「清麿、そろそろ帰ろうぞ……ウヌ?」
イトナが登校するようになってから数日経った日の放課後、ガッシュが清麿と帰ろうと教室に来たが、男子一同はイトナの席の周りに集まっていた。
「お、ガッシュか。今はイトナが暗殺に使う為のラジコンの戦闘車を作ってるんだ。これが中々ハイテクなんだよ」
「何と!イトナ、凄いのだ‼」
イトナは父親の工場で基本的な電子工作は大体覚えており、見事にオリジナルのラジコンの制作を進めていた。その技術は、手先が器用な清麿が舌を巻く程である。
「こんなのは、寺坂以外なら誰でも出来る」
彼は口ではそう言うが、容易な事では無い。ちなみにその発言に寺坂は頭に来ていた。
「いや、これは誰にも出来る事じゃないぞ」
「そうだね……(イトナ君、触手を持ってた時と全然違う)」
イトナが手慣れた様子でラジコンを開発する様子に、磯貝と渚も感心する。そして彼は自分の父親の言葉を思い出した。
『最初は細い糸で良い、徐々に紡いで強くなれ。それが“糸成”、お前の名前に込めた願いだ』
(……何で忘れていたのかな、自分のルーツを)
イトナはそんな事を思いながら、完成させたラジコンを操作して見せた。手作りのラジコンは、多くの男子生徒が見入るのには十分魅力的である。
「そうだ、お前等に教えないといけない事がある。殺せんせーの弱点、シロから聞いた標的の急所。奴の“心臓”、位置はネクタイの真下。そこに当たれば一発で絶命出来るそうだ」
イトナの持つ重要な情報、殺せんせーの弱点がまた1つ露呈した瞬間である。
その頃、殺せんせーは空を飛んで別の場所に移動していた。
「恐らく知られたでしょうねぇ、私の急所も。イトナ君の加入、高嶺君の
自分が不利になるのにも関わらず、殺せんせーは相変わらず笑みを絶やさない。
場面は再び教室に戻り、イトナが自分のカバンから何かを取り出した。
「そうだガッシュ、お前に渡したい物があるんだ」
「ウヌ、それはまさか……」
それは全身が金属で出来たバルカン300だった。更にイトナはリモコンを取り出し、それを操作して見せた。
「人型のラジコンは複雑な動きが必要になるからな、制作の難易度が高い。それもまだ試作段階だ」
「イトナ……本当に良いのか?」
実際に動くバルカン300を見て、ガッシュは目を輝かせる。そして他の生徒も、バルカン300が動く様子に驚きを隠せなかった。
「構わない。お前達からも貰っているからな」
イトナはそう言って、清麿が作ったバルカンを取り出した。それを見たガッシュは更に嬉しそうな表情を見せた。
「本当にありがとうなのだ‼」
「良かったな、ガッシュ」
「リモコンの操作方法なら、高嶺にでも教えてもらえ」
イトナはガッシュにラジコンを渡した。口には出さないが、内心では転入当初からガッシュが友達になろうとしてくれた事に感謝している。それと同時に、ガッシュを無視してしまった事を申し訳なく思っていた。
「俺はこれを始めて見るんだが……」
「お前ならこれくらい、初見で扱えるだろう」
「清麿、これはどうやって使うのだ?」
「あー、これはだな……」
なお、ラジコンの操作については清麿に丸投げである。しかし清麿も持ち前の器用さを活かしてラジコンの操作を難なく行い、使い方をガッシュに教えた。そしてイトナは、先程の戦闘車のラジコンの操作に戻った。
「凄い、バルカンが動いている!」
「こんな物まで作れるのか……」
ガッシュペアがバルカン300のラジコンを操作する様子に渚と磯貝が興味を示すが、他の男子生徒は戦闘車の方に夢中だった。イトナはこれを暗殺に使おうとしている。
「ウヌ!渚と磯貝も、使ってみると良いぞ!」
「何でお前が得意気なんだ?」
「「ハハハ」」
ガッシュに言われて、渚と磯貝もラジコンの操作を始めた。バルカン300が動く光景は、ガッシュを更に興奮させる。しばらく動くバルカン300を見物した後、清麿が時計に目を向けた。
