ガッシュペアの暗殺教室   作:シキガミ

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あの話です。アンチ・ヘイトの要素が強いので、ご注意下さい。


LEVEL.47 間違いの時間

 体育祭が終わりE組は中間テストに向けて勉強に励んでいるが、生徒達は何処か落ち着かない様子だ。期限は着々と近付いてきているのに、一向に暗殺は成功しない。このままで良いのかと考える生徒達は多い。

 

 

 

 

 その日の放課後、生徒達の大多数が一緒に裏山から見える街の景色を見ていた。勿論、ただそれを眺めているだけではない。岡島が腕を組みながら得意げに話し始めた。

 

「俺、良い事思いついたんだよ」

 

彼は何か企んでいる様子だ。そんな岡島を他の生徒達が見ていたが、丁度裏山での特訓を終わらせたガッシュが彼等と鉢合わせた。

 

「ウヌ、皆で集まって何をしておるのだ?(清麿はここにはいないようだの)」

 

「お!ガッシュ、良い所に来たな。実はな……」

 

岡島の話はこうだ。この場所からフリーランニングで建物の屋根を伝って行くと、殆ど地面を降りずに隣駅の前まで到達が出来る。よってただ通学するだけで訓練が可能になるとの事だ。

 

「危険じゃないのか?それ……」

 

「そもそも、烏間先生に裏山以外でやるなって言われてたじゃない」

 

片岡や磯貝を始め、それに反対する生徒もいたが、岡島の自信は揺るがない。駅までの道の下見の結果、人通りも殆ど無く、難しい場所も無かったようだ。それを聞いた多くの生徒は岡島の考えに賛同し始めたが、ガッシュの体は震えていた。

 

「これなら勉強と暗殺力向上を両立出来る‼2本の刃を同時に磨けて……」

 

「それをしてはならぬ‼」

 

岡島の言葉をガッシュが遮った。その時のガッシュの表情は、戦闘や暗殺の時と同じかそれ以上に真剣な物だった。

 

「おい、どうしたんだよ……」

 

そこにいる彼等は、ガッシュの豹変を見て動揺していた。ここまで彼が激昂する理由が、生徒達には分からなかった。そしてガッシュは両手を握りしめながら、大声を上げた。

 

「フリーランニングは危険な物ではないのか⁉それによって関係ない人達が傷付くことは、あってはならないのだ‼」

 

ガッシュは初めてそれを習った後の、自分と清麿との会話を思い出していた。フリーランニングを行う事で誰かを傷付ける可能性がある為、使う場面は選ばなくてはいけないのだと。

 

「……ガッシュ君の言う通りね、フリーランニングはリスクのある物だから」

 

「そうだな、誰かとぶつかりでもしたらシャレにならない。皆、やっぱりやめよう!」

 

「メグ、磯貝……」

 

片岡と磯貝はガッシュに賛成してくれた。クラス委員長として彼等は、クラスメイトが危険な事をやろうとしているのは見逃せない。そんな2人を見て、ガッシュの顔が和らいだ。しかし、

 

「万が一の事が無いように、下見はバッチリさ。大丈夫だって!」

 

「俺も良さそうだと思うんだけどな!」

 

岡島と前原を始め、それ以外の生徒達はフリーランニングの決行に前向きな様子である。また、寺坂が口を開いた。

 

「つーか、お前等の呪文をもってしてもあのタコは殺れてねーんだろ?それ程にあいつは手強いって事だ。だったら、やれる限りの事はした方が良いんじゃねーのか?」

 

確かに殺せんせーは強敵だ。これまで、あらゆる暗殺計画を尽くかわしてきたのだから。それなら今まで通りではダメだと言うのが彼の主張だ。寺坂の発言に、他の生徒達も頷いた。

 

「そういうこった!俺が先導する、ついて来てくれ‼」

 

「「「「「おう‼」」」」」

 

「ダメだ、行ってはならぬ‼」

 

ガッシュの制止も空しく、岡島を先頭に多くの生徒達がフリーランニングを始めてしまった。暗殺が成功せずに焦る彼等に対しては、ガッシュの思いは届かない。

 

