ガッシュペアの暗殺教室   作:シキガミ

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 ここからは散々薄くなってきた暗殺教室の要素がようやく増えてきます。


LEVEL.62 帰還の時間

「皆、よくやってくれた。これで魔界は滅びずに済んだ」

 

 空中を飛ぶヘリコプターの中で、デュフォーが労いの言葉をかけてくれた。この戦いでティオとウマゴンは魔界へ帰る事になってしまったが、彼等は見事に魔界を守り切れた。その事実に対して一同はひとまず安心する。そしてデュフォーは話し続ける。

 

「それから、いくつか話さないといけない事がある。まずはクリアのパートナーの事なのだが……」

 

彼はヴィノーの話題を出した。彼女は本の持ち主としてクリアに育てられて来たが、本当の両親の所在が分からない。そこでどうにかヴィノーの親を見つけた上で彼女を引き取ってもらう必要があるが、その為の手掛かりがほとんどない状態だ。

 

「ヴィノーの両親が見つかるまで、ナゾナゾ博士が預かってくれるそうだ。そして両親を探し出すとも言っている。ナゾナゾ博士は今、フランスの空港にいる」

 

「それなら、私とブラゴがこの子を紳士殿(ムッシュー)に渡せばいいわね」

 

ヴィノーをどうするかは決まった。ナゾナゾ博士の行動力及び幅広い知識・人脈があれば、手掛かりが少ない状態でもヴィノーの親を探し出してくれるだろう。またユーモアに溢れた博士なら、赤子であるヴィノーを退屈させる事も無い。

 

「さて、次が本題だ」

 

クリアとの戦いが終わり比較的柔らかな表情を見せていたデュフォーだったが、彼の顔が真剣な物になる。そんな彼を見て、サンビームと恵が清麿に問いただす。

 

「清麿、あの黄色いタコみたいな生物は何だったんだ?」

 

「ガッシュ君達の味方みたいだったけど……」

 

殺せんせーは2人に見られていたのだ。国家機密である先生は普段は人目に付かないように細心の注意を払っているが、クリアとの戦いに意識が集中しており、誰かに目撃されるリスクが頭から抜けてしまっていた。

 

「俺達がヘリコプターでお前達の方に向かっている途中で奴を見た。ガッシュと清麿が宇宙にいる時だな」

 

殺せんせーは上空でクリアの攻撃による余波を警戒している時に、彼等に見つかった。しかし状況が状況である為、清麿は先生を責めるような事は考えていない。

 

「ウヌぅ、清麿……」

 

「殺せんせー、見られてたんだな……」

 

ガッシュペアはうつむく。殺せんせーの事は国家機密である為に極力話すべきでは無いが、今ここにいるのは共に厳しい戦いを乗り越えて来た仲間だ。地球を滅ぼそうとしている殺せんせーの存在を、皆に黙認するのは抵抗がある。

 

「その事なんだが……」

 

殺せんせーが実際に見られてしまった以上、隠し通すのは容易では無い。そして清麿は殺せんせーについての事情を話す決断を下した。先生が地球を滅ぼそうとしている事、E組内で行われている暗殺の事など、これらを聞いた仲間達は複雑な心境となる。ちなみにヘリコプターのパイロットは運転に集中しており、この話は聞いていない。

 

「地球を滅ぼそうとしているマッハ20の超生物か……戦う相手としては申し分ないな」

 

殺せんせーが地球を滅亡させる事を聞いたブラゴは殺せんせーと戦う気概を見せる。ブラゴの重力をもってすれば、殺せんせーの超スピードも妨害出来るかもしれない。一方でシェリーは沈黙を突き通す。それからサンビームが口を開いた。

 

「清麿、1つ確認したい」

 

「それは?」

 

清麿がサンビームの方を向く。

 

「この事を黙っていたのは、我々にクリアの事に専念してもらう為か?」

 

彼はハッキリさせておきたかったのだ。どうしてガッシュペアがこれ程に深刻な問題を、自分達だけで抱え込んでいたのかを。

 

