クリアがシンの術の使用を決意した時、清麿は
「奴に術を出させてはいかん‼」
清麿は術の発動自体を止めようとする。この術を出させた瞬間に取り返しがつかなくなると、彼は答えを出したのだ。その言葉を聞いて真っ先に動き出したのは殺せんせーだ。
「ならば、あの赤子を止めれば……」
「リア・ウルク‼」
殺せんせーが超スピードでヴィノー目掛けて触手を伸ばして呪文を止めようとした瞬間、彼女はシンの術では無くスピード強化の術を唱えた。そして速度を増したクリアが殺せんせーに迫り、先生の触手を握りしめて、ヴィノーへの接近を防いだ。
「良い判断だ、ヴィノー」
「しまった‼」
クリアはそのまま殺せんせーを清麿達の方に投げ飛ばす。もしヴィノーがシンの術を唱えようとしていた場合は、殺せんせーの接近を許して術を出させない展開に持ち込まれていた。彼女はそれを読んだ上であえてスピード強化の術を唱え、クリアに殺せんせーを妨害させたのだ。
「シン・クリア・セウノウス‼」
隙を付いてヴィノーが呪文を唱える。するとクリアは下半身が球体で、巨大な翼を持つ消滅の力を纏った聖霊のような姿をした術を発動させた。それは非常に神々しく、見る者を圧倒するには十分な威厳を持つ。強大な力を持つクリアの最大術を見て清麿の顔色は悪くなる一方だ。
「おい清麿‼何に気付いた⁉」
「あいつを倒してはいけない……取り返しのつかない事になるぞ……」
いつになく弱気な表情を見せる清麿に対してブラゴが問い詰めるが、彼は驚くべき事を口にする。この術を破ってはならないのだと。
「高嶺君‼どういう事ですか⁉」
「バカな事を言ってんじゃねぇ‼倒さねーと、コイツに俺達が消されるだけだろーが‼」
殺せんせーもブラゴも清麿の言う事には賛同出来ない。このままではあの術を自分達がまともに喰らうだけなのだから。そして殺せんせーは渾身のエネルギー砲を撃つために体内に力を溜め始め、ブラゴは術を出して貰う為にシェリーに視線を送る。
「シン・バベルガ・グラビドン‼」
迫りくるクリアの術に対して、ブラゴはシン級の重力で対抗する。しかしこの重力の中でも、シン・クリアは動きを止めない。この術は確実に彼等に近付いてくる。
「ははは、無駄だ‼クリアの術の頂点には誰も敵わない‼」
確実にブラゴの術が押されている。この光景を見て、ヴィノーが嘲笑う。それでもブラゴペアは諦めない。そしてシン・クリアが2人まで届きそうになったその時、
「なめるなーーー‼」
先程まで劣勢だったブラゴの術が、シン・クリアの動きを封じ、押しつぶし始める。それを見たヴィノーは驚愕する。クリアの最大術が押し負けているのだから。
「こんな事が……」
ブラゴペアだけで生み出せる力量には限界がある。しかしブラゴは特訓で地場の強い土地を巡り、自らの力の根源が星そのものの力であると理解した。地球は強大な力を持ち、彼の術はそれを借りる事が出来る特性を持つのだと。
「ほんのわずかに、地球の自転を俺の体で受け止めるような行為。当然力が増す程、俺の体もヤバい。だが……これでクリアの術とも戦える‼」
大きな力の代償として地球の重力をまともに受ける事となり、体にかかる負担も果てしない。これ程のリスクを背負わなくてはクリアのシンの術には対抗出来ない。そして強大な重力がクリアの術を更に押し潰す。
「清麿‼この術ごとクリアを倒せ‼俺達が力を合わせれば出来るハズだ‼」
「スマン、その通りだ……迷う余地など無かった‼」
弱気な態度を見せる清麿をブラゴが叱責する。それを聞いた彼は、クリアを倒す為に再び心の力を溜め始める。
「行くぞガッシュ‼」
「ウヌ‼」
清麿を見たガッシュも臨戦態勢に入る。そして殺せんせーもまた、攻撃に加わろうとする。先生も体内にエネルギーを溜め終えた様子だ。
「ならば先生も……」
「待った、殺せんせー‼」
殺せんせーの加勢を清麿が止めた。先生は当然、怪訝な表情を見せる。
「高嶺君、しかし……」
「ここから先は何が起こるか分からん‼先生、今は力を温存しておいてくれ‼」
「……分かりました‼」
