ガッシュペアの暗殺教室   作:シキガミ

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 奴の魔の手がE組を襲います。


LEVEL.30 伏魔の時間

 突然の閃光により生徒達の多くがバランスを崩し、海に落ちた。殺せんせーも海面に浮かび上がって来ない。

 

「油断するな‼奴には再生能力もある、片岡さんが中心になって水面を見張れ‼」

 

「はい‼」

 

烏間先生の指示に従い、片岡を中心に再び生徒達は警戒心を強める。その時、海水から泡が出てきた。それを見た生徒達は銃を構えるが、そこには殺せんせーの顔が入った透明とオレンジの球体が出現した。

 

「これぞ先生の奥の手中の奥の手、完全防御形態‼」

 

「「「「「そんなの有りかよ⁉」」」」」

 

生徒が一斉に突っ込んだ。先生曰く、外側の透明な部分は高密度に凝縮されたエネルギーの結晶体で、あらゆる攻撃を結晶の壁がはね返すとの事だ。恐らくはガッシュの電撃でさえも。そしてこの形態は24時間ほどで自然崩壊する。

 

「しかしこの24時間、先生は全く身動きが取れません。最も恐れるのはその間に高速ロケットに詰め込まれ、はるか遠くの宇宙空間に捨てられる事ですが、その点は抜かりなく調べてあります。24時間以内にそれが可能なロケットは今世界のどこにも無いです」

 

このような良くわからない方法で生徒達の暗殺は防がれてしまった訳だが、殺せんせーの方が更に上手である事は紛れもない事実だ。

 

「清麿、本当にどうにもならないのか?」

 

「そうだな。【答えを出す者】(アンサートーカー)を使えれば何か策は出てくるかもしれんが、殺せんせーのあの自信から察して打つ手無しの可能性が高い」

 

「ウヌゥ……」

 

殺せんせーの奥の手と言う事で、これを破るのは現状不可能に近いだろう。しかもこの形態では核爆弾でも傷一つ付かないと先生は豪語した。ガッシュペアの落胆も大きかった。そんな時、

 

「そっか~、打つ手無いんじゃ仕方ないね」

 

得意気にしている殺せんせーに対して、カルマはスマホの画面を先生に見せた。

 

「にゅやーーー‼」

 

そこにはエロ本を読み漁っている殺せんせーの姿が映されていた。殺せんせーの恥ずかしい姿だが、手を使って顔を覆う事すら出来ない殺せんせーはそれを直視するしかない。

 

「あと先生、そこで拾ったウミウシもひっ付けとくね」

 

「ふんにゅああああ‼」

 

24時間動けないという事で、今の殺せんせーはイジリ放題だ。誰かをイジる時のカルマは天才的で、その様子を見た生徒達は呆れた表情を見せる。そんな現状を見かねた烏間先生は、カルマから殺せんせーを取り上げた。

 

「……とりあえず解散だ、皆。上層部とこいつの処分法を検討する」

 

「ヌルフフフ、対先生物質のプールの中にでも封じこめますか?無駄ですよ、その場合はエネルギーの一部を爆散させて、さっきのように爆風で周囲を吹き飛ばしてしまいます。今先生を殺す事は諦めて下さい」

 

烏間先生は苦虫を嚙み潰したような顔をする。要するに、打つ手無しの状況だ。

 

「ですが皆さんは誇って良い。世界中の軍隊でも先生をここまで追い込めなかった。これは皆さんの計画の素晴らしさを物語っています」

 

殺せんせーは生徒達を褒めてくれたが、誰一人としてそれを好意的に受け取る者はいなかった。

 

 

 

 

 そして生徒一同、疲労感を感じながらホテルへ戻った。4人を除いて。

 

「悔しいのだ、清麿」

 

「ああ、まさか殺せんせーがあんな奥の手を持っているとは思わなかった。そこまで読めなかった。すまん(【答えを出す者】(アンサートーカー)を使いこなせるようになっていれば、また違う結末になっていたかもしれないのに。チクショウ……)」

 

「何を言う、私が先生を殺し切れていればこんな事にはならなかったのだ。私がもっと強ければ……」

 

ガッシュペアはお互いが自分自身の責任で暗殺に失敗したと決め打っている。しかし彼等以外にも同じ事を考えている生徒がいた。

 

「アンタ達のせいじゃない」

 

「そうだな。それに俺、撃った瞬間分かったんだ。“ミスった、この弾じゃ殺せない”って」

 

