ガッシュペアの暗殺教室   作:シキガミ

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 本小説におけるクリア編はこれで終わりです。よろしくお願いします。



LEVEL.64 祝勝の時間

「清麿‼楽しいのう、楽しいのう‼」

 

「そうだな、ガッシュ。皆には感謝しないと‼」

 

 料理を頬張りながらガッシュがはしゃぐ。その隣で清麿がE組の事をありがたく感じていると突如教室の扉が開く。そこには、汗をかきながら教室まで来てくれた烏間先生がいた。

 

「高嶺君‼ガッシュ君‼無事だったか⁉」

 

「「烏間先生‼」」

 

先生が形相を変えてガッシュペアに駆け寄る。それだけ彼も2人を心配していたのだ。

 

「帰ってきてくれて良かった!怪我はしてないか⁉」

 

「怪我を治す呪文を使える仲間がいたので大丈夫です。俺達は敵を倒し、無事に帰って来る事が出来ました」

 

「烏間先生、心配してくれてありがとうなのだ」

 

先生の返答に2人が答える。それを聞いた彼はようやく安心したような表情を見せた。烏間先生は元々防衛省の人間だが、生徒達の事を心底大切に思ってくれている。そんな先生は出張先から椚ヶ丘まで戻ると、2人のお祝いをする事を聞いた後に走ってここまで来てくれたのだ。

 

「カラスマ、随分動揺しているじゃない。良いわ、私が癒しを与えて」

 

「2人共大丈夫そうだな」

 

「おい無視すんな‼」

 

ガッシュペアを心配するあまり平常心を保てていない烏間先生を見かねたビッチ先生は、彼を露骨に誘おうとするが華麗にスルーされてしまった。これには当然彼女は憤慨する。

 

「イリーナ、話は後で聞いてやるから荒ぶるな」

 

「な、何よ……」

 

しかし、烏間先生もビッチ先生の事が眼中に無かった訳では無い。そんな彼の予想外の反応を見た彼女は顔を赤くする。烏間先生に相手にされていた事が嬉しい様子だ。

 

「死神の件を経て、2人の距離が近付いていますねぇ。ヌルフフフ」

 

「タコ、今お前を殺してやっても良いんだぞ……そもそも、今日は高嶺君とガッシュ君の祝勝会なのだろう。俺達の事を話す必要は無いと思うが?」

 

殺せんせーが冗談交じりに茶々を入れると、烏間先生が恐ろしい殺気を放って口を開く。案外彼も、ビッチ先生の事は満更でも無いのかもしれない。

 

「清麿、烏間先生が怖いのだ」

 

「まあ、仕方ない……」

 

ガッシュペアは烏間先生に恐怖を感じる。そんな先生も落ち着きを取り戻した後に席に着き、祝勝会は再開された。

 

 一同はしばらく席について近くの者と話していたが、机の上の料理も食べ尽くされていき、席を立ってダベる生徒達も多くなる。そしてガッシュの席には岡野が来てくれた。

 

「ガッシュ、本当にお疲れ様。凄い戦いだったね」

 

「ウヌ、ひなた。クリアは強敵だったからの」

 

彼女はまず、ガッシュに労いの言葉をかける。彼等の戦いぶりを見た岡野は何やら思うところがあるようだ。

 

「あれを見てガッシュの凄さは改めて分かった。魔物の身体能力は並外れている。でも何だか……運動で負けたくないって気持ちが強くなっちゃった」

 

魔物同士の戦いは過酷であり、生半可な強さでは勝ち残れない。ガッシュの運動能力はかなり高いレベルまで鍛えられている。並の人間なら追いつこうとも思えない物だが、負けず嫌いな彼女はそうでは無い。

 

「ガッシュがどんなに凄くても、私はずっとガッシュのライバルであり続けたい。これからもよろしくね。気を抜いてると追い越しちゃうから!」

 

「ウヌ……望む所なのだ‼」

 

