中間テストの結果が帰ってきた日の放課後、殺せんせーはまだ教室に残っている。そして彼の後ろにはガッシュペアが立ち塞がっている。
「おや、もう下校時間は過ぎているんですがねぇ、高嶺君、ガッシュ君。赤い本を持ち出しているということは、ついに殺す気で来ましたかねぇ」
「殺せんせー、あんたに聞きたいことがある」
ガッシュペアは真剣な眼差しで殺せんせーを見つめる。質問に答えなければ、力ずくで聞き出さんとする目つきだ。
「私には、どうしても殺せんせーが地球を爆発させる悪いものには、見えぬのだ」
「なあ、あんたは何でここで先生をやってるんだ?そもそも、何者なんだ?」
「それに答えることは出来ませんねぇ。どうしても知りたければ、私を殺してから調べてください。ヌルフフフ」
ガッシュペアには、殺せんせーがただ地球を滅亡させるだけの悪者には思えない。ただの悪者なら、ここまでE組に尽くす必要がないのだ。しかし殺せんせーはそうではない。いつもE組を一番に考えている。それがガッシュペアには理解出来ない。
「それなら、地球の滅亡を取りやめることは出来ないのか?地球の滅亡は、本当にあんたの意志なのか?」
事情を聞き出せないのなら、滅亡させないよう説得するのはどうか。そもそも殺せんせーが地球を滅ぼす悪党であれば、こんなところで教師をする道理が無い。タイムリミットまで逃げ続ければ良いのだから。しかし彼は逃げ出さない。加えて、教師としての仕事はとても熱心だ。何かどうにもならない事情がある。清麿はそう確信していた。
「地球の滅亡は避けられません。私自身にはどうしようもないことですので」
殺せんせーは断言する。今までと何ら変わりない表情で。
「本当にそうなのか?殺せんせー……」
ガッシュは悲しそうに殺せんせーを見つめる。しかし殺せんせーは否定しない。殺せんせーは地球の滅亡をやめようとしない。そして事情も話さない。しかし、ガッシュペアは地球を滅亡させる訳にはいかない。大切な人達を守るためにも。そうなれば、もう戦う以外の道は残されていない。
「なるほど。真実を知るには、そして、地球を救うにはあんたを殺すしかないんだな。行くぞガッシュ、SET、ザケル‼」
ガッシュペアの戦いの火ぶたが落とされた。清麿は殺せんせーに指を差して、術を唱える。ガッシュの口からは電撃が放たれたが、殺せんせーは難なくかわした。
「そんな真正面からの呪文、かわすのは容易ですねぇ。しかも、校舎を壊したくないんでしょうか?術の威力もセーブしているのではないですか?」
殺せんせーは得意げに清麿を煽り、教室中を超スピードで動き回る。清麿はそんな殺せんせーを睨み付ける?
「ウヌゥ、これでは攻撃が当たらんぞ……」
ガッシュは悔しそうに殺せんせーを見る。しかし、
「にゅやあっ!」
殺せんせーの触手が一本はじけ飛ぶ。殺せんせーの下には、対先生BB弾が転がっていた。殺せんせーがザケルに気を取られているうちに、清麿が仕掛けていたのだ。
「隙が出来たな、殺せんせー!ザケルは第一の刃、BB弾は次の刃を充てるための手段。そしてこれが第二の刃だ!くらえ、マーズ・ジケルドン‼」
ガッシュの口から磁力の球体が出現し、殺せんせーを中に引きずり込んだ。
「これは、にゅやぁッ‼」
殺せんせーが外に出ようとしたとき、電流が殺せんせーを攻撃する。このままでは先生も身動きが取れない。
「これで動きを封じた!」
清麿はBB弾の入った銃を取り出し、殺せんせーに銃口を向ける。しかし引き金を引こうとした瞬間、殺せんせーの周りに小さな爆発が起きた。殺せんせーは何と、マーズ・ジケルドンから逃げ出していた。
(今の攻撃は厄介ですねぇ。エネルギー砲を使う展開になるとは!)
