E組一同は職員室にて、フリーランニングの件で迷惑をかけてしまった事を烏間先生に謝罪をしたが、先生は気にしていない様子だ。
「今回の件で、何か学べたか?」
「はい、自分達が付けた力は誰かの為に使える事が改めて分かりました」
烏間先生の質問に渚が答える。そして彼に続いて、力の使い方を間違えないよう気を付けると他の生徒達も述べる。今回の一件は、浮かれ気味の彼等を戒めるのには十分すぎる出来事だ。
「なるほどな、そんな君達にプレゼントだ!」
しっかりと反省している生徒達を見て、烏間先生は安心したと同時に嬉しそうな顔をする。その後、部下にいくつかの段ボールを持って来させた。そこには、衣類のような物が入っている。
「それより強い体操着は地球上に存在しない、これからの体育はそれを着て行う」
この体操着は軍と企業が共同開発した強化繊維で出来ており、衝撃等にも耐性があり、防御力はかなりの物である。それにも拘らず通常のジャージよりも軽く、靴も良く跳ねられるように作られている。さらに特殊な揮発物質をかければ服の色を一時的に変える事が可能だ。
「おお、凄いのだ‼」
生徒達がそれを受け取る中、ガッシュは通常の体操着とは一線を画す“超体操着”を見て目を輝かせる。しかし、
「済まない、ガッシュ君の分は無いんだ……」
烏間先生の絞り出したような声を聞いて、ガッシュは顔を真っ青にする。超体操着1つ作るのにも莫大な費用が掛かる為、正式に生徒として登録されていないガッシュの分は作られなかったのだ。
「ヌオオオオオォ‼」
ガッシュは大声で泣き出す。多くの生徒がガッシュに憐みの目を向ける中、清麿がため息をついた後に彼をたしなめる。
「ガッシュ、烏間先生を困らせるんじゃない……これが無くともお前には、その特殊なマントがあるじゃないか」
「う、ウヌゥ……」
確かにガッシュの変幻自在のマントがあれば、超体操着が無くてもハンデにはならないだろう。しかしガッシュは、自分だけが除け者にされたように感じてしまい、何処か納得が行ってない様子だ。
「ガッシュ君、申し訳無いとは思っているんだ……」
ガッシュの悲壮感溢れた表情を見て、烏間先生は罪悪感に苛まれる。この事は、彼にとっても心苦しいのだ。しかし先生の謝罪を聞いてもなお、ガッシュの目から涙が止まる事は無い。そんな彼の頭を茅野が困ったような顔をして撫でる。
「しょうがないなぁ、よしよし……」
「ウヌゥ……」
その光景を、教室にいる者達は苦笑いをしながら見ている。そんな中、矢田が口を開いた。
「高嶺君。このまま行くと本当に、ガッシュ君をカエデちゃんに取られちゃいそうだね……」
彼女は冗談交じりにそう言うが、それを中村が聞き逃さなかった。彼女は口元をニヤケさせながら、清麿の方を見る。
「まあ、高嶺がガッシュに冷たくするからしゃーない」
中村の発言を聞いた生徒達の多くが頷く。そして職員室内には、何故か清麿が悪い雰囲気が出来始め、生徒達の目線が彼に突き刺さるのだった。
「おいお前等、そんな目で見るんじゃない……」
清麿は頭を抱える。強く反発したいところだが、烏間先生のいる手前、大声を出す訳にもいかない。それを見た茅野は、すこし申し訳なさそうにしながらガッシュの頭を撫で続けた。
生徒達に超体操着が配布された後、それを使用した暗殺が早速決行され、バーベキューを楽しむ殺せんせーが生徒達の襲撃を受けるが、暗殺には至らなかった。しかし彼等の狙いは、暗殺を成功させる以外のところにあった。
「約束するよ、殺せんせー。この“力”は、誰かを守る以外では使わないって」
殺せんせーに新しい力の使い方を見せた上での約束。それを聞いた殺せんせーは、満足気な表情を浮かべた。
「満点回答です。明日からは通常授業に戻りましょう」
先生の言葉を聞いた生徒達は、元気一杯に返事をしてその場を去った。そんな彼等を見て、殺せんせーはE組の変化を感じていた。
(私が来た当初とは違う、今のここは暖かい殺意に溢れている)