岡野は笑みを浮かべながら改めてガッシュにライバル宣言をする。運動神経に自信のある彼女にとって、魔物の身体能力は見過ごせない。彼等はこれからも自分を高め合っていくだろう。その時、

 

「お前等、こんな時まで何張り合ってんだよ……」

 

「随分気合入ってるな」

 

「ひなたは相変わらずだね」

 

前原・磯貝・片岡が2人の方に来た。彼等は席も近くて一緒にいる頻度が高い。特に磯貝と前原、片岡と岡野はそれぞれ親しい間柄である。

 

「ガッシュ君達にあんまり無茶はして欲しくは無いんだけど、魔物の戦いはそうも言ってられないのよね」

 

「そうだの、メグ。私は何としても勝ち残って優しい王様にならなくてはならないのだ!」

 

多くの生徒がガッシュペアの勝利を喜ぶ中、片岡は2人が戦いでボロボロになった姿を今でも痛々しく感じている。しかしどんなに自分達が傷付こうとも、彼等に立ち止まる選択肢は無い。

 

「ガッシュ、電撃のナイフでの暗殺は見事だったな!」

 

「磯貝、ありがとうなのだ!」

 

“戦闘”から“暗殺”の切り替え。常に殺せんせーを狙い続ける生活を経験しなくては成し得なかった攻撃。磯貝は素直に感心する。

 

「お前が王になるまであともう一歩だな。頑張れよ!クラスの皆もアリシエも応援してるからさ!」

 

「ウヌ!リーヤもこの戦いに協力してくれておったぞ」

 

彼のみならず、クラス全員がガッシュペアの応援をしてくれる。その事はさらにガッシュを喜ばせる。そして彼は友であるアリシエの名前を出した。彼もまたナゾナゾ博士からの手紙でクリアとの戦いについて聞いており、2人の身を案じている。

 

「アリシエさんか、磯貝から話は聞いてるけどまだ会った事は無いんだよな。それより……ガッシュと一緒に戦ってたもう1人のパートナーの人って超美人じゃねーか‼是非お近付きになりたいんだが」

 

前原の女好きはここでも健在だ。そんな彼はシェリーと交友関係を持ちたい様である。

 

「前原、シェリーと友達になりたいのかの」

 

「ガッシュ、それは聞かなくて良いから!」

 

「ちょ、おま……」

 

しかし、前原の懇願は岡野によって遮られた。彼の女癖には辟易としている様子だ。そんな光景を磯貝と片岡は苦笑いをしながら見ている。

 

 

 

 

 その頃、清麿はガッシュとは離れた席で不破・原・三村・菅谷・岡島と話していた。

 

「高嶺君、凄い戦いだったよ‼王道展開の連発からの強敵相手に勝利‼2人をモデルにした漫画、描いてみようかなぁ?タイトルは金色の……」

 

「テンション上がりすぎだろうに。あと、勝手に人を漫画のモデルにするんじゃない」

 

「不破さん、昨日からずっとあんな感じなんだよ」

 

「そうだったのか……」

 

戦いが終わっても不破の興奮は収まらない。それを見た日、彼女は夜眠れなかったという。そんな不破に対して、原と清麿は何とも言えない表情をする。

 

「けど、気持ちは分からんでもないかもな。俺もあの戦い見てるとき、まるで映画の世界に入り込んだ気分になっちまったからさ。あの映像は色々参考になるかもしれん」

 

「確かに色んな術の造形を見れた。いつか魔物の術の絵も描いてみたいぜ」

 

「そうだな。あんなバトルの写真をうまく取れりゃ、やる気が出るってもんだ!」

 

三村・菅谷・岡島もまたこの戦いに感銘を受けて、自分達の趣味のモチベーションが向上している。芸術分野に興味のある彼等にとって、非現実な出来事は良い刺激になる様だ。

 

「皆お熱いねぇ」

 

「ははは」

 

気持ちが高ぶっているのは3人も同じだ。そんな彼等を原と清麿は、少し困ったような顔をしながら見ている。

 