殺せんせーは、そのまま空いた窓から逃げ出した。エネルギー砲を使い、マーズ・ジケルドンを打ち破っていたのだ。清麿は少し動揺したが、すぐに頭を切り替える。
「ザケルガ!」
空いた窓を指差して呪文をを唱える。一直線の電撃は、窓の周りを傷つけることなく殺せんせー目掛けて撃たれた。しかし殺せんせーは、ザケルガの直撃を避けていた。少し触手にかすった程度だ。それでも殺せんせーには確実にダメージが蓄積されていく。
「ガッシュ、俺達も外に出るぞ‼」
「ウヌ!」
ガッシュペアもまた、窓から殺せんせーを追うために外に出た。殺せんせーもダメージを受けているのか、スピードが落ちている。その隙を、清麿は見逃さない。
「ガッシュ、デカいのをぶちこむ!テオザケル‼」
ガッシュの口からは、先ほどのザケルとは比べ物にならない程の高威力かつ広範囲の電撃が放たれた。
(この電撃はマズイ‼)
殺せんせーは冷や汗をかいた。直ぐに回避の体制に入ったが、完全にはかわし切ることは叶わない。どうにか電撃を逃れた殺せんせーは、森の方へ逃げて行く。これが彼等の罠とも知らずに。
「ふむぅ、あの球体とさっきの電撃はヤバかったですねぇ。ダメージも小さくない」
殺せんせーは森の中で休息をとる。電撃のダメージのみならず、エネルギー砲を使用したことによる消耗もある。その小さくないダメージは注意力を鈍らせる。殺せんせーを見るいくつもの視線に気付かなくなる程に。そして2発のBB弾が放たれる。撃ったのはクラス髄一のスナイパーコンビ、千葉龍之介と速水凛香だった。
「「やったか」」
2人は顔を出したが、殺せんせーはこれをギリギリでかわしていた。
「にゅやッ!君達までいるとは!」
「俺達だけじゃないぞ!」
千葉がそう言うと他のE組の生徒達も現れ、殺せんせーを取り囲んで一斉に射撃を開始した。殺せんせーは鼻が利くので、平常時であれば生徒達を見つけるのは容易い。しかし蓄積されたダメージにより注意力も散漫になり、生徒達の潜伏に気付くのが遅れた。それでも殺せんせーは、テンパりながらもギリギリで弾幕を避けていた。そして先生の傷が癒えてきたのか、動きが更に早くなっていく。
「皆、どうだ⁉」
ガッシュペアが追い付く。しかしこの大量の弾幕ですら、殺せんせーはかわして見せる。
「(バカな、まだダメージが足りなかったというのか⁉ならば)ガンレイズ・ザケル!」
ガッシュの体から電撃の弾が放出されたが、殺せんせーには当たらない。
「ヌルフフフ。傷も癒えてきました。これでBB弾はちゃんとかわせますよ」
殺せんせーの顔に余裕が出来始める。ダメージは完全には回復していないだろうが、BB弾をかわすには十分だ。清麿は殺せんせーの力量を見誤っていた。
マーズ・ジケルドン、BB弾、ザケルガ、そしてテオザケル。どれも殺せんせーを倒すための強力な攻撃だ。それ一つ一つがかわされても、ダメージを蓄積させることは出来る。そして森への誘導。満身創痍である殺せんせーを他のE組の生徒達がBB弾の一斉射撃で仕留める。これこそが清麿の狙いだった。
しかし電撃でのダメージは回復してきている。殺せんせー相手にはまだまだダメージが足りなかったのだ。追撃にガンレイズ・ザケルを使用したが、これもかわされた。
(くッ、ここまでなのか⁉
清麿はまだ、
「あれぇ、諦めちゃうの?高嶺君」
カルマが清麿を煽る。そして、
「清麿、諦めるでない!皆まだ頑張っておるぞ‼」
諦めの表情を浮かべていた清麿に対しての、ガッシュの叱責。そしてガッシュの声に呼応するかの如く、赤い本の光が増していた。他の生徒達も、ガッシュの声を聞いて笑みを浮かべる。
「ガッシュ君て、根性あるよね~。高嶺君も見習わないと」
「……ああ、その通りだな。すまないガッシュ、赤羽。まだ諦めちゃいけなかった!」
カルマの煽りとガッシュの叱責により、清麿は再び自信を取り戻す。そして新たな一手を考える。
「私たちも負けてられない!皆、頑張ろう!」
清麿達のやり取りを見てクラス委員長の片岡メグが、リーダーシップを発揮して他の生徒達に声をかける。その一方で、清麿は赤い本の輝きが増していることにようやく気付いた。
「(これは、新しい呪文⁉よし、これなら……)ガッシュ、殺せんせーの後ろに回り込むんだ‼」