「ああ、その通りだ。こんな重要な事を皆に黙っていたのは、申し訳なく思っている」

 

「そうか……」

 

清麿の謝罪を聞いたサンビームは頭を抱える。殺せんせーの事を知っても、今の彼にはウマゴンがいない。直接殺せんせーをどうにかする手段を持ち合わせていないのだ。そんな自分の無力さをサンビームは感じている。

 

「清麿君とガッシュ君は、魔界と地球の危機の両方に直面していたって事よね……」

 

恵が顔色を悪くする。魔界と地球の滅亡。片方だけでもガッシュペアの心を疲弊させるのには十分だというのに、彼等はそのどちらも背負っていたのだ。その重圧に耐えるのは、生半可な精神力では不可能だ。そんな事情を知った彼女は、2人がクリア以外の何かを抱えている事に気付けなかった事で罪悪感に苛まれる。

 

「……でも、変じゃないかしら?」

 

先程まで言葉を発していなかったシェリーが口を開いた。

 

「あの超生物が地球を滅ぼす悪党だというのなら、この戦いに力を貸してくれた事の説明が付かない。それにガッシュも清麿も、あれの事は信用しているみたいだったし」

 

シェリーの疑問はもっともだ。殺せんせーが悪い者であれば、クリアとの戦いに協力してくれる理由が分からない。E組の事を何よりも考えてくれる殺せんせーについてかつてガッシュペアも同じ事を問い詰めたが、答えは得られていない。

 

「そもそも、あの超生物の正体を【答えを出す者】(アンサートーカー)で導き出せば……」

 

「いや、それはしたくないんだ」

 

彼女の提案を清麿が拒否した。

 

「地球の危機なのに何言ってんだって思われてもおかしくない。でも殺せんせーの正体にはこの力を使わずに、E組の皆と一緒に辿り着きたいんだ。殺せんせーは散々クラスの為に尽くしてくれた。その事に報いるには、E組で殺せんせー暗殺を成功させた上で正体を知る。それしかないと思っている」

 

「ウヌ……皆に話していなかったのは済まぬのだが、私達に任せて欲しいのだ」

 

ガッシュペアの決意は固い。あくまでE組の力で殺せんせー暗殺を成してこそ意味があるのだと。彼等はこの考えを変えるつもりは無い。その主張を聞いた一同は、この事に納得したような表情を見せる。

 

「分かった。だが、もし我々に出来る事があるようならいつでも言って欲しい」

 

まずはサンビームがそう言う。ウマゴンがいない状態でも、やれる事が何かしらあるはずだと彼は確信している。

 

「私は日本にいるから、困った事があれば相談してね!」

 

続いて恵が微笑みかけてくれる。これまでの戦いで仲間同士支え合ってきたが、魔物の戦いが終わったとしても、彼女はガッシュペアを支えてくれる。

 

「「2人共、ありがとう(なのだ)‼」」

 

ガッシュペアは礼を言う。地球の危機だというのに、彼等は自分達の考えを理解してくれた上で力になってくれるのだから。これ程嬉しい事は無い。魔物の戦いで得られた絆はこれからも失われない。

 

「あなた達の気持ちは分かったけれど、あの超生物の正体は私も興味があるのよね。紳士殿(ムッシュー)を通して、個人的にあれの正体を探るくらいは構わないかしら?」

 

「ああ、分かった」

 

ブラゴペアもまた、この戦いで殺せんせーに力を貸してもらっている。そんな先生の事にシェリーが興味を持つのは何らおかしくはない。そんな彼女の言葉に清麿は同意する。

 

「もっとも……デュフォー、あなたはその正体に気付いているみたいだけれど」

 

【答えを出す者】(アンサートーカー)で奴を見たからな。だが、それをここで話すわけにはいかない」

 

シェリーがデュフォーの方を見る。彼は殺せんせーの事を知った上で、その処遇をガッシュペア及び他のE組に一任している。

 