「そういや高嶺。ガッシュの体が全快した術って、お前等がシェミラ像絡みで会った魔物の術で間違いなんだよな?」

 

「覚えていたのか、その通りだ。ダニー以外にも多くの魔物が力を貸してくれた。皆の協力が無ければ、俺達は負けていただろう」

 

菅谷の問いに清麿が答える。この戦いは自分達だけでは到底乗り越える事は叶わなかった。金色の本の力が目覚めて、初めてクリアの勝利する事が出来たのだ。ガッシュペアがそれを忘れる事は無い。清麿がその話をすると、何故か不破達が少し申し訳なさそうな顔を見せる。

 

「どうしたんだ、お前等?」

 

「いやぁ、何と言うかさ……」

 

「高嶺達が大変な思いしてたのに、俺等だけで盛り上がっちまった事に対して罪悪感をだな」

 

ガッシュペアにとってこの戦いは死闘そのものだ。彼等は文字通り命を駈けて勝負に挑んだ。岡島と不破を始め、そんな状況にもかかわらず彼等はその戦いを勝手に楽しんでいたのではないかと感じた様だ。

 

「気にしなくて良いぞ、皆応援してくれたじゃないか。それに俺達は無事に成し遂げられた、あとはブラゴ達に勝つだけだ」

 

清麿は皆を責めるような素振りは見せない。そんな彼の言葉を聞いた一同は安心したような表情を見せる。その後、不破が口を開いた。

 

「えっとね、高嶺君」

 

「どうした?」

 

「今回以外にも、今までの戦いの事も聞かせてもらって良いかな?」

 

彼女はこれまでの2人の事も知りたい様だ。それは自分達が楽しむ為では無く、仲間である彼等がどのような道を歩んできたのかを少しでも理解したいからである。

 

「勿論構わないぞ」

 

「ありがとう!」

 

清麿は2つ返事で聞き入れてくれた。その事が不破にとって余程嬉しかったみたいで、彼女は満面の笑みを浮かべてお礼を言う。

 

 清麿はこれまでの戦いについて不破達に話す。彼女等が話に聞き入っていると、寺坂・吉田・村松が清麿達の方に来た。

 

「オイおめー等。せっかくの宴だからって、タコが余興やってくれる奴探してたぜ」

 

寺坂は面倒くさそうな顔でそう言う。彼は最初に殺せんせーから何かやるように言われたが、断ってしまったのだ。そこで今度は先生から誰かやってくれる人がいないか探すように頼まれたのだ。

 

「三村!お前のエアギターを披露するタイミングじゃねーのか?」

 

「吉田、何故それを⁉」

 

吉田の発言を聞いた三村が動揺する。彼の隠れ趣味“エアギター”。誰にも見られない場所でこっそり嗜んでいたが、残念ながら吉田に見られていた。ちなみに殺せんせーはその事を知っている。三村の意外な一面が暴露され、彼に視線が集中する。

 

「あーもう‼分かったよ、やれば良いんだろ⁉」

 

三村は半分やけになりながら教壇の前に立つ。

 

「三村航輝、エアギターやります‼」

 

「よっ、三村君待ってました‼」

 

三村の掛け声と同時に、何故か音響の準備をしていた殺せんせーがDJの恰好をしながら曲を流す。ヘヴィメタルな曲と共に、通常の彼では考えられないような激しい動きを見せて来る。彼の意外な一面が露わになったと同時に場が一気に盛り上がる。

 

 

 

 

 一方で、別の席で三村のエアギターを見たガッシュは目を輝かせる。彼自身も余興に参加したくなった様子だ。

 

「ウヌゥ、私も何かやりたいのだ‼」

 

「よしガッシュ‼俺達はフォルゴレさんの曲で踊ろうぜ‼」

 

ガッシュに便乗して前原もやる気を出す。彼等は一度フォルゴレと共にわかばパークでのショーに参加している為、振り付けも覚えている。そんな2人の元に、三村のエアギターの写真を取りながら席を移動していた岡島が合流する。