「おい、お前等‼」

 

「皆、待ってよ‼」

 

最後までフリーランニングに反対していた磯貝と片岡も、彼等を止める為に飛び出してしまった。その光景をガッシュは悔しそうな顔で見ていた。彼は皆を止められなかった事に、自責の念を感じている。

 

 そんなガッシュを見て、フリーランニングに参加せずにその場に残っていた生徒達は、自分達が間違っているのではないかと気付き始めた。

 

「……確かに、ガッシュ君の言う通りかもしれない。絶対に安全なんてこと、言い切れないからね」

 

茅野が申し訳なさそうにそう言った。その一言をきっかけに、残った生徒達は彼等を止めるべきだったと判断した。生徒達の心情の変化に気付いたガッシュは再び口を開いた。

 

「皆はこの事を、すぐに殺せんせーと烏間先生に伝えて欲しいのだ‼私は、清麿の所に行ってくる‼」

 

今すぐに殺せんせー達に連絡すれば、彼等を止められるかもしれない。ガッシュはそう考えて茅野達に頼み、自らは清麿の元へ向かった。

 

 

 

 

 その頃、清麿は1人校舎に残って、ガッシュを待ちながら中間テスト勉強をしていた。彼は椚ヶ丘中のテストで二度も浅野に負けている。そのリベンジを果たす為に、暗殺や打倒クリアの特訓の合間に上手く時間を見つけながら、日々予習復習に励んでいるのだ。

 

「さて、少し休むか……ってあれは⁉」

 

「き、清麿ーーー‼」

 

清麿が休憩をしようと窓の方を見た時、ガッシュが尋常じゃないスピードで今にも目が飛び出そうな顔をして、泣きながら自分の方に向かってくるのが見えた。

 

「おいガッシュ‼どうしたんだ⁉」

 

「た、大変なのだーーー‼」

 

清麿はつかさず窓を開けて、ガッシュに事情を聞いた。

 

「……済まぬのだ、清麿。私は皆を止める事が出来なかった。もっと上手く、説明を出来ておれば……」

 

 ガッシュは今回の件が自分のせいだと考えて、申し訳なさそうな表情を見せる。そんな彼の心情を察した清麿は、怒気を帯びた顔付きをした。

 

「ガッシュ、今すぐにあいつ等を止めに行く。時間が惜しいから、お前のマントの力を使って山を降りるぞ」

 

清麿は声を荒げる事は無かったが、内心はらわたが煮えくり返っていた。また校舎には、先生達は誰もおらず、彼等に相談する選択肢も存在しない。

 

 

 

 

 ガッシュのマントに乗って山を降りた後、清麿は【答えを出す者】(アンサートーカー)を使って生徒達を探そうとしたが、ガッシュが校舎とは反対方向を指差していた。

 

「清麿、向こうからE組の皆の匂いがするのだ‼」

 

「ホントか⁉よし分かった、すぐ向かうぞ‼」

 

ここでもガッシュの嗅覚が活かされる。そして彼等はフリーランニングを始めた皆を止めるべく、走り回るのだった。

 

 

 

 

 ガッシュペアが彼等を探し回っている事など知る由もない他の生徒達は、フリーランニングを楽しんでいた。

 

「よっしゃー!一番乗りー‼」

 

フリーランニングで先頭を走る岡島と木村が、小道に降り立とうとする。しかしそこには、大量の荷物を積んだ自転車を走らせる老人がいた。その老人は急に上から降りて来た彼等に驚いてバランスを崩してしまい、そのまま転んでしまった。

 

「ぐ……う……」

 

接触こそ無かったが、転んだ拍子に足を地面にぶつけた老人はとても痛そうな表情を見せる。しかし生徒達は、青ざめた顔をしてそれを見ている事以外出来なかった。

 

「今の音は何だ⁉大変だ、救急車‼」

 

偶々近くにいた花屋の男がそれに気付き、病院への電話と老人の応急処置を済ませてくれた。ガッシュペアの奔走空しく、彼等は間に合わなかったのだ。

 

