ガッシュペアの暗殺教室   作:シキガミ

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 今回の話も、前半は原作沿いで後半はオリジナルとなります。ただし、アンチ・ヘイト色の強い話となっているため、ご注意ください。


LEVEL.3 支配者の時間

「学校の中間テストが迫ってきました。高速強化テスト勉強を行います」

 

 高速移動で分身を作った殺せんせーは、生徒一人ひとりに苦手科目を教える。分身ごとに教える科目の書いてあるハチマキをしている。

 

「何で俺だけNA〇〇TOなんだよ‼」

 

E組の不良生徒、寺坂竜馬の担当する分身のみ、木の葉マークの額あてを着けている。苦手科目が複数あるが故の特別コースだそうだ。少し前までは3人くらいが限界だったが、今ではクラス全員分の分身を作っている。殺せんせーは日に日に速度を増している。

 

「高嶺君は、出来が良すぎてあまり教えがいがありませんねぇ。それでは、応用問題を出してみましょうか」

 

「先生の教え方がいいからだよ、助かってる」

 

「いえいえ、それほどでも……にゅやっ⁉」

 

殺せんせーが清麿に問題を出そうとしていたが、いきなり殺せんせーの顔が歪む。クラス一同驚きを隠せなかった。一人を除いて。

 

「急に暗殺しないで下さいカルマ君‼それ避けると残像が全部乱れるんです‼」

 

「「「「「意外と繊細なんだこの分身‼」」」」」

 

どさくさに紛れてカルマがナイフでの暗殺を決行しようとしたが、殺せんせーに避けられる。テスト勉強に皆が集中していると、

 

「清麿、もう帰る時間ではないのか?」

 

「うわ、ガッシュか⁉いつの間に……」

 

ガッシュが教室に入ってくる。誰も気づかなかったあたり、クラス一同勉強に集中していたのだろう。いきなり声をかけられて驚いた清麿だったが、皆が時計を見ると下校時間は過ぎていた。

 

「おっといけません、夢中になりすぎていて下校時間を過ぎていました。皆さん、今日はここまでにしますが、質問がある人は各自受け付けます。それでは、さようなら」

 

「ホントだ、下校時間過ぎてたか」

 

「皆とても真剣であったから話かけ辛かったのだが、勉強が終わる気がしなくて、つい声をかけてしまったのだ」

 

授業が終わるとともに、生徒は次々に教室を出る。テスト勉強が大変な故、皆どこか疲れている。椚ヶ丘中学校のテストはレベルが高い。定期テスト勉強も容易ではないのだ。

 

 

 

 

 そのころE組の職員室には、理事長が訪れている。烏間先生とビッチ先生も同席していたが、雰囲気はとても重苦しい。大半の生徒たちの帰宅を確認すると、殺せんせーがそこに入ってきた。

 

「初めまして、殺せんせー」

 

殺せんせーと理事長の初対面だ。殺せんせーは予想外の来客に疑問を隠せていなかった。

 

「この学校の理事長サマですってよ」

 

「俺達の教師としての雇い主だ」

 

それを見かねたのか、ビッチ先生と烏間先生が理事長の事を紹介してくれた。そして微動だにしていなかった殺せんせーが、一変してあわただしくなる。

 

「にゅやッ、こ、これはこれは山の上まで‼それはそうと私の給料、もうちょっと高くなりませんかねぇ」

 

理事長に媚びを売り始めた。悲しきかな。いくら超生物であっても雇用主には逆らえない。そんな光景を廊下からガッシュペアに見られていることも知らずに。

 

「清麿、殺せんせーは何をしておるのだ?」

 

「ガッシュ、お前にもわかる日はいずれ来るさ……」

 

清麿は軽蔑交じりの視線を殺せんせーに向けていたが、殺せんせーは気付く由もない。目の前の上司に媚びることで精一杯だ。

 

「こちらこそすみません、いずれ挨拶に行こうと思っていたですが……」

 

