「知っての通り、来週から京都2泊3日の修学旅行だ。君等の楽しみを極力邪魔はしたくないが、これも任務だ。よって、ガッシュ君にも参加してもらう」
体育(暗殺の訓練)の授業の終了時、烏間先生から修学旅行についての話がなされた。修学旅行時に殺せんせーが生徒達の決めた班ごとに回るコースに付き添う事、その際に国がプロの狙撃手を手配する事、成功時に貢献度において賞金が分配される事、そのために生徒達には暗殺向けのコース選びが依頼されている事を説明した。
「烏間先生。暗殺って、俺達もやっていいの?」
「ああ、だだし教室とは違って目立たないようにしてくれ。ばれたら大変なことになる」
「オッケー」
カルマは旅行中も先生を暗殺する気でいるようだ。彼のやる気は大した物だ。そんな中、
「ケッ。カルマの奴、粋がりやがって」
「ああ、俺らには出来っこねーのにな」
暗殺に積極的ではない寺坂グループであるドレッドヘアの吉田大成とラーメン屋の息子の村松拓哉が、ひそひそ話をする。やさぐれている彼等にとって、殺せんせーの存在は疎ましい。
(修学旅行か、烏間先生はガッシュも参加させると言ったが、俺達にはそんな余裕はあるのだろうか。いや、暗殺絡みなら参加すべきなのか。どうしたものか……)
クリア打倒のための特訓をしなければならない清麿は、修学旅行を休むことも視野に入れる。それ程にクリアは手強い。
そして烏間先生の説明が終わり次第生徒達は教室へと戻り、班決めを行う。清麿が修学旅行の参加について考えていると、渚が話しかけてくれた。
「高嶺君とガッシュ君、良かったら僕と同じ班にならない?」
「……悪い渚、俺とガッシュは旅行に行けるかわからん」
「ウヌゥ……」
渚がガッシュペアを誘ったが、清麿は修学旅行の参加を決めかねている。確かに殺せんせーの暗殺のためなら参加するべきなのだが、クリア打倒のための特訓もある。あまり時間を空けても良いものなのか、清麿は頭を悩ませる。そんな中、カルマが清麿の肩を組んできた。
「高嶺君、それって魔物絡みだったりする?」
「ああ、そうだ。今残っている魔物は強敵だし、かなり危険な相手でもある。そのための特訓に穴をあけていいもなのか……」
清麿は申し訳なさそうにするが、渚とカルマは特に気にしていない。彼等もある程度ガッシュペアの事情が分かっており、気を使ってくれた。
「そっか。でも高嶺君、参加出来そうなら言ってね」
「ありがとう、渚!」
清麿は渚に礼を言うと、ガッシュとともに廊下に出た。ガッシュペアも本心は修学旅行に参加したいために、内心頭を抱える。
「ガッシュ、てっきり行きたいとねだるもんだと思っていたが……」
「私も行ってみたいのだが、クリアのこともあるからの。私達はもっと強くならねばならん。清麿の決定に私は従うぞ」
「わかった、デュフォーに聞いてみよう」
考える事はガッシュも同じだ。そして清麿はデュフォーに相談する為に電話をかけた。
『どうした清麿?この時間はまだ学校だろうに』
「ああ、実はな……」
清麿はデュフォーに修学旅行のことを説明する。
『なるほどな。奴の暗殺が絡むなら参加一択だ、清麿。旅行の日程に合わせたトレーニングのメニューも考えておく。旅行中において、お前達はそれをこなせば問題はない。それにお前達のクラスでの日常を欠くことは、あってはいけないからな。それ以外にも、遠出をする場合は連絡をくれ。俺がそれに合わせたメニューを考える。ちゃんとクラスメイトとの交流を深めておけよ?』
「わかった、ありがとうな。メニューの方はよろしく頼む」
デュフォーは清麿に参加を促す。クリア打倒の特訓も大事だが、殺せんせー暗殺のための旅行もまた、欠かしてはいけないというのが彼の出した答えだ。そして清麿は電話が切れたことを確認すると、ガッシュの肩を叩く。
「ガッシュ、修学旅行に参加出来るぞ‼」
「おおっ、やったのだー‼」
2人はそのまま教室に入る。特にガッシュは喜びの表情を隠しきれていない。
「その表情は、旅行には行けそうかな?」