そして先生は、自分が教師になるきっかけを作った1人の女性の顔を思い浮かべていた。
次の日にガッシュペアが登校すると、下駄箱にて見たことのないネックレスを付けたビッチ先生と鉢合わせた。
「アンタ達、おはよう」
「ビッチ先生、おはようなのだ‼」
「おはよう……先生、そのネックレスどうしたんだ?」
「聞きたい?それはね……」
ビッチ先生が新たなアクセサリーを付けている。それは7mm程の大きさの翡翠の珠が紐に通され、さらにオールノット加工で珠と珠の間に結び目が作られている。清麿は何事かと考えていたが、彼女はその理由を話してくれた。
「……リィエンが先生に誕生日プレゼントを贈ってくれたのか」
「良かったの、ビッチ先生!」
「そうなのよ。あの子、やってくれるわね!」
生徒達がわかばパークのボランティアに励んでいる間、ビッチ先生の誕生日が過ぎてしまった。身近な人間が自分の誕生日を祝ってくれない中、リィエンが中国からプレゼントを贈ってくれたのだ。プレゼントはビッチ先生からすればそれ程高級ではない代物だったが、弟子からのプレゼントは嬉しい物である。
「そんなに高い物では無いのだけれどね。さて……」
ビッチ先生は得意げな表情をして、何かを求める様に手を差し出した。
「ウヌ?」
「……その手は何だ?」
「アンタ達は何か無いの?」
ビッチ先生が差し出す手を、清麿は何とも言えない表情で見ていた。確かに先生の誕生日の事が頭から抜けていたは良くないかもしれないが、生徒にプレゼントを求めるとは。清麿がそんな事を考えていると、ビッチ先生が口元をニヤケさせながら手を引いた。
「冗談よ、ガキ共にそこまで求めてないから。悪かったわね、長話に付き合わせて」
「あ、ああ……」
ビッチ先生はそのまま職員室に向かおうとした。しかし先生が小さなため息を付いていた事を、ガッシュペアは見逃さなかった。2人も教室に向かおうとした時、ビッチ先生が振り返った。
「そうだ。アンタ達、今日の放課後空いているかしら?」
「どうしたのだ?」
ビッチ先生からの突然の誘いだ。用事はそれ程遅くならず、かつ清麿宅周辺まで送ってくれるとの事で、ガッシュペアは彼女の用事に付き合う事になった。ちなみに先生の勤務時間は放課後も続くが、時間給を使ってその用事を済ませるそうだ。
ビッチ先生の言う用事とは、リィエンへのお返しのプレゼントを用意する事である。そこで彼女は、リィエンとの交流が深いガッシュペアもプレゼント選びに同行させたかったのだ。そして今彼等は、先生の車で椚ヶ丘にあるショッピングモールで向かっている。
「ビッチ先生とのお出かけは、南の島以来なのだ!」
「ガッシュ、遊びに行く訳じゃないからね?」
浮かれているガッシュを見て、ビッチ先生が釘をさす。プレゼントを置くてくれたリィエンに対して、誠意を見せる必要があるのだから。
「ビッチ先生、放課後とは言え抜け出して良かったのか?」
「だから、時間給って言ってるでしょうが!すぐに終わらせなきゃいけない仕事はもう済ませてあるし、終わったらちゃんと学校にも戻るわよ!」
(今日烏間先生がため息をついていたのは、これとは別件だと思いたい……)
突然の時間給取得のせいで烏間先生が困っている可能性を危惧する清麿だったが、ビッチ先生は一切気にしていない様子である。
そして一行はショッピングモールに到着し、ギフトのコーナーを見ていた。周りのプレゼントを見渡した後、ビッチ先生が口を開いた。
「ねぇアンタ達、リィエンの好きな物とかって聞いてない?」
「そうだな……」
ビッチ先生からガッシュペアへの質問。リィエンが喜びそうな代物について、清麿は真剣な表情で考える。しかし、
「ブリを使った料理が売っておるぞ!これはどうかの?」
「それはお前が好きな物だろ‼」
「アンタ等ねぇ……」
ガッシュはブリの刺身や缶詰の詰め合わせを見つけて、よだれを垂らしながら目を輝かせる。そんな光景を見たビッチ先生は頭を抱えながら、連れてくる相手を間違えたのではないかと考える。
