学園祭2日目の朝。ガッシュペアは山を登りながら、昨日恵から貰ったチケットについて話していた。
「恵さんとフォルゴレの共演。是非とも見に行きたいところではあるが、A組の店なんだよな」
「そうだの。それに私達にはE組での仕事があるのだ……」
彼等は恵達を見に行く為にA組の店に入るかどうか頭を悩ませる。共に戦った仲間の招待なのだから、本心では足を運びたいと考えている。しかし商売敵であるA組の利益に貢献して良い物なのか、それにE組での業務もあるのではないか。そんな気持ちが2人の決意を鈍らせる。その時、2人の隣を風が走った。
「良いんじゃないですか?行ってあげても」
「「殺せんせー!」」
「ヌルフフフ、おはようございます」
突如殺せんせーが出現した。先生は清麿がそれを受け取る場面を見ていたのだ。そんな彼は2人にA組のステージを見に行く事を勧めて来る。ガッシュペアは黙ったままだ。
「確かに今はA組と売り上げを競っています。ですがせっかくの学園祭、楽しんでも罰は当たらないかと。それに彼等は君達にとって大切な仲間なのでしょう?E組での縁も大事ですが、2人が魔物との戦いで得られた縁もまたかけがえのない物のはずです」
殺せんせーは全てを見透かしたような目をしながらそう言う。楽しい学園祭なのだからA組との売り上げ対決が全てではない。そして先生は“縁”という言葉を口にする。昨日クラスの店に来てくれた客の多くはE組と面識、つまり縁があった人達だ。そんな人々にこれからもE組の皆は助けられていくだろう。
「まあ、考えておいて下さい。それから私の方から長話をしておいて何ですが、E組の校舎まで急いだほうがいいかもしれませんねぇ」
「先生、それって……」
殺せんせーはそう言い残してその場を去る。清麿が事情を聞こうとしたが、先生はもうこの場にはいない。
「清麿、どういう事だったのかの?」
「さあな、取り敢えず校舎に向かうか」
ガッシュペアは早足で山を登る。殺せんせーの言う縁について考えながら。しかし2人がそれについてより深く理解出来るのはすぐ後の事だ。彼等は足を進める。
2人が校舎に向かう途中の道で、何故か行列が出来ていた。まだ開店前だというのに多くの客が待ってくれているのだ。彼等は驚きのあまり目が飛び出そうになるが、話はそれだけに収まらない。何とテレビ局の職員までもが取材に来ており、彼等の対応は三村が行っている。
「ウヌ……何が起こっているのだ?」
「さっぱりわからん。まだ開店すらしてないと言うのに……」
「2人共遅いよー!」
戸惑うガッシュペアに不破が声をかける。2人は彼女の方を向くと不破が事情を説明してくれた。大勢の来客の原因が気になった彼女が律に調査を依頼した結果、E組の店に関する情報源がユウジである事が判明した。彼にはグルメブロガーとしての一面があり、その情報の信憑性は高く、E組で料理をネットで絶賛してくれたのだ。
「そうであったか、優月」
「いやぁ、渚君が女装してまで彼の接客をした甲斐があったよね!」
「アイツには助けてもらいっぱなしだな。渚は災難だったが……」
ユウジには渚の女装がバレてしまったが、彼はそれを責めなかった。それどころか渚からの“欠点や弱点を武器に変える”という言葉に感銘を受け、親から甘やかされてもらった小遣いをふんだんに使い、E組の料理を始めとしたおススメの情報を開示してくれたのだ。
「今日は大忙しだよ!昨日はA組相手に劣勢だったけど、ここにきての反撃の兆し。まさに王道展開‼」
「そ、そうだな……」
不破が目を輝かせる。渚は意図せずに起死回生の一手を放ったのだ。そこから生じる逆転の目。漫画の様な展開に彼女のやる気が増す。そんな不破を見たガッシュペアも店の仕事に取り掛かる。