「おっと、もうこんな時間じゃないか。ガッシュ、そろそろ帰ろう」
「そうだの。もっとバルカンで遊んでいたいが、特訓もしないといけないのだ」
清麿が帰り支度を始めた。それを見たガッシュも残念そうな表情をしながら帰る準備に取り掛かる。
「2人共忙しいな。頑張れよ!」
「また明日ね!」
帰ろうとする2人に渚と磯貝が帰りの挨拶をしてくれた。ガッシュペアはそれに返事をした後、イトナの方を向いた。
「イトナ、本当にありがとう!俺達は帰る……」
清麿がイトナに礼と帰りの挨拶を言おうとしたが、彼を取り囲む男子生徒の雰囲気がいつになくシリアスな物になっていた。
「お前等、帰るならラジコンはそこに置いといてくれ。それはまだ試作段階だからな、改良点は多々ある」
「分かったのだ!」
「ところで、皆どうしたんだ?」
イトナはまだまだバルカン300のラジコンを改良するつもりである。ガッシュペアは言う通りにしたが、清麿は他の生徒達の気合の入りようが気になっていた。
「2人共、帰っちまうのか。残念だ」
「……最も、ガッシュには早い話だろうから仕方ないさ」
岡島と竹林が何かを企んでいる様な素振りを見せる。そして他の生徒達も帰ろうとするガッシュペアを見て、残念そうな顔を見せた。
「……皆、どうしたのだ?」
「気にしなくて良い、お前達も忙しいんだろ?本番の暗殺の時に力を貸してくれればそれで問題ない」
(まあ、何か良くない事を考えてるのは確かだな……巻き込まれないようにするか)
イトナを始め、ガッシュペアに真相を教えようとする生徒は誰もいなかった。そんな彼等の様子を見た清麿は、嫌な予感がしていた。
「お前達の戦力は大きい。ラジコンの力と合わされば、あのタコをより殺しやすくなる」
「そうだな、協力して暗殺を成功させよう!」
「皆、頑張ろうぞ!」
イトナはかなりガッシュペアを信用している様子だ。彼等が殺せんせーと同様に、率先して自分を助けてくれた事が嬉しかったのだ。そんなイトナにガッシュペアは手を振った後、2人は帰路に着いた。
次の日ガッシュペアが登校すると、片岡を始めとした女生徒が、岡島等の男子生徒を物凄い勢いで責め立てていた。2人は何事かと考えていると、片岡が近付いてきた。
「高嶺君とガッシュ君‼2人は
「待て、片岡!何の話をしている⁉」
「メグ、どうしたのだ⁉」
片岡が言う“この事”について、ガッシュペアは何も知らない。そんな素振りを2人が見せていると、今度は中村が彼等の方に向かってきた。
「まあ、アンタ等が何も知らないのは本当みたいだね!それなら良いわ‼」
「ウヌゥ、莉桜まで……」
彼女はそれだけ言うと、再び片岡や他の女子と共に男子生徒を怒鳴り始める。何が何だか分からない2人は、近くにいた渚と磯貝に事情を聞いた。
「ああ、2人共。実はな……」
磯貝が訳を説明してくれた。イトナは昨日ラジコンの操作をしていたが、そのカメラでクラスの女子達のスカートを覗かないかと言う話になった。男子生徒と律がそれぞれ役割を果たしていたが、結局女子達にそれがバレてしまい今に至る。盗撮に手を貸さなかった渚と磯貝はお咎めが無い様子だ。
「そんな事があったとは……」
「お前等、何で止めなかったんだ?」
清麿が呆れ混じりにそう聞いた。
「まあ、あくまで暗殺の為と言う事だったから……」
「それに、イトナ君がクラスに馴染んでる様子が嬉しくて……」
渚と磯貝が苦笑いをしながら答えた。イトナは男子生徒と共に悪巧みを楽しんでたようだが、肝心の本人がその場にいない事にガッシュペアは気付いた。
「イトナがいないじゃないか……」
「何処に行ってしまったのだ?」
「イトナならサボリだぞ」
「カルマ君と一緒にどっか行っちゃった」
イトナはこんな状況にも関わらず、平然と女生徒達の説教から逃れていた。なかなかに強かである。それを聞いた清麿はため息をついた。