「奴の打倒に関して、今はお前等に任せてやる。マッハ20の超生物を相手取るんだ。俺達の最後の戦いに向けて良い特訓になるんじゃないのか?だが、根を上げる様ならいつでも言え。その時は俺達があいつを仕留める!」

 

ブラゴは自信ありげにガッシュペアに言い放つ。その気になれば、殺せんせーもガッシュペアも自分とシェリーで打倒する事が出来るのだと。

 

「バカいえ、それを成し遂げるのは俺達だ!」

 

「ウヌ!」

 

ブラゴの挑発にガッシュペアが答える。お互いに自分の勝ちを譲るつもりは一切ない。そして殺せんせーの事も話し終わり、彼等はそれぞれの目的地を目指す。

 

 

 

 

 ヘリコプターは初めにフランスに着陸した。ブラゴペアがそこで降りた後、2人は空港で待ち受けるナゾナゾ博士と合流し、ヴィノーを引き渡した。そこで彼等は、殺せんせーの事を改めて問いただす。続いてアフリカの空港に辿り着く。そこでサンビームは残りのメンバーに別れの挨拶を交わした後、1人ヘリコプターを降りた。

 

(ふぅ、私の戦いも終わってしまったか……)

 

彼はウマゴンとの戦いの日々を思い出しながら、空港の出口を目指す。

 

(考えてみれば、ウマゴンと一緒にいれた時間はそれ程長くは無かったな)

 

ウマゴンがサンビームと共に初めて戦ったのは千年前の魔物との戦いの時であり、ガッシュ達がパートナーと出会うよりも大分後の話である。その戦いが終わっても彼の宿舎はペット同伴が叶わず、ウマゴンは主に清麿宅の小屋で生活していた。しかし過ごした時間が長くなくても彼等の絆は本物だ。

 

(ウマゴン……共に戦えた事を、誇りに思うぞ)

 

ウマゴンは己の機動力を活かして、戦いの時はいつも体を張っていた。そんな彼に仲間は何度も助けられてきたのだ。ウマゴンの事を考えていると、気付けばサンビームの目には涙が溜まっていた。

 

「うぅ、ウマゴン……」

 

我慢の限界に達し、ついにサンビームは泣き出した。どれだけ人目に付こうとも構わずに、彼は涙を流し続けて下を向く。それだけウマゴンとの別れは悲しい物である。そんな彼を見かねたのか、1人の女性がサンビームの元へ駆け寄り、ハンカチを差し出した。

 

「およよ……大丈夫ですか?」

 

「あ、あなたは……」

 

ハンカチを受け取ったサンビームが顔を上げると、そこには修道服を来た女性が立っていた。

 

「サンビームさん、本当にお疲れ様でした」

 

その女性の名はエル・シーバス。かつてモモンと共にガッシュ達と戦ってくれたパートナーである。彼女はナゾナゾ博士の手紙を受け取り、クリアとの戦いについても知っていた。そんなシスターはすぐにサンビームがウマゴンと別れた事を察して、労いの言葉をかけてくれたのだ。

 

「ここでは何ですので、どこか入りませんか?」

 

「……ああ、そうしようか」

 

そして2人は空港内の喫茶店に入っていく。それから紆余曲折を経て、彼等が同居生活を始めるのは別の話である。

 

 

 

 

 場面はヘリコプターに戻る。その中ではしばらくの間沈黙が続いたが、恵が口を開いた。

 

「サンビームさん、大丈夫かしら?」

 

彼女はウマゴンと別れたサンビームの身を案じている。自身もティオと別れてしまい、パートナーの魔物を失う辛さがよくわかるのだ。そんな恵を見たガッシュペアは悲し気な顔を見せる。

 

「はっ……ごめんなさい。場を暗くしてしまって……」

 

「いや、恵さん。そんな事は……」

 

2人の顔色を見た恵はすぐに謝罪する。これ以上雰囲気を重たくする訳にはいかないのだと。それを聞いた清麿はすぐにフォローを入れた。そして恵はなるべく明るい話題を振り続け、話を極力途切らせないようにしてくれた。まるで、自らの感情を誤魔化すかのように。