不破の言う通り客数が昨日の比では無く、E組一同大忙しだ。殺せんせーがガッシュペアに早く登校するよう急かしたのもこれが原因だ。全く知らない客からE組と縁のあった人物まで、多くの人々が来てくれた。そして清麿も自分と縁のある2人組の男女の接客を行っている。
「驚いたよ、サンビームさん。まさかシスターと同居しているなんて」
「ハハハ、まあな。彼女とはクリアとの戦いが終わった後にアフリカの空港で再会したんだ」
「お久しぶりです、清麿さん。どの料理も美味しいですね」
「全くだ、グルービーだぜ。Dr.ナゾナゾも良い店を紹介してくれた」
何とサンビームとシスターがアフリカから来てくれた。学園祭の情報はユウジのみならず、ナゾナゾ博士までもがガッシュペアと関わりのある人々に流していた。勿論全てのパートナーが来れる訳では無いが、ここでも縁が活きている。
「もっとも、彼はヴィノーの親探しがあるから行けないと言ってたがね」
「そうだったのか、残念だ。相変わらずあの人は俺達の見えない所で協力してくれるんだな」
ナゾナゾ博士が来られない事を一同は惜しく感じる。今この時も、博士は自分の成すべき事に尽力している様だ。そして彼等の席にもう1人のE組の生徒が顔を出す。
「サンビームさん、お久しぶりです!」
「やあ、倉橋さんじゃないか」
倉橋はウマゴンを通して彼とも親しくなっている。また生き物が好きな彼女は、動物との意思疎通がそれなりに可能であるサンビームに尊敬のまなざしを向けている。
「およよ、そちらの子は?」
「彼女は清麿のクラスメイトでね、ウマゴンと仲良くしてくれたんだ」
サンビームがシスターに倉橋を紹介すると、彼女達はお互いに挨拶を交わす。しかしウマゴンの名前を出した彼の顔が暗くなる。
「倉橋さん。ウマゴンの事なんだが……」
「はい、ガッシュちゃん達から話は聞きました。お別れしてしまったって」
「聞いていたのか」
サンビームはウマゴンと倉橋を再び会わせる事が出来なくなった事を申し訳なく感じている。アフリカから日本に来ていた間、倉橋はウマゴンと初めて会ってから毎日顔を合わせてくれた。その事をウマゴンも嬉しく感じていたのだが、彼はもう人間界にいない。
「でも、ウマゴンちゃんと二度と会えないとは思っていません。そうですよね?」
「ああ、その通りだ!」
「およよ……(私も再びモモンと会う事が出来るでしょうか)」
倉橋はガッシュペアが魔界と人間界を繋げる方法を見つける事を確信している。そうすれば、帰ってしまった魔物達が再び人間界に来る事が可能であると。そんな話を聞いたシスターは密かにモモンとの再会に期待する。
サンビームとシスターに別れの挨拶をした後に清麿は校舎の中に入ろうとするが、誰かが叫んでいる声が森から聞こえて来た。
「ま~~~~っ‼」
「何だ⁉」
清麿が後ろを振り返る。すると上半身の多くを露出した、妖精のような恰好をした髭を生やした中年の男がガッシュを抱えて、ターザンのごとくツタにぶら下がってこちらに迫ってくるのが見えた。その男とガッシュペアは面識がある。
「ふむ……ここまで来れば問題はなかろう」
「おいアンタ‼何してる⁉」
その男“プロフェッサーダルタニアン”はガッシュペアがイギリスに行った時に出会い、清麿の父親と同じ大学で教授をしている。また彼はどういう訳か魚や妖精などのコスプレをする頻度が高いが、本人は断固としてそれを趣味とは認めない。
「あの人……清麿の知り合いなの?」
「変質者にしか見えないんだけど……」