「2人とも、良かったよ!」
2人が修学旅行へ参加できると察したカルマと渚が、ガッシュペアに駆け寄る。特に渚は彼等の参加を心待ちにしてくれていた様子だ。
「ウヌ、楽しみなのだ!」
「ああ、よろしくな!ところで、班員は誰なんだ?」
「ええとね。君達と僕とカルマ君と、杉野と茅野に……」
渚がガッシュペアに班員を教える。すると、
「あ、奥田さんも誘った!」
茅野と杉野、そして茅野に誘われた眼鏡をかけた女生徒の奥田愛美が渚達の所へ来た。
「皆さん、よろしくお願いします!」
「ウヌ、よろしくなのだ!」
奥田は少し恥ずかしそうに挨拶をする。彼女は理科が得意な大人しい生徒だが、少し内気な面がある。また、得意の理科の知識を生かして殺せんせーの毒殺を試みたが、あえなく失敗した。
「班員は後もう一人いるぜ!この時のために、だいぶ前から誘っていたのだ」
杉野がいきなり得意げに話し始める。
「クラスのマドンナ、神崎さんでどうでしょう?」
彼はE組髄一のマドンナ、神崎有希子を連れてきた。
「みんな、よろしくね」
「よろしくなのだ!」
神崎が挨拶をすると、渚と杉野の顔が少し赤くなる。神崎は性格も良く、かなりの美人だ。クラスでは目立たないが人気は高い。こうして、無事に修学旅行の班は決まった。
1班 磯貝、前原、木村、片岡、岡野、倉橋、矢田
2班 岡島、三村、菅谷、千葉、速水、中村、不破
3班 寺坂、吉田、村松、竹林、狭間、原
4班 渚、カルマ、杉野、茅野、奥田、神崎、清麿&ガッシュ となった。
そして各班、回るコースを決める話し合いを始める。京都には数多くの名所がある。その中から選りすぐりの、しかも暗殺に適したコースの選択となると、決めるのは容易ではない。生徒達の話し合いが盛り上がっている中、殺せんせーが一人一冊、かなり分厚い本を生徒に手渡した。
「この厚さ、何なのよこれ……」
魔女のような雰囲気をまとった女生徒、狭間綺羅々が呆れたように呟く。
「修学旅行のしおりです」
「「「「「辞書だろこれ‼」」」」」
生徒達のツッコミを無視して、殺せんせーはしおりの説明を続ける。イラスト解説の全観光スポット、お土産人気トップ100、旅の護身術入門から応用までなど、修学旅行に関する多くの項目が事細かく記載されていた。
「先生はね、
修学旅行が楽しみなのは、殺せんせーも一緒だったのだ。
そして修学旅行当日、新幹線の駅。A~D組はグリーン車での移動だが、E組は普通車での移動となる。そのことで本校舎の連中がマウントを取ってきたのは、どうでも良い事だ。またビッチ先生がド派手な格好で同行しようとしていたが、烏間先生の逆鱗にふれてしまい、着替えさせられていた。一方殺せんせーは変装して新幹線に乗車していたが、彼の変装はあまりにも不自然だ。
「殺せんせー、ほれ。まずはその、すぐ落ちる付け鼻から変えようぜ」
先生の変装を見かねた菅谷が、即席で作った新しい付け鼻を殺せんせーに渡す。
「これは凄いフィット感‼」
「顔の曲面と雰囲気に合うように削ったんだよ。俺、そんなん作るの得意だから」
菅谷は美術の才能に長けている。だから彼にとっては、ピッタリ合う付け鼻を作ることなど造作もない事だ。これには殺せんせーも大満足である。
「おおっ、菅谷、そんな事が出来るのか!」
「ガッシュ、お前の付け鼻も作ってやろうか?」
「良いのか⁉」
ガッシュも菅谷の付け鼻に興味津々だ。そして彼に付け鼻を作ってもらい、ガッシュは早速それを身につける。そんなガッシュは生徒達の注目の的だ。
クラスの多くがガッシュの付け鼻の話をしている中で、神崎、茅野、奥田は飲み物を買うために席を立つ。またその時、飲み物を買いに行く途中に神崎が柄の悪そうな他校の生徒と肩をぶつけてしまう光景を、清麿は目撃する。
「どうしたのだ?清麿」
「いや、随分柄の悪い連中がいると思ってな」
「ウヌ。確かにあの者たち、悪そうな顔をしておるのう」
