くなる。
「では烏間さん、私はイリーナさんに挨拶に行ってくるある」
「ああ、そうしてやってくれ」
生徒達が射撃の訓練を始めたので暇が出来たリィエンは、師であるビッチ先生の方に向かった。
ビッチ先生の方にリィエンが駆け寄ると、先生が手を振ってくれた。ビッチ先生もリィエンとの再会が嬉しいようだ。
「イリーナさん、挨拶が遅れて申し訳ないある」
「久し振りね、リィエン。そんな事は気にしなくていいわ、と言いたい所だけど……そうね。申し訳ないと思っているなら、訓練後に付き合って欲しいのよ」
「?それって……」
ビッチ先生は何かを企んでいる様子だ。それを察したリィエンは警戒心を強める。
その一方で生徒達の射撃の訓練は、対先生BB弾入りの銃を使用して殺せんせーを模した風船に弾を当てる練習をしていた。ハンドガンを使用する生徒もいれば、ライフルを使用する生徒もいる。ふわふわと動く風船に弾を当てるのは容易ではなく、多くの生徒達が苦戦する。しかし、千葉と速水は百発百中で弾を当てていた。
「クラス全体の射撃能力が前に見た時よりも向上しているな。特にあの2人は素晴らしい」
千葉と速水の射撃を見てロヴロは感心する。
「……そうだろう。千葉龍之介は空間計算に長けている。遠距離射撃で並ぶ者の無い狙撃手だ。そして速水凛香は手先の正確さと動体視力のバランスが良く、動く標的を仕留める事に優れた兵士。射撃の成績は彼等がトップクラスだ」
千葉と速水、タイプは違えど彼等の射撃は暗殺において大きな戦力になる。烏間先生も、射撃においてかなり彼等を信用している。
「ふむ、俺の教え子に欲しいくらいだ」
千葉と速水の射撃の腕は、実際に殺し屋業に関わっているロヴロを以ってそこまで言わせるほどに優秀だ。
「それから、あの少年は赤い本を持って射撃をしているな」
「高嶺君か。彼とガッシュ君はあの本を使って呪文を出しているからな。彼等の場合は片手がふさがるのが基本になるから、実戦と同じ形で取り組んでいるんだ」
ロヴロは、清麿が赤い本片手にハンドガンの練習をしている様子に注目する。
「片手が塞がっているにしては中々の命中率だな。ただ、あの2人には及ばない」
「だが、クラス全体で見れば上位の成績だ。彼も器用だからな」
「なるほど。彼等も呪文に頼り切りと言う訳ではなさそうだ」
清麿も百発百中とまではいかないが、片手ながらにそれなりの命中率を誇っている。ガッシュも射撃の腕は並だが、高い身体能力を生かしたナイフ術は強力だ。そしてロヴロは他の生徒達を見渡し、満足気な表情を浮かべた。
「良いレベルで纏まっている。短期間でよく見出し育てたものだ。それに彼等の考えた作戦も、聞いた限り複雑であるが素晴らしい。合格点を与えよう。彼等なら充分に可能性がある」
E組の暗殺技術及び作戦は、人生の大半を暗殺に費やしたロヴロが合格点を出す程だった。
「ところで烏間先生」
「何だ?」
「少し潮田渚を借りたいんだが、構わないか?」
「……分かった。彼の射撃の番も終わりそうだから、その時に呼び出せば良い」
烏間先生もまた渚の才能に気付いており、何かを察するようにロヴロに許可を出した。射撃が終わった後に渚は、ロヴロと共に別の特訓に取り組む事になる。
今日の訓練が終わり、ビッチ先生がリィエンに対して自分と買い物に付き合うよう誘う。
「ビッチ先生、やっとリィエンさんとショッピングに行けるね~!」
「あ、私達も参加したい!」
「あら、ノリが良いのは嫌いじゃないわよ。付いてらっしゃい!」
倉橋と矢田が会話に加わり、彼女達も2人のお出かけへの同行が決まる。そうして彼女達は女子会を行う事になった。
「陽菜乃と桃花も一緒あるね……」
ビッチ先生は更にリィエンの女子力を高めるつもりだ。その事に彼女は薄々感づいていたが、師匠の誘いを断る訳には行かない。
「リィエンさんがどんどんビッチ先生に染まっていくね……」
「そうだな」
「ビッチ先生はリィエンの師匠になったからの」
そんな様子を渚やガッシュペアを始め、他の生徒達も見ていた。この後リィエンはビッチ先生に色々な店に行き、散々おしゃれを仕込まれたようだ。
そうして夏休み中の訓練の日程も全て終わり、E組一同は本番である南の島の暗殺ツアーに参加する。
読んでいただき、ありがとうございました。ガッシュの新術はオリジナルです。そしてビッチ先生に色々仕込まれたリィエンの未来は如何に……