ここで全ての力を使い果たして、クリアを倒し切れない場合は最悪だ。その先は絶望しかない。だからその場合にも備えて、殺せんせーには今は力を温存してもらう。もしもクリアを一気に倒せるようならその時に先生の力を借りれば良い。清麿の考えを察した殺せんせーは引き下がる。
「バオウ・ザケルガーーー‼」
ガッシュの口からは巨大な電撃の龍が召喚され、シン・クリアに襲い掛かる。
「いっけええええ‼」
「バオオオオオ‼」
この時、打倒クリアと言う共通の目的を持つガッシュペアとブラゴペアの心は、完全に1つになった。そしてバオウ・ザケルガがシン・クリアを倒す為にブラゴの術の範囲内に入った瞬間、電撃の龍に変化が起こる。重力の術を受けたそれは、何と色が黒く変貌したのだ。
「どうなっているのよ、これは……」
「魔物の術、恐るべしですねぇ!」
「だがこれで、クリアを倒せる‼」
お互いの心が1つになった時、各々の術は融合を果たした。しかしその原理は、
「やったわ‼」
クリアを倒したのだと思いシェリーが歓喜の声を上げる。しかし清麿が出した答えは絶望そのものだった。
「“力の支配”が、始まる……」
清麿の言葉と共に、シン・クリア・セウノウスが再び姿を表した。ブラゴ達もこれに驚愕するが、それは術者であるはずのヴィノーも同じだった。
「何で、敗れて消えたハズじゃ……」
今出ている術はヴィノーが唱えた訳では無い。そしてシン・クリアの仮面が破れ、姿が変貌する。先程までの神々しい見た目とは打って変わって、禍々しい悪魔のような姿を模す。それは下半身と両肩が黒い球体に包まれ、巨大な尾を持つ。その化け物は口を開く。
「礼を、言う……我は“完全体”と、なれた」
その言葉と同時に、その額からはクリア・ノートの上半身が露出した。しかしクリアには既に意識が無い。
「これは、抜け殻だ……我が、クリア。全てを消滅させる絶対的な……力なり」
それを見た清麿達は愕然とするが、ブラゴだけは何かに納得するような表情を見せる。
(そうか……クリアの性格が最初出会った時と変わっていたのは、“力”に支配されていったからか)
クリア・ノートが初めてブラゴ達の前に姿を表した時に比べて、今回の戦いのときの方がより凶悪で残忍な性格となっていた。ブラゴはその事に違和感を覚えていたのだ。そして間もなくヴィノーがバリアごとクリアに吸い寄せられていくが、彼女も意識を失っている。
「これでヴィノーも……心の力を生み出すエネルギー体となった」
そのままヴィノーはクリアに取り込まれた。その直後、クリアの尾が清麿達目掛けて薙ぎ払われる。彼等は間一髪でかわすが、尾の一撃にも消滅の力が宿っており、その周辺はえぐり取られるように地面の表面が消え去っていた。今のクリアは全身に消滅の力を纏っている。
「ブラゴ‼」
清麿が指示を出すと同時に、クリアの全身から消滅波が放たれようとしていた。
「シン・バベルガ・グラビドン‼」
それと同時にシェリーが呪文を唱える。ブラゴの術により、ギリギリのタイミングで消滅波の直撃は免れた。しかしクリア自体にはブラゴのシン級の術は届いていない。そしてクリアの周りは、清麿達の足場となるわずかなスペース以外の地面がさらに削り取られていた。清麿は
「奴を倒す答えが……出ない……」
それを聞いた一同は驚愕する。しかし、彼等のやるべき事など決まっている。
「それでも我々は勝たねばならん‼何としても、奴を倒す答えを作り出すのだ‼」
「ここで負ける訳には行かないでしょう‼」
「クリアの額にある球体、あそこが一番ダメージが通りやすい‼そこに攻撃を続ければ、奴を倒せるかもしれん‼反撃に気を付けながら、一気に打ち砕くぞ‼」
倒せる為の答えは出なくとも、ダメージが通りやすい場所の把握は出来た。となれば、その希望にすがり、一斉攻撃を仕掛けるしかない。ここでの負けはそのまま魔界の滅亡に繋がる。よって諦めるという選択肢は彼等には存在しないのだ。
「シン・バベルガ・グラビドン‼」
まずはブラゴの術により、少しでもクリアの動きを鈍らせる。しかし完全に動きを封じる事は出来ない。またシン級の術の連発は、確実にブラゴの体にダメージを蓄積させていた。それでも、彼は攻撃の手を緩めない。
「バオウ・ザケルガーーー‼」