今まで腰を掛けていた理事長であったが、少し申し訳なさそうな表情を浮かべて椅子から立ち上がる。

 

「あなたの説明は防衛省やこの烏間さんから聞いていますよ。まぁ私には……すべて理解できる程の学は無いのですが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんとも悲しい生物(おかた)ですね。世界を救う救世主となるつもりが、世界を滅ぼす巨悪となり果ててしまうとは」

 

理事長の言葉を殺せんせーは無表情で聞く。否、内心では思うところがあったのかもしれないが、傍から見ているガッシュペアには到底理解出来ない。会話の内容も含めて。

 

 【答えを出す者】(アンサートーカー)を使用すれば、あるいは理解できたかもしれないが、人の事情を無断で覗き見するのは無粋であろう。それに清麿一人が殺せんせーのことを知ったところで、その真偽を証明する方法は存在しない。デュフォーがいつか言った通り、クラス皆で答えにたどり着かなければいけないのだ。理事長の話はさらに進む。

 

「この学園の長である私が考えなくてはならないのは……地球が来年以降も生き延びる場合、つまり、仮に誰かがあなたを殺せた場合の未来です。率直に言えば、ここE組はこのまま(・・・・)でなくては困ります」

 

これまで無言を通してきた殺せんせーの表情が明らかに変化する。そして彼はようやく口を開く。

 

「……このままと言いますと、成績も待遇も最底辺という今の状態を?」

 

「はい。働き蟻の法則を知っていますか?どんな集団でも20%は怠け、20%は働き、残り60%は平均的になる法則。私が目指すのは、5%の怠け者と95%の働き者がいる集団です。E組のようにはなりたくない、E組にだけは行きたくない、95%の生徒がそう強く思う事で……この理想的な比率は達成できる」

 

冷徹。今の理事長の表情を言葉にするのなら、その一言が相応しい。己の理想のためであれば、弱者を切り捨てることさえ躊躇わない覚悟、強い意志を理事長は持ち合わせているのだ。その表情を見て、ガッシュペアは戦慄する。

 

「……なるほど合理的です。それで、5%のE組は弱く惨めでなくては困ると」

 

殺せんせーは理事長の理想に納得していないだろう。しかし、表立って雇い主に歯向かう訳にはいかない。そして理事長は話を進める。

 

「今日D組の担任から苦情が来まして、“うちの生徒がE組の生徒からすごい目で睨まれた。殺すぞと脅された”とのことです」

 

「清麿、渚のことだな。しかし、あれでは渚が悪いみたいになっているではないか!」

 

「ああ全くだ、ふざけてやがる!先に渚に絡んだのはあいつらだというのに……」

 

渚に絡んだ生徒が密告をしていた。しかも、渚が悪いような言い方で。これにはガッシュペアも憤慨する。

 

「暗殺をしてるのだからそんな目つきも身に付くでしょう。それはそれで結構。問題は、成績底辺の生徒が一般生徒に逆らう事。それは私の方針では許されない。以後、厳しく慎むよう伝えてください」

 

理事長がそう言って職員室を出ようとすると、殺せんせーに向かって何かを投げつける。知恵の輪だ。

 

「殺せんせー、一秒以内に解いて下さい!」

 

「そんないきなり⁈」

 

殺せんせーは慌てて知恵の輪を解こうとする。しかし散々テンパった挙句、一秒後には知恵の輪に触手が絡まっていた。

 

「清麿、この一秒で何があったのだ?」

 

「いや、俺にもわからなかった……」

 

ガッシュは純粋に疑問の表情を、清麿は呆れ混じりの表情をそれぞれ浮かべる。マッハ20の超生物も形無しだ。

 

「噂通りスピードはすごいですね。確かにこれならどんな暗殺だってかわせそうだ。でもね殺せんせー、この世の中には……スピードで解決出来ない問題もあるんですよ。では私はこの辺で」

 

