ガッシュペアの暗殺教室   作:シキガミ

39 / 81
 二学期編に入ります。今回はアンチ・ヘイトの要素が含まれた話になりますのでご注意ください。



二学期編前半
LEVEL.39 竹林の時間


 二学期の始業式、折り返しの9月。殺せんせーの暗殺期限まであと6ヶ月である。

 

(竹林がいない。新学期早々に体調不良か?だとしたら災難だ……)

 

清麿は始業式に竹林が出席していない事を気にしていた。そして式が始まり、5英傑の荒木鉄平が進行を務め、部活の表彰などが行われた。

 

『……さて、式の終わりに皆さんにお知らせがあります。今日から、3年A組に1人仲間が加わります。昨日まで彼は、E組にいました』

 

荒木の説明を聞いて、E組の生徒達は愕然とした。誰かがE組を抜けるなどという話は、彼等は誰も聞いてはいなかったのだから。

 

(1人仲間って、まさか⁉)

 

清麿は今ここにいないクラスメイトの顔を思い浮かべていた。その者こそが、E組を抜けた張本人である。

 

『竹林孝太郎君です‼』

 

竹林はA組に編入した。そして彼はE組を地獄と断言した上で、本校舎に戻れる事を嬉しく思うと壇上にてスピーチで述べた。それを聞いていたE組一同、何が起こったか分からないといった様子だった。

 

 

 

 

 始業式が終わり、E組は裏山の校舎に戻るが、竹林の話題で持ち切りだった。

 

「清麿ォ‼竹林がE組を抜けたとは、どういう事なのだ⁉」

 

「ガッシュ、落ち着け!俺にもどうしてアイツが急にE組を抜けたのかはわからん!」

 

彼の事を聞いたガッシュも、焦りの表情を見せていたが、そんなガッシュを清麿がなだめていた。清麿自身もどうしてこうなったかは理解出来ていない。しかしガッシュだけではなく多くの生徒が動揺しており、中には怒りの感情を表す生徒もいた。

 

「竹林、ここを地獄とかほざきやがった‼」

 

「言わされたにしても、あれはないよね」

 

木村と岡野が、竹林のスピーチを批判していた。自分達が大切だと思う居場所を散々に言われたのだから無理もない。

 

「竹林君、どうしてこんな事に……」

 

奥田が今にも泣きそうな声を出していた。彼女は竹林と共に離島での看病を行っていた他、理系の話で盛り上がる事も多かった。そんな彼がクラスを抜けたショックは大きい。

 

「竹林の話を聞かない事には何とも言えない。皆で放課後、アイツに会いに行こう」

 

「そうですね、高嶺君。竹林君にも何か事情があるのかもしれません!」

 

こうして彼等は放課後、竹林に事情を問いただすことにした。清麿には【答えを出す者】(アンサートーカー)を使用する選択肢もあったが、彼は本人に直接話を聞くべきだと判断した。

 

 

 

 

 放課後、竹林が本校舎から出てくるのをE組一同は待ち構えていた。そして竹林が校門を出て来たと同時に、磯貝が彼を呼び止めた。

 

「待ってくれ竹林。説明してもらおうか、どうして一言の相談もないんだ?」

 

磯貝の言葉に続いて、他の生徒達も彼に声をかけた。どうしてE組を抜けてしまったのか、何故あのようなスピーチをしたのか、と。少しの沈黙の後、竹林が口を開いた。

 

「僕の家はね、代々病院を経営している“出来て当たり前”の家なんだ。勉強の出来ない僕は家族として扱われない」

 

その話を聞いた後、彼に不満の視線を向ける生徒は誰もいなくなった。竹林の家庭の事情は、落ちこぼれとして扱われてきたE組達にも思うところがあった。

 

「E組を抜けられて、ようやく家族の仲間入りが出来そうだよ……僕にとっては地球の終わりよりも、百憶よりも家族に認められる方が大事なんだ。裏切りも恩知らずも分かっている。君達の暗殺が上手くいく事を祈っているよ」

 

家族から認識されない事、それは自分が産まれてきた事の否定と言っても過言ではない。竹林は今とても苦しんでいる、E組一同それがよく分かっていた。そして竹林は彼等に背を向けた。

 

「……竹林、本当にそれで良いのか⁉お主、とても辛そうにしておるではないか‼」

 