「……同じく」

 

速水と千葉もまたホテルには戻っておらず、自責の念を感じていた。普段あまり感情を表に出さない2人だが、今回はかなり落ち込んでいる。

 

「そんな、お主達のせいだなんて……」

 

「待ったガッシュ。2人とも、何か心当たりがあるのか?」

 

自分を責める2人を見かねてガッシュがその発言を否定しようとする。しかし清麿がそれを制止した。

 

「律、記録は取れているか?」

 

「はい、一部始終取れています」

 

律は今回の暗殺を全て録画していた。そして録画を元に、律が今回の暗殺についてフィードバックを始める。

 

「断定は出来ませんが、千葉さんの射撃があと0.5秒早いか速水さんの射撃があと標的に30㎝近ければ、気付く前に殺せた可能性が50%ほど存在します」

 

「やはりか。自信はあったんだけど、撃つ前のあの瞬間、指先が硬直して視界も狭まった」

 

「私も同じ。そして絶対に外せないというプレッシャー、こんなに練習と違うとはね」

 

千葉と速水は自分達がプレッシャーに押し負けていた事を察した。清麿は黙って彼等の話に耳を傾けるが、ガッシュは我慢出来ずに口を開く。

 

「……それでも、お主達はよく頑張ったではないか‼それに、清麿だって……私がもっと殺せんせーにダメージを与えることが出来ていれば、こうはならなかったかもしれぬ‼そうであろう、律⁉」

 

(ガッシュ……)

 

「……否定は出来ません。ですが、確実に私から言える事があります」

 

彼等の話を聞いてもなお、責任は自分にのみあるとガッシュは考える。そして大声を出すガッシュを落ち着かせるように、律が言葉を発した。

 

「クラスが力を合わせて全力で暗殺に取り組んだ結果、殺せんせーに奥の手を出させる事が出来ました。そして今回皆で力を合わせた経験は、必ず次回以降の暗殺に活きてきます。これはとても大きな前進です」

 

律は笑みを浮かべた。確かに彼女の言う通りで、殺せんせーがあのような奥の手を持っている情報を得られた事は大きい。

 

「……これは律に一本取られたかな」

 

律の言葉を聞いてもなお落ち込んだ表情を浮かべているガッシュ・千葉・速水と異なり、清麿は口角を上げる。

 

「律の言う通り、俺達は力を合わせてここまでやったんだ。それから殺せんせーも言っていたが、これは誇っていいことだ。この経験は次回に活かすとして、まずは皆の所に戻ろう!」

 

「……ウヌ、それもそうなのだ」

 

清麿はそう言うと、ガッシュを連れてホテルに戻った。しかし千葉と速水は、ガッシュと話しながらホテルに戻る途中の清麿の口が、先程と異なり笑っていない事に気付いた。

 

「なあ、高嶺ってああ言ってたけど……」

 

「うん。かなり内心引きずってるね」

 

2人は今回の暗殺の結果において、清麿が虚勢を張っている事に気付いた。律の発言を聞いて、清麿は少しでも3人を元気づけようとしてくれたのだ。

 

 

 

 

 そしてガッシュペアは外の景色が見えるホテルの休憩室に来ていた。そこには千葉と速水以外の生徒と先生達が揃っていたが、皆疲労が溜まっている。

 

「皆、やけに疲れておるのだ……」

 

「無理もない、あれだけの規模の暗殺をした後なんだから」

 

ガッシュは疲れている皆が心配だったが、清麿はそれが暗殺終わりのせいだと考える。清麿自身も疲労を感じていた。

 

「千葉と凛香は、まだ戻っていないようだの……」

 

「そうみたいだ、あの2人は特に責任を感じてたからな。今はそっとしておくべきだろう」

 

千葉も速水も表情をあまり表に出すタイプではなく、それ故に苦労した経験も多々ある。そんな彼等が明確に落ち込んでいるのだ。そして律と清麿は彼等に必要な言葉をかけた。となれば、後は何かきっかけさえあれば2人は自信を取り戻せる。清麿はそう確信していた。

 

 それから千葉と速水も戻ってきて少しした後、何人かの生徒の体調が目に見えて悪化し始めた。

 

「フロント、この島の病院はどこだ⁉」

 

それを見た烏間先生はホテルの従業員に病院の事を聞くが、診療所の当直医は夜にはもういない。そして高熱を出した中村を渚が部屋の近くまで運ぼうとしていたが、清麿がそれを止めた。

