ガッシュペアの暗殺教室   作:シキガミ

63 / 81
 前回の後書きでも話した通りの番外編です。よろしくお願いします。


番外編 応援の時間

 時は遡る。殺せんせーがガッシュペアの元に向かった後、ビッチ先生が3者面談を行う場合に備えて模擬練習が行われたがあまり捗らなかった。そんな時、律の画面に清麿達の映像が流れている事に一同が気付く。

 

「ようやく起動しました」

 

「律、どういう事かしら?」

 

「はい、イリーナ先生。殺せんせーには、私が作った超小型カメラを付けておきました。カメラの動きは私が操る事も出来ます」

 

それを聞いた彼等は律の性能の高さを改めて思い知る。律自身も清麿達が心配で、戦いの様子を見ておきたかったのだ。そしてビッチ先生は何かを察した様に、わざとらしい口調で話し始める。

 

「……私、体調が悪くなってきたわ。午後の授業は自習にするしかないわね。ガキ共、ちゃんと勉強してなさい……間違ってもタコ達の戦いなんて見てるんじゃないわよ」

 

ビッチ先生が仮病を使っているのは言うまでもない。当然生徒一同、それに気付いている。そんな先生に対して、矢田が声をかける。

 

「ビッチ先生、それって……」

 

「そのまんまの意味よ、私は保健室で休んでくるわ。誰も見てないからって、あんまり騒ぐんじゃないわよ?」

 

彼女はそう言い残して教室を出た。ビッチ先生は、生徒達が心置きなく清麿達の戦いを見られるよう取り計らってくれたのだ。それを察した生徒達は早速律に移される画面に注目する。

 

「今日のビッチ先生、いつになく気が利くよな」

 

「まあ、3者面談の方はダメダメだったけどよ」

 

村松と吉田が口元に笑みを浮かべてそんな話をする。彼女の気遣いに皆感謝しているのだ。そして画面には清麿達がブラゴペアと合流する場面が映し出される。

 

「あの黒い少年は魔物かな。怖そうな見た目をしてるけど、ガッシュ達の味方みたいだね」

 

「何か刺々しいよな、あの魔物」

 

竹林と千葉がブラゴについて述べる。その外見から、彼等はブラゴに怖い印象を持ったようだ。

 

「となると、あの金髪のねーちゃんがパートナーか?……って超美人じゃねーか‼」

 

「高嶺の奴、あんな綺麗な人とまで知り合いなのかよ‼チクショー‼」

 

前原と岡島はシェリーに注目する。画面越しとはいえ緊張感漂う戦闘を見てもなお女性に興味を示す2人は流石だ。そんな様子を多くの女性陣が呆れた顔で見ている。そしてガッシュ達の戦いの最中、茅野は険しい顔を見せる。

 

「ガッシュ君達の仲間の魔物って、彼だけなの?」

 

彼女はあの場にウマゴンとティオがいない事に気付く。この場面でなぜ彼等がいないのか、その理由は1つしかない。それを察したクラスの空気が一気に重くなる。

 

(そんな、ティオちゃん……)

 

渚はティオとは仲が良く、彼女が魔界に帰った事を知って辛そうな顔をする。そんな彼を見かねて、隣にいた杉野が声をかける。

 

「渚……」

 

しかし声は渚に届かない。ティオの送還は彼にとってもショックだったのだ。

 

「おい、大丈夫か⁉」

 

「はっ……ごめん、杉野」

 

渚を心配する杉野は、彼の肩をゆすりながらより大きな声をかける。その甲斐もあって、杉野の声はようやく渚に届いた。

 

「渚、ティオちゃんと仲良かったもんな……」

 

「うん。別れちゃったのは寂しいけど、今はガッシュ君達の応援をしないと!」

 

渚はあえて明るい表情で返事をする。辛いのは自分だけではないと、そう己に言い聞かせるように。その時、クラス内で誰かのすすり泣く声が聞こえた。

 

「うう……そんな……ウマゴンちゃん……」

 

涙を流すのは倉橋だ。彼女はウマゴンと親睦を深めており、それ故に彼が魔界へ帰った事実がより重くのしかかったのだ。そんな倉橋に多くの生徒達が心配の目を向ける。

 

「陽菜ちゃん……」

 

近くに座る矢田が彼女を抱き寄せ、その頭を撫でる。ウマゴンとの別れを受け止めきれない倉橋を見て、彼女もまた悲し気な顔を見せる。

 

