「2学期から教える応用暗殺訓練、火薬に続くもう1つの柱が“フリーランニング”だ」
烏間先生が少し離れた一本松を指差しながらフリーランニングの説明をした。百聞は一見に如かずと言う事で、烏間先生が実際にそれを行って一本松まで10秒程で辿り着いた。
「道なき道で行動する体術、熟練して極めれば、ビルからビルへ忍者のように踏破する事も可能になる」
これを見た生徒一同は興味を示した。自分達もこのようなフリーランニングの会得が可能なら、厳しい訓練にも楽しみが出来る。しかし口元が緩む生徒達とは対照的に、烏間先生の表情がいつも以上に真剣になった。
「だがこれも火薬と同じ。初心者の内に高等技術に手を出せば、死にかねない危険な物だ」
先生がフリーランニングの危険性を説明した。皆がいきなり先生のように上手にやれる訳が無いのだから。
「危険な場所や裏山以外で試したり、俺の教えた以上の技術を使う事は厳禁とする。いいな!」
フリーランニングは習得出来れば便利な能力だが、リスクは大きい。気を抜けば自分や周りの人の怪我に繋がる。そしてフリーランニングの基本となる受け身の練習をひたすら行い、今日の体育の授業は終了した。
授業が終わって生徒達が教室に入っていく中、ガッシュペアはまだ外にいた。
「清麿、烏間先生はフリーランニングが危ない物と言っておったな」
「ああ。これもまた火薬や俺達の呪文と同じで、誰かの命を奪う可能性がある代物だ。使う場面は選ばなくてはならん」
彼等は自分達の持つ力について話していた。その力で関係ない人々を巻き込む事は許されない事である。
「清麿。私が公園で電撃を呼び出そうとしたのがきっかけで、私達が喧嘩をしてしまった事を覚えておるかの?」
「……あったな、そんな事」
ガッシュは自分の電撃の事で清麿と揉めた事を思い出す。その時清麿は安易にガッシュが術を人前で使おうとした事に怒ったが、ガッシュにとっては自分が“人より優れている”事をアピールしたかっただけであった。そしてすれ違いが起こってしまったのだ。
「あの時は反発してしまったが、今なら清麿がどうして怒ったのかが分かるのだ。私達の力で関係のない人々を傷つけるなど、あってはならないのだ」
「……そうだな。だがあの時はガッシュなりに前を向こうとしていたんだろ?それを分かってやれなかった俺にも責任がある」
この一件を経て彼等はお互いに歩み寄る事が出来た。その絆の力は、当時のブラゴのギガノ級の術を相殺する程に強力な物である。
「私達はこの力を、誰かを守る為以外に使ってはならぬのだ。烏間先生もそれが分かっていて、裏山以外でのフリーランニングの使用を禁止したのであろう」
「その通りだ。自分の力に溺れるなど、あってはいけない」
人とは違う力を持った彼等には、烏間先生がフリーランニングに関して厳しい制限を設けた理由が分かっている。しかしフリーランニングをめぐってあのような事件が起こるなど、今のガッシュペアには知る由も無かった。彼等がそんな話をしていると、
「2人で何の話をしてるの~?」
倉橋がガッシュペアに後ろから話しかけた。彼女は他の生徒が校舎に戻る中で烏間先生を放課後にお茶の誘いをしたのだが、断られてしまったようである。
「おおっ、陽菜乃ではないか!」
「今日のフリーランニングについてだ。使いこなせれば暗殺において便利な技だが、かなり危険な物だからな」
「成程ねー、確かに失敗したらって考えるとちょっと怖いかも」
清麿の話を聞いた倉橋もフリーランニングに対する恐怖心を持ち合わせていた。そんな彼女は一瞬だけ険しい顔を見せたが、直ぐにいつも通りの明るい表情に戻り、少し顔を赤くして微笑んだ。
「でもフリーランニングしてる烏間先生、いつも以上にカッコよかったな~」
倉橋は烏間先生に恋心を抱いているが、ビッチ先生の彼への思いにも気付いている為に複雑な心境である。そんな彼女は今日の烏間先生に感心していた。
「ウヌ、烏間先生は凄いからの!」
「あの人の身体能力は、人間離れしてるところがあるからな……」
彼等は烏間先生の話をしながら校舎に入って行った。
烏間先生の話題で盛り上がった彼等だったが、下駄箱を通り抜けた辺りから倉橋は別の話題を持ちかけた。