 

 

 

 救急車が呼ばれた少し後のタイミングで、ガッシュペアは彼等を見つける事が出来たが、あと一歩遅かった。

 

「清麿……」

 

「間に合わなかったか……」

 

2人は彼等を止められなかった事と、自分達が間に合わなかった事に対して無力感に苛まれる。そんな2人はクラスメイト達の方は見向きもせずに、倒れている老人に駆け寄った。

 

「大丈夫かの⁉」

 

ガッシュは老人に声をかけたが、清麿は患部に応急処置が施されている事に気付いた。その時、先程の花屋が彼等の方に来た。しかし花屋の接近に、ガッシュペアは気付く事が全く出来なかった。

 

「恐らく骨が折れている。応急処置はしたし、救急車も呼んでおいたけど……」

 

「(何だ?この男、只者ではないような。いや、今はそれより……)そうだったのか、色々済まない」

 

「礼には及ばないよ。おじいさん、後遺症が残らなければいいけど……じゃあ、僕は仕事に戻るね」

 

花屋の男はそのまま自分の屋台に戻ったが、清麿は胸騒ぎがしていた。今回の件とは別の何か、良くない事が近くで起こりそうな気がしてならない。しかし今は、目の前の事故に向き合う事が最優先である。ガッシュペアは痛みで苦しむ老人に意識を向けた。老人が自分のクラスメイト達によって怪我をさせられた。しかも、自分達の力に酔いしれたが故に。どんな理由があろうとも、無関係な人々に被害を与える事はあってはならない。  

 

 これまでの魔物の戦いにおいてもガッシュペアは、無関係な人々が戦いに巻き込まれるのを何度も見て、それを阻止するよう尽力してきた。優しい王様を目指す為に。今回の出来事は、そんな彼等の逆鱗に触れた。

 

……お前等ッ‼

 

怒りが頂点に達した清麿は鬼の表情となり、クラスメイト達を睨み付けたが、彼等は清麿から目を背ける事しか出来なかった。ガッシュは怒りのあまり体を震わせており、生徒達と顔を合わせようともしなかった。その時、

 

「……そこの2人、頼みがある……」

 

「!どうしたのだ?」

 

老人は痛みをこらえながらも、道路の端にどけられた自転車を指差した。そこにはいくつかのビニール袋が置いてあった。

 

「これらの荷物を、“わかばパーク”という所に運んでほしいんだ……これらは仕事で、必要な物だからな……」

 

この老人は“わかばパーク”と呼ばれる施設の職員である。仕事に必要な物品の買い出しの帰りに、事故が起こってしまった。彼は自分が怪我しているのにもかかわらず、職務を全うしようとしている。そんな老人を見たガッシュペアは罪悪感に苛まれながらも、彼の頼みを聞き入れた。

 

「わかりました……ガッシュ、すぐに持って行こう」

 

「ウヌ」

 

清麿はわかばパークの場所を調べた後、倒れた自転車を起こしてその籠に荷物を積んだ。乗り切らない荷物はガッシュが持ち運び、2人は目的地へ向かった。

 

 

 

 

 老人は救急車に運ばれ、2週間程入院する事になったが、後遺症は残らない様である。烏間先生と殺せんせーも駆け付けてくれたが、殺せんせーは真っ黒の激怒の表情で、生徒達をビンタした。そして彼等が力の使い方を間違え、弱い物の立場に立って考える事を忘れてしまった事を叱責した。その後、律から彼等の居場所を聞いたガッシュペアが病院に到着した。

 

「おや、君達も来ましたか。折角連絡を貰ったのに、間に合わなかったのは済みませんでした。それから、おじいさんの怪我は2週間くらいで完治しますよ」

 

説教を済ませた殺せんせーの顔色は元に戻っていた。そんな先生と落ち込む生徒達を見た2人の顔からは、怒りの表情が消えている。彼等の言いたい事は殺せんせーが言ってくれたのだと、ガッシュペアは察する事が出来た。

 

「まずは被害者を穏便に説得してきます。高嶺君とガッシュ君もここで待ってて下さい」

 