「大丈夫、外に出る?」

 

「ううん、ちゃんと見てなきゃ。それに……」

 

泣き止む気配を見せない倉橋を見て、矢田が別の場所で彼女を落ち着かせようと提案する。しかし、倉橋はそれをしない。

 

「ガッシュちゃん達の方が、もっと辛いハズだから」

 

倉橋は自分以上に、彼等の方が仲間との別れを悲しんでいると確信している。そんなガッシュ達を差し置いて、自分だけがこの戦いから目を背ける訳にはいかないのだと、彼女は自分を奮い立たせる。

 

 倉橋が泣き止んでからしばらく、E組一同は無言でガッシュ達の激闘を見守る。強力な呪文の応酬、仲間同士の絶妙なコンビネーション、【答えを出す者】(アンサートーカー)によるハイレベルな指示、殺せんせーの速度。その戦いは自分達の次元を遥かに超える物であると、生徒達は否応なく分からされる。

 

「何だよこれ……本当に、現実世界で起きてる事なんだよな?」

 

「信じられねー。まるでアクション映画を見ているようだ」

 

菅谷と三村が怪訝な顔で言い放つ。しかし、そうなるのも無理はない。彼等の戦いは余りにも現実離れしているのだから。

 

「ていうかこの戦い。殺せんせーの速度に慣れてないと、目で追う事も出来ないんだけど」

 

「ここまで力の差をまじまじと見せつけられるのは、流石に堪えるわね」

 

中村や速水を始め、多くの生徒達が苦虫を嚙み潰したような顔を見せる。この戦いにまともについていく事は、自分達には出来ないのだと思い知らされる。

 

「もうあいつ等だけであのタコを殺す方が良いんじゃねーのか……」

 

寺坂が呆れ混じりの表情でぼやく。ガッシュペアと殺せんせーの実力を改めてその目で見た彼は、自分達が足手まといになっているのではと感じ始める。

 

「あれ?そんな弱音を吐いちゃうんだ、寺坂。ビビってんの?」

 

「カルマテメー‼うるせーぞ‼言ってみただけだろーが‼」

 

そんな寺坂を見たカルマは容赦なく煽る。しかしそれを聞いて、寺坂は再び自分に自信を持つようになる。

 

「まあでも、寺坂の言う事も分からなくは無いけどね。呪文の力ってぶっ飛んでるし」

 

軽口を叩くカルマでさえもこの戦いには思うところがあるようだ。彼は鋭い目つきで映像を見続ける。

 

「ガッシュ、普段の訓練の時よりも動きが素早いじゃねーか」

 

一方で木村はガッシュの身体能力を素直に評価する。この戦いを見て以降、彼が日課である走り込みの距離を伸ばしたのは別の話だ。

 

「これが魔物の実力か、分かってはいても悔しいな(でもなんだろう、この気持ち……)」

 

機動力で度々ガッシュをライバル視してきた岡野は、実力差を見せつけられて険しい表情をする。しかし、ガッシュに負けたくない気持ちは強まっていく。岡野は元から負けず嫌いな一面はあるが、この戦いを見てそれが顕著になってきている。

 

「ガッシュ君が凄いのはもちろんだけど、あんな激しい戦場で的確な指示を出せる高嶺君も大概だよね」

 

「戦い慣れしてるんだろうな。それに殺せんせーだって、あいつ等にちゃんと合わせている」

 

片岡と磯貝は、清麿と殺せんせーに注目する。最前線で攻撃を仕掛けるのはガッシュとブラゴの役割だが、彼等に指示を出す清麿、それに合わせて的確なタイミングで呪文を唱えるシェリー、ガッシュ達の邪魔をすることなくクリアを妨害する殺せんせーがそれぞれ息を合わせる事で、見事にクリアを追い詰めている。

 

「巨悪を倒すという明確なビジョンに向けての共闘、これが本当の力という物か……なるほど。触手に頼っていた時の俺では、どうあがいてもあいつ等には勝てなかったんだな」

 

彼等の高い実力を見て、イトナはかつてシロの下で触手の力を得た時の事を思い出す。彼はより強い力を求めて勝利する事にのみ固執していたが、それでは成すべき事をやり遂げる為の本当の力を手にする事は出来なかったのだと改めて実感した。

 

「あらイトナ、まるで今ならあいつ等に勝てるみたいな言い方じゃないの」

 