続いて電撃の龍が召喚され、再びブラゴの術と合わさり、その体を黒くした。そして清麿はバオウの力を全て牙の先に集中させて、クリアの額をピンポイントに狙う。
「今度は先生も行きますよ‼」
そして殺せんせーは体に溜めた力を放出し、清麿と同じくクリアの額に狙いを定める。その為に通常の攻撃よりも攻撃範囲を狭めて、その分貫通力を増すように一直線のエネルギー砲を放った。殺せんせーの力のコントロールは、イトナ戦の時にやって見せていた。
「「「「いっけえええええ‼」」」」
意識を失っているガッシュ以外の4人が、同時に叫ぶ。彼等は死力を尽くして自らの攻撃をクリアに当てる。しかし、
「狙いは良い……だが、届かない‼」
クリアの全身から消滅波が放たれる。そして無情にも、彼等の全力の攻撃を消失させた。尚且つクリアの攻撃は死んでおらず、5人を襲う。シェリーは心の力を完全に切らし、殺せんせーにはこの消滅波から仲間を守る術は持ち合わせていない。
「皆、俺達の後ろに‼ラシルド‼」
クリアの攻撃を防ぐには、ガッシュの盾の呪文以外は存在しない。清麿は心の力を込めて、全員を防ぐ事が出来る大きさの盾を、ガッシュに出させた。
「ザグルゼム‼ザグルゼム‼」
ただのラシルドでは、この攻撃は防げない。クリアの消滅波を防ぐには、少なくとも3発分のザグルゼムで強化する必要があると清麿は答えを出したが、彼の心の力にも限度がある。
3発目のザグルゼムを放つ事は叶わず、電撃の盾は崩れた。ラシルドのお陰で多少なりとも消滅波の威力は落ちているが、強力な事には変わりない。
「清麿‼」
「おのれェ‼」
「ふんにゅやあああ‼」
ガッシュはマントで自分と清麿を、ブラゴは身を挺してシェリーを、殺せんせーは触手を伸ばして自らの急所をそれぞれ守った。殺せんせーにはここで完全防御形態になる選択肢もあったが、それでは先生が攻撃に加われなくなる。この後の戦いでは何の役にも立てなくなるのだ。生徒が命を懸けている状態で、先生としては自分だげ安全圏に逃げる選択肢は無い。
そして消滅波を受けたブラゴの体は痩せこけた上に気を失い、殺せんせーも完治するまでにはかなり時間がかかるほどに体の多くを損失している。しかし、
「まだ、立ち上がるのか……」
体が痩せこけていても、マントの力で防御したガッシュにはまだ立ち上がるだけの力が残されている。
「ザケル‼」
心の力が殆ど残っていない清麿は、ザケルを数発程撃つ事しか敵わない。それでも彼等には、この戦いに勝つ以外の選択肢は無い。
「こざかしい‼」
クリアも迎撃するが、清麿の
「ま……まだなのだー‼」
「ふん……ボケ、が……」
ガッシュはマントを使って空を飛び、クリアの顔と対面する。しかし無情にもクリアは口から消滅波を放つ。満身創痍のガッシュがこれをかわす事は不可能だ。
「「ガッシュ(君)‼」」
シェリーと殺せんせーが叫ぶ。そして先生は力を振り絞って触手をガッシュの方まで伸ばし、クリアの攻撃から逃がそうとした。しかし殺せんせーのダメージも大きく、ガッシュを完璧に逃がす事は出来なかった。
「済まぬ……殺せんせー……」
「ガッシュ君……もう君は……」
“戦える状態では無い”。殺せんせーはそう言いかけたが、ガッシュの目にはまだ闘志が残っている。それを見た先生は自分の言葉を飲み込んだ。そしてガッシュは殺せんせーの触手により着地に成功するが、体を動かす事は出来なかった。
(こうなったら、先生が……)
そんなガッシュを見て、殺せんせーは捨て身の一撃を放つ決意をした。今の先生は体の回復にエネルギーの大半を当てているが、その力を全て攻撃に回す。そして最大威力のエネルギー砲をクリアに放つ。勿論それでクリアを倒せる保証は無い。それでも殺せんせーは、生徒の為に命を懸ける以外の道は取らないつもりだ。
「待て、殺せんせー……」
地に伏せながらも心の力を溜め続けている清麿は、殺せんせーのやろうとしている事に気付いた。そして清麿は深呼吸をすると、出せる限りの声を発した。
「ダメだ、殺せんせー‼……それをしてはいけない‼」
殺せんせーの捨て身の攻撃をもってしても、クリアをどうにか出来る保証は無い。仮にどうにかなったとしても、それを行った殺せんせーはただでは済まない。E組の手による暗殺以外で、殺せんせーの生命に危機が訪れる展開はなんとしても避けたいところだ。
