今日ガッシュペアは、渚の誘いでティオ・ウマゴンと共に動物園に行くことになった。サンビームは仕事で忙しく、またデュフォーも了承してくれたので、彼等はE組の生徒達と共に出かける事にしたのだ。E組からは、渚・茅野・杉野・倉橋が参加する。そして全員が合流した後、杉野・倉橋とティオは初対面になるので、まずはティオが挨拶を済ませた。その後、ガッシュがウマゴンを皆に紹介する。
「さあウマゴン、皆に挨拶するのだ!」
「メルメル、メルメル、メルメルメ~‼」
ウマゴンが渚・茅野・杉野・倉橋の順にそれぞれ抱き着いて、彼等の顔を舌で舐める。そしてウマゴンは特に倉橋に懐いている様子だ。
「きゃはは!くすぐったいよ、ウマゴンちゃん!」
「メルメルメ〜!」
「陽菜乃が凄く懐かれているのだ!」
倉橋は生き物に対して深い愛情を持っている。ウマゴンがそれを感じ取ったのかもしれない。生き物の扱いに関しては、E組において彼女の右に出る者はいない。
「流石だな、倉橋。いくらウマゴンが人懐っこいとは言え、ここまで気に入られるとは」
「エヘヘ、生き物の事なら任せてよ~」
倉橋のウマゴンの扱いに清麿も感心する。
「でも、ウマゴンが倉橋さんから離れないから先に進めないね……」
「ウマゴン、いつまでも陽菜乃にくっついているでない……」
渚の言う通り、一行は動物園に入れないでいた。そしてガッシュは、ウマゴンが倉橋にばかり構う事に関して少し嫉妬する。
ウマゴンがようやく気が済んだようで、倉橋から離れてくれた。そして一行は動物園の中に入り、ウマゴンはガッシュを背中に乗せる。
「メルメル、メルメルメ〜!」
「ウヌ、今日は皆で楽しもうぞ!」
「恵がいないのは残念だけど、いっぱい遊びましょ!」
動物園に来て楽しそうにしているガッシュとウマゴンと同様に、ティオもまた満足気な表情でガッシュ達の隣を並んで歩く。そんな彼等を清麿達は後ろを歩いて見ていた。
「ガッシュちゃん達、皆仲良しなんだね~」
ガッシュ・ティオ・ウマゴンが仲良さそうにしている様子を倉橋は微笑ましく思う。
「そうだな。特にガッシュとウマゴンはこっちに来る前から仲が良かったと言ってたぞ」
ガッシュとウマゴンは魔界時代から仲が良く、魔物の戦いが始まってからもウマゴンはガッシュとはずっと親しい。ティオもまたガッシュとは交流があった様子で、人間界で出会ってからは厳しい戦いを乗り越えながら、より絆を深めた。
「でも、ガッシュ君がティオちゃんの思いに気付く日は来るのかな?」
「うーん、どうだろうね?」
「ガッシュはそう言うのにぶいからな~」
お互いの交流を深めていくうちに、ティオのガッシュに対する好意は日に日に明確になっていく。しかしガッシュはそれに気付く気配は無い。そんなティオを茅野・渚・杉野は心配する。
その一方でガッシュ達はレッサーパンダの檻に来たが、レッサーパンダは高い木の上におり、彼等は直接見る事が出来ない。
「ウヌ、あれでは見れないのだ……」
「メルメルゥ」
「……困ったわね」
彼等が困っている様子は清麿達からも見て取れた。そしてレッサーパンダを見れずに落ち込んでいる3人を見かねて、清麿が彼等の方に駆け寄った。
「皆、どうしたんだ?」
「清麿、あの子が見れないよ~」
事情を聞いてきた清麿に対して、ティオは甘えるような目つきで彼に助けを求める。そして清麿は少し考えた後に、彼女を肩車に乗せる事にした。
「ティオ、これで見えるか?」
「うん、ありがとう!あ、あの子がこっち見てくれた!おーい」
清麿のお陰でティオが高い所も見れるようになった。レッサーパンダと目線が合ったティオは手を振って喜ぶ。
「ウヌ、私も見たいのだ!」
「メルメルメ〜!」
そんな2人を見たガッシュとウマゴンは羨ましがる。そんな彼等を見た清麿は笑みを浮かべながら口を開いた。
「分かってる、お前等にもしてやるよ」
そして清麿はティオだけでなく、ガッシュとウマゴンにも交互に肩車をして、彼等が木の上の動物を見れるようにしてくれた。そんな様子を少し離れた場所で渚達が微笑ましく見ている。
「高嶺君、完全に彼等の保護者だよね」
「そうだね、私達も行こっか!」
そして渚達も清麿達の方に合流したが、ティオがすぐにアライグマのいるエリアを指差した。
「今度はこっちに行ってみたい!」
「待つのだ、ティオ!」
「メルメル!」
そう言うと、ティオ・ガッシュ・ウマゴンはそのまま走って行ってしまった。彼等はたくさんの動物を見る事が出来て、とても嬉しそうだ。
「そんなに慌てなくても……」
少し呆れ気味の清麿を始め、一行は完全に元気いっぱいな魔物達に振り回される。
そして昼時になり、一行はビニールシートを広げてそれぞれ食事を取る。
「……高嶺の弁当、スゲー気合入ってんな!」
「ああ、皆で動物園に行くって話をしたら、お袋とティオが朝早くから作ってくれたんだ。ティオ、本当にお疲れ様」
「華さんが色々教えてくれたお陰で、上手く作れたわ」
清麿が出した大きな重箱に、杉野が感心した。ティオの料理の腕はそれほど上手ではないが、華の監修の下、見事なお弁当が作られていた。
「メルメルメ~!」
「ティオ、ありがとうなのだ!」
弁当を見たウマゴンとガッシュも、嬉しそうな顔をする。そしてガッシュの感謝の言葉を聞いたティオは、顔を赤くした。彼女は照れている。
「べ、別にガッシュの為だけに作った訳じゃないし……」
((((何という分かりやすいツンデレ!))))