「そうだよ竹林君、こんなの……」

 

「2人とも待って!」

 

背を向けて帰ろうとする竹林は、まるで自分の気持ちを押し殺すようだった。そんな彼を見かねたガッシュと渚が駆け寄ろうとしたが、神崎が2人を呼び止めた。

 

「親の鎖って、凄く痛い場所に巻き付いて離れないの。だから、無理に引っ張るのはやめてあげて」

 

「神崎さん……」

 

神崎もまた仕事一筋の厳しい親に育てられてきた為、竹林の苦悩を理解する事が出来た。そんな彼女は辛そうな顔をしながらも、竹林の意志を尊重したのだ。それを察した渚は、何も言い返せなかった。

 

「ウヌぅ、しかし……」

 

ガッシュは納得いってない様子だったが、清麿が彼の頭の上に優しく手の平を置いた。

 

「竹林が自分で決めた以上、俺達にあいつを止める権利はない。それに、竹林がE組を嫌いになって抜けた訳ではない事が分かった。今は様子を見よう」

 

家庭の事情を踏まえた上での竹林の決断を、誰も責める事は出来ない。親の鎖と言う重すぎる問題に立ち向かう術を、彼等の多くは知らない。そしてE組一同はそれぞれ帰路に着くのだった。

 

 

 

 

 家に着いた後、ガッシュペアはデュフォーと共に裏山で特訓を行ったが、ガッシュは少し元気が無い様子だった。小さな変化ではあるが、デュフォーはそれを見逃さなかった。そして特訓終わりの帰り道、

 

「ガッシュ、学校での出来事を引きずっているな」

 

「ウヌ、そうだの……」

 

ガッシュがデュフォーに竹林の事を話した。【答えを出す者】(アンサートーカー)でデュフォーは事情を分かっていたが、それでも彼はガッシュの話に耳を傾け、顔をしかめながら口を開いた。

 

「どこにでもいるんだな、その手の親は」

 

竹林の話を聞いて、デュフォーは自分の親の事を思い出していた。お金欲しさに自分を研究所に売った母親の事を。今の彼はゼオンを家族のように思う事が出来て救われているが、親に苦しめられた経験は簡単には忘れられる物ではない。

 

「いわゆる“毒親”と言う奴だ。自分の理想を勝手に押し付けた挙句、思い通りにならない子供を叱責したり拒絶したりする。頭が悪いとしか言いようがない」

 

(デュフォー、容赦ないな……)

 

彼の辛辣な言葉を聞いて清麿は困ったような表情をしていたが、その一方ガッシュは今にも泣きそうな顔をしていた。そして、

 

「そんなの、酷すぎるではないか‼親とは、家族とはお互いを大切にするものでは無いのか⁉家族からそんな扱いを受けるなんて、辛すぎるではないか‼」

 

ガッシュは激高した。彼も親とは離れて暮らしていたが、それは王族である親にとっても、魔界の平和の為の非常に辛い決断だった。ガッシュの中のバオウ・ザケルガを暴走させる訳にはいかない。共に暮らせなくとも両親は実の子を愛しており、彼にはそれが分かっていた。

 

「ガッシュ……」

 

そんなガッシュを見て、清麿は自分の両親の事を考えていた。父の清太郎は清麿とガッシュを出会うきっかけを作っており、それは清麿を思っての事だった。母の華は厳しい一面もあるが、ガッシュペアやその周りの人々の事を大切にしてくれている。

 

(俺は恵まれた家に産まれる事が出来たんだな。でも、そうじゃない人達も沢山いる。恐らく、竹林以外のE組にも。どうしたものか……)

 

清麿がそんな事を考えていると、気付けば自分達の家に到着していた。

 

 

 

 

 扉を開けて家に入ると、華が玄関に立っていた。

 

「3人共、お帰りなさい、まずはお風呂に……」

 

華がそう言いかけると、ガッシュが大粒の涙を流しながら彼女に抱き着いた。竹林の件は、実の両親と一緒に暮らせていなかった彼にとっては耐え難い出来事だったのだ。

 

「母上殿……‼」

 

「どうしたの、ガッシュちゃん?……まさか清麿、アンタがガッシュちゃんに意地悪を……」

 

「そうでは無いのだ‼」

 