「了解した」

 

「分かったのだ」

 

殺せんせーがそう言うと、超スピードでその場から消え去った。ただ謝るだけでなく、何かの準備に向かった様子だ。

 

「高嶺君、ガッシュ君……」

 

渚がバツの悪そうな顔をして2人に声をかけた。生徒達はようやく、自らの間違いに気付いたのだ。それを見た清麿は少しの沈黙の後、ため息をついた。

 

「……まあ。俺とガッシュの言いたい事は、殺せんせーが言ってくれたみたいだからな。それに、あの人に後遺症が残らないようで良かった」

 

老人の怪我が取り返しのつかない物では無い事を、清麿は心底安心している。

 

「フリーランニングのリスクをクラスで共有しておかなかった時点で、今回の事はE組全体の責任と言える。そして起こった事は取り返しがつかない以上、俺達皆で誠意を見せるしかないだろう」

 

「ウヌ、私も皆を止める事が出来なかったからの」

 

今回の事故は直接関わった生徒達だけの問題ではない。クラス全体で責任を取らなくては、前に進む事は出来ない。殺せんせーが戻ってきた後、ここにいるE組一同は、改めて老人に謝罪に向かうのだった。

 

 

 

 

 生徒達が怪我をさせてしまった老人は松方さんと言う方で、わかばパークの園長先生である。しかし今回の件で2週間現場を離れる事になり、その補填をE組の生徒達が全員で行い、彼等の働きぶりが認められるようになれば今回の件を許してくれる事になった。ちなみにこの期間は、テスト勉強禁止である。

 

「皆―!園長先生がおケガでお仕事出来なくなっちゃった間、この人達が世話をしてくれるって!」

 

「「「「「はーい!」」」」」

 

わかばパークの職員の女性が彼等をそこに通う子供達に紹介すると、子供達は彼等に群がった。特に彼等と背丈が近いガッシュは、すぐに子供達と打ち解ける事が出来ていた。

 

「ガッシュちゃんって言うんだー、よろしくね!」

 

「ウヌ、よろしくなのだ!」

 

ガッシュは早速子供達の遊びに混じった。彼は楽しそうな顔を見せるが、今回はボランティアとして来ている。そんなガッシュに清麿が耳打ちをした。

 

(ガッシュ。子供達と遊ぶのも良いが、俺達の目的を忘れるなよ。お前は子供達と心を通わせつつ、もし何かあったらすぐに俺達やここの職員の人に連絡をするんだ)

 

「分かっておるぞ、清麿!私達は園長殿の代わりに、子供達を喜ばせなくてはならぬ!」

 

清麿が忠告するまでもなく、ガッシュは自分のすべき事が分かっている。それを察した清麿はガッシュから離れた。その時、先程の女性職員が再び口を開いた。

 

「それから、今日はもう1人の子が来てくれます。その子とも皆、仲良くしてくれるかなー?」

 

「「「「「はーい!」」」」」

 

子供達は元気いっぱいに返事をした。今日から3日間、職場体験で女子高生が来るそうだ。松方さんがいない今、E組に混じっての仕事の手伝いが彼女の役割となる。これを聞いたE組一同の罪悪感は増した。自分達のせいで、その人の職場体験にも影響を及ぼしてしまったのだから。そして、

 

「おはようございまーす!」

 

1人の制服姿の女子高生が挨拶と共に入ってきた。そして彼女の顔を見たガッシュペアは驚きを隠せなかった。彼等はその女子高生と面識があったのだ。

 

「あ、あなたは……」

 

「お主……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しおりちゃんではないか‼」

 

「あれ、ガッシュ君と清麿君⁉」

 

(((((またこの2人の知り合い⁉)))))

 

何と職場体験に来た女子高生は、ガッシュが優しい王様を目指すきっかけとなった魔物コルルのパートナー、しおりだった。

 




 読んでいただき、ありがとうございました。コルル関連の話は何処かで描写しておきたかったので、しおりがわかばパークに職場体験の為に来て、E組と合流する流れにしました。
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