 

 

 

 

 そして翌日の早朝、ヘリコプターは日本の空港に辿り着いた。ガッシュペア・恵・デュフォーは無言でヘリを降りて、歩き続ける。そして彼等が出口を目指している途中の広場で、中高生くらいの団体がそこに待ち構えているのを見かける。こんな朝早くから何事かと彼等は思ったが、その団体はガッシュペアが良く知る集まりだった。

 

「無事に帰ってきてくれたんだね」

 

「皆さん、本当に良かったです。私、心配で心配で……」

 

そこにはE組のクラスメイト達が彼等を出迎えてくれていた。まずはカルマと奥田が前に出て、安心したような表情で声をかける。また奥田の目は少し潤んでいた。彼等の帰還を知って、涙を浮かべるほどに嬉しかったのだ。

 

「待ってくれておったのか……」

 

これにはガッシュペアも驚きを隠せない。自分達が日本に戻るタイミングで、彼等がその場に来てくれたのだから。

 

「……俺は先に戻るぞ」

 

「お、おう」

 

E組のクラスメイト達を見たデュフォーは清麿に声をかけた後、1人彼の家に戻って行った。そして清麿は再びE組の方を見る。

 

「しかし皆、どうして……」

 

「私もいるある!」

 

清麿が言葉を詰まらせていると、また1人別の仲間が出迎えてくれていた。

 

「「「リィエン⁉」」」

 

そこにはリィエンがいた。彼女もまたナゾナゾ博士からこの戦いの事を聞いており、丁度日本に滞在していた為に空港まで来てくれていたのだ。これにはガッシュペアも恵も驚く。そしてリィエンが清麿の近くまで来て、小声で話しかけた。

 

(清麿、恵と2人で話をさせて欲しいある)

 

清麿は恵がティオの事をとても悲しみ、今にも泣きだしそうな状態である事を分かっている。しかし、気丈に振舞おうとする彼女に水を差す訳にはいかない。どうしたものかと考えていた矢先にリィエンが気を利かせてくれた。

 

(済まない。恵さんの事は任せるぞ)

 

(了解ある!)

 

清麿の頼みを了承した後、彼女は恵の腕を掴んだ。

 

「恵、こっちに来て欲しいある!」

 

「リィエン、どうしたの⁉」

 

戸惑う恵に構わず、リィエンはその腕を引っ張り続ける。そして彼女は恵と共にその場を離れた。

 

 

 

 

 リィエンに連れられた恵は、一足先に空港の外に出る。まだ朝早い時間帯であり、外も薄暗く、人通りも無い道で2人は向き合って立ち止まっていた。

 

「恵、ここなら誰もいないあるよ。もしあなたが1人になりたいのなら、私はガッシュ達の所に戻るある」

 

リィエンは優し気にそう言う。彼女はティオと別れた悲しみをこらえる恵の事を考えて、人が見ていない場所まで連れて来てくれたのだ。そんなリィエンの考えを察した恵は首を横に振り、今度は自らが彼女の手を握る。共にここにいて欲しいのだと。

 

「ティオってね、初めは心を閉ざしていたの……親しい魔物に裏切られたって」

 

恵はティオとの出会いを話し始める。マルスの襲撃を受けたティオは海に落ちたが、そんな彼女を恵が救出した。ティオは恵と出会い、そして人間界でガッシュペアに助けられる事でようやく安心する場所を手にする事が出来たのだ。

 

「それでも段々と心を開いてくれるようになって……あの子と過ごしていると本当の妹が出来たみたいで……」

 

恵は魔物の戦い以外にも、アイドルとしての仕事がとても忙しい。そんな彼女をティオは支えてくれていた。そして2人で生活するうちに、彼女達は本当の姉妹のように仲良くなっていたのだ。恵の話をリィエンは黙って頷きながら聞いている。

 

「でも……もうティオは一緒じゃない。私……あの子のいない生活なんて考えられない……」

 