ガッシュが大声を上げた。それを聞いた華は何かを察したようにそれ以上言葉を話さずに、ガッシュを抱きしめながら頭を撫でていた、まるで実の子供をなだめるように。

 

「母上殿!親と言うのは……家族と言うのはとても優しくて、暖かいものでは無いのか⁉家族に自分の事を認められないなんて、そんな冷たくて悲しい事が、許されても良いのか⁉」

 

ガッシュは声を荒げているが、華は彼とは対照的に穏やかな表情で話を聞いていた。清麿とデュフォーも、その光景を無言で見ていた。

 

「取り敢えず、リビングに行きましょうか」

 

華はガッシュを抱きかかえながら、リビングに向かった。清麿とデュフォーもそれに付いて行った。

 

 

 

 

「……そう、そんな事が」

 

「ああ、そして竹林はとても苦しそうにしていたよ」

 

リビングにて清麿が事情を話したが、それを聞いた華は苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。

 

「確かに家庭の事情はそれぞれ違うけれど、それはとても辛いことだと思うわ。竹林君のご家族を実際に見てはいないから突っ込んだ事は言えないけど」

 

「そんな……そんなのは、間違っておる!」

 

ガッシュは未だに泣き止んでいなかった。そして彼は頑なに竹林の家族の現状を認めようとは出来ず、ガッシュの叫びを聞いた華は再び口を開いた。

 

「清麿とガッシュちゃんはその事に関してどうしたいと思っているの?」

 

それを聞いたガッシュペアは少し考えた。確かに現状を嘆いているだけでは何にもならない。そしてまずは清麿が考えを口にした。

 

「家庭の事情に首を突っ込む事は出来ない。それに、アイツが決めた事を否定する事も違う。けど、クラスの仲間が悩んでいるなら力になりたい。今は竹林を見守ろうと思う」

 

「……そうね、私もそれが良いと思う。ガッシュちゃんは?」

 

清麿の意見に華も賛成していた。いくら納得の行かない出来事でも、安易に家庭の事情に口を出すのは得策ではない。そして華は、ガッシュにも考えを聞いた。

 

「……私は、このまま竹林が辛い顔をしながらE組を離れるのは絶対に嫌だ。しかし、どうすれば良いかが分からぬ!私は……」

 

「ならば、他のクラスメイトの力も借りれば良いんじゃないのか?お前達だけで全てを解決など出来ないのだから」

 

ガッシュが方法を見つけられないでいると、デュフォーが会話に入ってきた。彼の言う通り、この問題はガッシュペアだけではどうにもならない。だからこそ、人の力を借りるべきなのだと。

 

「今までもそうして来たんじゃないのか?自分達だけで限界があるのなら、他の者の力を借りて補ってきただろうに」

 

デュフォーの言葉を聞いて、ガッシュは落ち着きを取り戻した。非常事態で考えがまとまらずに思いつけなかったが、“仲間に頼る”事は今まで彼等が当たり前のようにしてきた事である。それを聞いたガッシュの顔は先程よりも明るくなった。

 

「ウヌ、その通りなのだ!清麿、明日皆に相談してみようぞ‼」

 

「そうだな、それが良い!」

 

ガッシュペアは答えを出した。E組の仲間が困っているならば、他のE組の仲間と共に支えてあげれば良いのだと。それを聞いた華も、嬉しそうにしていた。

 

 

 

 

 次の日、ガッシュペアが竹林の事をクラスで相談するまでもなく、E組の何人かで竹林の様子を殺せんせーと共に見に行く事に決定した。

 

「清麿、皆同じ事を考えていたみたいなのだ!」

 

「そうだな、全員が竹林を心配してくれてる」

 

「殺意が結ぶ絆ですねぇ」

 

そんなクラスの様子を見て、殺せんせーは嬉しそうだった。

 

 

 

 

 そして放課後、殺せんせーとE組の何人かでカモフラージュの技術を活かして本校舎の竹林の様子を見に行ったが、彼はそれを見破っていた。

 

(なんかいる……)

 

竹林は外を気にしながらも、A組の生徒達と話していた。クラスに馴染めている彼を見て、E組一同は安心していた。

 

「うまくやってるみたいだな。だから放っとけって言ったんだ、あんなメガネ」

 

寺坂は悪態をつきながらも竹林の様子を見に来ていた。寺坂は竹林とは何度もメイド喫茶に行った程仲が良く、内心も彼が心配だったのだ。

 

 一方竹林は、何故彼等が自分の事を見に来てくれたのかが分かっていない様子だった。

 

(みんなはどうしてここまで……今まで僕は暗殺の役に立ってなかったのに。しかもA組になった僕を見て、何を学ぶ価値がある?……逆に僕は、何を学びに本校舎に戻ってきたんだっけ?)