 

「岡島、丁度いい所に来た。俺等も芸をやろうと思ってたんだよ‼」

 

「この3人ってことは、フォルゴレさんのダンスか?よし分かった‼」

 

「楽しみだの‼」

 

岡島は前原の考えている事をすぐに察して迷わずOKしてくれた。彼等のノリの良さは一級品だ。

 

 

 

 

 三村の芸が終わると、ガッシュ・前原・岡島が前に出る。そして殺せんせーは“無敵フォルゴレ”の曲を流す。初めに彼等は“チチをもげ!”を流そうとしたが、女生徒達に止められてしまった。そしてこの宴の主役であるはずのガッシュまでもが余興に参加している様子を呆れながら見ている生徒がいた。

 

「何であの子まで踊ってるのよ。主役らしくどっしり構えていれば良いのに」

 

狭間が眉をひそめながら呟く。そんな時、

 

「まあ、ガッシュらしくて良いんじゃないか?彼も大きな戦いの1つが終わって、肩の荷が多少なりとも軽くなったのだろう」

 

「皆さん、とても盛り上がっていますね!」

 

「昨日あんな激闘を繰り広げたとは思えない程にな。全く大した奴だ」

 

近くにいる竹林・律・イトナが狭間に話しかける。ハイテンションなガッシュを見て、彼の重圧が薄れた事を喜ばしく思っている様子だ。

 

「ガッシュちゃんが楽しんでるならそれでOKだよ。ガッシュちゃんが王様になったら、楽しい魔界になりそうだよね」

 

彼等の会話に倉橋が混じる。彼女は王様になったガッシュを想像して口角を上げる。ガッシュなら王になっても大丈夫だと倉橋は確信しているのだ。そんな彼女の考えを察した狭間・竹林・律・イトナも同意する。

 

 

 

 

「やけに楽しそうだな……」

 

 清麿もまたガッシュが芸をしている様子を呆れ混じりに見ている。そんな彼の元に木村と千葉が声をかける。

 

「高嶺は何かやらないのか?」

 

「それは面白そうかもしれんな」

 

「断る」

 

2人が冗談交じりに清麿に芸を勧めるが、彼にはその気は無い。

 

「高嶺ってそういう柄じゃないでしょ」

 

「だからこそ見てみたいってのもあるけどね」

 

「勘弁してくれ」

 

続いて速水と矢田が清麿に話しかけるが、あくまで彼は芸に参加する気は無いようだ。

 

「それは冗談として……本当にお疲れ様、高嶺。あの戦いは見ててヒヤヒヤしたぞ」

 

まずは千葉が労いの言葉をかけてくれた。彼はガッシュペアの強さが分かっているが、2人が窮地に立たされた場面を見せられて気が気で無かったのだ。だからこそ千葉は2人が戦いに勝利してくれて心底安心している。

 

「アンタ達はちゃんと戻ってくると思ってた。一先ずお帰りなさい」

 

速水の素っ気ない口調は健在だ。しかし彼女も他の生徒と同様に2人を心配していたのは、ここだけの話である。

 

「今はこう言ってるけど、凛香ってホントは高嶺君達の事を凄く気にかけてたんだよ」

 

「矢田、余計な事言わなくて良いから」

 

「ハハハ。取り敢えず心配させたのは悪かったよ」

 

素直でない速水の心境を矢田がバラしてしまった。そして速水は顔を赤くしながら矢田を嗜める。矢田自身は悪気があった訳では無いが、速水からのお叱りを受けた事で彼女は少しバツの悪そうな顔を見せる。そんな光景を見た清麿が笑う。

 

「やっぱ魔物の力ってスゲーんだな。改めて思い知らされたわ」

 

「ガッシュもかなり特訓したからな。それに暗殺の訓練も加わって、アイツはかなり強くなったよ」

 