渚や茅野を始め、そこにいた多くの者が驚愕する。何処から突っ込めば良いかが分からない。ある意味昨日来ていた殺し屋達以上の珍客だ。ダルタニアンとガッシュペアが知り合いだと察したE組達は、怪訝そうな顔で清麿の方を向く。
「知らん‼こんな奴は知らん‼」
皆の視線に耐え切れなくなった清麿はダルタニアンとの面識を否定する。しかし、
「コラー‼清麿ォ‼ダルタニアンを悪く言うでない‼」
「「「「「やっぱり知り合いなんだ‼」」」」」
「ワーーーー‼」
ガッシュが清麿に怒鳴ると、E組一同はダルタニアンがガッシュペアの客であると確信した。そして誤魔化しが効かなくなった清麿は発狂する。そんな中、ガッシュはクラスメイト達にダルタニアンと共にここに来る経緯を話し始めた。
回想
ガッシュは昨日と同じく矢田と共に客寄せをやっていたが、ある家族連れの客が現れた。
「いらっしゃいませ、何に……」
矢田が早速接客を行おうとしたが、ガッシュが尋常ではない程の冷や汗をかいている。彼女は何事かと思ってガッシュの方を見るが、彼は家族の中の女の子の方を向いて震えていた。
「ナ……ナオミちゃん……」
「ガッシュ、こんなところで会うとはね」
その家族はナオミちゃんとその両親だった。久し振りにガッシュと対面したナオミちゃんはいつも通りに泣きながら逃げ回る彼を追いかける。
「ヌオオオオ‼」
「ちょっと、ガッシュ君⁉」
矢田がつかさず止めに入ろうとするが、突如として黒い影が彼等に迫る。その影の正体こそがダルタニアンである。そして彼はそのままガッシュを連れて行ってしまった。そんな様子を見た矢田もナオミちゃん一家も呆気にとられるしかなかった。
回想終わり
ダルタニアンがナオミちゃんからガッシュを守ってくれたのは分かったが、彼が何故妖精のような恰好をしているのかは明かされなかった。
「ダルタニアンは私を助けてくれたのだ‼」
「だーもう‼分かったからお前は矢田のところに戻れ‼」
「ウヌゥ、しかし……」
今山を降りようとすると再びナオミちゃんと鉢合わせするかもしれない。ガッシュはそう考えながら体を震わせていると、ダルタニアンが彼の肩に手を置いた。
「よろしい、私が連れて行ってあげよう!」
「ダルタニアン、ありがとうなのだ!」
「ま~~~~っ‼」
ダルタニアンがガッシュを抱えると、再び彼はターザンのごとくツタにぶら下がりながら山を降りて行った。
「何だったんだ……」
清麿がため息を付きながら仕事にとりかかろうとするが、そんな彼を見る者達がいた。カルマと中村が顔をニヤケさせている。
「あれも知り合い?高嶺君の人間関係どうなってんの……」
「てか、結局鬼麿になってんじゃん」
「じゃかあしい‼」
清麿はダルタニアンの事でいじられてしまった。
その頃ガッシュは矢田と合流していたが、ダルタニアンは帰ってしまった様だ。
「ガッシュ君、今の人って……」
「ダルタニアンは友達なのだ!ナオミちゃんから私を庇ってくれたのだ!」
「……そっか(聞きたいのは、そういう事じゃないんだけどなぁ)」
矢田は苦笑いをしながらガッシュの話を聞く。結局ダルタニアンは料理を注文せずにいなくなったが、彼が何をしにここに来たのかは分からずじまいだった。ちなみにナオミちゃん一家が山を降りてきたときには、ガッシュは矢田の後ろに隠れてやり過ごした。
今日は昨日とは打って変わって客足が途切れる事は無い。しかしE組全員が無休で働く訳では無く、ローテーションで生徒達が休憩を取れるようにしている。ちなみに今は矢田が休憩を取っており、代わりに磯貝がガッシュと共に客寄せを行う。
「お客さんがたくさん来てくれて良かった。忙しいけど、やりがいがあるってもんだ」
「ウヌ!磯貝、頑張ろうぞ!」