「ねぇガッシュちゃんと高嶺ちゃん、ウマゴンちゃんが次に日本に来るのっていつになりそう?」
彼女はウマゴンに会いたがっていた。動物園で顔を合わせてからかなり仲良くなっており、次にいつ再会出来るかが気になっている様子だ。
「そうだな、少なくとも今俺達が倒そうとしている魔物との戦いが終わって以降だろうが、サンビームさんの都合もあるからいつになるかは分からない」
「そっか、残念だな~。でもしょうがないよね」
「ウマゴン達も強くなる為に頑張っておるからの」
今この時もウマゴンはアフリカで野生動物に追われる生活を送りながら、実力を伸ばしている。事情を知っている倉橋は、ウマゴンにいつ会えるか分からなくてもそれ程落ち込む様子は見せなかった。
「戦い、頑張ってね!」
「「勿論」なのだ!」
倉橋が笑みを浮かべて2人を激励してくれた。天真爛漫な彼女との会話は、ガッシュペアの日々の疲れを紛らわせてくれる。そして彼等は教室に戻った。
学校も終わって裏山での術の特訓の帰り道。デュフォーは先に戻っており、ガッシュペアとティオペアが共に特訓について話していた。
「ティオの盾が日に日に強くなっていくのだ、私も負けてられん」
「それはお互い様でしょ?でも、クリアの術はもっと強力なのよね……」
彼等の術も強くなっているが、クリアはその上を行く。それでも魔界の滅亡を防ぐために抗わなくてはならない。
「2人共、気合が入っているわね……って、あれ?あの子達は……」
意気込んでいるガッシュとティオを微笑ましく思っていた恵だったが、彼女は前にも会った事のある2人組を見かけた。
「あれ、あの2人って……」
「渚とカエデじゃないの‼」
「おおっ、本当なのだ‼」
彼等の帰り道で、偶然渚と茅野がいる場面に出くわした。2人はモチノキ町在住では無かったが、どこかに遊びに来ていたのだろうか。
「あ、高嶺君達!」
「それに……大海さんまで!」
まさかの出会いに渚と茅野も驚いていた。
「こんにちは。渚君、カエデちゃん。南の島以来かしらね」
6人は近くの公園に来た。ガッシュとティオは砂遊びを始め、残りの4人はそれを見ながら雑談を始めた。その話の中で、渚と茅野がモチノキ町のレストランに行ってた事が分かった。
「あそこって、前に俺達も一緒に行った所だったか?」
「そうだよ。茅野が新作のプリンを食べたいって言っててさ……」
「うん、凄く美味しかったよ!」
(となると、ウルルさんが働いている店か。元気にしているだろうか……)
茅野の甘党は健在だ、スイーツの為なら隣町に出向くことさえ厭わない。一方で清麿は以前にその店で再会したウルルの顔を思い出していた。
「カエデちゃんて、本当に甘い物が好きなのね」
「はい!大海さんも、甘い物はどうですか?」
「“恵”で良いわよ。そうね……私は甘い物ならシフォンケーキが好きかな。後、ティオはケーキ全般が好きって言ってたわ。皆でスイーツを食べに行くのもいいかもしれないわね」
恵も茅野が甘い物の話に食いついた。スイーツが好きな女子は多く、それはティオペアとて例外では無い。しばらくその話を続けた後、恵は別の話題を取り上げた。
「話は変わるけどカエデちゃんって、ガッシュ君の事を弟のように可愛がっているみたいね。ティオが言ってたわ」
「そうですね。ガッシュ君みたいな弟がいると、毎日が楽しいんだろうなって思って。何だか、ガッシュ君を見てると、つい構いたくなっちゃうって言うか……」
「それは分かる気がするわね」
恵はティオからガッシュと茅野の関係性を聞いている。そしてガッシュの事を楽しそうに話す茅野を、彼女は微笑ましく見ていた。
「でも、程々にしておかないと清麿君が嫉妬しちゃうんじゃない?(それに、ティオも……)」
「ハハハ、そうかもしれません」
「恵さんまでそんな事を……」
「高嶺君、このネタは恒例になってるね」
茅野がガッシュを可愛がる事で、清麿が嫉妬する可能性を誰かが言及する。何度このやり取りが行われた事か。それを見てきた渚も苦笑いを浮かべた。しかし恵がティオから聞いていたE組の話題は、それだけではなかった。
「あと渚君は、随分ティオと仲良くしてくれたみたいね。動物園に行った時、色々教えてもらったって。あの子、楽しそうに話してたわ」