木村が魔物の強さに感心する。かつて落ちこぼれ呼ばわりされていたガッシュの実力は清麿と共に戦いを乗り越える度に高まっていき、仲間と協力し合いながらもここまで勝ち残る事が出来たのだ。

 

「俺達も、もっと強くならないとな」

 

「そうね。殺せんせーを暗殺する為にも」

 

ガッシュペアの戦いぶりを見て、千葉と速水は殺せんせー暗殺の意志を改めて固める。元々仕事人気質な2人だが、ガッシュペアを意識している所もあるようだ。

 

「そうだな。岡野じゃねーけど、俺も負けてられん」

 

木村も同じことを考えている。彼もまた負けず嫌いな性格だ。2人の戦いはE組の生徒の多くに影響を与えるのには十分だ。

 

「皆気合入ってるなぁ。でも、ガッシュ君達があんなに頑張ってる姿を見ちゃったからね……本当に、2人が無事に帰って来てくれて良かった。凄く心配したんだよ」

 

「ありがとな、矢田」

 

一方で矢田は少し暗い表情を見せる。それ程に2人の事が心配だったのだ。優しい性格の彼女には、魔物の戦いは刺激が強かったのかもしれない。そこまで気にかけてくれる矢田に対して、清麿は嬉しそうな顔で礼を述べるのだった。

 

 

 

 

 ガッシュは芸を終えた後に自分の席に戻る。そんな彼を神崎と杉野が待ち受けていた。

 

「ガッシュ君、ダンスお疲れ様。とても上手だったよ」

 

「宴会の主役が余興ってのも、中々レアな気がするけどな」

 

「ウヌ、とても楽しかったぞ‼今までも色んな者達とダンスをしてきたのだ!」

 

今回やわかばパークのダンス以外にも、ガッシュは何かある度に誰かと踊る頻度が高い。ヨポポ、ビクトリーム、コーラルQ、ビッグボイン等様々だ。それは戦いの最中だろうとお構いなしである。そんな話に2人は笑みを浮かべながら耳を傾ける。

 

「魔物って楽しそうな奴がたくさんいそうだな。色んな魔物を見てみたかったぜ」

 

「王様を決める戦いがなければ、良い子が多いんだろうね。私も会ってみたいなぁ」

 

杉野も神崎も他の魔物達に興味津々だ。

 

「そんな数多くの魔物が住む魔界をガッシュは守り切ったんだよな。ホントにスゲー事だと思う」

 

「しかし杉野、私だけではそれを成し遂げられなかったのだ。他の魔物達も協力してくれたからクリアを倒せた。皆には感謝しておる!」

 

杉野は改めて感心する。もしも金色の本の力が出現しなかったら、ガッシュペアはクリアを倒す事が叶わずに魔界は滅びていたであろう。他の魔物達と協力する事で魔界の滅亡を防げた。ガッシュペアがそれを忘れて力に溺れる事は無い。

 

「ガッシュ君はこれまでもそんな小さな体で戦い抜いてきたんだよね、優しい王様になる為に。そして今回の戦いでもガッシュ君が諦めずに頑張ったからこそ、皆も力を貸してくれたんじゃないかな?」

 

神崎はガッシュの頭を撫でながらそう言う。実際にその通りだ。ガッシュペアは最後まで逃げる選択肢を取らなかった。だから他の魔物達が感銘を受けて金色の本が発動するに至ったのだ。

 

「有希子……兄のゼオンも似たような事を言ってくれたのだ。魔界の王を決める戦いは悪い事だと考えておったが、私達が戦ってきた事は無駄では無かったのだな」

 

「戦いの善し悪しは分からないけど、これが無ければ皆ガッシュ君に会えなかったんだよね……それはちょっと寂しいかな」

 

「……それもそうだの」

 

ガッシュは未だに悩んでいる、魔界の王を決める戦いが本当に悪い事なのかどうか。コルルを初めこの戦いで傷付いた者は多いが、それを経て多くの者達が成長しているのも事実だ。この戦いがあったからこそE組もガッシュペアと共に楽しい時間を過ごせた。それが無かった事になってしまうのは、皆にとっても好ましくない。