知恵の輪に苦戦中の殺せんせーをそのままに理事長は職員室を出た。一方で殺せんせーが苦しみながらも、理事長への対抗心に充ち溢れた目を向ける。清麿はそれを見逃さず、口元に笑みを浮かべた。      

 

 そして理事長は廊下にて居合わせたガッシュペアと目を合わせる。そんな3人の間には張り詰めた雰囲気が漂う。

 

「高嶺君、ガッシュ君。少し、外で話そうか」

 

「……わかりました」

 

彼等はそれ以外の言葉を口にすることなく、校舎を出た。

 

 

 

 

 

「さて……まずは話の盗み聞きは、感心しないかな」

 

 校舎の外、ガッシュペアと理事長の会話が始まる。彼は口に笑みを浮かべていたが、どこか威圧的だ。

 

「それは、すみませんでした」

 

「ごめんなさいなのだ」

 

2人とも理事長の気迫を感じ取り、すぐに謝罪の言葉を述べる。彼から漂う雰囲気は、これまで厳しい戦いを乗り越えたガッシュペアでさえ只者ではないと思わせるほどだ。

 

「ハハッ、冗談だよ。怒っている訳ではない。君達が廊下にいたことには気付いていた」

 

「「気付いていたのか」」

 

先ほどの威圧的な表情が理事長から無くなる。本当に冗談だったのだろう。先ほどまで緊張感を持っていたガッシュペアは、胸をなでおろす。

 

「さっきの話はね、君達にも聞いて欲しかったんだ」

 

「俺達に、何で?」

 

再び理事長の表情が変化する。先ほどの威圧的なそれとも異なっていたが、その瞳はどこまでも冷徹だ。

 

「君達にも私の理想を理解してほしいからだよ。君達は本来E組にいて良いような生徒ではない。だから、本校舎の生徒達の侮蔑の目は納得いかないと思う。君達ほど優秀な生徒はそう多くない。しかし、やむを得ない事情があるとはいえ今はE組の生徒(・・・・・・・)だ。私の理想のためにも、本校舎の生徒達に反抗的な態度をとってほしくないんだ。君達がそのような態度を取れば、他のE組の生徒達も便乗してくるかもしれないからね」

 

理事長はあくまでE組が前を向くことを許さない。己の理想のために。しかし、理事長の身に何が起こればここまで徹底的になれるのだろうか。清麿は考えていたが、それ以上に理不尽な差別を強いる環境に憤りを覚えていた。

 

「弱者がいるからこそ強者が生まれる。わずかな弱者の犠牲により、我が校は多くの強者を輩出させられる。だから」

 

「E組が虐げられる環境に目を瞑れ、ですか?」

 

「絶対に嫌なのだ‼」

 

ガッシュペアは理事長を睨み付ける。2人にとって、共に暗殺を行うクラスの仲間が差別される行為は見逃せない。

 

「どうしてそこまでE組の味方になろうとするのかな?私に逆らってまで。私の権限で君達を退学に追い込むこともできるのだというのに」

 

理事長は不機嫌そうな顔を見せる。彼等が堂々と噛み付いてくる様子を見て怪訝に思う。

 

「君達は強い。しかしね、自分たちの力で何でも思い通りに行くとは思わない方がいい。どうにもならない不条理は確かに存在するのだから。君達はもう少し、不条理から自分の身を守ることを覚えた方がいい。なぜ自分達より劣る他人のために自らもリスクを冒すのか、理解できな」

 

「「友達をかばって何が悪い⁉」」

 

不快そうな表情をする理事長とは対照的に、ガッシュペアは不敵な笑みを浮かべる。2人はこれまで何度も不条理な戦いを乗り越えてきており、逆境には慣れている。そんな彼等は本校舎の関係者からのE組への差別にも抗っていくだろう。

 

「友達……ね。しかし、ガッシュ君。魔界の王になった場合、時には仲間を見捨てる非情な決断も必要にはなるのではないかい?」

 

理事長にはどうして2人がここまで自分に歯向かうのかが理解出来ない。これまで彼の理想に逆らう生徒など、存在していなかったのだから。

 