ティオの分かりやすい様に渚達がツッコミを入れる。ティオは特にガッシュに食べて貰う為に張り切って弁当を作っていたが、ガッシュはそれを知る由もない。一行がそれぞれ昼食を食べ始めて少ししてから、渚が口を開いた。
「ティオちゃん、お弁当のおかずを少し貰っていい?」
「もちろんよ、渚!」
渚がティオからおかずを貰っており、とても美味しそうに食べた。
「ウヌ、皆で食べるお弁当は格別なのだ‼」
「そうだよね、ガッシュ君!」
ガッシュや茅野の言う通り、皆での食事はとても楽しい。そんな中でティオは、自分も作るのを手伝ったお弁当をガッシュが楽しそうに食べる様子を見て、嬉しそうな表情を見せた。一行は会話を弾ませながら昼食の時間を過ごす。
ある程度食べ進んだ後、倉橋が動物園で買った干し草をウマゴンに差し出した。
「はい、ウマゴンちゃんにあげるね!」
「メ、メルメルメ~!」
干し草を差し出されたウマゴンが目を輝かせており、再び倉橋に懐く。それを見た清麿は、少し申し訳なさそうにした。
「倉橋、ウマゴンの為に済まない」
「気にしなくて良いよ、私もウマゴンちゃんに喜んで欲しかったし!」
物で釣る訳でも無く、素直にウマゴンを思って倉橋は干し草を買ってあげたのだ。倉橋の生き物に対する愛情はウマゴンに対しても注がれている。そして彼女はウマゴンを抱きかかえた。
「ウマゴンちゃんて馬らしく干し草は好きなのに、ニンジンは嫌いみたいなんだよね」
「ウマゴンの言う言葉が分かるのか?」
倉橋はウマゴンの食べ物の好みを把握していた。それは彼女がウマゴンの言いたい事を理解出来るからに他ならない。
「完璧に理解できる訳じゃないけどね。ただ、言いたい事は大体分かるよ~」
「メルメル、メルメルぅ……」
「あれ、今度は眠たくなってきちゃったかな?」
倉橋の言う通り、先程まで元気そうにしていたウマゴンが眠り始めた。彼女はウマゴンの気持ちをほとんど理解出来ている。
「ウヌぅ、ウマゴンが寝てしまったのだ」
「そうみたいね(ウマゴン、昨日の特訓で張り切ってたから疲れちゃったのかな?)」
ウマゴンはサンビームが仕事している時も、新術に耐えられる体づくりの為の特訓に対して一生懸命に励んでいた。ガッシュとティオはそれが分かっている。
「俺はウマゴンが起きるまでここで休んでいる。皆はどうする?」
「僕も残るよ。食休みがしたかったし」
「私もそれで良いよ」
清麿はウマゴンが起きるのを待つ事を決める。しかし渚と茅野を始め、他の皆もそれに付き合ってくれる事になり、一行はこの場で休憩することにした。
しばらくしてウマゴンは目を覚ましたので、彼等は休憩を終わらせて園内の昆虫館に辿り着いた。
「わー!あの青色の蝶、凄く綺麗‼」
ティオが蝶を見てはしゃぐ。それを見た渚がティオに近付いた。
「これは“モルフォチョウ”だね。アメリカ原産の蝶で、“世界で最も美しい蝶”とか“生きた宝石”とも呼ばれているんだ。青色の大きくて綺麗な翅が特徴なのは雄なんだよ」
「渚、詳しいのね!」
「動物園に来る前に、調べておいたんだ。でも倉橋さんの生き物の知識はさらに豊富だよ!」