 

「待った渚、発熱が見られる奴等は全員この場所で休ませた方がまとめて看病をしやすい。まずはここで1人1人が横になれるスペースを作るんだ!」

 

「分かったよ、高嶺君!」

 

清麿の指示を聞いた渚は中村を壁にもたれかけさせた後、他の生徒達と共にテーブルを運び始める。

 

「高嶺……そんな事言って、私達女子に何かしようって魂胆じゃないのかい?」

 

「今無理して冗談を言わなくて良い。少しでも自分の体を休めとけ」

 

「……相変わらずお堅いねぇ」

 

中村はこれまで通りの口調で笑みを浮かべて清麿をからかうが、明らかに無理をしている。それを見かねた清麿は、あえて強気な口調で中村を休ませた。

 

「ガッシュ!俺達はまず、患者の負担を少しでも減らせるように布団を持って来るぞ‼」

 

「ウヌ、了解なのだ!」

 

清麿はホテルの従業員に余った布団の有無を聞いた後、ガッシュや職員と共に布団を運ぼうとした。その時、

 

「布団以外にも、氷水が必要だね。あとは、給水用のスポーツドリンクでもあれば望ましい」

 

竹林がガッシュペアの方に近付いてきた。彼の実家は医者をやっている為、応急処置などの医療関係の知識に詳しい。

 

「熱を出したメンバーは他の生徒達に任せて、僕等はホテルの人と共に布団・氷水・給水用の飲み物を準備する事にしよう」

 

「そうだな。まずはあいつ等の休息と応急処置が最優先だ」

 

「分かったのだ!」

 

ガッシュペアと竹林はホテルの従業員達に混じって布団などの準備を始めた。その時、清麿は烏間先生が青ざめた顔で何者かと電話をしている所を目撃した。

 

 

 

 

 患者を休ませるための準備が終わり、熱を出した生徒達を全員横にさせた後、烏間先生が電話を終わらせて戻ってきた。

 

「皆、聞いてくれ……」

 

烏間先生が電話の内容を生徒達に伝えた。熱を出している生徒達には人工的に作られたウイルスが盛られている事、その治療薬を渡す代わりに殺せんせーを山頂のホテルまで1時間以内までに持って来る事、そのための人員は正式にE組に登録されている生徒の中でも最も背の低い男女2人(つまりガッシュは除外)を指定した事、これらの約束を破れば治療薬をすぐに破壊する事が相手の要件だった。

 

「烏間さん、やっぱりダメです。政府としてあのホテルに宿泊者の事を問い合わせても、プライバシーだから教えられないと……」

 

「そうか、分かった」

 

園川さんが指定されたホテルに連絡してくれていたが、宿泊者の情報を聞き出すことは出来なかった。そして烏間先生もそれは予測していたようだった。

 

 この島は別名“伏魔島”とも呼ばれており、山頂のホテルはカタギでない人々が出入りしていたり、違法な商談やドラッグパーティーが開かれている。そのホテルは政府とのパイプもあり、警察も手を出せず、こちらに味方する可能性も無い。

 

「おい、何でこんな事になってんだよ⁉」

 

吉田を始め、事情を知って多くの生徒達がこの光景を見て動揺していた。

 

(最悪だ、第三者が介入するなんて!しかも今の殺せんせーは身動きを取れない‼こうなったら……)

 

清麿は現状の解決策を導き出す為に【答えを出す者】(アンサートーカー)を発動させようとしたが、失敗に終わった。

 

(くっ、ダメなのか‼こんな時に……)

 

肝心な時にそれは発動しなかった。清麿は自分の無力さとこの事態を引き起こした黒幕に対する怒りの感情に飲まれそうになっていた。また怒りの感情故か、清麿は自分の体が熱くなっているのを感じた。そんな時、

 

「おい高嶺、顔怖えーよ。落ち着こーぜ……」

 

「そうだよ、簡単に人は死なないんだから」

 

「‼その通りだ、すまない。杉野、原」

 

清麿の表情を見かねた杉野と原が、自身の体調も優れない状態で清麿をなだめてくれた。

 

「だから吉田君も慌てないでさ……」

 

「そうだよな、原」

 

原の大らかな性格はこのような非常事態でも周りを落ち着かせてくれる。先程まで慌てていた吉田も、原のお陰で冷静さを取り戻せた。

 