恵の目からは涙が溢れ出る。

 

「……ティオ、ティオ、ティオーーー‼うわああああああっ‼」

 

そして彼女は我慢の限界に達したかのように泣きじゃくる。これまで当たり前のように隣にいてくれた少女はそこにいないのだ。そんな恵を見て、今までは話を聞く事に徹していたリィエンが彼女を優しく抱きしめる。

 

「恵……」

 

リィエンの目からも涙が流れる。彼女もまたウォンレイとの別れを経験しており、恵の気持ちは痛い程に分かるのだ。ウォンレイが魔界に帰った時は、ティオペアがその場にいてくれた。その事は多少なりともリィエンの支えになっただろう。そんな彼女は、今度は自らが恵を支えようとしている。

 

「私……リィエンみたいに、強くはなれないよ……」

 

リィエンは今でも心でウォンレイと強い絆で結ばれている。だからお互い離れていても気丈でいられる。その事が恵の目にはとても強かに映っているのだ。

 

「恵……あなたの心の中に、ティオはずっといるある」

 

リィエンは恵の耳元でそう呟く、まるで自分にも言い聞かせるように。そして恵はしばらくした後にようやく泣き止み、2人は今日一日行動を共にするのだった。

 

 

 

 

 場面は空港の中に変わる。ガッシュペアは、自分達を待ってくれていたクラスメイト達と向き合う。そして矢田が口を開いた。

 

「2人が帰って来る時間を律に調べてもらったの。その後にリィエンさんが日本にいるって話を聞いたから、一緒に来たんだよ。2人共無事に……」

 

彼女はここに来た経緯を話してくれていたが、その言葉を遮るかのように1人の女生徒が全速力で前に出て来て、ガッシュに抱き着いた。茅野だ。

 

「ガッシュ君‼ちゃんと帰ってきてくれて本当に良かった‼うわーーん‼」

 

「カエデ、ただいまなのだ!」

 

彼女は大粒の涙を流す。それ程に心配だったのだ。二度と会う事は無くなってしまうのではないかと、茅野は気が気でなかった。

 

「もう、カエデちゃんたら……高嶺君だっているのに」

 

「はっ……ごめんね」

 

泣きじゃくる茅野を見かねた矢田が、呆れた表情を見せながら彼女の頭に手を置く。そしてようやく平常心を取り戻せた茅野が、恥ずかしそうな顔をして謝罪する。茅野はガッシュを思うあまり、清麿の事をおざなりにしてしまったと少し罪悪感に苛まれる。

 

「そーだよ茅野ちゃん。見てみ、高嶺が嫉妬してるから」

 

「相変わらずだねぇ、高嶺君は」

 

「やかましい!」

 

このような場面でも、中村とカルマは平然と清麿を煽ってくる。彼等がブレる事は無いだろう。清麿は2人の発言を否定しつつもクラスメイトと他愛のない会話をする事で、無事に帰ってこられた喜びに浸る。

 

「これでガッシュ君が優しい王様になるまであとちょっとだね」

 

矢田はそう言いながら、ガッシュと目線を合わせる為にしゃがんだ後に彼の両肩に手の平を乗せる。

 

「そうだの、桃花。私は優しい王様になって、誰も争わないで良いような世界を作るのだ!」

 

「うん!」

 

ガッシュの決意を聞いた矢田は満足気な顔を見せる。かつて暗殺肝試しの時に、争いが苦手な彼女はガッシュに魔界で皆が平和に暮らせるような世界を作るようお願いした事がある。ガッシュはそれを覚えくれてていたのだ。

 

「2人共、お疲れ様~」

 

そんな中、倉橋がいつも通りのゆるふわな口調で2人を労う。しかし彼女の瞳は、どういう訳か少し赤くなっていた。そして彼女を見てガッシュペアの顔が険しくなる。

 

「陽菜乃、済まぬのだ……」

 

「え~、何でガッシュちゃんが謝るの?」

 

「ウマゴンは、魔界に帰ってしまったからの……」

 