「やはり、女の子を怒らせてはいけないのだ」
激怒する女子達を見たガッシュは誓っていたが、何処か他人事な様である。
「ガッシュ、言ってる割に平気そうな顔をしてるじゃないか」
「ウヌ、ティオやパティの方が怖かったからの」
「それ、本人達の前で絶対に言うなよ……」
直接自分が怒られていないのもあるが、ガッシュにとっては今の女生徒達よりもティオとパティの方が怖い。そして女子達の叱責は止まる気配を見せなかった為、渚が仲裁に入った。
ラジコン騒動の次の日、ガッシュペアが教室に入ると茅野の大声が聞こえた。
「え⁉木村君の名前って“
「そうなんだ、皆には“まさよし”って読んでもらってる」
木村の名前の話をしている様だ。彼の両親は警察官で、正義感で舞い上がってこの名前を付けられた。これにより木村は何度もからかわれて来たが、名前の文句を彼の親は許さなかった。
「何と、そうであったのか……」
「俺もそう読むのは知らなかった。所謂“キラキラネーム”と言う奴か……」
「そうなるな」
ガッシュペアもこの話題に入っていった。彼等がその話をしていると、狭間が近付いてきた。
「キラキラって私に対する当てつけかしら?全く……私なんてこの顔で“きらら”だからね。ちっとも名前に合っていやしない」
「え、えっと……」
狭間の母親はメルヘン脳な面があり、彼女はその名前を付けられた。しかし親はヒステリックを起こしやすく、狭間の人格にも多少なり影響を及ぼしている。そんな彼女の話を聞いて、木村は何と言ったら良いか分からない様子だった。そんな時、
「大変だね、皆。親にへんてこな名前付けられて」
「「「「「え⁉」」」」」
カルマがまるで他人事のように会話に混ざってきた。クラスでも特に珍しい名前をしている彼がこのような態度をしており、クラス一同驚愕していた。
「俺は結構気に入ってるけどね、この名前……と言うか、高嶺君の“清麿”ってのも中々珍しいと思うんだけど」
「「「「「た、確かに……」」」」」
「言われてみればそうだな。気にした事も無かったが」
カルマの言う通り、清麿の名前もほとんど見かけない。その事には本人も納得していた。
「名前と言えばガッシュ君。魔物の名前って、どんなのがあるの?」
「それはだの……」
この話題を聞いて、茅野はガッシュ以外の他の魔物の名前にも興味を示した。そしてガッシュは自分の知っている名前を上げていった。
「ティオ、ウマゴン、キャンチョメ……」
「待てガッシュ、ウマゴンは本名じゃないだろう」
「ウヌ、そうだの」
ガッシュはナチュラルにウマゴンの名前を出したが、彼の本名は“シュナイダー”である。しかしガッシュはウマゴンの本当の名前を思い出せていない。
「他にも兄のゼオンにコルル、ブラゴ、ウォンレイに……」
「魔物の名前はカタカナ読みが基本になるのかな。イマイチ法則性が分からないや」
「他にも色んな名前の魔物がおるぞ」
ガッシュは引き続き他の魔物の名前を出した。多くは彼が友達となった魔物である。
「ガッシュ君、魔物の友達がたくさんいるんだね!」
「ウヌ!また皆とも会いたいのだ!」
ガッシュは様々な戦いを経て、数多くの魔物と友達になった。そんな彼に茅野が感心しており、2人は仲良く話を続ける。それを清麿が見ていたのだが、
「お、高嶺。また嫉妬してるのか?」
「またとは何だ、またとは。嫉妬なんて一度もしてないぞ……それより木村、お前の名前の話をしてたんじゃなかったか?話が逸れてるような……」
木村に嫉妬の疑惑を向けられてしまった。やはりこの流れは恒例になりつつある。クラスが名前の話で盛り上がっている時、清麿の頭にはある名前が浮かんだ。
(名前と言えば、
清麿が思い浮かべていたのは、ファウードの体内魔物“ウ〇コティンティン”である。名前の話題を聞いて、印象に残る名前として奴の事が頭に浮かんでしまったのだ。