ガッシュは付け鼻をしたままの状態で清麿に尋ねる。そして彼は清麿の指差す方向を見ると、柄の悪い生徒が4班女子に視線を向けていた。それに気付いていない女子たちが席に戻ると、清麿が先ほどの不良達について聞く。
「なあ、お前ら。あの柄の悪い奴らに、何かされなかったか?」
「ああ、高嶺君。あの人達と肩をぶつけちゃったんだよね。でも、特に何もされなかったから大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」
「そうか、それなら良いんだが……」
神崎の返答に、清麿はひとまず納得したように答えた。だが彼は内心嫌な予感が頭をよぎる。何か良くない事が起こりそうで気が気でない。
「変な奴らが絡んできても、俺が守るよ!」
杉野が神崎の方を向いて、顔を赤くしながら拳を握りしめる。そんな杉野の事を神崎は嬉しそうに見ている。なお杉野の好意に神崎が気付く気配は現状無い。
「まだそれ付けてたんだね。今のガッシュ君の顔、面白ーい!」
「あはは、そうですね!」
ガッシュはまだ付け鼻を外しておらず、茅野と奥田に笑われる。そして4班の皆は、楽しそうに話しながら到着を待ち続ける。不良達が離れた席から見ていることも知らずに。
「なあ、あの娘らに京都で勉強教えてやろうぜ」
「ぎゃはは、俺達バカが一体何を教えんだよ」
「バカってさぁ、実はケッコー何でも知ってんだぜ」
清麿の嫌な予感は的中していた。不良達は明らかに4班女子を狙っていた。しかも不良の1人は、神崎の手帳を持っている。肩をぶつけたときに、神崎が落としてしまった。この事により4班の行動は彼らに筒抜けとなってしまう。
修学旅行一日目の宿にて、殺せんせーはグロッキーだ。新幹線やバスに乗っているうちに、乗り物酔いを起こしていた。殺せんせーは乗り物に弱い、新たな弱点の判明だ。
「ウヌ、ひなた。今ならナイフを当てられるかもしれぬぞ」
「やってるけどダメ、全然当たんない」
弱っている殺せんせーにガッシュと岡野がナイフでの攻撃を仕掛けるが、全てかわされる。そんな殺せんせーの隣では、神崎が探し物をしていた。
「どう、神崎さん?日程表見つかった?」
「……ううん。確かにバッグに入れてたのに……」
「どこかで落としてしまったのでしょうか?」
神崎が探しているものこそ、先ほど不良達に拾われてしまった手帳である。そこに神崎は修学旅行の日程をまとめていた。そんな几帳面な神崎に、殺せんせーは感心する。
「でもご安心を。先生手作りのしおりを持てば全て安心」
「「それ持って歩きたくないからまとめてんだよ‼」」
岡島と前原がツッコミを入れる。しおりは厚くて重い為、多くの生徒達が持ち歩くのを敬遠している。
場面は変わって、新幹線にいた不良達は日程表が書いてある神崎の手帳を見ている。
「ふーん、あのガキら、明日はこんな風に回るわけね」
「ゲヘヘ、よくやるわリュウキ。ま、男子校の修学旅行なんてウンザリしてたから丁度良いけどよ」
「俺って優しさの塊だからよ。ああいう頭良さげなガキ見るとな、無性に救ってやりたくなるんだよ」
リュウキと呼ばれた顔に傷のある不良のリーダー格が、4班女子に狙いを定める。
修学旅行2日目、4班は【近江屋】の跡地に来ていた。
「ここでは1867年、坂本龍馬が暗殺されたと言われている。さらに歩いてすぐの距離には、信長暗殺の本能寺もあるよ。当時と場所は少しズレてるけど。このわずか1㎞ぐらいの範囲の中でも、ものすごいビッグネームが暗殺されてる。知名度が低い暗殺も含めれば、まさに数知れず。ずっと日本の中心だったこの街は、暗殺の聖地でもあるんだ」
「なるほどな~。暗殺なんて縁のない場所かと思ってたが、こりゃ立派な暗殺旅行だ」
「渚、良く調べてるな」
「あはは、まあね」
渚の情報収集能力に、杉野と清麿が感心する。彼は結構マメな一面がある。実際に渚は、殺せんせーの弱点を自分の手帳にまとめている。もちろんその手帳には、乗り物酔いも加えられていた。
「暗殺と言えばさぁ、ガッシュ君」
「ウヌ?」
「君が魔界で王様になったら、暗殺されるリスクもあるんじゃない?」