「フン、どうだろうな」

 

彼の発言を聞いた狭間は意地の悪そうな顔をして言い放つ。彼女の言葉に対してイトナは素っ気なく返すが、どこか思うところがあるようだ。

 

「イトナ、根性あるね~。寺坂と違って」

 

「テメーまだ言うか‼」

 

カルマは相変わらず寺坂を煽る。緊張感溢れる戦いを目にして軽口を叩く彼の肝はかなり据わっている。それだけでは無く彼の行動は、清麿達なら無事にやり遂げてくれるという信頼の裏返しとも取れる。実際に今の戦況は清麿達がクリアを押している状態だ。

 

「あれ、ガッシュ君のこの攻撃ってまるで……」

 

原が呟く。ガッシュがクリアの背後に迫り、殺せんせーとブラゴの存在感に紛れて敵を電撃のナイフで切りつけている。その攻撃方法の正体は、E組では日常そのものである物と同じだ。

 

「一種の職業病だよね。魔物の戦いにすら暗殺を取り入れるなんて」

 

不破が感心するような物言いをする。“暗殺”はE組内では常日頃からありふれている物であるが、外の世界はそうでは無い。突然“戦闘”から“暗殺”に切り替えられれば、クリア程の強者ですら動揺する。実際にガッシュの暗殺により、クリアは無視できないダメージを負う事になった。

 

 画面越しではクリアの放つフェイ・ガンズ・ビレルゴに対してジオウ・レンズ・ザケルガが発動される。

 

「ガッシュ君達、まだあんな術を持ってたんですか⁉」

 

奥田が驚愕する。E組一同が直でみたガッシュペアの一番の大技はエクセレス・ザケルガだ。こちらもディオガ級相当の強力な術だが、それを凌ぐ呪文を見せられた彼等は驚きを隠せない。そしてガッシュの術はクリアの術を相殺し切り、クリア自身にも大ダメージを与えた。

 

「これで終わったのかな?それならいいけど……」

 

神崎は心配そうな表情で口を開く。彼女は内心、敵がまだ立ち向かって来るのではないかと気が気でない様子だ。そして神崎の予想通り、クリアは起き上がる。

 

「おいおい、まだ立ち上がって来るのかよ……」

 

寺坂が顔色を悪くする。クリアはかなりのダメージを受けているハズなのに、一向に倒れる気配を見せない。

 

「寺坂以上の耐久力だねぇ……まあ、寺坂はバカだからダメージを受けてる事にも気付いてないだけだろうけど」

 

「カルマ‼いい加減にしやがれ‼」

 

カルマの軽口は寺坂の逆鱗に触れる。カルマなりに寺坂を評価している意味合いもある言動であろうが、それ以上に彼の煽りを寺坂は煩わしく感じた。

 

「寺坂、うるさいぞ」

 

「ああ⁉」

 

怒鳴る寺坂に対してイトナが画面を指差しながら毒を吐く。寺坂が怒りを露わにしながら律の方を見ると、その画面にはクリアの最大術が映されている。その神々しさは、先程まで荒ぶっていた彼を黙らせるのに十分な物である。

 

「何、あの術……」

 

「ガッシュちゃん達、大丈夫かな……」

 

矢田と倉橋を初め、多くの生徒達が心配そうな顔を見せる。画面越しにもかかわらず、クリアの術の強さが彼等にも伝わってくる。

 

「高嶺がいつになく焦ってるように見えるが」

 

「アイツどうしたんだ?何が起こるってんだよ……」

 

清麿がセウノウスの正体に気付いた時の表情を見て、磯貝と前原も嫌な予感がしていた。そして教室内の緊張感が一気に高まる。

 

「もう1人の魔物が術を出したな。こっちも強そうだぞ」

 

「スゲー、あんなデカい術を抑え込んでやがる」

 

ブラゴのシン・バベルガ・グラビドンの威力に千葉と岡島が感心する。この術がセウノウスを押している光景を見て、先程までの緊張感が少し和らいだ。

 

「どうなるかと思ったけど、これなら大丈夫そうじゃん?」

 

中村が安心したような顔で口を開く。実際にブラゴの術のお陰で、セウノウスが清麿達に届く気配は一切ない。そしてガッシュもバオウを発動させた。

 

「へぇ、これがガッシュ君の最強呪文ね」

 