ここでも渚は情報収集能力を活かしてティオの興味を引く。そして彼等は蝶のいるエリアを周り始めた。渚とティオが2人で歩いていた時、彼女が口を開く。
「そう言えば私、渚の事をあまり聞けてなかったな。渚の家族の事とか……」
「……確かに皆にもそう言う話はしてなかったね」
ティオの言葉を聞いた渚の顔が少し暗くなる。渚の表情を見たティオは、何か聞いてはいけない事を聞いてしまったと感じる。そして彼女は申し訳なさそうな顔を見せた。
「ごめん、あんまり聞かれたくなかった?」
「いやまあ、大丈夫だよティオちゃん。それより、あの蝶も綺麗だね!」
気不味い雰囲気になる前に、渚は話題を変えた。ティオもそれを察して蝶の話を楽しむ。
一方、ガッシュはカマキリに興味を示していた。
「ウヌ、向こうにはカマキリがいるではないか!“カマキリジョー”は正義の味方だからの!」
カマキリジョー、子供達に大人気のヒーローである。ガッシュはそれを頭に浮かべて、カマキリのいるエリアに向けて走り出す。
「あっ、ガッシュ君。そんなに走ったら危ないよ!」
はしゃぐガッシュを見かねた茅野が、彼の後について行く。また茅野のガッシュに構う癖が出てきた様子だった。
「メルメル、メルメルメ〜!」
「ウマゴンちゃん、私達も行こっか!」
ウマゴンはガッシュの方を見て、彼等のいる場所に行きたがる。それを察した倉橋は、ウマゴンを連れてカマキリのエリアに向かった。
「俺達もどっか周ろうぜ、高嶺!」
「そうだな、杉野」
そこには清麿と杉野が残っていたが、彼等も直ぐに昆虫を見学するために歩き始めた。
カマキリを見学しているガッシュは、目を輝かせながら茅野にカマキリジョーの話をする。彼は毎週TVで見ており、ウマゴンや水野と共にデパートのショーを見に行った事もある程のファンだ。
「カエデ、カマキリジョーはとても強い正義のヒーローなのだぞ‼どんな悪者でも、倒してしまうのだ‼」
「そっか。それなら、ガッシュ君みたいだ!」
「ウ、ウヌ⁉」
自分が大好きなヒーローみたいだと突然言われたガッシュは、少し驚いたのちにとても嬉しそうな顔をする。
「だってガッシュ君、優しい王様になる為に多くの悪い魔物達と戦って来たんだよね。それに修学旅行の時も私達の事を助けてくれたし、本校舎の生徒から前原君を庇ったりもしてくれた。それは正義のヒーローそのものだよ!」
今までのガッシュの言動に対して、茅野は彼をヒーローと重ねる。確かに今までの戦いでガッシュペアに助けられた人々や魔物は数多く存在する。また、そんな彼等に助けられたE組の生徒も多い。そして茅野はそのままガッシュを抱きかかえた。
「カエデ、どうしたのだ?」
「エヘヘ、こうした方がカマキリの事が良く見えるでしょ?高嶺君のようには行かないけど」
「ウヌ、ありがとうなのだ!」
茅野の身長はかなり低いが、ガッシュ程では無い。茅野のお陰でガッシュは、カマキリの見学がしやすくなり、とても嬉しそうな様子だ。
(弟や妹がいる時の姉って、こんな気持ちだったんだろうな。私にもいつも優しくしてくれたよね……
お姉ちゃん!)