磯貝もまた交渉術に長けており、ルックスと人柄を活かして多くの客を引き寄せていく。特に彼がかつて働いていた店での常連客のマダム達からの人気が高い。そんな中、1人の女性客が彼等の元を訪れる。
「いらっしゃいませ!」
「おおっ……つくしではないか!来てくれたのだな!」
「言われた通り来てやったぞ、ガッシュ」
つくしだ。ガッシュが植物園に行って直々に彼女に声をかけていたのだ。そしてつくしはメニュー表に目を通すが、彼女の目の色が変わる。
「驚いた。自然薯を使った料理がこの値段で食べられるなんて」
植物園の管理人を務めるだけあり、つくしは植物に詳しい。そんな彼女は自然薯の価値も分かっている。また他の植物をふんだんに使った料理の数々につくしは関心を示す。多くの生態系が存在する裏山は、つくしにとってもオアシスかもしれない。
「そうなんです‼自然薯がこの値段で食べられるのはここだけですよ‼」
突如磯貝がプッシュを始めるが、これには彼の家庭事情が大いに関わっている。
「俺も卒業後、自然薯堀りを考えてまして……」
「いや、そんな簡単に取れるものじゃないよね」
貧しい環境で育って来た磯貝にとって、自前で高級食材を入手出来る環境は理想的だ。普段の彼からは想像出来ないようなうっとりした表情で将来設計を語る。しかし磯貝の家庭事情を知らないつくしは、無謀な計画を立てる彼に心配の眼差しを向けた。
「つくし、何を食べるのだ?」
「どうしようかな……」
ガッシュに尋ねられたつくしは食べる料理を選ぶ。そして彼女はメニューを注文した後に山を登っていく。その後もガッシュと磯貝は集客を続けるが、再びガッシュペアに面識のある集団がここまで来てくれた。
場面は店に変わる。E組一同は相変わらず大忙しだったが、ガッシュが清麿の良く知る中学生の集まりを引き連れて山まで登ってきた。
「おーい、高嶺くーん!」
「水野達まで来てくれたのか!」
水野、山中、岩島、金山、仲村だ。清麿が椚ヶ丘に転校した後も彼等の付き合いは続いて行く。彼等とのつながりも、ガッシュペアにとっては大切な縁だ。
「清麿。さっき桃花が休憩から戻って来ての、今度は私と清麿が自由時間にしていいと言ってくれたのだ!スズメ達と共に学園祭を楽しもうぞ!」
「そうだったのか」
ガッシュが事情を説明してくれる。彼は水野達と再び行動を共に出来る事が余程嬉しいのか、目を輝かせていた。清麿も彼等に混じろうとするが、そんな彼の肩をふもとから戻ってきた磯貝が叩く。
「恵さんとフォルゴレさんのライブ、楽しんで来いよ!」
「済まない、磯貝」
ガッシュペアは事前にA組の入場券を貰っていた事をクラスメイト達に相談していた。そして彼等は恵とフォルゴレの出番の時間に合わせて、ガッシュペアの自由時間としてくれたのだ。そして2人は水野達の接客を終えると、彼等と共に山を降りていく。
ガッシュペアが水野達と山を降りた少し後に、山のふもとに2人組の男女が訪れる。
「いらっしゃいませ!(あれ、この人達は……)」
「こんにちは、清麿とガッシュはいるかしら?」
来ていたのはブラゴペアだ。矢田は律の動画を通して彼等を見ていたのですぐに2人に気付く事が出来た。
「ごめんなさい、今高嶺君とガッシュ君は席を外してまして……」
「そうか、まあいい」
入れ違いになってしまった彼等だが、ブラゴは特に気にした様子もなく矢田に返答する。彼等は殺せんせーの正体を探る為のヒントが無いかとE組の取り巻く環境を見に来たのだ。そのついでにガッシュペアにも挨拶をと考えていたが、それは叶わなかった。
「ところで、この店にはワニの肉は無いのか?」
「え……ワニ?」
ブラゴはワニの肉が好物だ。そんな彼はE組を取り巻く自然の中ならワニがいるかもしれないと踏んだが、残念ながらここでは取れない。