「食べ物と言えば、リィエンは杏仁豆腐が好きだと言ってたな。いざとなれば、そこにある杏仁豆腐の詰め合わせを送る手もあるにはあるが……」
「そう、候補としては考えておこうかしら」
清麿はビッチ先生にリィエンの好物を教えたが、先生はあまり納得いっていない。食べ物以外の贈り物を本筋で考えている。そして一行は、しばらくギフトのコーナーを周っていた。
「どうしたものかしら。あの子カンフーやってるから、アクセサリーとかは危ない気がするのよね」
ビッチ先生達はリィエンへの贈り物を決めかねている。
「贈り物とは難しいのだ」
「そうだな、サンビームさんの時みたいにならないようにしないと……」
ガッシュペアはかつて、サンビームの引っ越し祝いの為の贈り物を買うために出かけたが、同行したティオペア及び水野と共に贈り物を探した結果、水野が勝手に開けてしまった噓発見器を渡す事になってしまった。清麿がその時の事を思い出していたが、ある事を考えつく。
「なあ、ギフトコーナー以外も見てみないか?」
「奇遇ね。私も同じ事を考えていたのよ」
贈り物だからと言って、ギフトコーナーだけに固執する必要は無い。そして彼等は今いるエリアを出た。
「何処に行こうかの?」
「俺に考えがあるんだが……」
「あら、言ってみなさいよ」
清麿は贈り物の候補を1つ思いつく。彼の意見を聞いた後、一行は靴のエリアに来た。
「カンフーシューズね。考えたじゃない、高嶺」
「普通の靴とは、何か違うのかの?」
「そうだな……」
清麿はカンフーシューズの説明をした。これは中国で愛用されている布製の靴で軽く、その名の通りカンフーを使用する際によく使用される。
「おおっ、リィエンにピッタリではないか‼」
これにはガッシュも感心する。この靴は日々カンフーを嗜むリィエンには、必須のアイテムでもある。
「レディースのコーナーはあっちね。デザインは私が選ぶわ」
「分かったよ、ビッチ先生」
一行はカンフーシューズを贈り物に決定した。ビッチ先生が選んだ物は黒に近い赤色の靴で、白い花の模様が施されていた。
ビッチ先生がそれを買った後、一行は清麿宅まで車で向かっていた。
「無事に贈り物が決まって良かったのだ‼」
「そうだな、後はリィエンが喜んでくれれば良いんだがな」
「何言ってるの、この私が選んだのよ?あの子が喜ばない訳が無いじゃない!」
ビッチ先生が得意げにそう言う。確かに師匠からの贈り物であれば、リィエンは喜んでくれるだろう。一行はしばらくカンフーシューズの話をしていたが、突然ビッチ先生が遠い目をした。
「……ねぇ。アンタ達は魔物の戦いで、実際に誰かの死を経験した事があるかしら?」
ビッチ先生の突然の質問で、ガッシュペアの表情は真剣な物になる。
「俺は一度、呪文の集中砲火を受けて心臓が止まった事がある。その時に得た力が
「そうだの、私も清麿が死にかけた戦いをきっかけに力が強まったのだ。それから私達が今倒すべき敵は、魔物を皆消そうとしておるのだ」
人及び魔物の死を、彼等はまだ経験していない。しかし一歩間違えれば誰かの命が奪われていた可能性は十分にある。さらにクリアノートを倒さなくては、魔物達は全員消される、つまりは皆殺しになってしまう。魔界の王を決める戦いとは、それ程に過酷な物である。
「そう……アンタ達はそんな危険な戦いの中でも、誰も殺さずに済んでいるのね」
「相手の本を燃やせば魔物は魔界に帰るからな……ところで、何故そんな話を俺達に?」
「ビッチ先生、どうしたと言うのだ?何だか元気が無いように見えるが……」
話を聞いたビッチ先生の口角は少し上がったが、目は笑っていない。その目はまるで、彼等を羨むようである。
「私はこれまで殺し屋として、数多くの命を奪ってきた。そんな私が今更E組のガキ共とやっていけるのかが、分からなくなってきているのよ」
ビッチ先生には迷いが生じている。自分と殺しを経験していない彼等とでは、住む世界が異なる故、相容れる事は出来ないのではないかと。