茅野は亡き姉の事を思い出す。茅野がガッシュを弟のように可愛がる理由も、自分も姉のようになりたい気持ちがあるからかもしれない。彼女の目からは涙が流れ出そうになっていたが、ガッシュはそれに気付かない。そして彼女が涙をこらえていた時、倉橋とウマゴンが2人に追い付いた。
「お~い、カエデちゃんとガッシュちゃ~ん!」
「メルメルメ〜!」
倉橋は2人の名前を呼びながら、ウマゴンと共に走って行った。それを見たガッシュもウマゴン達に手を振る。茅野もすぐに何事もなかったかのような明るい表情を見せて、倉橋達の名前を呼んだ。
「あ、倉橋さんとウマゴン!」
「お主達もカマキリを見に来たのだな!」
合流した彼等は一緒にカマキリを見学する。また倉橋はカマキリに関する知識も豊富であり、それによってガッシュ達を感心させていた。
その頃、清麿と杉野はクワガタを見ていた。様々なクワガタが展示されており、杉野は目を輝かせながら清麿と会話する。
「高嶺、最近のクワガタってオオクワガタよりもミヤマクワガタの方が高く売れるらしいぜ!倉橋が言ってた」
「確か、オオクワガタの繁殖法が確立されたんだったか。そういやお前等、早朝から学校の裏山で昆虫採集に行ってたんだよな」
「ああ、殺せんせーが白い目をしたミヤマクワガタを見つけてた」
杉野は渚・前原・倉橋と共に昆虫を取りに行った事がある。そこに岡島が合流し、殺せんせーにエロ本を使った暗殺を仕掛けたが失敗に終わる。その時に殺せんせーが、アルビノで目が白くなったミヤマクワガタを発見した。
「そういや話は変わるけど、今戦おうとしている魔物ってスゲー強敵なんだろ?」
「そうだ、そしてその魔物は絶対に倒さなくてはならない!魔界を滅ぼさせない為にも!」
杉野は魔物の話を持ち出す。ティオとウマゴンと会った事で、杉野の魔物に対してこれまで以上に関心が高まっていた。
「頑張ってくれよ!っても、俺には応援くらいしか出来る事はねーけど」
杉野は清麿達が厳しい状況に身を置いておいているにも関わらず、自身が何も出来ない事を歯痒く感じていた。
「いや、皆の応援は励みになる!」
「そうか、それは良かった。俺は魔物の事はよく知らないけど、今日ティオちゃんやウマゴンを見て思ったんだ。魔物って、こんなにいい奴等がいるんだって。だから絶対に魔界を守ってくれよ!」
「当然だ!」
杉野は魔物達と交流を深めた事で、彼等の無事を改めて願うようになった。そして杉野の言葉を聞いた清麿は、改めてクリアを倒す決意を固める。
そして夕方になり一行は動物園を出たが、入り口の前に一台の車が止まっていた。そこには仕事を終えたサンビームが来てくれたのだ。
「サンビームさん、お待たせ!」
「ハハ、問題ないさ」
サンビームは車で動物園に向かうと事前に清麿に連絡をしていた。仕事の時間はウマゴンの面倒を見れず、少しでもウマゴンの様子を見る時間を確保したいとの事である。
「今日1日、ウマゴンの面倒を見てくれた皆にお礼が言いたかったんだ」
「そんな、お礼だなんて」
「俺等も楽しく過ごせたし」
サンビームが車から降りると、ウマゴンは彼目掛けて走り出し、抱き着きながら舌で舐める。そしてわざわざ仕事終わりに来てくれたサンビームに対して、渚と杉野が少し申し訳なさそうにする。
「私はウマゴンのパートナーのカフカ・サンビームだ。皆、今日は本当にありがとう。ウマゴンもとても喜んでいる」
サンビームは渚達に自己紹介をした後、ウマゴンと遊んでくれた彼等に礼を言う。ウマゴンと仲良くしてくれた事を非常にありがたく思っているのだ。
「メルメル、メルメルメルぅ!」
サンビームの顔を舐めていたウマゴンだったが、今度は倉橋を見て手を振る。それを見たサンビームは、自分の顔をハンカチで拭いた後に、倉橋の方にウマゴンを抱えて向かう。
「君、随分ウマゴンが懐いているそうじゃないか。ウマゴンが別れるのを寂しいと言ってたよ」
「そう言ってくれると嬉しいです。ウマゴンちゃん、とても可愛いですよね!」
「そうだな。それから、君はウマゴンの言ってる事が分かるようだね!」
「はい、何となくですけど」
サンビームと倉橋との会話が弾む。お互いにウマゴンの言いたい事が分かる者同士、気が合う様子だ。
「あの、サンビームさん!」
「ん、何かな?」
「また、ウマゴンちゃんに会いに行っていいですか?」
倉橋もまたウマゴンとの別れを惜しんでいる。折角仲良くなれたのだから、一日で会えなくなるのは寂しい物だ。
「ああ、もちろんだ。まだ数日はこっちにいるから、都合が合えばウマゴンの事を可愛がってくれると嬉しい」
「はい、ありがとうございます!」
「メルメルメー‼」
またウマゴンと会えると知って、倉橋はとても嬉しそうな顔をする。ウマゴンもまた倉橋に手を振っており、彼女と再び会いたがっていた。
そしてウマゴンペアがアフリカへ戻るまでの日、倉橋は清麿達の特訓の時間をかいくぐって毎日ウマゴンに会いに来てくれた。特訓を終えて疲れた表情をしているウマゴンも、倉橋が干し草を持って来てくれると、嬉しそうな表情を見せた。
読んでいただき、ありがとうございました。ようやく倉橋さんに焦点を当てた回を書く事が出来ました。