「ある訳ないでしょう、全く……あなた、この子の言う事は気にしなくて良いから」
「は、はぁ」
ブラゴの無茶振りに困惑する矢田に対してシェリーがため息をつきながらフォローを入れる。そして彼等も料理の注文を終えると山を登って行った。
その一方でガッシュペアと水野達は浅野率いるA組の店に入場する。そんな清麿を見かけた浅野が声をかけて来る。
「高嶺、何故ここにいる?敵に塩を送る程E組に余裕があるとは思えないが?」
「そんなつもりは無いぞ。俺達も大海恵とパルコ・フォルゴレを見に来たんだよ」
明らかに敵意を向けて来る浅野に対して清麿が呆れ混じりに返答する。E組とA組が売り上げを競っているのは他の生徒の知るところでもあり、浅野は敵に情けをかけられたと周りに勘違いされる事を懸念していた。
「まあいい、客として来てくれるなら丁重に扱ってやる。ご丁寧に入場券まで持っているようだからな。ゆっくりしていけ」
「それはどうも」
浅野はそのまま自分の仕事へ戻っていく。そして清麿達も客席まで足を運ぶが、清麿の顔を見た本校舎の生徒達が彼等から離れていく。彼が鬼麿として本校舎から恐れられているのは相変わらずだ。
「何か俺等、さけられてねーか?」
「さっきの人も、高嶺の事を目の敵にしてたよねぇ」
「……ノーコメントだ」
そんな様子を見て山中と岩島に疑惑の眼差しを向けられた清麿だが、彼は知らん振りをする。他のクラスの人間に怖がられている事実を皆にあまり話したくないと考えている。そうでなくとも清麿には多くの仲間がいるので、本校舎の生徒からの評価などどうでも良い。
恵とフォルゴレの共演と言う事で、客席は完全に埋まっている。立ち見している者もいるくらいだ。そして2人が入場して場は盛り上がるが、水野の顔色が優れない。
(高嶺君とガッシュ君、事前に入場券持ってたな。高嶺君て、恵ちゃんの事が……)
彼女は清麿に好意を持っているが、彼と恵が親しい関係にある事を知っている。そんな水野は清麿の事を恵に取られてしまうのではと考えており、気が気で無い様子だ。そして元気のなさそうな水野を見かねたガッシュペアが声をかける。
「スズメ、大丈夫かの?」
「人が大勢いるから人酔いでも起こしたか?水野」
「え……大丈夫だよ、2人共!ホラ、恵ちゃんとフォルゴレさんが入ってきたよ!」
彼等に心配をかけまいと水野が誤魔化す。そして彼女の言う通りに2人が入場して来ると、観客のテンションのボルテージがマックスになる。恵とフォルゴレが自己紹介を行った後、2人のデュエットが開始される。
「清麿、2人共とても楽しそうなのだ!」
「そうだな、ティオやキャンチョメと別れてふさぎ込んでいる感じでもなさそうだ」
恵もフォルゴレも魔物の戦いを終えて新たな一歩を進んでいる。彼等とていつまでも後ろを向いている訳にはいかない。ガッシュペアがそんな事を考えていると、丁度2人と視線が合った。そして彼等は客席から2人に手を振ると、恵とフォルゴレが頷いてくれたように見えた。
2人の出番が終わったので清麿達は外に出る。他の芸能人の出演も残っているが、初めから彼等の目的は恵とフォルゴレのみであった。
「あの2人の共演ってヤベーよな。あっという間に時間が過ぎて行ったぜ」
「そうだねー、楽しかったよ」
金山や仲村を始め、彼等のテンションは上がりっぱなしだ。それ程の2人の影響力は大きい。一行はしばらくその話題で盛り上がる。そんな中で清麿が口を開いた。
「悪い皆、俺とガッシュはそろそろE組に戻るよ」
「ウヌゥ……もっと店を回りたいが、やる事があるからの」