 

 彼等がその事について考えていると、ガッシュの後ろから物凄い勢いで抱き着いてくる女生徒がいた。

 

「ガッシュ君~~‼」

 

「ヌオッ……カエデ⁉」

 

言うまでも茅野である。彼女がそこまでするのはそれだけガッシュが心配だったからであろう。画面越しではあるが、目の前でクラスメイトが消えかけたのだ。不安にならない訳が無い。そんな彼女共に奥田もガッシュの所に来てくれた。

 

「今回は無事に帰って来てくれたけど、魔物の戦いが終わっちゃったらもうガッシュ君は魔界に帰っちゃうんだよね。そんなの……」

 

ガッシュに抱き着きながら茅野は寂しそうな顔を見せる。魔界の王を決める戦いはガッシュとブラゴの一騎打ちが最後になる。その戦いが終わってガッシュが魔界に帰れば、彼等が再会出来る保証などどこにも無い。二度と会えない可能性の方が高いくらいだ。

 

「確かにそうですよね。私もガッシュ君と二度と会えなくなるのは寂しいですから」

 

奥田もまた悲し気な表情を浮かべる。元々内気であった彼女にもガッシュは明るく接してくれた。そんな彼との別れ。目を逸らしたい事ではあるが、直面は避けられない。辛い真実に耐えかねた奥田は、茅野と同様にガッシュに抱き着く。

 

「私も……ガッシュ君とお別れしたくないです‼」

 

「ウヌゥ、愛美まで……」

 

奥田はガッシュとの別れを嫌がるが、残念ながらそれは受け止めなくてはならない事実だ。当然彼女もそれが分かっている。2人の女生徒が自分にくっついている状況にガッシュは一瞬だけビックリするが、すぐに平常心に戻って言葉を発する。

 

「2人共、心配するでない。清麿が魔界と人間界を繋ぐ方法を考えると言っておった。私も何か探ってみよう……だから今は一緒に楽しい時間を過ごそうぞ!」

 

「うん……うん‼」

 

「はい……今後ともよろしくお願いします‼」

 

今にも泣きそうな顔だった茅野と奥田が再び笑顔を見せる。今の彼女達には不安は無い。これからの別れを嘆くよりも、今共にいる時を有意義に過ごす方が良いに決まっている。そんな3人が一緒にいる状況を見ながら杉野と神崎は温かい目で見守る。

 

「あいつ等は分かりやすく自分の気持ちを相手に伝えているな。確かに思ってる事を素直に口にするのは大切な事だ」

 

「うん、ちゃんと言わないと分からない事って絶対にあるからね」

 

2人は会話を交わす。特に神崎は厳しい父親によって抑圧されてきた過去を持つ為、思いを伝える大切さが良く分かっている。

 

(俺も、神崎さんに素直に思いを伝えられたら……)

 

「杉野君、どうしたの?」

 

「いや、何でも……」

 

杉野は神崎を見て顔を赤くする。そんな彼に神崎が声をかけてくれるが一歩踏み出せない。彼女に対する好意を中々本人に言えないでいる杉野であった。

 

 

 

 

 茅野と奥田に抱き着かれるガッシュを見ているのはこの2人だけではない。清麿もまた渚・カルマ・中村・寺坂と共にそれを目撃していた。

 

「ガッシュって結構モテるよね~。高嶺、アンタ本当にガッシュを取られちゃうんじゃないの?」

 

「顔に嫉妬の2文字が書かれてるよ、高嶺君」

 

「んな訳あるか‼ったく……」

 

「ははは」

 

清麿はいつも通りに中村とカルマにいじられている。この会話の流れを断ち切る方法は【答えを出す者】(アンサートーカー)をもってしても分からないかもしれない。そんな様子を渚は苦笑いをしながら見ている。

 