「それでは優しい王様にはなれないからなのだ!」

 

ガッシュの答えに理事長は目を見開く。

 

「誰かがいじめられる世界など、誰かが辛い思いをする世界などあってはならないのだ!誰もが幸せに暮らせる世界を作る、そんな優しい王様に私はならねばいけない。だからその考えを受け入れることは出来ないぞ、理事長殿‼︎」

 

「なるほど、それが君の目指す王の姿という訳か。しかし生物とは、他の生物を傷つけるものだよ。誰もが幸せになるなどできはしない。誰かが幸せになるということは、他の誰かが不幸になるという事だ。これは紛れもない事実なんだよ。君の目指す理想は余りにも非合理的だ」

 

理事長がガッシュの考えを冷たく、そして現実的に突き放す。確かに理事長の言う事も正しい。意見の対立や資源等を奪い合うための戦争はこれまで何度も存在し、人間は多くの他人を傷つけてきたのだから。ガッシュの理想が茨の道であることは、火を見るより明らかだ。

 

「……だからって、故意に人を虐げていい理由にはならないんじゃないですか?それに、そんな事をしていてはいずれ反発される」

 

ガッシュと理事長の議論に清麿が横やりを入れる。パートナーの目指す姿を否定されて沈黙を続ける彼では無い。

 

「反発、今のE組は暗殺の訓練で多少は強くなっている。しかし、そんなことが出来るとはとても」

 

「殺せんせーがいるさ」

 

清麿が先生の名前を出す。彼の目は、殺せんせーを信用している目だ。清麿は先ほどの反骨精神に満ちた殺せんせーの目を見ていた。あの超生物がその気になれば、椚ヶ丘中学校の悪しき伝統にも抗える。清麿はそう確信していた。

 

「理事長、あなたはE組と殺せんせーを甘く見すぎている。それに、合理性だけで人は動かない」

 

「随分とE組に肩入れしているね、高嶺君。君はまだ、他の生徒達とは付き合いも浅いというのに」

 

それぞれの理想をめぐる議論はまだ続くかに思えた。しかし、

 

「……やれやれ、これ以上は平行線かな。今日はここまでにしようか。しかし、私にここまで堂々と歯向かうとはね。とはいえ、今君達が学園を去るのはお互いにとって良くない。君達も路頭に迷う訳にもいかないだろうし、私も暗殺のための戦力が削がれるのはマイナスだ。いやぁ、君達との議論は面白かったよ」

 

理事長はこれ以上の反論を止めた。この時の理事長の表情は、今迄からは想像できないほど柔らかだった。自分に真っ向から反論して来る彼等に対して、煩わしく思うどころか改めて興味を示したようだった。彼等を推薦した自分の目に狂いは無いと、理事長は確信していた。

 

「しかし、殺せんせーがE組とともに私に歯向かう、か。なぜ君はそんな日が来ると思ったのかい?」

 

「職員室の殺せんせーの目は、燃えてましたよ。あなたに負けるまいと」

 

清麿の言葉に対しても、理事長は表情を崩さなかった。仮に歯向かってきたとして、返り討ちにする絶対的な自信が理事長にはあるのだ。まさしく強者の余裕である。

 

「なるほど……さて、君達の家まで車で送ろうか。付いて来なさい」

 

理事長から意外な一言が出てきた。そんな理事長の誘いに、ガッシュペアはきょとんとしてしまった。

 

「良いのか、理事長殿?」

 

「それって、どういう……」

 

「何、長話に付き合わせてしまったお詫びさ。他意はないよ」

 

理事長は先ほどの威圧的な態度を欠片も感じさせなかった。それが逆にガッシュペアを警戒させてしまったのは別のお話。2人はお言葉に甘えて車に乗せてもらい、そのまま帰宅した。

 




 読んでいただき、ありがとうございました。ガッシュの目指す優しい王様とこの頃の理事長の理想は相反するものだと思い、お互いの理想の主張を行うという話にしました。
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