「分かったのだ!」
ガッシュが後ろに回り込むと同時に清麿が呪文を唱える。
「ガッシュ、新しい呪文だ!第12の術、オルダ・ラシルド‼」
ガッシュの前に電撃の盾が出現し、それに触れたBB弾に電撃をまとわせる。
「うおおおおおおおぉッ‼」
清麿が叫ぶと、電撃をまとったBB弾が一斉に殺せんせーに向かった。この術、オルダ・ラシルド。たった今出現した呪文ではあるが、清麿は呪文にラシルドの名前があったので、これをラシルド系列の呪文と考えた。
そしてオルダの呪文は、出した術を自分で操作する呪文につけられる。清麿はパティが使用したオルダ・アクロンと言う鞭状の水を操る術を覚えていたため、新たな術の効果を予測出来た。そして予測は当たっていた。
この術の見た目はラシルドと変わらないが、跳ね返した攻撃を術者が操ることが出来る。普通のラシルドでは、跳ね返した攻撃はコントロール出来ないため、流れ弾が味方に当たる可能性がある。その欠点を克服したのがこの術だった。
「……ふむ、脱皮まで使わされることになるとは。月に1度しか使えないというのに」
殺せんせーが脱皮した抜け殻を使ってBB弾を受け止めていた。この術の欠点は、術者が攻撃を操作しなければならないことそのものである。操作するひと手間により、通常のラシルドが跳ね返す攻撃に比べて、攻撃が1テンポ遅れてしまうのだ。この遅れは、殺せんせー相手には致命的だ。その遅れにより、殺せんせーの脱皮を許し、抜け殻でBB弾を受け止められてしまった。それだけなら、追撃が可能だったかもしれない。
「「「「「くっ、弾が‼」」」」」
しかしながら、E組の生徒達のBB弾が尽きた。また脱皮後は殺せんせーのスピードが落ちるとはいえ、正面から術をかけても簡単に避けられてしまうだろう。ラウザルクでガッシュの肉体強化を行っても、警戒心全開の今の殺せんせーに攻撃が当たる可能性は高くない。通常の殴り合いと同じという訳にはいかない。いくら肉体強化をしても、ナイフを超生物にあてるのは現状至難の技だ。ガッシュ達がナイフ術を習ってから、まだまだ日にちは浅すぎた。
「脱皮にこんな使い方まであるとは。ここまでか……」
「ウヌ、次は成功させて見せようぞ……」
ガッシュペアがそうつぶやき、今日の暗殺は終了した。清麿は脱皮の存在を知っていた。渚の自爆の時に耳にはしていた。しかし、実際に脱皮を使用する場面を目撃していない。故に脱皮をこのタイミングで行い、BB弾を受け止めることを予測出来なかった。そのことが今回の失敗の原因となった。
「すまない、皆にも手伝ってもらったというのに」
「いや、お前らがいなければここまで追い詰められなかったって……」
「やっぱ呪文の力ってスゲーわ」
清麿の謝罪に対して、坊主頭の岡島大河と長身の菅谷創介はフォローをいれてくれた。また彼等は呪文の力に素直に感心していた。
「今回もダメだったかー」
「いいとこまでいったと思ったんだけどね~」
「中々上手くいかないものだねぇ」
中村と小柄な短髪の女生徒の岡野ひなた、ふくよかな女生徒の原寿美鈴が3人して悔しがる。殺せんせーの手の内をいくつか引っ張り出す事も出来、途中までは割と順調に暗殺が進んでいた。
「いやあ、中々危なかったですよ。脱皮まで使わされましたからねぇ。高嶺君の考えた作戦ですか?」
「ああ、中間テスト終わってすぐを狙ったんだ。まさか先生もいきなり暗殺に来るとは思ってなさそうだったからな。そしてガッシュの電撃である程度ダメージを与えてから皆がいるところに誘導する手はずだったんだが、ダメージが足りなかった。しかも、折角出てきた新しい呪文まで対策されちまったし。まさか脱皮にこんな使い方があるとは」
電撃をまとったBB弾が抜け殻で全て防がれるなどと、清麿は予測出来なかった。殺せんせーは規格外もいいところである。
「では先生は帰ります。皆さん、BB弾の後始末はお願いしますね」
殺せんせーはそのまま超スピードで帰っていった。先生の速度を見た生徒達は、暗殺までの道のりを遠く感じた。
(今のガッシュがラウザルクを使っても、あのスピードに敵うかどうか。電撃の威力も足りてなかったみたいだし。まだまだ、俺達には特訓が必要だな……)