「まぁ高嶺、テメーもガッシュもよくやったんじゃねーのか?そもそも、あの力があればタコの事もやれんだろ?」

 

寺坂の言う力、金色の本。殺せんせーのマッハ20の速度をもってしてもシン級の術の連打は脅威だ。しかし清麿は首を横に振る。

 

「そんなうまい話は無いさ。あの力も魔界の危機だから出て来たようなもんだしな」

 

「ケッ、今だって地球の危機だろーが。あのタコが爆破させようとしてんだからよ」

 

確かに魔界の滅亡は防がれたが、殺せんせーによる地球の滅亡の危機は去っていない。このまま卒業までに暗殺を成功させなければ、ガッシュペアはブラゴペアとの最終決戦を行う事すら叶わない。

 

「あれ、寺坂がまともな事を言ってるね。頭でも打った?」

 

「珍しい事もあるもんだ」

 

「テメー等うるせーぞ‼」

 

カルマと中村のイジリの対象が清麿から寺坂に移った瞬間である。寺坂は2人を怒鳴るが、彼等はそれを意にも介さない。

 

「2人は変わらないね、清麿」

 

「そうみたいだな、渚」

 

2人はそんな光景を呆れ気味で見ながら、それぞれの名前を呼ぶ。渚の清麿呼びは思った以上にしっくり来ている様子だ。そして呼び方の変化に対してカルマ・中村・寺坂がそれぞれ反応する。

 

「渚君の清麿呼びも、結構様になってるね」

 

「何か渚、高嶺達の戦いが終わってから変わってきてる気がする」

 

「どういう心境の変化だ?別に良いけどよ」

 

「そうだね。清麿とガッシュの戦いを見て、僕は母さんに思いを伝える覚悟が出来たから」

 

ガッシュペアの戦いを見た後の渚と母親の口論は凄まじかった。そんな渚を見て、彼の印象が変わったと感じる生徒達も多い。

 

「いや~、渚の男気が見れたって感じだよ。けど、何も知らずに性別の事でいじっちゃってたのはちょっと不味かったかな?ゴメン」

 

「中村さん、気にしなくても大丈夫だよ」

 

中村が申し訳なさそうな顔を見せる。自分が渚の性別に関して触れていた事を悪く思っているのだ。彼女自身、渚がここまで思い詰めていた事を知らなかったのだ。しかし、当の本人は気にしていない様子だ。

 

「しかし、高嶺もガッシュもあんな強気な渚を見れなかったのは残念かもだね」

 

「まあ、渚君がやる時はまたあるんじゃない?」

 

「おめー等、見世物みたいに言うなよな」

 

「けど、僕も皆で清麿とガッシュの戦いを見てたから人の事は言えないのかな……」

 

ガッシュペアの戦いも渚の口論も、しっかりとE組の皆に見届けられていた。しかし仲間が見ていてくれるのは、3人にとってそれぞれ力になった様だ。

 

「俺とガッシュは皆で倒すべき敵を倒した。渚はE組に残る事が出来た。これでしばらくは暗殺に専念出来るだろう。最も、ブラゴ達との戦いにも備えなくてはならんが」

 

「ブラゴってのは、あの黒い魔物の事だよね?彼等も強そうだったな」

 

「高嶺君達なら大丈夫でしょ。まあ頑張ってよ」

 

「勿論だ、何としてもガッシュを王にして見せる!」

 

ガッシュペアの目的の1つは果たされた。しかしそれはゴールなどでは無い。彼等の戦いはまだまだ続いている。清麿が決意を新たにしていると、ガッシュと目が合った。そしてガッシュペアはそれぞれの顔を見て頷く。お互いにこれから成すべき事は分かっている。それに向けて最大限努力するのは確定として、今はそれぞれこの宴を楽しむ事にした。

 




 読んでいただき、ありがとうございました。クリア編も終って、後は暗殺教室サイドのストーリーが主になっていきます。ちなみに次回はオリジナル回です。
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