先程まで飄々とした態度を見せていたカルマだが、バオウ・ザケルガの威圧感を感じて冷や汗をかく。そして彼はこの術がガッシュペアの他のどんな術よりも強い事を見抜いた。

 

「ガッシュ君達が皆を巻き込まない為に、あんまり強い術を使わないのは知ってたけど……」

 

片岡がバオウを見て目を細める。自分のクラスメイトの持つ力の強大さに、彼女は圧倒されつつある。そしてバオウがセウノウスとぶつかり合う。

 

「……何か変だね」

 

竹林が違和感を覚える。バオウがブラゴの重力に触れた瞬間、その色が金色から黒へと変色しているのだ。そしてバオウはブラゴの力をも得て、より強力な術へと変貌する。

 

「……王道展開来たーーー‼」

 

それを見た不破のテンションが上がる。生徒一同何事かと思って彼女の方を向くが、不破は得意げに現状の解説を始めた。

 

「ガッシュ君ともう1人の魔物の力が合わさったんだ!敵を倒したいという仲間同士の気持ちが1つになる事で、より大きな力が産まれて巨悪を倒す‼少年漫画の王道だよね‼」

 

彼女の目は輝いている。ガッシュとブラゴの最大術の合体は、不破のテンションを最大限まで高めるのには十分な光景だ。ライバルが共闘して敵を倒す際に、お互いの最大術が合体する。漫画好きの彼女がこの展開を見て熱くならない理由は無い。

 

「確かに凄い力です‼相手の術がどんどん押されていきます‼」

 

奥田の言う通り、セウノウスは黒いバオウに競り負けている。そして各々の最大術のぶつかり合いは苛烈を極めたが、バオウがセウノウスを押し勝つ事に成功し、クリア本体を黒い龍が襲う。

 

「ガッシュ達が勝ったんだ‼」

 

杉野を始め、ガッシュペアの勝利に思われる映像を見た生徒達が喜びの表情を見せる。しかしその瞬間、律の映像には驚くべき光景が映し出される。

 

「いや待って……何なのよ、あれは」

 

最初に気付いたのは狭間だ。破られたかに思われたシン・クリア・セウノウスが再び姿を表す。それだけでは無く、セウノウスの顔面がひび割れ、そこからは悪魔のような顔が出てくる。

 

「ハァ⁉どうなってんだよ⁉」

 

木村が声を荒げる。そして画面上には完全体となったクリアが映し出され、クラス内の雰囲気は先程までとは打って変わって重くなる。

 

「大丈夫なのか?あいつ等、かなり力使ってたよな……」

 

「殺せんせーもいるし、何とかなると思いたいが……」

 

吉田と村松を始め、生徒達の顔が青ざめていく。完全体クリアの禍々しさと強大な力は、画面越しでも彼等にひしひしと伝わってくる。そして映像内ではガッシュ・ブラゴ・殺せんせーがクリアに攻撃を行うが、クリアはそれらを打ち消し、彼等に大ダメージを与えた。

 

「嘘でしょ……こんな事が……」

 

「悪い夢、じゃないんだよね……」

 

速水と原がかすれた声で呟く。律の画面上には、恐らく自分達の中で最も大きな力を持つ2人と、日々工夫を凝らしても殺すには至らない暗殺対象が瀕死の状態で伏している。その光景はクラス内を絶望感で満たすのには十分過ぎた。

 

「そんな……ガッシュ君、高嶺君、殺せんせー……」

 

渚が絞り出したような声で彼等の名を呼ぶ。このままでは皆死んでしまう。彼の心は焦燥感と絶望感に支配される。

 

「嫌だ……嫌だよ、こんなの……」

 

茅野の目から涙が流れる。彼等が死にかけているのに自分は何も出来ない。そんな無力感が彼女を襲う。

 

(ガッシュ君……)

 

彼女は、自分が弟のように可愛がっているクラスメイトの名を心の中で呼ぶ。こんなところで会えなくなってしまうのか、そんな気持ちが彼女の心を蝕む。そして涙を流すのは茅野だけでは無い。

 

「起きてよガッシュちゃん‼高嶺ちゃん‼殺せんせー‼」

 

倉橋が立ち上がって泣き叫ぶ。普段の天真爛漫な彼女からは想像出来ない程の狼狽の仕方だ。それを見かねた矢田が慌てふためく倉橋を抑えようとするが、彼女の目からも涙が流れていた。

 

「陽菜ちゃん、落ち着いて……」

 