「非現実的な戦いを乗り越えて来たアンタ達ですら、まだ誰も殺してはいない。私にも、殺し以外の選択肢があったのかしらね……」
ビッチ先生の初めての殺しは、紛争中の故郷に押し掛けた民兵を自分の父親の銃で撃ち殺した時である。その後ロヴロと出会い、人殺しの血の記憶を仕事として飼い慣らす為に、殺し屋としての道を歩む事になった。そんな彼女は、厳しい戦いにおいても“殺し”という選択肢を取っていないガッシュペアに対して、思うところがある様だ。
「本を燃やせば勝てる魔物の戦いと、人間同士の殺し合いでは事情が異なるんじゃないのか?俺が仮にビッチ先生と同じ境遇だとして、誰も殺さない選択肢を取れたかは分からない」
「どうかしらね……本を燃やせばって、そんな簡単な話じゃないでしょ。それに相手から本を奪う際にも本の持ち主を殺す事だって考えられるのに、アンタ達はそれをしなかった。自分達の命の危険が何度もあったのにも拘わらず」
相手のパートナーの人間の命を奪う。それはこの戦いにおいて確実な勝ち筋の1つではある、実際に清麿も殺されかけたのだから。それでもガッシュペア及び仲間達は、その選択肢を取らなかった。殺す事が当たり前の環境で育ったビッチ先生にとっては、その事でさえも眩しい事だったのだ。その話を聞いて、ガッシュが悲し気な表情で口を開いた。
「私達には多くの仲間がいたからこそ、危険な戦いでも誰も死なせずに乗り越える事が出来たのだ……しかしビッチ先生は、ずっと1人で戦ってきたのだな……」
それを聞いたビッチ先生は目を見開いた。彼女はE組に来るまで孤独に殺しを行ってきたのだ。師匠のロヴロがいるが、彼が仕事を手伝う訳では無い。そして彼女の目からは涙が流れた。
「先生、大丈夫か?」
「……ごめんなさい、少し車を停めるわね」
清麿はつかさずビッチ先生に声をかけたが、先生が泣き止む事は無かった。そして彼女は丁度車通りの少ない道路で、車を端に寄せて停車した。その後、ビッチ先生は自分の目を手で隠す素振りを見せる。
「ビッチ先生、どうしたのだ?」
そんな先生に対してガッシュペアは心配の眼差しを向けたが、少ししてビッチ先生の口角が上がった。そして彼女は堂々と、目を覆い隠していた手をどけた。
「ハン‼ガキ共がナマ言ってんじゃないわよ、1人が何だって言うのよ!さあ、車出すからね‼」
そう言って彼女は車を出したが、運転がかなり荒い。強がってはいるが、先生は完全には吹っ切れてはいない。ガッシュペアは内心それが理解出来たが、それを口には出さなかった。
「暗い話して悪かったわね、これも全部カラスマのせいよ‼」
「「何で⁉」」
突然烏間先生の名前が出てきて、ガッシュペアは驚きを隠せず、目が飛び出そうになった。
「アイツ、同僚の誕生日くらい祝いなさいってのよ‼」
その言葉を聞いて2人は察した、ビッチ先生は烏間先生に自分を見て欲しかったのだと。清麿はビッチ先生の烏間先生に対する思いは分かっていたが、先生がそこまで思い詰めている事までは分かっていなかった。ちなみにガッシュは、彼女の思いに今気付いた。ビッチ先生が愚痴を述べている間にも、車は清麿宅の前に着いた。
「じゃあねガキ共、今日付き合ってくれた分は後で埋め合わせするわ」
ガッシュペアが別れの挨拶を述べた後、ビッチ先生はそう言い残して先生は車を出した。2人は少しの間あっけに取られていたが、ガッシュが口を開いた。
「清麿、ビッチ先生は1人ぼっちだったのだな。今のE組に馴染めれば良いのだがの……」
「ああ、だが先生の問題はそう簡単には解決しない。少なくとも、俺達だけではどうにもならん」
そんな話をしながら、ガッシュペアは自分の家に入った。そしてその日、まさか学校であのような出来事が起こっているとは、2人共思いも寄らなかった。
読んでいただき、ありがとうございました。ビッチ先生とリィエンのプレゼントを何にするかは、結構悩みました。