「高嶺君、ガッシュ君てまだ強い呪文持ってるでしょ。使わなくてよかったの?」
清麿が特訓の重要性を自覚していると、カルマが意地の悪そうに話しかけてきた。彼は度々何かを見透かす様な態度を取る事がある。
「ああ、強い呪文はある。ただし、これまでの呪文よりも速度は劣るうえ、周りが被害を受ける可能性もある。そのために中途半端に加減するくらいなら、速度の速い術で攻めた方がいいと思ってるから使わなかった」
バオウ・ザケルガは強力な術だ。しかし、強力すぎるがゆえに、周りへ被害が及ぶリスクも高い。それなら、ガッシュペアだけで殺せんせーの暗殺を試みてはどうか。しかし殺せんせーの速度では、ガッシュペアだけでバオウ・ザケルガを当てるのは容易ではない。だから小回りの利く他の呪文を使いながらクラスの皆で協力する方が、暗殺の成功率が高まる。それが清麿の考えだ。
「あくまで高嶺君は、皆で協力した方がいいと思ってるんだね」
「その通りだ。俺とガッシュだけではあの先生は殺せない」
そんなカルマと清麿のやり取りを聞いて、他の生徒達も会話に加わる。ガッシュペアの実力を見て、多くの生徒達は思うところがあるようだ。
「でもよ、そんなすげえ力を持てば何でも自分とガッシュだけ出来そうだって、俺なら思っちまうかもしんねえな。高嶺ってそんなにすげえのに、かなり協調性あるよな」
「あー、それ分かる。高嶺君て何でも器用にこなす割に、結構周りを頼る節があるよね」
クラスで最も足の速い木村正義と片岡がそんな会話をする。
「赤羽にも言ったが、俺とガッシュだけで暗殺を成功させられるとは思ってない。そうでなくとも、力に溺れたら終わりだ。それではガッシュを王にしてやれない……何より、今までの戦いで、仲間の大切さは十分すぎるほど実感してる」
清麿は少し照れ臭そうにする。これまでの戦いで、ガッシュペアは何度も仲間に助けられてきた。そんな彼等にとって仲間の存在は極めて重要だ。
「高嶺君。そのセリフ、漫画の主人公みたいだよ!」
不破が目を輝かせる。そして不破の発言に便乗するかのように、なぜか清麿がいじられる流れになってしまった。
「よっ、主役はカッコいいぜ!」
「さすが高嶺、略してさす高!」
「やかましい‼︎」
他の生徒達は清麿を持ち上げる発言をしていたが、もちろん清麿をいじるためだ。清麿は顔を赤くするが、あまりにいじられすぎて彼の堪忍袋の緒が切れてしまった。
その一方で、清麿とは別の場所でガッシュは渚と茅野と話していた。
「ガッシュ君、すごい電撃だったよー」
「そうだね~。ガッシュ君てこんなに可愛いのに、すごく強いんだね!」
「しかし、殺せんせーには負けてしまったのだ。私達はもっと強くならねばならん……」
ガッシュは今回の失敗を気にしている。そして彼は今まで以上に力を付けるべきだと誓う。彼等の成すべき事の為にも。
「ガッシュの言う通りね。もっと訓練しないと……」
「そうだな。あそこで弾を避けられてはいけなかった」
ガッシュの発言を聞いて速水と千葉は決意を固める。ガッシュの発言に彼等も影響を受けている。彼等が気合を入れるその様は仕事人そのものだ。
「相変わらずだね、2人は」
「うん、そうだね」
渚と茅野は苦笑いをしながら千葉と速水に視線を向ける。そして皆で喋りながらも、BB弾の片付けは終了した。
片付けたBB弾はガッシュペアが校舎の倉庫にしまうことになり、この場は解散となった。
「清麿、悔しいのぉ」
「ああ、俺達はもっと強くならなくちゃいかん。殺せんせーの暗殺、そしてクリアに勝つために!」
ガッシュペアは悔しさを感じながら、校舎を出た。今回の暗殺を経て、彼等は改めて自分達の実力不足を実感する。このままでは守りたいものを守る事は叶わない。
「清麿、帰ったら直ぐに特訓をしようぞ。デュフォーも待っておる」
「もちろんだ。それに、デュフォーに新しい呪文が出たことも伝えねばならん」
2人は決意を新たに、特訓のために家を目指した。魔界と地球の滅亡を防ぐ為にも。
読んでいただき、ありがとうございました。オリジナル呪文を出したのですが、殺せんせーには対策されてしまいました。戦闘描写って、難しいですね……