「皆が死ぬなんて、嫌だよぉ」

 

矢田に抱き寄せられた倉橋が消えそうな声でそう言う。

 

「皆、まだ殺せんせー達が負けたって決まった訳じゃないって‼」

 

「そうだ、まだ高嶺が凄い作戦を考えてるかもしれない‼」

 

絶望感漂うクラスを見かねて片岡と磯貝が叫ぶ。彼等はクラス委員として少しでもE組を鼓舞させようとするが、クラスメイトの顔が晴れる事は無い。口ではそう言う2人でさえも、ガッシュ達がどうなるか分からないといった気持ちを内心抱えている。

 

「これ、かなりヤバくね?」

 

普段は余裕の表情を崩さないカルマでさえも、現状を見て諦めかけている。それ程に清麿達とクリアの力の差は大きい。もうどうにもならない、そんな雰囲気がクラスを覆う。

 

「本当に……終わっちゃうんですか?……ガッシュ君も消されて、高嶺君も殺せんせーも死んで……そんな……」

 

奥田が大粒の涙を流しながら、かすれた声を出す。彼女の問いに答えられる者はいない。安易に大丈夫だと言い切れる状態では無いのだから。そう思われた時、神崎が口を開く。

 

「皆よく見て……ガッシュ君達は、まだ諦めていない」

 

諦めの雰囲気が流れる現状においても、彼女はガッシュ達を信じている。神崎に言われて他の生徒達も画面を見ると、ボロボロになりながらもクリアに立ち向かうガッシュがいた。それだけではない、清麿と殺せんせーも弱音を吐いていない。この絶体絶命の状況でも、彼等は勝とうとしているのだ。

 

「だから奥田さんもそんな顔はしないで、きっと大丈夫だから」

 

「神崎さん……」

 

神崎は奥田の肩に手を乗せる。このような非常事態においても、彼女はとても強かだ。そんな神崎に奥田は再び涙を流しながら抱き着く。そして神崎は、彼女の頭を優しく撫でる。

 

「その通りだね。彼等はまだ戦おうとしている、絶望的な敵を目の前にしても。だから僕達も諦めちゃいけなかった……」

 

渚の目には再び希望が宿る。どのような敵にも果敢に立ち向かっていく彼等を見て、渚は1つの決断を下す。

 

(どれだけピンチでも、高嶺君達は折れない。彼等は強い。僕だって……)

 

3人の強かさに感銘を受けた渚は、自らも母親に立ち向かう事を決める。渚自身逃げて来た訳では無いが、彼等を見てここ一番で自分の主張を通す大切さに気付いたのだ。

 

「おい、アレは何だ?」

 

千葉が律の画面を指差すと、清麿の持つ本が金色に輝いている。そして清麿もそれに気付いて呪文を唱えると、クリアの攻撃で痩せこけていたガッシュの体が元通りになった。

 

「高嶺達って、あんな術まで持ってたの⁉」

 

「何が起こったんだ?」

 

岡野とイトナが怪訝そうな顔をする。先程まで死にかけていたガッシュの体が全快したのだから無理もない。他の生徒達も、ガッシュが元気になった喜び以上に彼等に起こった事への疑問が勝る様子だ。

 

「……あれってもしかして」

 

菅谷が口を開く。ガッシュの全快の原因には、彼は心当たりがあるようだ。

 

「菅谷、何か知ってるのかよ?」

 

「ああ、ガッシュ達に聞いた事があるんだ。あいつ等の友達の魔物の中で、どんなダメージを負ってもすぐに回復する術を持った奴がいるってさ」

 

岡島の問いに菅谷が答える。そして菅谷はガッシュペアが話してくれたダニーの事を思い出す。今ガッシュが使った術はダニーのそれと同じ物では無いのかと、彼は考えている。

 

「美術館に行った時に聞いたな。言われてみればそうなんだが、ガッシュ達が自分の友達の魔物の術を使えるって……そんな事があるのか?」

 

菅谷と同じく話を聞いていた三村も同じ結論に至ったが、まだ半信半疑といった様子だ。その一方で画面越しでは清麿がシン・ゴライオウ・ディバウレンを唱え、全身に刃を纏った巨大な白虎を召喚していた。

 

「あれってもしかして……」

 

「間違いない‼リィエンさんのパートナーの術だよ‼」

 

