中間テストが迫る中、生徒以上に殺せんせーの気合が入っている。加えて分身の数がこれまで以上に増加する。
「「「「「増えすぎだろ‼」」」」」
生徒たちのツッコミには目もくれず、ひたすらに勉強を教えてくれる。先生はかなり疲労している。なぜこれ程一生懸命なのか。その理由として先生は、自らの評判が上がり、殺される恐れがなくなるためだと答える。しかし内心は理事長との一件を気にしている。もちろんE組を思ってそうしてくれているのもあるが。しかし、
「いや、勉強の方はそれなりでいいよな」
「うん。なんたって暗殺すれば賞金百億だし」
キノコ頭の三村航輝とポニーテールの矢田桃花が、賞金の話を持ち出した。それに便乗して他の生徒も勉強には消極的な発言をし始める。全員がそう考えている訳ではないだろうが、その考え方に反対する生徒はいなかった。ただ一人を除いて。
「そんな簡単な話じゃないと思うぞ、皆」
「あ、どうしたんだよ高嶺」
「だって百憶だぜ。一生遊んで暮らせるって!」
他の生徒が反論する中、清麿が話を続けようとする。しかし、
「高嶺君はわかっているようですが、ここから先は私に言わせてください。外で話しましょうか、全員校庭へ出なさい。烏間先生とイリーナ先生とガッシュ君も呼んで下さい」
清麿の話を遮った殺せんせーは、顔にバツを浮かべて、そのまま教室を出て行く。それにいつもと比べて機嫌が良くないようにも見えた。普段あまり見せない殺せんせーの不機嫌な様子に、E組の生徒達は戸惑いを隠せない。
そして生徒達と烏間先生、ビッチ先生が外に出ると、殺せんせーが校庭のゴールを端にどけていた。そして校舎の裏山で特訓していたガッシュと合流した清麿が校庭に来る。
「全員揃いましたね。ではイリーナ先生、プロの殺し屋として伺いますが、あなたはいつも仕事をする時、用意するプランは一つですか?」
殺せんせーがビッチ先生に触手で指差しながら質問する。彼女は怪訝な顔をしながらも問いに答える。
「何よ、いきなり……そうね、本命のプランなんて思った通り行くことの方が少ないわ。不測の事態に備えて、予備のプランをより綿密に作っておくのが暗殺の基本よ。ま、あんたの場合規格外すぎて予備プランが全部狂ったけど。見てらっしゃい、次こそは必ず」
「無理ですねぇ。では次に烏間先生」
ビッチ先生の決意表明をブツ切りにして、殺せんせーは烏間先生に話を振った。これに怒ったビッチ先生は地団駄を踏む。
「ナイフ術を生徒に教える時、重要なのは第一撃だけですか?」
「……第一撃はもちろん最重要だが、次の動きも大切だ。強敵が相手では、第一撃は高確率でかわされる。その後の第二撃・第三撃を、いかに高精度で繰り出すかが勝敗を分ける」
「なるほどぉ……では高嶺君」
烏間先生の話に感心した殺せんせーは、次に清麿を触手で指差す。
「ガッシュ君が持つ術は、ただ電撃を出すだけですか?そして電撃が相手に通用しない場合は、どうしますか?」
「電撃を出す以外の術ももちろんある。電撃が通用しない相手に関しては他の手段を使ったり、電撃が通用するような工夫も施す……って、どさくさに紛れて俺達の手の内を聞き出そうとするんじゃない!」
「ヌルフフフ。残念です……」
「おい……」
(ハッ、いかん。清麿がいなければ、殺せんせーに術を教えてしまうところだった。危なかったのだ……)
清麿にガッシュの術を聞き出すことに失敗した殺せんせーは少し拗ねた表情を見せる。その一方で生徒の多くは殺せんせーの言いたい事が理解出来ない。そんな生徒の一人、前原陽人が痺れを切らした。
「結局何が言いたいんだ⁉」
「先生方や高嶺君達のように、自信を持てる次の手があるから自信に満ちた暗殺者になれる。対して君達はどうでしょう?」
彼の問いに殺せんせーは話しながら自分の体を回転させる。そして速さは増していく。
「“俺らには暗殺があるからそれでいいや”……と考えて勉強の目標を低くしている。それは劣等感の原因から目を背けているだけです。もし先生がこの教室から逃げ去ったら?もし他の殺し屋が先に先生を殺したら?……暗殺という拠り所を失った君達には、E組の劣等感しか残らない。そんな危うい君達に、先生からの
第二の刃を持たざる者は……暗殺者を名乗る資格なし‼」
殺せんせーの回転は竜巻を生み出す。それも本校舎から見えるほど大きな竜巻を。それを見た生徒たちは愕然とする。
「……校庭に雑草や凸凹が多かったのでね、少し手入れをしておきました。先生は地球を消せる超生物、この一帯を平らにすることなどたやすいことです」