「止めないで下さい……これしか……」
殺せんせーは清麿の制止を聞くつもりは無い。それを見たガッシュも立ち上がろうとする。
「殺せんせー……自分も死ぬつもりなのか……それは、ダメだ……」
しかしガッシュには立ち上がるだけの筋力が残されていない。そんな光景を目の当たりにしたシェリーの表情は絶望に染まり、彼女の目からは涙が流れ落ちた。
(もうダメ……もうコイツには、何をやっても勝てない……)
シェリーは完璧に戦意を消失した。圧倒的な力を前にして、どうにもならないと彼女の本能が告げている。
その一方で、ガッシュはこれまで出会ってきた仲間の顔を思い浮かべていた。彼等の為にも、ガッシュは立ち上がらなくてはならない。
「皆……魔界にいる皆……待って、おるのだ……」
魔界を救う為にも、ガッシュは最後まで諦めない。例え呪文が使えなくても、どんなに体が痩せこけても、彼は立ち上がろうとする。
「あやつを倒し……魂だけになった皆を、生き返らせるから……」
遂にガッシュは立ち上がった。何か策がある訳では無いが、それでもここで地に伏す訳にはいかないのだ。そんなガッシュを見てクリアは嘲笑う。
「ハハハ……みじめだな。もうお前達は戦えない……魔界は我が滅ぼす……お前の努力は、全て無駄だったんだよ‼」
クリアは勝利を確信している。そして、ガッシュ達の行いが全て無駄だと断言した。しかし、
「……そんな訳……無駄な訳が、無いでしょーーが‼」
クリアの言葉を殺せんせーが全力で否定する。
「彼等は……守るべき物の為に、ここまで戦った‼それも……自らの命を懸けてまで‼それは世界を統べる者としてのあるべき姿であり、非常に尊いものだ‼……彼は優しい王様であろうとし続けている、貴方と違って……そんな生徒達の努力を否定する権利は、貴方には無い‼」
殺せんせーの表情がどす黒く変化する。クリアの発言は先生の逆鱗に触れたのだ。先生もガッシュの目指す王の姿は聞いている。そしてガッシュがこれまでもこの戦いでも、その理想を追いかけて尽力してきた姿を彼は知っている。教師として生徒を見守り続けたのだから。そんな生徒の努力を踏みにじられたのだから、当然殺せんせーも激怒する。そして先生はエネルギー砲を放つ準備に入った。
「待て、殺せんせー‼」
しかし今の殺せんせーがそれを放てば先生の生命に関わる。清麿はそれを阻止したいが、声を出す以外の行動が取れない。
「何をしようと無駄だ……ハハハ‼」
「くそ……笑うな……」
「ハーハハハ‼」
「笑うなーー‼」
清麿が叫ぶと同時に、彼の持つ本が金色に輝き始める。そこには、本来自分の本には書いてあるはずのない呪文が出現していた。清麿はそれを見た瞬間、その目には希望が宿る。
「これは……術を唱えられる‼この呪文には俺の心の力は要らない‼頼む、ガッシュを助けてくれ‼」
今のガッシュペアの本には、“本来術を持っていた者の力”が溢れている。よって、その呪文を唱えるのに、清麿の心の力を消費する事は無いのだ。
それと同時に、ガッシュの後ろには1人の魔物の魂が出現していた。
『ガッシュ、ありがとよ……俺達の為にここまで頑張ってくれて。だから、今度は俺達がお前を助ける番だ!』
「お、お主は……」
その魔物の顔を見た時、ガッシュの目には大粒の涙が流れ始める。彼はかつて、魔本を犠牲にしてでも守るべき物を守る姿をガッシュに示してくれた魔物だ。
「ジオルク‼」
清麿が呪文を唱えると、先程まで満身創痍だったガッシュのダメージが全て回復した。この術“ジオルク”の効果は、死んでさえいなければどのようなダメージも回復出来るのだ。そしてガッシュの後ろにはその呪文の本来の持ち主がおり、彼の肩に手を置いている。
『さあ、もうひと踏ん張りだぜ。ガッシュ‼』
「ダニーー‼」
ガッシュの後ろにいるのは、彼と友達になった魔物の1人のダニーである。
読んでいただき、ありがとうございました。黒いバオウ・ザケルガはアニオリのVSマエストロ戦で出て来たものが元ネタです。また金色の本には原作で出てこなかった魔物達も登場します。
それでは良いお年をお過ごし下さい。