先程まで悲しみに満ち溢れた顔をしていた倉橋と矢田の表情が明るくなる。彼女達は、共にビッチ先生の弟子であるリィエン経由でウォンレイの術の事を知っている。だから2人は巨大な白虎をウォンレイの術であるとすぐに分かったのだ。

 

「そんな奇跡みたいな事があるのか……まあ彼等が経験した苦労の事を考えれば、妥当なのかもしれないが」

 

竹林が指で眼鏡を上げながら感嘆する。厳しい家庭環境で育って来た彼には重圧にさらされる境遇に置かれた者の気持ちはよく分かり、ガッシュペアが背負う物の重さを理解する事が出来ている。そんな時、

 

「……王道展開その2来たーーーー‼」

 

不破がガッツポーズをしながら叫ぶ。これまで出会いと別れを繰り返した魔物達が最終決戦に向けて力を貸してくれる。彼女にとってはたまらない光景の様であり、自身の瞳からは炎が出ている。

 

「魔界にいる友達の助太刀‼その友が持つ最強クラスの術の使用……そんなのずる過ぎるよ‼」

 

不破のテンションが限界を超える。彼女にとってガッシュペアの戦いは、漫画の世界が現実に現れたかのように錯覚してしまう程の物である。気合が入りまくる彼女を見た多くの生徒が苦笑いをする。

 

「不破さん、冷静になろうね……」

 

そんな不破を見かねた原がなだめる。こんな場面でも彼女のおかん気質は健在だ。

 

「これなら勝てる‼頑張れー‼」

 

その一方で茅野は涙を流しながら立ち上がる。しかし先程とは異なりその顔には陰りはなく、希望に満ちた表情をしている。そんな彼女は満面の笑みを浮かべて隣にいる渚の肩を何度も叩く。

 

「良かったー‼本当に良かったー‼」

 

「ちょっ……茅野、痛いから‼」

 

茅野が嬉しいのは分かるが、それで痛い思いをする渚はたまったものでは無い。多くの生徒達が呆れ混じりの顔で2人に視線を向ける。

 

「ゴメン、渚……」

 

ふと我に返った茅野が顔を赤くしながら謝罪する。

 

「お前等はしゃぎ過ぎじゃないか?まだ決着はついてないだろ?」

 

「杉野……それは茅野と不破さんに言ってよ」

 

何故か自分まで舞い上がっている扱いを受けた渚は、若干不満そうな顔を見せる。しかし彼の表情はどこか嬉しそうだった。その頃画面の中では、ガッシュの体が小麦色の獣の姿になっていた。

 

(あの術は⁉)

 

磯貝がそれに反応する。この術の本来の持ち主はリーヤである。アリシエを経て彼の術の事が分かっていた磯貝はリーヤの存在に気付く事が出来た。

 

 清麿がジオルクを唱えた瞬間にE組の雰囲気は明らかに一変した。彼等はガッシュペアと殺せんせーの勝利を疑わない。そしてシン級の術のラッシュが続く中、清麿はシン・サイフォジオを唱えた。

 

「あの術で高嶺達も回復したっぽいね」

 

「うん、ティオちゃんの術だ!」

 

中村の言葉に渚が続く。彼は清麿達からティオの守りと癒しの術について聞いていた。彼女と仲の良かった渚は、ティオが魔界に帰った後も清麿達に力を貸してくれている事をとても喜んでいる。その時、画面ではクリアが上空に旅立つ。

 

「おい、アイツは何処に行くつもりなんだ⁉(何だろう……嫌な予感がする)」

 

「ハァ⁉ここに来て逃げるのかよ⁉」

 

磯貝と前原が声を荒げる。特に磯貝はクリアのする事に対して内心胸騒ぎがしており、気が気でない様子だ。そして彼の予想通り、クリアは最悪の行動に出る。

 

「宇宙だァ、んなの有りかよ⁉ヒキョーにも程があんだろ‼」

 

寺坂が画面越しにクリアを怒鳴るが、今にも律ごと掴みかかろうとする彼を吉田と村松が取り押さえる。しかし寺坂の言動をクリアは知る由も無い。そしてE組には不安気な雰囲気が漂い始める。その時、映像内でガッシュペアはコルルとウマゴンのシン級の術を使用する事でクラス内に再び希望が宿る。そして彼等が宇宙に旅立つ様子を見て、倉橋が口を開く。

 

「あの術……ウマゴンちゃんの術じゃないかな⁉」

 