「ティオちゃんがそう言ってくれて嬉しいです。また皆でどこか出かけたいですね」
ティオと渚が仲良くなれた事を、恵が喜ばしく感じていた。ティオが心を閉ざしていた時期を知っている恵にとって、彼女の交友関係が広がるのは嬉しい事である。
「そうね。今ちょっと忙しい時期なんだけど、時間が出来たらそうしたいわね」
「確かに動物園には、恵さんは来れなかったからな」
今はクリア打倒の特訓故、恵達は忙しい。しかしそれを乗り越えた後は、皆で楽しい時間を多く過ごしたいと思う恵達だった。
「高嶺君とガッシュ君のお陰で、恵さんやティオちゃんとも話す事が出来て良かったです。恵さんも忙しいと思いますが、頑張ってください」
「ふふ、ありがとう」
ガッシュペアを通して、渚・茅野はティオペアとも仲良くなれた。友達が増える事は、ここにいる全員にとって素直に嬉しい。そんな時、ふと時計に目を向けた恵が慌てた表情を見せた。
「あ、いけない。もうこんな時間。ティオー!そろそろ帰りましょー!」
「分かった、恵!」
恵がティオを呼んで、帰り支度を始めた。もう時計の針は夕方の6時を過ぎていた。
「じゃあね、皆。またお話しましょう!」
「皆、またねー!」
ティオペアが清麿達に挨拶をすると、そのまま帰って行った。そして清麿達も2人に手を振った。
「ウヌ、渚とカエデもティオだけでなく恵とも友達になれたのだな。良かったのだ!」
恵が渚・茅野と楽し気に話す様子を見れて、ガッシュも満足気だった。
「ティオがまた今度皆で出掛けたいと言っておったぞ!」
「奇遇だな、ガッシュ。こっちでも同じ話をしてたんだ」
考える事は皆同じだったようだ。それぞれが今まで以上にお互いに交流を深めたいと思っている。
「私は皆で甘い物を食べに行きたいかなー。今日のプリンみたいな」
「茅野、相変わらずだね」
ここに来てもプリンの話を持ち出す彼女。しかし、彼女の表情が変わった。
「ねえ皆、プリンを作る時って卵を使うよね」
「それがどうかしたのか?」
「昨日、こんなニュースを見たんだけど」
茅野がスマホを取り出した。そこには鶏卵の過剰供給によって廃棄される卵についての記事が掲載されていた。
「これ、暗殺に使えると思うんだ!」
「カエデが殺る気に満ち溢れておるのだ!」
「茅野、これって……」
「おい茅野、まさか……」
茅野が卵のニュースとプリンを見て思いついた暗殺計画。清麿は察しが付いたが、それは余りにもぶっ飛んだ暗殺計画だった。
9月の3連休、生徒一同は校舎に集合した。もちろん暗殺計画の為である。
「と言う訳で‼廃棄される卵の救済もかねて暗殺の為の巨大プリンを作りたいと思います!名付けて、プリン爆殺計画‼」
巨大プリンを作る下準備は烏間先生指導の下で事前に行われており、茅野の暗殺計画を聞いた生徒一同は驚愕としていた、ただ1人を除いて。
「おおっ、楽しそうなのだ‼」
事前に計画を聞いていたガッシュは、楽しみのあまり目を輝かせていた。巨大プリンに興味津々な様子だ。
「ガッシュ君、これは暗殺の為なんだからね‼浮かれてちゃダメだよ‼」
「ウヌ‼」
そういう茅野自身もかなり浮かれていた。これは殺せんせーの暗殺のみならず、甘党の茅野自身にとってもやりたい事の1つである。それを分かっていた清麿と渚は苦笑いをしていた。具体的な計画はこうだ。巨大プリンの底に対先生弾と爆薬を密閉しておく。殺せんせーが底の方まで食べ進んだら、竹林が起爆させる。もし殺せんせーが逃れたら、別の場所で隠れているガッシュペアの電撃が先生を襲う。プリンの匂いで2人の場所が紛れる寸法だ。
巨大プリンの制作が開始された。そこには茅野が考えた多くの工夫があった。プリンが崩れないようにする為の凝固剤に融点が高い寒天の使用、飽き防止の為の味変わりなど、プリンを熟知している彼女だからこそ出来る工夫が多くなされた。
「やるねー茅野ちゃん、これ全部手配したの?」
「かなり手が込んでるね」
茅野の手際の良さに、カルマと渚も感心していた。
「うん、前から作ってみたかったんだ。諸経費も防衛省が出してくれる、最高の機会だと思ってさ。こうと決めたら一直線になっちゃうんだ、私」