竜巻が収まったかと思えば、校庭はあたり一面、綺麗にされていた。その信じられない光景を見て、生徒たちは言葉を失う。殺せんせーの発言は決してハッタリなどではない。こんな先生を本当に殺せるのか、という疑問が強まる。
殺せば百億円。口にするだけなら簡単かもしれないが、実行するのは至難の業だ。次元が違う。自分たちの手で暗殺を成功させられる保証などどこにもない。生徒達にそう考えさせるのには、十分な光景だ。
「もしも君達が、自信を持てる第二の刃を示せなければ、相手に値する暗殺者はこの教室にいないと見なし、校舎ごと平らにして先生は去ります」
殺せんせーの言動に、周りの雰囲気は重くなる一方だ。しかし、その空気の中でも黙ってばかりいられないと考えて渚が口を開く。
「第二の刃、いつまでに?」
「決まっています、明日です。明日の中間テスト、クラス全員50位以内を取りなさい」
殺せんせーの唐突かつ難儀な指示に、クラス全員開いた口が塞がらない状態だ。当然である。学業が芳しくないが故にE組に落とされた生徒は多い(一部例外もいるが)。殺せんせーが何体も分身を作って生徒達に熱心に勉強を教えているとはいえ、本校舎の生徒達との学力の差は一朝一夕に埋まるものではない。そんな中本校舎の生徒達に、クラス全員に打ち勝てと言っているのだ。しかし、殺せんせーの表情には自信が溢れていた。
「君達の第二の刃は、先生が既に育てています。本校舎の教師達に劣るような教え方をしていません。自信を持ってその刃を振るって来なさい。
そう言い残して殺せんせーは去る。しばらく彼らの間に沈黙が走るが、ガッシュペアが口を開く。
「……殺せんせー、すごかったのう。こんな先生を殺さなくてはならぬのか」
「ああ、そうだな。しかし、まずは明日の中間テストをどうにかしないと……」
清麿は頭を抱える。明日の中間テストで全員が50位以内に入らなければ、殺せんせーがE組を去ってしまう。地球を滅ぼす超生物を野放しには出来ないため、それは何としても止めなくてはならない。どうすればいいのか考えていたところ、
「やれって言われたんなら、やるしかなくね?」
さっきの授業をサボり、どこかへ行ってしまったと思われていたカルマが姿を見せた。
「何、皆ビビってるの?これで全員50位以内に入れば、本校舎の連中見返せるのに……」
カルマが挑発的な視線を他の生徒達に送る。彼は素行不良の為にE組に来ており、学業に関してはむしろ優秀だ。そんなカルマの視線に不快な表情を浮かべる者もいる。しかし。
「皆、どこまでやれるかわからないけど、頑張ってみよう!」
磯貝が周りを鼓舞させた。クラス委員の彼の言葉を聞いて、他の生徒達も次々にやる気を出していく。清麿も磯貝の言葉を聞いて、口元に笑みを浮かべる。そんな中、渚が清麿に質問をする。
「高嶺君、殺せんせーがさっき言ってたこと、最初からわかってたの?」
テスト勉強をないがしろにする雰囲気の中で唯一異議を申し立てた清麿のことを、渚は気にしている様子だ。そして清麿がそれに答える。
「そうだな。殺せんせーなら契約を破ってここから逃げ出すのは容易。いつまでもここにいてくれるかどうかはわからん。そうでなくても、殺せんせーは手強い。それに、他にも賞金目当ての殺し屋も出てくるだろう。俺達が確実に暗殺を成功させ、賞金を得られる保証なんてどこにもない」
「あれぇ、殺せんせーを殺すためにE組に来た高嶺君がそれ言っちゃうんだ~」
清麿の話にカルマが口を出す。彼の煽り節は健在だ。
「もちろん殺す気ではいるさ。しかし、この先何が起こるかは予想がつかんからな。色んな可能性は考えておくべきだと思った。それに、殺せんせーがあそこまで必死に授業してくれたんだ。それを無下にする雰囲気はどうかと思ったんだ」
「なるほどね~。まあ、明日のテストは頑張ろうよ。それじゃ、また明日」
カルマは納得したのかどうかよくわからない返答をして、山を下りて行く。そんな彼の後ろ姿を他の生徒達は見つめるが、内心では目標を目指してやる気に満ち溢れている。
「僕等も帰ろうか」
渚の一言を皮切りに生徒達は帰宅の準備を進める。容易な事では無いが、これは本校舎の生徒達を見返す機会にもなり得る。生徒達は勉強の話をしながら帰路に着くのだった。
翌日、中間テストの幕は切って落とされた。テストは全校生徒が本校舎で受ける決まり。つまり、E組はアウェーでの戦いとなる。しかも、試験監督の本校舎の教師がわざとらしく物音を立てて、露骨に集中を乱してくる。最悪の環境だ。
(椚ヶ丘の試験問題は難しいな。だが、解ける。殺せんせーが教えてくれた通りの問題。この問題も、この問題もいける!)