(恵さん、災難だったな……)
恵はアイドルにも関わらず、人前で奴の恥ずかしい名前を大声で呼ぶハメになってしまった。その時の彼女の精神的ダメージは計り知れない。清麿がその時の事を思い出していると、
「名前は先生にも不安があります」
殺せんせーが会話に混ざってきた。“殺せんせー”の名前は茅野に名付けてもらったのだが、烏間先生とビッチ先生がこの名前を呼んでくれない事に不満がある様子だ。
「それが先生悲しくて……」
殺せんせーは顔を触手で隠しながら烏間先生とビッチ先生に視線を送る。それを見た2人は何とも言えない表情を見せた。
「じゃあさ、皆の事コードネームで呼び合うのはどう?」
そう言いだしたのは矢田だ。南の島の殺し屋達のような異名があればカッコいいのでは、との事である。
「良いアイデアですね、矢田さん!コードネームが決まり次第、今日一日それ以外で呼ぶのは禁止で!」
「何だか、面白そうなのだ‼」
こうしてE組一同、全員でお互いのコードネーム候補を考え、殺せんせーのくじ引きによって各々のコードネームが決定した。そして体育の授業が始まった。
今日の体育は逃げ回る烏間先生を標的に、生徒が銃のインクを命中させると言う内容だ。勿論授業中もお互いにコードネーム呼びである。ちなみに烏間先生は“堅物”と呼ばれていた。
(“中二半”と“鬼麿”に退路を塞がれたか!そして……)
「ヌオオオオ‼」
「行け、ガ……“電気ネズミ”‼」
“電気ネズミ”ことガッシュが堅物に近距離から銃で狙い撃ちしていた。“鬼麿”こと清麿が指示を出していたが、全てかわされる。
「電気ネズミ、自分の身体能力に頼って走り回るだけでは銃は当たらんぞ‼もっと狙いを定めるんだ‼」
「ウヌ‼」
電気ネズミの身体能力はかなりの物だが、射撃の成績はあまり芳しくなかった。しかし堅物相手に逃げられる事無く食らいついていた。その時、別の方向から堅物目掛けて銃のインクが放たれたが、それは木の板で防がれた。
(コイツ等の連携まで防ぐとは……)
(やっぱ堅物ってとんでもないわ)
「(なるほど、本命はそっちか!だが……)“ギャルゲーの主人公”‼君の狙撃は常に警戒されていると思え‼」
電気ネズミに追い回されながらも、“ギャルゲーの主人公”こと千葉の射撃を防ぐ堅物は規格外と言えるだろう。鬼麿と“中二半”ことカルマは一瞬だけ驚いた表情を見せたが、直ぐに不敵な笑みを浮かべた。
(そうですね、だからトドメは俺じゃない……)
(そろそろなのだ‼)
「「「“ジャスティス”‼」」」
堅物の後ろには“ジャスティス”こと木村が回り込んでいた。本命は電気ネズミでもギャルゲーの主人公でもなく、コードネーム呼びの発端となった彼である。鬼麿達がジャスティスの名を呼ぶと同時に、彼の銃から放たれるインクが堅物に命中した。
体育の後、癖のあるコードネームで呼ばれ続けたE組一同は疲れが溜まっていた。
「殺せんせー、何で俺だけ本名なんだよ」
「さっきみたいにカッコよく決めた時、“ジャスティス”呼びもしっくり来たでしょ」
確かに、インクを命中させたときの彼は見事だった。
「木村君。もし君が先生を殺せたのなら、世界はきっとこう思います。“まさしく
「……そうしてやっか」
名前にコンプレックスを抱えていたジャスティスだが、殺せんせーの話を聞いて、自分の名前にも自信を持てるようになった。殺せんせーは生徒の悩みを、授業を通して解決してくれた。そんな授業に感心する生徒一同だったが、
「ちなみに先生のコードネームは、“永遠なる疾風の運命の皇子”でお願いします」
「「「「「やかましい‼」」」」」
殺せんせーの格好つけたコードネームのせいで良い雰囲気が台無しとなった。その後先生は“バカなるエロのチキンのタコ”と呼ばれ続けた。
読んでいただき、ありがとうございました。電気ネズミは言うまでも無く、あの国民的キャラクターが由来です。