自分の好きな事を活かした暗殺はこれまで何度か見られたが、サポートタイプかと思われていた茅野がここまで大規模な暗殺計画を行うとはクラスの誰もが考えていなかった。その諸経費を見た烏間先生が頭を抱えていたのは別の話である。
「茅野、プリンについて随分勉強しているじゃないか」
「カエデ、凄いのだ‼」
「エヘヘ、甘い物の事なら任せてよ‼」
茅野のプリンに関する知識は、ガッシュはおろか多くの分野に詳しい清麿ですら舌を巻いていた。
そして3連休を全て費やし、生徒一同は巨大プリンを完成させた。それを見た殺せんせーがよだれを垂らしていた。
「これ、全部先生が食べて良いんですか?」
「勿論!」
茅野の言葉を聞いた殺せんせーがプリンに飛び込んだ。それを見た生徒達が校舎に入っていく中でガッシュペアはプリンが見える森に隠れた、暗殺の為に。プリンに夢中の殺せんせーはそれに気付いていない。
「清麿、どのタイミングで攻撃しようかの?」
「一応竹林が起爆した後だと言う事になっているが、俺達が行けると判断した時にも電撃は撃って良いとは聞いている。中途半端な時に攻撃して気付かれるのが最悪だ」
最高のタイミングで呪文を唱える為、清麿は
「おっと茅野か、どうしたんだ?」
『ダメーーー‼高嶺君とガッシュ君、プリンに電撃放つなんて、絶対ヤダー‼』
清麿が電話に出ると、茅野が泣き叫んでいた。彼女は自分達で作ったプリンに愛着が湧いてしまった様子である。清麿は言葉を失った。
『ちょっ、落ち着け茅野‼』
『プリンに感情移入してんじゃねー‼』
荒ぶる彼女を、杉野と寺坂が抑え込んでいた。それを聞いた清麿は、呆れた表情を見せながら電話を切ってしまった。
「清麿、カエデからなのだろう?切ってしまって良かったのか?」
「ああ、問題ない。ガッシュ、プリンと殺せんせーから目を離すな」
茅野の懇願を無視して呪文を唱えるタイミングを見計らっていたガッシュペアだったが、殺せんせーと目が合ってしまった。
「清麿、殺せんせーがこっちを見ているのだ。そして何か持ってるようだの」
「ああ、俺達は殺せんせーに気付かれたんだ。そして先生が持っているのは竹林が作った爆弾……って起爆装置まで外されてんじゃねーか!」
「ヌルフフフ、そこにいましたか。抜かりが無いですねぇ、君達は」
こうしてプリン爆殺計画は失敗に終わった。
殺せんせーとガッシュペアは校舎に戻るが、何と殺せんせーがクラス皆でプリンを食べられるように綺麗な部分を切り分けてくれていた。
「プリンは皆で食べるものですよ……ただし廃棄される予定の卵を食べてしまうのは、厳密には経済のルールに反します。食べ物の大切さと合わせて、次の公民で考えましょう」
「「「「「はーい‼」」」」」
各々はプリンを美味しそうに食べ始めた。
「これは美味い!流石だな、茅野!」
「いくら食べても飽きないのだ!」
「皆のお陰だよ……ってガッシュ君、口にプリンついてるよ」
「う、ウヌゥ……」
茅野は相変わらずガッシュに構っており、彼の口のプリンを拭きとった。そんな彼等に渚とカルマが近付いた。
「おっ、高嶺君の嫉妬の時間かな?」
「だから、違うと言ってるだろう」
「またこのパターン……」
この流れはやはり恒例になっていた。清麿と渚は“またか”と言った表情を浮かべた。
「でも惜しかったね、茅野……むしろ安心した?」
「あはは」
大切なプリンに電撃を放ったり爆破したりせずに済んだ茅野は、どこかホッとしている。その事を渚に見透かされて、顔を赤くした。
「でも、茅野がここまでやるなんて思わなかった。意外だね」
「ふふ、本当に刃は親しい友達にも見せないものよ」
茅野は得意げな表情をして、殺せんせーにプリンを突き付けた。
「また殺るよ、殺せんせー。ぷるんぷるんの刃だったら、他にも色々持ってるから」
そんな茅野を見た殺せんせーは、触手で〇マークを作っていた。次はどんな暗殺方法が行われ、誰が刃を露わにするのかは誰にも予想が付かない。クラス全員がプリンに夢中になる中、清麿は顔をしかめていた。
(何だ、一瞬茅野から違和感みたいなものが……気のせいか?)
殺せんせーに暗殺の宣言をした茅野を見て清麿が何かを感じ取っていたが、その正体には気付けなかった。その答えを
読んでいただき、ありがとうございました。この話を別で出すと、1話が少し短くなったので、まとめました。