清麿は次々と応用問題を解いて見せる。他の生徒も黙々と問題を解き進む。その様子には、試験監督も驚きを隠せない。しかし、
(何だこの問題は?クッ、どうなってやがる⁉)
次の問題を見て清麿は表情を変えた。理事長が罠を仕掛けていたのだ。
「……これは一体どういう事でしょうか?どう考えても普通じゃない。テスト2日前に、出題範囲を全教科で大幅に変えるなんて。」
中間テストの結果が帰ってきた後、烏間先生が本校舎の教師と電話をしていた。テスト範囲が変更されていたのだ。しかも、そのことがE組には伝わっていない。しかし、本校舎の教師は白を切るばかりだ。加えて本校舎では理事長が教壇に立ち、短期間で変更内容を教えあげていた。E組は、理事長にしてやられた。殺せんせーの熱心な授業空しく、E組全員テスト50位以内という目標は、果たされずじまいだ。
「殺せんせー、本当に出て行ってしまうのか?」
ガッシュが泣きそうな顔で、か細い声で尋ねた。
「……先生の責任です。この学校の仕組みを甘く見ていたようです。君達に顔向けできません」
殺せんせーが生徒達に背中を見せて佇んでいた。殺せんせーはかなり落ち込んでいる。クラスの雰囲気も重い。そんな空気を切り裂くかの如く、一本のナイフが殺せんせー目掛けて投げられた。殺せんせーは驚きながらも、そのナイフをかわした。
「カルマ君‼今、先生は落ち込んで……」
ナイフを投げたのはカルマだった。そしてカルマは殺せんせーの文句を遮るように、自分のテストの答案用紙を殺せんせーに投げつけた。合計点数494点、学年4位。これが彼の中間テストの結果だ。
「俺の成績に合わせてさ、あんたが余計な範囲まで教えたからだよ。だけど、俺はE組出る気無いよ。暗殺の方が楽しいし。そうでしょ、高嶺君?」
カルマはニヤリと笑いながら清麿の方を振り向いた。彼は清麿の学力の高さには一目置いている。そして彼の返答も分かりきっていると確信していた。
「……そうだな。最も、俺にはE組を出る選択肢はないんだがな。いきなりテスト範囲外の問題が出てきたときは何事かと思ったが、殺せんせーが教えてくれた箇所も多くて助かった。やっぱり、今の俺達にはあんたが必要だ(……1位取れなかったな。まあ、次頑張るか)」
清麿もカルマと同じ点数を取っており、無事50位以内に入れていた。しかし彼が殺せんせー暗殺を放り出して本校舎に行く事はあり得ない。
「で、どーすんの先生は?全員50位に入んなかったって言い訳つけて、ここからシッポ巻いて逃げる訳?要するに、殺されんのが怖いだけって事?」
カルマは舌を出して殺せんせーを挑発する。そんな雰囲気を感じて、他の生徒達も便乗して殺せんせーをイジリ始めた。
「なーんだ、殺せんせー怖かったのかー」
「それなら正直に言えば良かったのに」
「ねー、“怖いから逃げたい”って」
これには殺せんせーも顔を真っ赤にする。まるで本物のタコそのものだ。
「にゅやーーッ‼逃げるわけありません‼期末テストであいつらに倍返しでリベンジです‼」
殺せんせーの言動を見た生徒達の気持ちは楽になり、クラスで笑いが起きた。ひとまず殺せんせーが野に放たれる心配は無くなった。
「これで殺せんせーは残ってくれる。良かったのだ、清麿!」
「ああ!一時はどうなるかと思ったが」
そんな中でガッシュペアはお互いの拳を軽くぶつけていた。そしてテストの結果が帰ってきた直後とは比べ物にならないほどに、クラスの雰囲気は軽くなっていた。笑いの絶えないまま、時刻は下校時間となる。
読んでいただき、ありがとうございました。今回はほぼ原作通りになりましたが、次回はオリジナル回を書きます。