彼女はガッシュペアにウマゴンの術の事を聞いていた。そして彼等がウマゴンの術を使った事を知ると、倉橋の目からは再び涙が流れる。

 

(ウマゴンちゃん……2人をお願いね)

 

彼女は心の中で呟いた。

 

 

 

 

 律のカメラは宇宙までは行く事が出来ず、そこでの様子を生徒達が知る事は叶わない。そんな彼等はガッシュペアを信じて無言で画面を凝視する。そんな時、

 

「おい、あれ見ろよ!高嶺達じゃねーか?」

 

「ホントだ!あいつ等、勝ったんだな!」

 

木村と岡島が、ヴィノーを抱える清麿とガッシュを発見する。そして彼等が地上に降り立った時、クラス内では歓声が沸き起こる。

 

「「「「「やったーーー‼」」」」」

 

E組一同、ガッシュペア及び殺せんせーの勝利を心底喜ぶ。隣にいる者同士肩を組む者、お互いに手を取り合う者、感動のあまり涙を流す者、クラス内の反応は様々だ。特に不破の興奮の仕方はとてつもなく、原になだめられていた。

 

「私も嬉しいです!高嶺さん、ガッシュさん。本当にお疲れ様でした!」

 

先程まで映像を流していた律も喜びの顔を見せる、その時の彼女は、まるで生きた人間そのものの表情だった。

 

「一時はどうなる事かと思ったわ……魔物の戦いって心臓に悪いのね」

 

その一方で片岡の顔色はあまりよろしくない。彼等の勝利への喜び以上に、現実離れした戦いを見せられてどっと疲れた様子だ。そんな時、彼女の後ろに岡野と矢田が迫る。

 

「メグ、ちょっと元気なくない⁉」

 

「そうだよ‼せっかくガッシュ君達が勝ったんだから、一緒に喜ぼうよ‼」

 

2人が片岡に抱き着く。いきなりの事で呆気に取られた彼女だったが、すぐに満更でもない表情を浮かべて、嬉しさを2人と共有するのだった。

 

「無事に終わって良かった。高嶺にしろガッシュにしろ、見ててヒヤヒヤする場面が結構あるんだよな」

 

「でも、それがあいつ等にとって当たり前なんだろうね。だからこそ、2人共あんなに強いんだ」

 

多くの生徒達が感情を露わにする中、千葉と速水は比較的落ち着いている。しかし2人共内心では清麿達をとても心配しており、彼等の帰還をとても嬉しく感じている。

 

「うえ~ん、良かったよ~!」

 

倉橋・茅野・奥田の3人が嬉し涙を流しながら手を取り合う。今回の戦いを見て最も涙を流したのは、間違いなく彼女達であろう。そしてそんな3人を見た神崎が輪に混じり、彼女達と抱き合う。

 

「いやー、皆はしゃいでるね~」

 

「はは。無理もないよ、あの戦いの後じゃ」

 

「あんなのを見て、平常心でいる方が無理でしょ」

 

「まあ、これであいつ等にとっても一安心なんじゃねーのか?」

 

カルマ・渚・中村・寺坂が盛り上がるクラスを見ながら話す。千葉や速水と同様に彼等も割と通常通りの言動をしているが、ガッシュペアの肩の荷が下りた事でホッとしている。ちなみにその隣では吉田と村松が肩を組んではしゃいでいる。

 

「僕も負けてられないかな、これは」

 

「渚君、いつになく殺る気だね?」

 

渚が気合いを入れる。勿論放課後に行われる3者面談に向けてだ。ガッシュペアと殺せんせーの不屈の精神を見た彼は、自分も堂々と母親と向き合う覚悟を改めて決める。

 

「お、渚の男気が見れそうだね~。頑張りな」

 

「そういや渚のが残ってたな。まあ無理すんなよ」

 

中村と寺坂も渚の応援をしてくれる。彼等の思いを受け取った渚の表情は、いつになく強気な物になる。

 

「渚さん、ファイトです!」

 

「律まで……皆、ありがとう」

 

律も渚に声をかけてくれる。多くの生徒達が殺せんせー等の勝利を喜ぶ中、渚はその先を見据えて自分が挑むべき戦いに向けて心を整えるのだった。

 




 読んでいただき、ありがとうございました。律の性能なら可能であると思い、彼女の作ったカメラでガッシュ達の激闘を皆で見守る描写にしました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。