カルマのその発言に、ガッシュは顔を真っ青にする。自分も将来暗殺されるのかと、気が気でない。カルマは時折ガッシュをからかう事がある。
「偉い人は基本、命を狙われやすいからね~」
「ノオオオオォ!清麿ォ、私はどうすれば良いのだー⁉」
「こらガッシュ、あんまりくっつくんじゃない!」
カルマの言葉にガッシュは怯え切って、泣きながら清麿に抱き着く。ガッシュには泣き虫な一面がある。そんな彼のリアクションを、カルマが面白そうに見ている。
「おいおい、あんまりいじめてやんなよー」
「そうだよぉ、ガッシュ君が可哀そうだって」
茅野と杉野が、苦笑いしながらガッシュをなだめる。しかしカルマは舌を出すだけで、ガッシュをからかう事を止めるつもりは無い。
「……でもガッシュ君が王様になったら、きっと素敵な国になるんだろうな~」
「ガッシュ君が王様なら、多分暗殺なんて起こりませんよ」
「ウヌ、私は優しい王様になるのだ!」
そんな中で神崎と奥田がガッシュが王様になった場合の事を話をする。それを聞いたガッシュは、さっきまでの怯えが嘘のように堂々と宣言をする。清麿に抱き着いたままではあるが。そして一行が歩いていると、
「あら、高嶺君とガッシュ君?」
聞き覚えのあるのんびりとした声が、ガッシュペアを呼ぶ。
「ホントだ、高嶺達じゃねーか!」
「こんなところで会うなんて、奇遇だね~」
「おおっ、お主達は⁉」
「お、お前らも修学旅行だったのか⁉」
ガッシュペアは驚きを隠せない。そこには清麿の前のクラスメイトの水野、山中、岩島、金山、そして水野の親友の仲村マリ子がいたのだから。偶然にも、彼等もまた同じ日にち、同じ場所での修学旅行だったようだ。
「高嶺君達の知り合い?」
「ああ、前の学校のクラスの奴らだ。こんな所で会うとは思わなかったがな」
「だったらさぁ、高嶺君とガッシュ君。少し彼らと話していきなよ」
「いいのか、赤羽?」
渚が水野達のことを問う中で、カルマが意外な提案をする。いくら清麿の昔のクラスメイトとの遭遇とはいえ、今は修学旅行中。しかも殺せんせーの暗殺も絡んでいる。勝手に抜け出すのはいかがなものか。清麿がそう考えていた時、カルマが清麿に耳打ちをしてきた。
(何かあったら呼ぶからさ。それに、俺らはもうすぐ殺せんせーと合流する。そのときに君達が後から合流すれば、あのタコを挟み撃ちに出来るからね)
「なるほど、わかった。じゃあ皆、俺とガッシュはあいつらと話をしてくる」
清麿はいったん渚達と別れて、水野達に合流する事を決めた。
「久し振りだな、皆」
「こんな所で会えるなんて、思わなかったよ~」
「私もなのだ!」
近くの広場に場所を移した後、ガッシュと水野は抱き合う。他の皆も、嬉しそうな顔を見せる。軽く挨拶を済ました後、清麿達はお喋りを続ける。そして話題は、修学旅行前の中間テストの話となった。
「えー!高嶺君がテストで一位取れなかったの⁉」
「ま、マジかよ。嘘だろ……」
「進学校はバケモノの巣窟だ……」
「ツチノコ取りに行ってる場合じゃねえんじゃねえのか……」
清麿がこの前の中間テストで一位を取れなかった話を聞いて、水野達がこの世の終わりのような顔をする。彼等にとって清麿が学年トップを逃すなど、それほどに予想外な出来事なのだ。とは言え清麿含むE組の場合、いきなりテスト範囲が変わった事が伝達されなかったり、アウェーな環境でテストを受けなくてはならないというハンデもあるのだが、水野達はそれを知る由も無い。
「皆、少し大袈裟じゃない?でも高嶺君が一位取れないなんて、やっぱり進学校はレベルが高いんだね」
「ああ、そうだな。テストの問題も難しかったぞ」
愕然とする水野達を見ながら、清麿は仲村と話す。そんな彼等の雑談が続く中、清麿の携帯電話に突如着信がかかってくる。彼等の平穏な時間は長続きしない様だ。
読んでいただき、ありがとうございました。水野達も偶然京都に修学旅行に来ており、ガッシュペアとの再会を果たせましたが、ゆっくり話している余裕はなさそうですね。