彼等は目的を果たした。それに今でもE組一同は仕事に励んでいる。そんな中で自分達ばかりが店を開ける訳にはいかない。それを聞いた水野達は少し残念そうな顔を見せる。
「まあ、仕方ないか……2人共、また会おうね!」
水野達はガッシュペアに別れの挨拶を述べた後に他の店を回り始めた。学園祭はまだまだ続いているのだから。そんな彼等の後姿を見た後に2人もE組の店に戻る。
ガッシュペアは山を登りながら今日の2人のライブについて話す。彼等の息はピッタリ合っており、それぞれの魅力を損なう事なく共演を果たしていた。また冗談交じりにフォルゴレが恵の乳を揉む素振りを見せた(実際には触っていない)が、彼女の合気道の技を喰らわされていた。その事ですら2人は笑いに変えており、客からのウケは非常に良かった。
「そう言えば清麿、2人に会いに行かなくて良かったのかの?」
「そうしたいのは山々だが、恵さんもフォルゴレも仕事で来てるからな。まだまだやる事があるだろう。それに堂々と2人の仕事場に乗り込むのは流石にな……」
ガッシュペアは仕事終わりに2人に挨拶に行きたかったが、仕事中の彼等の邪魔をする訳にはいかない。清麿はそう判断して真っ直ぐE組の店に戻る事にした。そして2人が歩いていると、1人の短髪の女性が歩いてくるのが見えた。そして彼女はガッシュペアに声をかける。
「あなた達、渚のお友達よね?」
この女性こそが渚の母親、潮田広海だ。渚の話を聞く限り2人は彼女に良いイメージを持っていなかったが、彼女からは悪意は感じられなかった。
「急にごめんなさい、渚の母です。あの子がどうしてもE組を抜けたくないって言うから、一目このクラスの事を見に来たかったのよ」
彼女は穏やかな口調で話を続ける。そこにはかつて渚を強引に縛り付けようとした毒親はもういない。ガッシュペアは黙って彼女の話に耳を傾ける。
「実はあの子と一度、E組の事で大喧嘩をしちゃってね。まあ、私が悪かったんだけど。その時の渚、あなた達と同じ眼をしていたのよね」
その大喧嘩こそが3者面談で繰り広げられた口論である。その時の渚はガッシュペアの影響を大きく受けていた。だから広海も渚と2人が同じ眼をしている様に見えたのだろう。そして渚はE組を抜ける事だけは断固として拒否しており、彼女にはそれが不思議で仕方なく、実際にそこに足を運ぶ事にしたのだ。
「皆凄く楽しそうだったわ。そんな様子を見て、ようやくあの子がE組を抜けたくない理由が分かった気がする」
広海の顔が暗くなる。彼女は今でも罪悪感に苛まれているのだろう。実の息子の事を見てあげる事をせずに、自分の理想ばかりを押し付けてしまった事を。そして彼女は何かを思いついたように再び口を開く。
「!……ごめんなさい、長話をしてしまって。じゃあ行くわね、これからも渚の事をお願いしていいかしら?」
「ウヌ、渚は大切な友達だからの!」
「勿論です」
「ありがとう」
ガッシュペアの返答を聞いた広海は嬉しそうな顔をしてその場を去る。これからの渚達の親子関係はより良いものになっていくだろう。ガッシュペアはそう確信した。
「渚が母上殿と仲直り出来て良かったのだ!」
「そうだな、もう心配はいらない。俺達も自分の成すべき事を成そう」
2人はE組の校舎に辿り着くが、既に閉店していた。客数が予想よりも多かったが、これ以上山の幸に手を出すと個々の生態系が崩れる可能性があり、殺せんせーが打ち止めにした。売り上げの結果はA組が1位、E組が3位となったが彼等に悔いはない。この学園祭を経てE組は縁の大切さを学ぶ事が出来た。そしてガッシュペアは他の生徒達と後片付けを行う。
読んでいただき、ありがとうございました。プロフェッサーダルタニアンは何処かのタイミングで出したいと前々から考えていました。