ウマゴンとティオの送還。今回の戦いは自分達の勝利で終える事は出来たが、彼等は再び日本の地を踏む事は叶わなかった。ウマゴンと倉橋は短い付き合いの中でも親睦を深めており、そんな2人が会う事が出来なくなった事に対してガッシュペアは申し訳なく感じていた。しかし、

 

「……知ってるよ、その事は」

 

「……どういう事だ、倉橋?」

 

彼女はその事を既に分かっていた。だが、どうしてそれを知れたのかが不明であり、清麿は問いただす。その時、彼のスマホから律が起動した。

 

「はい。僭越ながら、今回の戦いはクラスの皆で見させて頂きました」

 

「「えっ⁉」」

 

律の本体は、色々な物質を作り上げる事が可能だ。そして彼女は飛行型の超小型カメラを制作し、それを殺せんせーに付けたのだ。そのカメラは律の本体と繋がっており、彼女を通してE組の皆はその戦いを観戦する事が出来たのだ。これにはガッシュペアも驚愕する。

 

「だが、授業中じゃなかったのか?どうして……」

 

「ビッチ先生が自習にしてくれたんだよ」

 

清麿の疑問には不破が答える。午後一発目はビッチ先生の授業であり、彼女が気を利かせてくれたのだと。

 

「魔物同士の戦い……見てて寿命が縮まった気がしたかな……」

 

片岡が軽く汗を掻きながら口を開く。常人にとっては異次元でしかないこの戦いを実際に見るのは、かなり刺激が強かったようだ。

 

「そこにウマゴンちゃんとティオちゃんがいなかったから、魔界に帰っちゃったんだろうなって……」

 

「そうだったのか……」

 

殺せんせーが来た時には、既にティオとウマゴンが魔界に帰った後である。カメラには殺せんせー以外にガッシュペアとブラゴペアしか映っておらず、彼等が送還された事を察する事が出来たのだ。そしてウマゴンの別れを知った倉橋は、涙を流した。その事に清麿が納得しながらも、彼はこの場に1人の生徒がいない事に気付く。

 

「あれ、渚はいないのか……」

 

「渚は朝、やる事があるって言ってたぞ」

 

磯貝が教えてくれる。そして渚の事を考えたガッシュペアはある事を気にした。

 

「渚と言えば……あいつは大丈夫だったのか⁉」

 

「ウヌゥ、渚の母上殿との事はどうなったのだ⁉」

 

「あいつは今日もE組に来るぜ。あとは本人に話を聞いた方が良いんじゃね?」

 

「「良かった(のだ)」」

 

ガッシュペアの疑問に前原が答える。その問題は無事に解決したようだ。それを知った彼等は安心するが、そんな2人に対して速水が呆れたような顔を見せる。

 

「こんな時まで人の心配って、アンタ達はブレないわね」

 

自分達が壮絶な戦いを終えて来たばかりにもかかわらず、2人が渚を気にかける様子を見た彼女がそう言う。しかし、常に人を気にかけてくれる事こそが彼等の強さであると彼女には分かっている。

 

「そろそろここを出た方が良いんじゃなのか?学校もあるだろう。お前等、今日は疲れたから休むとか言わないよな?」

 

イトナが時計を見ながら2人を煽るような口調で話す。彼はガッシュペアならここで弱音を吐かない事を分かった上で試すような素振りを見せてきた。クリアとの戦いが終わっても、E組での暗殺生活はまだまだ終わらないのだから。

 

「もちろん登校するさ。殺せんせーにもちゃんとお礼を言えてないし、渚の事も気になるからな」

 

「ずっと学校は休み続けてしまったからの」

 

2人は休むつもりなど無い。そして一同は空港を出る。ちなみにガッシュペアは一度家に戻り、登校の準備を改めて済ました後に学校に向かうようにした。

 




 読んでいただき、ありがとうございました。次回は番外編として、クリアとの戦いを律のカメラを介して見ているE組視点での話を投稿します。
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