(熱を出した2人に諭されるとは……とにかく落ち着いて状況を整理しないと。黒幕の正体はクラスで背の低い男女と指名した事、ガッシュを除外するような言い方をしてきた事からE組と関りがある人物の可能性が高い。それから状況を打破する方法は……)

 

清麿は杉野達の応急処置の準備をしながら、黒幕の正体を探りつつ対抗策を考え始めた。しかし、策を考えていたのは清麿だけでは無かった。

 

「良い方法がありますよ。律さんに頼んだ下調べも終わったようです。元気な人は来て下さい、汚れても良い恰好でね」

 

殺せんせーの策は単純明快。患者と看病のために残る生徒を除いた全員でホテルに侵入し、最上階を奇襲して治療薬を奪い取る事である。そのために律がホテルのコンピュータに侵入し、突入ルートを作成してくれていた。そして動ける生徒は外出の準備を開始した。

 

「清麿、私達も行くのだ‼」

 

「ああ、だが……」

 

ガッシュの言う通りにホテルの突入に参加したい清麿だったが、応急処置及び看病を竹林1人に任せる事に抵抗がある。しかし、

 

「皆の看病は私と竹林君が引き受けます!だから高嶺君とガッシュ君も行って下さい!」

 

マスクを装着した奥田が、強気な口調でガッシュペアの突入を促す。彼女は本当に、自分の言いたいことをハッキリと言えるようになっていた。

 

「そうだね。僕1人なら流石に大変だけど2人なら大丈夫だ。それに奥田さんの理科の知識が生きる可能性もある。だからここは僕等に任せてくれ」

 

「……分かった、ここはお前等に任せよう。そして今回の黒幕は絶対に許さん‼」

 

「もちろんなのだ‼それでは愛美、竹林‼皆を頼むぞ‼」

 

竹林もまた自信ありげにそう言う。そうして2人の熱意を察したガッシュペアは、外に出る準備に取り掛かる。

 

 

 

 

 看病の為に残った2人を除く感染していないE組一同が山頂のホテルを目指す一方で、竹林と奥田は今回のウイルスについて話していた。

 

「竹林君、これだけ強いウイルスならこの島中に広がってしまうんじゃ?」

 

「多分それは無い。犯人は“感染力が低い”と言ってたそうだし、恐らくは空気感染の危険は少ない。経口感染、飲食物等に混入されたと見るべきだね。赤の他人にそう簡単に感染させる心配はないと、皆にも伝えたけど……」

 

(E組を狙って盛られたウイルス、一体いつどこで?)

 

E組だけにピンポイントで感染したウイルスだが、その発生源は分からずじまいだった。

 

 

 

 

 そして外に出たE組一同はホテルの前に辿り着いたが、警備されていない唯一の入り口は崖を登ったところにある。そして今回の奇襲が危険であると判断した烏間先生が渚と茅野に殺せんせーを持って行かせようと考えていた時、生徒達が一斉に崖を登り始めた。

 

「こんな崖、大したことないぞ‼」

 

「相変わらず早いねー、ガッシュ!でも負けないよ‼」

 

「ウヌ!ひなた、競争なのだ‼」

 

特に生徒達の中でも身軽なガッシュと岡野が先頭争いを開始する。そして他の生徒達も負けじと崖を登り始めた。

 

「俺だって負けてたまるか!」

 

「おおっ、木村も競争するのだな‼」

 

(アスレチック訓練ではいつもあいつ等がトップクラスだったな。今回の崖登りも流石だ)

 

俊敏さに自信のある木村も先頭争いに加わった。トップの3人を見た清麿は感心していたが、他の生徒も難なく崖を登る。ただの崖登りなど、日々暗殺の訓練を受けている生徒達には造作もない事である。

 

「彼等はただの生徒ではない。今は16人の特殊部隊なのですよ。どうしますか、烏間先生?時間は無いですよ」

 

殺せんせーは相変わらず笑みを絶やさない。そして烏間先生は少し考えた後、ホテルの突入を決断した。

 

「注目‼目標は山頂ホテル最上階‼隠密潜入から奇襲への連続ミッション‼ハンドサインや連携については訓練のものをそのまま使う‼いつもと違うのは標的のみ‼3分でマップを叩き込め‼19時50分作戦開始‼」

 

「「「「「おう‼」」」」」

 

烏間先生の指揮の元、ミッションが開始された。

 




 読んでいただき、ありがとうございました。岡野さんも木村もガッシュをライバル視しています。
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