 

E組を抜けた自分を気にかけてくれるクラスメイトを見て、竹林はこれからどうすれば良いかが分からなくなっていた。そんな竹林に浅野が話しかけていたが、距離が遠くて会話の内容を聞き取る事は出来なかった。

 

「今の竹林君には迷いが見られますねぇ。皆さん、今日はこの辺で帰りましょうか。後は先生に任せて下さい」

 

殺せんせーの言葉に従い、彼等はそれぞれ帰宅した。生徒達は殺せんせーなら竹林を任せられると容易に判断出来た、それ程に殺せんせーに信頼は厚い。そしてこの日の夜、殺せんせーは親の鎖に縛られている竹林に対しての手入れを施したことは、本人達しか知らない。

 

 

 

 

 次の日、本校舎での集会にて竹林が再び壇上に立っていた。A組に入って、改めて決意表明を行うようだった。これは理事長の指示だったが、彼の思惑は外れてしまった。

 

「E組は弱い人達の集まりですが、僕にとってはメイド喫茶の次に居心地良いです」

 

彼は親の呪縛に打ち勝ち、E組に残る道を選んだのだった。そして竹林は理事長室からくすねて来た盾を粉々に砕き、晴れてE組に逆戻りとなった。

 

「救えないな、強者になれるチャンスだったのに」

 

壇上から降りた竹林に浅野が心底呆れた表情で声をかけたが、彼には後悔は無かった。そして、

 

「強者?怖がっているだけの人に見えたけどね、君も皆も」

 

竹林の言葉を聞いた浅野は、まるで図星を付かれたような顔をしていた。強がってはいても、浅野は心のどこかで理事長を恐れている。その事を竹林に見透かされてしまったのだ。

 

(竹林、大きな決断を下せたな。その心の強さと度胸は、俺も見習わなくてはならん)

 

清麿も嬉しそうな表情で竹林を見ていた。

 

 

 

 

 そしてE組一同は竹林と共に裏山に戻ったが、ガッシュが待ち構えていた。

 

「竹林、戻ってきてくれたのだな‼本当に良かったのだ‼」

 

「ガッシュにも心配をかけたね。皆も、本当に済まなかった」

 

竹林は一度E組を抜けた自分を改めて迎えてくれる事を嬉しく思う反面、少しの罪悪感に苛まれていた。

 

「何辛気臭せー顔してんだ。テメーはまたここに戻ってきた、それだけで充分じゃねーか」

 

そんな竹林を見て、寺坂が声をかけた。彼は同じ趣味を持つクラスの仲間の帰還を心待ちにしていたのである。E組一同、竹林が戻ってきて喜ばしい様子だった。

 

 

 

 

 その日の体育の授業で、烏間先生からこれからの暗殺には火薬を組み込む事が説明された。そして先生は分厚い火薬のマニュアルを取り出し、それを生徒1人に覚えてもらうよう説明した。

 

「ウヌ、難しそうなのだ。しかし清麿なら出来るのではないか?」

 

「まあ、大丈夫だとは思うがそれは俺の役割ではない」

 

清麿の頭脳を持ってすれば全て暗記するのは不可能ではないが、彼は引き受けるつもりは無かった。他に適任がいる事を知っていたから。そして多くの生徒が嫌がる表情を見せる中、竹林が烏間先生からマニュアルを受け取った。

 

「全て暗記できるか?竹林君」

 

「ええ、アニソンの替え歌にすればすぐですよ」

 

彼は殺せんせーに勉強を教わった時、数式などをアニソンの替え歌にしてもらい、テストを乗り切った事があった。それを活かせば全て覚えるのは苦ではない。またこれを引き受けたのは自らも今まで以上に暗殺の役に立ちたいと言う意志表示でもあった。E組の戦力が増加した瞬間である。

 




 読んでいただき、ありがとうございました。次回からは諸事情により、投稿のペースが遅くなります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。